真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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※原作石田ファンの方は、見ないことをオススメします。


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Side:鍋島正

 

「あぁ……平和だな。」

 

 

昆布茶をすすりながら、鍋島正は館長室でくつろいでいた。今日は仕事があまりなく、午前中に終えてしまったので午後からのんびり校内を見て回ろうと彼は考えていた。

 

 

「まず花壇の花に水やって…あぁそうだ、1-5の授業態度が悪いって聞いたな。後で見に行く………」

 

 

 

バンッ!

 

 

「かかか館長! 大変です!」

 

 

一人の教員がノックもせず大慌てで入ってきた。その事を注意しようと鍋島は思ったが、その形相からただ事ではない事が起こったのだと判断した。

 

 

「何があった?」

「け、決闘です! 生徒が決闘を行うと言いだしたんです!」

 

 

それを聞いて鍋島は一気に拍子抜けした。

 

 

「何でぇ、驚かしやがって。それの何処が大変なんだよ。」

 

 

悪態づきながら鍋島は飲みかけの昆布茶を飲みほす。

 

 

「決闘する生徒が問題なんです! 決闘するのは、一年の石田三郎と二年の織田信長なんです!」

 

 

ピタリッと鍋島の動きが止まった。

 

 

「どど、どうしますか館長!? 既に二人は決闘の準備を始め、生徒達は決闘を見ようとグラウンドに集まっています!」

「……教師達を全員、決闘場に集めておけ。『もしもの事』が起こったときは、力付くで決闘を中止させろ。」

「わ、分かりました!」

 

 

教員が部屋を出ていくと、鍋島は窓のブラインドを開ける。全部閉じていて気付いていなかったが、グラウンドには大勢の生徒達がいた。グラウンドに設けられた決闘場には、既に石田三郎と織田信長が向かい合っていた。

 

 

「あいつ等……また面倒な事起こしやがって……」

 

 

鍋島は決闘場にいる二人を見る。

 

 

「(石田には悪いが、正直あいつが織田に勝てるとは思えねぇ。前は織田の野郎…『遊んで』やがったからな……今回はどうする気かね…………ん?)」

 

 

決闘場の周りを見渡して、鍋島はある事に気がついた。

 

 

「何だ? 今日は連れの嬢ちゃん、いねぇのか?」

 

 

織田信長の近くに、織田帰蝶がいなかった。ほんの些細な事だが、鍋島は嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:石田三郎、織田信長

 

生徒達の喝采が飛び交う中、二人がいる決闘場の中心は不気味に静かであった。

 

 

「前より観客が多いな……また醜態をさらす事になるやもしれんぞ?」

「ほざけ。無様な姿をさらすのは貴様だ。その不埒な顔、叩きつぶしてやる!」

 

 

信長の冷やかしを石田は睨みで返した。二人の間の空気がピリピリと張りつめていた。

 

 

「ではこれより! 決闘を執り行う! 両者前へ!」

 

 

審判の声がグラウンドに響く。グラウンドに集まった生徒達の喝采が一段と強まる。

 

 

「必ず貴様を叩きのめす! 」

「フフフ…それは恐い。」

 

 

 

「では! お互い構え………始めッ!!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ツァアッ!!」

 

 

 

ドンッ!

 

審判の合図とともに、石田は氣を高め『光龍覚醒』を発動させた。

 

 

「前回は披露がたまった状態でこれになったから負けたんだ! 今度は最初から全力だ!」

 

 

帯刀しているレプリカの日本刀を抜刀し、信長に構える。刀に纏う電撃は以前よりも増していた。

 

 

「……それが貴様の策か……ならば余(オレ)も『コレ』を使うとするか。」

 

 

そう言うと、信長は何かを取り出した。『ソレ』を見た瞬間、石田は目を丸くした。

 

 

「な、何だソレは!? 何のつもりだ!?」

「見て分からんか? 『刀』だ。」

 

 

信長が手にしていたものは、石田が持っているものと同じレプリカの日本刀であった。

 

「今回は余(オレ)もコレで闘おうと思ってな。遠慮せずかかってこい。」

 

 

信長は抜刀し石田に構える。その構えを見て、石田は激昂する。一流の剣士である石田は信長が刀に関して、ド素人だと分かったからだ。

 

 

「ふざけるな…貴様、それで俺に勝つつもりか!」

「そうだが? ほれどうした、さっさとこい。」

 

 

茶化すように刀で石田を指す。石田の我慢は限界を超えた。目の前の男は人を馬鹿にするだけでは飽きたらず、剣士を、武士を馬鹿にしたのだ。

 

 

「この、不埒者がぁああああああああああ!!」

 

 

石田の高速の一撃が信長を襲う。『光龍覚醒』で強化された脚力がだすスピードと、電撃を帯びた刀がくり出す破壊力は一流の武道家でも防げぬものとなっていた。

 

 

 

 

 

キンッ!

