真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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石田三郎

彼の家は代々続く『武士』の家系で、武に生きる者なら一度は聞いたことがある有名な家である。彼は自分の家を誇りに思い、家の名に恥じぬよう幼い頃より英才教育を受けてきた。彼が天神館に入学したのは、自身の名を上げ出世の道を進むためであった。その為には『大将の座』は絶対に手に入れなければならなかった。

 

 

 

(大将になるのは自分のようなエリートでなければならない、断じてあんな低レベルの不良共を従えていたアイツではない!)

 

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

帯刀していたレプリカの日本刀を抜刀して、織田信長に向かい斬りかかる。それは達人の域に達した一撃であり、常人なら避けるどころか見ることも不可能な一撃だった。

 

 

 

 

キンッ!

 

 

 

 

 

「な……」

 

 

石田の剣はアッサリと織田信長に受け止められた。否、正確には『織田信長の体から放出している赤いオーラ』が受け止めていた。織田信長は開始前と変わらず腕を組んで立っていた。

 

 

「ほぅ……さすがに『ここ』までは出させるか……大したものだ。」

 

 

顔だけ動かし、織田信長は石田を見る。

 

 

「武士(もののふ)を名乗るだけはある……だが後一味足りん…それでは余(オレ)に届かんぞ?」

 

「くっ!」

 

 

石田は織田信長への認識を改め、警戒を強めた。自分の剣は簡単に受け止められるものではない。あの『赤いオーラ』が何なのか分からないが、もしかしたら自分と同じ一子相伝の秘伝の技なのかもしれない。

だが……

 

 

 

「貴様がどんな技を使おうが関係ない、低レベルな不良共を束ねて満足しているような貴様に『大将の座』は相応しくない!」

 

「フフフ、なら証明したらどうだ。自分こそが上に立つ者に相応しいと……自称エリート?」

 

 

石田を馬鹿にしているかのように織田信長は『笑う』。もともと沸点の低い石田の堪忍袋はついに切れた。

 

 

「キサマァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

先程よりもスピードが増した剣撃が織田信長を襲う。

 

 

「フフフ…現世(いま)の武士(もののふ)も中々やるではないか……」

 

 

織田信長は先程と変わらず腕を組みながら、石田の猛攻を受け流していた。

 

 

 

 

 

人が全力を出して動けるのは5分が限界とされている。

30分後、石田の猛攻は衰えていた。肩で息をして、今にも倒れそうな石田だが、対する織田信長は開始した時と変わらず、不敵な笑みをうかべていた。

 

 

 

「どうした? もう終わりか?」

「はぁ、はぁ、ぐぅっ! なめ、るなぁ!」

 

 

全身から汗をながし、手足は震えているにもかかわらず石田は刀を強く握った。

 

 

「これだけは……あまり使いたくなかったが……」

「ム?」

 

 

石田が構えを解き集中し始めた。隙だらけであったが、織田信長は動かず石田の様子を見ていた。

 

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ツァアッ!!」

 

 

 

ドンッ!

 

 

突如、石田の頭髪が金色に変わった。先程疲労していたのが嘘のように、石田の体からは闘気が溢れ、手に持つ刀には電撃が纏っていた。

 

 

 

「ほぅ…」

「これぞ俺の切り札、『光龍覚醒』だ! この状態の俺に勝てるのは『武神』しかおらんぞ!」

 

 

体中の氣を刀に集める。刀に纏っている電撃がさらに強くなる。

 

 

 

「これで終わりだぁああああああああああああああああ!!」

 

 

 

『光龍覚醒』で強化された脚力で地面を蹴る。全神経を注いだ剣撃が織田信長にふり下ろされた。

 

 

 

 

 

ガギンッ!

 

 

 

 

 

「……え……」

 

 

石田の耳に入ってきたのは切り伏せる音ではなく、刀の砕ける音だった。

刀に集中していた氣が拡散する。その衝動で石田の意識が薄れていく。

 

石田が最後に見たのは、開始前から何一つ変わっていない…腕を組み不敵に笑う織田信長だった。

只、その身に纏う『赤いオーラ』は『血のように』濃くなっていた。

 

 

ドサッ

 

石田の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

「勝者っ! 織田信長!!」

 

 

 

審判の宣言から暫くして、観戦していた生徒達から喝采が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:織田帰蝶

 

「よかった……『約束』、ちゃんと守ってくれた。」

 

 

生徒達が喝采を上げている中、織田帰蝶はホッと安堵の息をもらした。

 

 

……

………

 

 

「信長さん、私と『約束』してくれませんか?」

「ム?」

 

「今回の決闘……『相手の人には一切攻撃しない』と。」

 

「……どういう事だ…」

「貴方が闘って、相手の方が無事だった事が一度でもありましたか? 私は、貴方に無意味な暴力をしてほしくありません。」

 

「……可笑しな事を言うものだ、攻撃せずしてどう勝負しろというのだ? お前は余(オレ)に負けてほしいのか?」

 

「そうは言ってません……それに、貴方なら『攻撃しなくとも』勝てるでしょう?」

 

「……フフフ、フフハハハ! 随分『信頼』されているものだ…いいだろう、手を出さずとも勝てると証明してみせよう。」

 

 

………

……

 

