真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止) 作:volcano
1998年 4月5日 愛知県-名古屋市内-小学校
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まだ着なれていないスーツで、私は桜が綺麗に咲いている坂道を歩いてた。
いよいよだ。今日から私は『先生』になるんだ!
彼女の名は『門脇美嘉』。彼女はこの春、夢だった『教師』になった。彼女は今、まさに幸せの絶頂だった。これから、憧れだった子供達との楽しい学校生活が始まると信じていた。
しかし、彼女の希望は叶うことはなかった。
彼女は思いもしなかったろう。
自分の教え子に『魔王』がまじっているなんて。
『入学式』も終わり、私は自分の担当するクラスで自己紹介していた。私のクラスは一年生で皆とっても返事がいい。
「今日から皆の先生になります、門脇です。皆さん、よろしくね♪ 」
「「「よろしくおねがいしま~す!!」」」
あぁ、これだ! これを夢みてたんだ! ん~、涙が出そう!
今日から始まるのね、私の幸せの未来!
「それじゃあ、今度は皆のことを教えてもらおうかな? 出席番号順に自己紹介してもらいま~す!」
名前と挨拶の簡単な自己紹介が行われる。「将来の夢はパイロット」、「好きな食べ物はカレーライス」といった可愛らしい自己紹介に、教室の後ろで立っている保護者の方々の顔も緩んでいる。
「は~い、ありがとう♪ じゃあ、次は…『織田信長』君の番ね♪」
一番後ろの窓際の席に座っている子が立ち上がる。
……うわ~、あの子本当に小学生?
恐らく身長は学年で一番高いだろう。子供にしては整った顔はとても凛々しく、目付きは子供とは思えないくらい『とがっている』。
何というか、『風格』がある子だなぁ……。
…ハッ! いけない、何考えているの私!
この子は可愛い教え子よ!
確かに大人びているけど、まだ子供よ。見た目で判断してはいけないわ!
そうよ、ものすご~く心の優しい子かもしれない…
「余(オレ)の名は『織田信長』。『第六天』より来た『魔王』だ。」
………ハ?
「貴様等ガキ共と戯れる気は毛頭ないが、余(オレ)を飽きさせぬよう芸の一つか二つ、学んでおくがよい。」
私の時間が、いや『彼』を除く全ての生徒の時間が止まった。
Side:織田信長
『輪廻転生』― 死してあの世に還った『魂』が再び現世に甦ることを指す。
仏教なぞ信仰していなかったが、余(オレ)の『魂』も輪廻の輪をくぐり、新たな生命として甦った。
ただ、余(オレ)の『魂』は随分『汚れ』が酷かったようだ。
輪廻の輪をくぐる際、『魂』は浄化され生前の記憶は無くなる筈なのだか、余(オレ)は生前の記憶をもったまま現世に転生した。
余(オレ)の名は『織田信長』。かつて、この国を手中に収めた『魔王』だ。
生まれた当初は何が起こったのか分からなかった。
炎に焼かれ死んだ筈なのに、余(オレ)は人の手の中にいたのだから。
暫くして、自分が生き返ったことが分かった。
そして、戦国がとうの昔に終わっているのを知った。
森は石の壁に変わり、馬は鉄の機巧(からくり)に変わり、人間の肉体は戦をするためものでは無くなっていた。
あの戦国を生きた武将達が見れば、さぞ嘆くことだろう。
だが、余(オレ)は心を踊らせた。
何故ならば、現世(ここ)は見たこともないもので溢れていたからだ。
謎の材質、奇怪な機巧(からくり)、妖術と見間違える技術。
こんなにも『楽しい』ことはない。
こんな経験をしているのは余(オレ)くらいだろう。
余(オレ)は決めた。
余(オレ)はこの二度目の人生を思う存分楽しむと。
心行くまで『愉悦』に浸ると。
「おい! おまえ!」
「ん?」
外の景色を見ていると話しかけられた。声のする方へ顔を向けると、三,四人のガキ共がこちらを睨んでいた。
「おまえなまいきだぞ!」
「こっちむけよ!」
「さっきの自己紹介もふざけやがって! おまえ調子にのりすぎたぞ!」
そうだ! そうだ! 周りのガキ共も賛同してこちらに悪態をついてくる。
喧しいな。『数』さえ多ければ勝てると思っているのか?
いつの時代も馬鹿の頭の悪さは変わらんらしい。
…ならば教えてやろう。
余(オレ)は椅子から立ち上がり、ガキ共の方へ体を向ける。
「な、なんだよ? やるってのか?」
「調子のりやがって!」
「イタい目にしてやるぞ!」
「なに、丁度いいと思ってな。」
余(オレ)の言葉の意味が分からんのか、ガキ共は困惑している。
「教えてやろう。余(オレ)が『魔王』たる由縁を。」
Side:門脇美嘉
何が起こったの?
皆に配る教科書を取りに行っている間に?
何故か教室は『半壊』していて、何人かは怪我をしている。
そして、皆顔が強張っている。まるで『喋ったら殺される』とでも言わんばかりに。
そして、惨状の中『一人』、何事もないかのように『織田信長』は外の景色を眺めていた。
この日、私の夢は粉々に砕け散った。
先生の不幸は、信長のいる学校に配属されたこと。