 

「な!?」

 

 

だが、石田の剣は信長に受け止められた。それも信長は片手で受け止めていた。

 

 

「ぐっ! ウオリャァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

再び石田は剣をふる。今度は強化された腕力によって、目にも止まらぬ速さの連撃をくり出した。

 

 

 

キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!

 

 

 

しかし、それは一撃も当たることはなかった。全て先程と同様、片手で防がれた。

 

 

「フンッ」

 

 

ガキィンッ!

 

 

「!? うぉああああ!」

 

 

信長のふるった一撃に耐えきれず、石田は吹き飛んだ。地面に激突する寸前で受身をとり、怪我はしなかったが、自身の全力に近い一撃を止められた事に石田は唖然としていた。

 

 

「どうした? 改善したのではなかったのか? 何だその様は…?」

「何っ!?」

 

 

 

 

 

「それとも……貴様が改善したというのは、やられ様の事か? 成程…確かに改善されているな。『全力の一撃をあっさりと止められ、ド素人の剣に負けている』のだからな。」

 

 

『笑い』ながら織田信長は言った。

 

 

「! ……人を馬鹿にするのも、いい加減にしろぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

再び信長と距離をつめ、先程よりも速い連撃をくり出す。

しかし……

 

 

キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!キンッ!…………

 

 

信長に一撃でも当たることはなかった。どれだけ速くふろうが、どれだけ勢いをつけようが、全て防がれていた。

 

 

 

「(何故だ!? 何故だ!? 何故だ、何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!? 何故当たらない!!)」

 

 

 

「フンッ」

 

 

シュリィイイン……ズドンッ!

 

 

「ぐほっ!」

 

 

石田の剣が弾かれ、がら空きになっていた胴に信長の刀が一閃する。胃の中のものを嘔吐しながら石田は吹き飛ぶ。衝撃が強すぎたのか、受身をとることができず地面に叩きつけられた。

 

 

「ぐっ!……オエッ! げほっ、おのれっ……ぶっ!?」

 

 

バギャァアアッ!

 

 

いつの間に近づいたのか。立ち上がろうとしたところを、信長は思いっきり顔を蹴りあげた。海老反りになりながら、石田は鼻や口から血を撒き散らした。

 

 

「ハァ、ハァ……」

「どうした? 余(オレ)を叩きつぶすのだろう?」

 

 

鼻血を流し、吐瀉物と血が混じったものを口から出しながら立っている石田に、

 

 

「相変わらず、威勢だけの阿呆なのか、貴様は?」

 

 

馬鹿にするように、織田信長は『嗤った。』

 

 

「……のれ、おのれ、おのれぇええええええ! 」

 

 

石田の体が激しく震える。人を馬鹿にし続ける織田信長(あいつ)に、そして織田信長(あいつ)にいいようにヤラれる自分が許せず、石田の怒りはさらに膨れ上がる。

 

 

「織田信長ぁああああああああああ!!」

 

 

石田は吠える。その目には、明確な殺意が宿っていた。

 

 

「フフフ、いい殺気を放つではないか…………だが、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す気でくるなら、こっちもその気でいくが構わんな?」

 

 

 

 

いつのまにか、グラウンドに集まっていた生徒達の声が無くなっていた。決闘が始まる前まで彼等の顔は活気に満ちていたが、今彼等の顔から活気は消え失せていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

「何だ……もう終わりか?」

 

 

決闘は既に終わっていた。今行われているのは決闘ではなく、一方的な暴力であった。

石田三郎は怪我をしていない箇所が見当たらないくらい満身創痍だった。

 

 

「ハァ…ハァ……うがぁああああああああああ!!」

 

 

石田は再び信長に斬りかかる。既に『光龍覚醒』は解かれていて、開始当初の勢いは無かった。

 

 

 

ブンッ ブンッ ブンッ

 

 

「ぐぅっ! うぐぅ! うぁあああ!!」

「何処を狙っている? 余(オレ)はここだぞ。」

 

 

石田の剣は全て避けられる。避けるたびに信長は石田を冷やかす。

 

 

「余(オレ)を叩きつぶすのだろう? 余(オレ)を倒し、大将の座から引きずり下ろすのだろう? その様では永久に叶わんぞ?」

 

「フゥ! ああああああああああああああああああ!!」

 

 

ガギィイインッ!