 

 

「…でも、あの人が約束を守ってくれたのは偶々だ……」

 

 

そう、織田信長が帰蝶との約束を守ったのは、今日偶々織田信長の機嫌が良かったからだ。

 

楽しみにしていた学校に転入して、転入早々決闘を申し込まれた。

 

これであの人の機嫌が良くならない筈がない、帰蝶は確信していた。

 

 

「今後、また決闘を申し込まれるかもしれない……その時は私が『止めなくちゃ』…」

 

 

帰蝶は顔を引き締め、改めて心に誓う。

 

 

 

 

 

「私があの人を『正しく』してみせる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

「馬鹿な……石田さんが、負けた!?」

 

 

天神館の1-1教室、そこで九人の生徒達が決闘の結果に驚愕していた。

 

 

「な、何者なのだ!? あの男は!」

「データには無い男だ……ゴホッ、あの男が使っていたあの技も見たことないものだった……」

「でもエラいイケメンやな~。石田もそうやけど、アッチの方が色気があるは~。」

 

「…………」

「…………」

 

「おや、『毛利』に『龍造寺』。今日はやけに大人しいな?」

「そぉいやそうだなぁ、 どぉしたんだぁ? いつもはウルセェのに。」

 

 

 

「……美しい…」

 

「は?」

 

 

 

「美しい…あの男の側にいるあの女性、実に美しい!」

「珍しく意見が合うな、俺もそう思うぜ。」

 

「……いつになく真剣な顔していると思ったら、そんな事か……」

「そんな事だと! お前等アレ見て何にも感じないのか!?」

「いや、それがし女子には興味がないゆえ……」

 

「見ろよ、あの流れるような黒髪、深く綺麗な海のような瞳、自己主張するバスト! 今まで多くのモデルや芸能人と会ってきたが、トップクラスの美人だぞ!」

 

「その通り! あぁ、なんと可憐なんだ……私のものにしたい!」

 

「いや、二人共。見た感じあの女の人、あの男の彼女みたいだぞ?」

 

「フッ、俺の好みは『彼氏もちの女』。むせかえるような恋の匂いがするぜ!」

「いや、あの美女は私のものだ。私がいただくぞ。」

 

 

「……どうなっても知らないぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:松永燕

 

クラスの皆が喝采を上げている中、私は真剣な表情で彼を見る。

 

 

「(開始してから一歩も動いてなかった……あの一年生の子は弱くない、一体何者なの…)」

 

 

彼女は決闘の様子を事細かく観察していた。彼女が特に観察していたのは、織田信長から出ていた『赤いオーラ』だった。

 

 

「(あんな技、私は知らない……氣じゃない、それ以上の何か……)」

 

「燕どうしたの? 難しい顔して。」

「ん? 何でもないよん♪ ちょっと考え事してただけ♪ 」

 

 

友人から声をかけられ、彼女はいつものように明るく笑った。

 

 

「(今は情報が少なすぎる……もっと彼の情報が必要だ。) 織田信長、か……」

 

 

窓からグラウンドを見下ろしながら、彼女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:鍋島正

 

「あれが、アイツの実力か……」

 

 

葉巻を口にくわえ、紫煙をふくみながら鍋島正は決闘を見ていた。

 

 

「どうやら『噂』は本当だったらしいな……」

 

 

織田信長の噂。それは中部・関西地方の暴走族を掌握したという事だけではなかった。もう一つ、噂があった。

 

 

 

日本全国にいる有名暴力団を牛耳り、裏で操っている。という噂があった。

 

 

 

最初にこの噂を聞いた時、鍋島正は信じなかった。暴走族と暴力団は違う。前者は力で屈服させるとこができるが、後者はそうはいかない。数々の修羅場をくぐってきた集まりだ、力だけでは従えることは出来ない。

 

しかし今、鍋島正はその噂を信じることにした。今の決闘から織田信長がかなりの実力者だと分かった以上に、鍋島正は織田信長から漂う『何か』を感じとった。

 

 

「アイツ、何かニオうぜ…確証はねぇが、何か……」

 

 

再び紫煙を口にふくみ、鍋島正は椅子に腰かける。

 

 

「もしかしたら、アイツが一番『厄介』なのかもな……」

 

 

その呟きは、紫煙とともに吐き出された。

 

 

「……『保険』をかけとくか……」

 

 

持っていた葉巻を灰皿にこすり、鍋島正は織田信長を館長室に呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side2-7

 

「えぇ、今日から転入生が入る事になった。皆知っていると思うが、今朝決闘をしていた者だ。入ってきなさい。」

 

 

ガラガラガラ

 

 

二人の生徒が教卓の前まで歩いてきた。一人は全員がよく知るイケメン、もう一人は目も眩む美女だった。

 

 

 

「余(オレ)の名は織田信長、『第六天』より来た『魔王』だ。」

「織田帰蝶です。『主人』と一緒に今日からお世話になります。」

 

 

ツッコミどころが多すぎる自己紹介に生徒達が困惑する中、一人の女生徒が心の中で呟いた。

 

 

「(うちのクラスなの…)」

 

 

 

 

彼女、松永燕の心の呟きは、実はクラスの全員がしていた。

 

 

 




心掛けているのは『テンポ良く』です。

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