 

「ぅあっ……」

 

 

石田の刀が砕かれる。反動で石田がのけ反ったところを、

 

 

ズドンッ!

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

石田の腹部に信長の蹴りが入る。それも蹴り飛ばすのではなく、地面に叩きつけるように踏みつけた。

 

ズダァァアンッ!

 

「おげぇ!」

 

 

衝撃で肺の中の空気が吐き出される。何度も胃の中のものを吐き続けたためか、石田は嘔吐はしなかった。

 

 

「惨めだな、小僧。」

「がぁ、くぅっ!」

 

 

腹部を踏みつけながら信長は石田を見下ろす。起き上がろうと抵抗する石田だが、満身創痍で体がうまく動かせなかった。

 

 

「小僧……貴様は自身のことを武士(もののふ)と言ったな?」

「…?」

 

「そうそう、以前貴様はこうも言ったな。自分は出世街道を歩くエリートだと……フフフ、勘違いにも程があるな。」

 

「何……?」

 

 

石田を見下ろし、信長は告げた。

 

 

 

 

 

「小僧……貴様はエリートなどという優れた存在ではない。ましてや武士(もののふ)ですらない。貴様は、ただの蛙(かわず)だ。」

 

「ただ周りより体が大きかっただけの蛙(かわず)だ。ただ周りより餌を捕るのが上手かっただけの蛙(かわず)だ。ただ周りより鳴き声がデカかっただけの蛙(かわず)だ。」

 

「貴様は狭い狭い薄汚い井戸の中で育った蛙(かわず)だ。目に写る苔が美しいものだとはき違えて育った蛙(かわず)だ。腐臭を放つ水を美味なるものとはき違えて育った蛙(かわず)だ。ほんの数寸しかない井戸を世界の全てとはき違えて育った蛙(かわず)だ。」

 

「教えてやろう、蛙(こぞう)……世の中には貴様より体格の大きい蛇が存在する。世の中には貴様より餌を捕るのが上手い蜥蜴が存在する。世の中には貴様より美しい鳴き声を放つ鈴虫が存在する。」

 

「貴様より優れた存在などごまんといるんだよ……『井の中の(ちっぽけ)』な『蛙(こぞう)』。」

 

 

 

言い終わる頃には、石田の顔から怒りや憎悪といった感情は消え去っていた。何かを言いたそうに口を動かすが、言葉は出なかった。

 

 

「何も知らぬ蛙(こぞう)……もう一つ、教えやろう。」

 

 

ガッ

 

腹部を押さえつけていた足を、石田の『右肩』に移動させた。

 

 

ミシッ

 

乾いた木の枝が軋むような音が、石田の耳に入った。

 

 

「狩り(たたかい)に敗れた者は、生きたまま喰われようが、体を半分に千切られようが……『狩られた蛙(はいしゃ)』は『狩った蛇(しょうしゃ)』に何をされようが、決して文句は言えんのだ。」

 

 

ミシッ、ミシミシッ

 

 

音が段々大きくなる。徐々に鋭い痛みが襲ってくる。

 

 

「! っ! っっっ!」

 

 

これから何が起きるのか、石田は悟った。足をどけようと動かぬ体を必死で動かし抵抗する。青痣だらけの左腕で必死に足を振りほどこうとする。

 

 

ミシミシミシミシッ!

 

 

だが足はビクともしない。万力のようにゆっくりと踏みつけられる足は、しだいに重さを増していった。

 

 

ミシミシミシミシミシミシミシミシッ!

 

 

音がついに観客の生徒達の耳にまで届いた。そして彼等も気づいたのだ、これから起こる惨状に。止めようとする者はいなかった。誰も動けずにいた。生徒も教師も。

皆恐れていたからだ。もしも止めに入ったら、自分も石田の様になるのではないかと。

 

 

「や、やめ! やめ……!」

「言っただろう、『狩られた蛙(はいしゃ)』は何も言えぬと……恨むなら、自分を恨め。『蛇(オレ)』に『汚い声(きばをむけた)』自分にな……」

 

ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシッ!

 

 

必死の形相で抵抗する石田を、『嗤い』ながら信長は踏みつける。音が限界を向かえ、『砕け折れよう』とした瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください!!」

 

 

観客から一人の生徒が決闘場にあがり、織田信長に声をかけた。信長は足を止め、声の方向へ顔を向ける。

 

 

「………何だ、貴様は?」

 

「それがしは石田さんの友人、『島右近』と申す者。織田信長殿! もはや勝負はついた、石田さんへの攻撃を止めていただきたい!」

 

 

頭を地面にこすりつけ、土下座をしながら島右近は信長に懇願した。

 

 

「………貴様がこいつの友人だというのは分かった……だが、何故余(オレ)がこいつへの攻撃を止めねばならん? 何故余(オレ)が貴様の言うことを聞かねばならん?」

 

 

つまらなそうな表情で信長は訊く。島は顔をあげ、すがる様に言った。

 

 

「貴殿は……この様なことをして、恥ずかしいと思わんのか!?」

「………何?」

 

「自分より非力な相手を容赦無く痛めつけ、抵抗も出来ぬ相手に何度も何度も暴行をくわえる……こんなもの武士の、否! 人間のすることではない!!」

「…………」

 

「こんな残忍な事をして、貴殿は何とも思わんのか!? もし貴殿に人の心があるのなら、今すぐ石田さんを解放してくれ!!」

 

 

再び頭を下げ懇願する島。それを見て信長は……

 

 

「………確かに、こんな事は『人間』のする事ではないな。それはよく分かる、自分が非道をしている事も理解している。」

 

「ならば……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが『それが』どうした?」

 

 

ヴァアギィッ!!

 

 

乾いた音が決闘場に響いた。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

数秒と待たず、次に石田の悲鳴が響いた。それをまるで音楽でも聞いているかの様に信長は堪能していた。

 

 

「人間(きさま)の尺で余(オレ)を測るな。余(オレ)は織田信長、『第六天』より来た『魔王』なり……非道? 残忍? そんなもの、魔王(オレ)には当然だ。」

 

 

そう言いはなつ信長の顔は、今日一番の『嗤み』を浮かべていた。

 

 

「! ……外道めっ! もはや黙っておれんっ!」

 

 

島は懐に持っていた槍を信長に構え、

 

 

「織田信長っ! 覚悟ぉ!!」

 

 

怒り狂った猪の様に、信長に突進していった。

 

 

「フフフ、蛙の友は蛙だな……」

 

 

突進してくる島に向かい、信長は拳を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

大気が揺れる程の怒声がグラウンドに響く。その声の持ち主は、観客の生徒達の間をかき分け決闘場に登った。

 

 

「………貴様は……」

「あ、貴方は………! 館長!!」

 

 

そこにいたのは、天神館館長・鍋島正であった。

 

 

「双方武器を納めい。この決闘は俺の権限で中止とする。」

「! はいっ!」

「ハッ! 余(オレ)が貴様の言うことを聞くとでも? 」

 

 

槍を納めた島に対して、信長は鍋島を前にして好戦的な態度をとっていた 。

 

 

「ほぅ……『コイツ』を前にしても同じ事が言えんのか?」

「ム?」

 

 

鍋島は『一枚の書類』を信長に見せた。

 

 

「天神館(ここ)に来た時、テメェが書いた『誓約書』だ。忘れたとは言わせねぇぞ?」

 

 

織田信長が天神館に転入してきた日、鍋島正は織田信長にある誓約書を書かせた。

 

 

 

『生徒・織田信長は何時、いかなる場所でも館長・鍋島正の言動に従わなければならない。』

 

 

 

「テメェも了承した誓約書だ。もう一度言うぜ、この決闘は中止とする。」

「…………」

 

 

暫くの間、決闘場に沈黙が発生する。鍋島正、織田信長、両者共口を開かず無音の時間が過ぎていく。

 

 

「………ふん……」

 

 

先に動いたのは織田信長だった。石田を踏みつけていた足を離し、決闘場から立ち去ろうとしていた。

 

 

「………! 石田さん!」

 

 

次に動いたのは島右近だった。石田に駆け寄り、出血している体に応急措置を施していた。

 

 

「……案外あっさり引き下がるじゃねぇか。」

「充分『楽しめた』しな……今回はこれで終いだ。」

 

 

側を通ろうとした信長に、鍋島は言った。

 

 

「……次はこうはいかねぇぞ。今度また同じ事やろぅもんなら、俺も容赦しねぇ。」

「フフフ、無理はせんほうが良いぞ? 残り少ない寿命を縮める事になる。」

 

「大人を舐めるなよ、若僧。テメェとはぐぐってきた死線が違ぇんだよ。」

「……フフフ、フフフハハハハハ!」

 

 

鍋島の言葉に信長は笑う。

 

 

「何が可笑しい?」

「フフフ、いや……確かに、余(オレ)と貴様では『ぐぐった死線』が違うな。」

 

「?」

「フフフ、それより良かったのか? 『誓約書(あれ)』を『もう使って』。」

 

 

信長が鍋島とかわした誓約書。信長はそれに一つだけ条件を出していた。

 

 

「『誓約書(あれ)』が使えるのは『一度きり』だぞ? ここで使って良かったのか?」

「ここで使わなくて、何時使うんだよ。あのままだとテメェ……『二人共殺していただろう』。」

 

「さてな……想像に任せる。」

 

 

それだけ言って織田信長は校舎に戻っていった。道中多くの生徒が彼を恐れ道を開けた。

 

 

「……たく、俺としたことが……『あんなの』を天神館(ここ)に招き入れるとはな。………石田、すまねぇ…全部俺の責任だ。」

 

 

鍋島は被っている帽子を強く握った。もっと自分がはやく織田信長(あいつ)の正体を見抜けていたら、こんな事にはならなかった。鍋島は自分を責める。自分の判断ミスで一人の生徒の『人生』を『終わらせて』しまったのだから。

 

 

 

 

 

『第六天魔王』は天神館に大きな恐怖(つめあと)を刻み込んだ 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:石田三郎

 

目に写るのは見知らぬ天井だった。

 

あの後石田三郎は救急車に運ばれ、市内の病院で緊急手術をうけた。体中包帯を巻かれていて、麻酔が残っているのか体が動けなかった。

 

 

「…………」

 

 

自分は何をしていたのだろう。石田の記憶は曖昧だった。いつの間にか気を失っていて、気づけば病院のベッドの上にいたのだ。

 

 

「…………」

 

 

目だけ動かし、『右肩』を見る。そして思い出す。気を失う前の最後の記憶を、織田信長(あいつ)の言葉を。

 

 

 

「小僧……貴様はエリートなどという優れた存在ではない。ましてや武士(もののふ)ですらない。貴様は、ただの蛙(かわず)だ。」

 

「ただ周りより体が大きかっただけの蛙(かわず)だ。ただ周りより餌を捕るのが上手かっただけの蛙(かわず)だ。ただ周りより鳴き声がデカかっただけの蛙(かわず)だ。」

 

「貴様は狭い狭い薄汚い井戸の中で育った蛙(かわず)だ。目に写る苔が美しいものだとはき違えて育った蛙(かわず)だ。腐臭を放つ水を美味なるものとはき違えて育った蛙(かわず)だ。ほんの数寸しかない井戸を世界の全てとはき違えて育った蛙(かわず)だ。」

 

「教えてやろう、蛙(こぞう)……世の中には貴様より体格の大きい蛇が存在する。世の中には貴様より餌を捕るのが上手い蜥蜴が存在する。世の中には貴様より美しい鳴き声を放つ鈴虫が存在する。」

 

「貴様より優れた存在などごまんといるんだよ……『井の中の(ちっぽけ)』な『蛙(こぞう)』。」

 

 

「…………」

 

 

言い返せなかった。それまでの自分の生き方を完全否定されたのに、石田三郎は言い返せなかった。

 

 

……ツゥ………

 

石田の頬に『熱いもの』が流れ落ちる。拭いたくても麻酔が効いていて腕を動かせなかった。『それ』は止まることなく溢れはじめた。止めようと思っても、どうにもならなかった。

 

 

「……くしょう……ちく、しょう………!」

 

 

その日、石田三郎は人生で初めて『悔し涙』を流した。

 

 

 




以上、スーパーボコボコタイムの巻きでした。

戦闘シーンだいぶ省略しました。ものスゴい難しい……OTL

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