真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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初めて『それ』が『楽しい』と感じたのは何時だったか。

 

 

……そうだ、確か……八つの頃だった。いつものように『城下』に遊びに行ったときだ。その日偶々他国から流れてきた賊に出会い、そいつ等が余(オレ)を拐おうとした。

 

運が悪かった……それしか言い様がない。賊達はよりにもよって『この余(オレ)』を拐おうとしたのだ。

余(オレ)には『最強の矛』と『最硬の盾』があった。まず賊の一人の腕を『ねじ千切った』。鮮血を撒き散らしながら悲鳴を上げる様は家畜を思わせた。その後一人、二人、三人と次々『人間だったもの』が足元に転がった。

 

 

そのときだ……初めて『壊す』事が『楽しい』と感じたのは。いびつに『壊れた』賊達を見ていると、心が踊った。自然と口角が上がった。

 

余(オレ)は、自身の最高の愉悦を見つけたのだ。

 

 

それからだ。余(オレ)はあらゆるものを『壊し』始めた。特に余(オレ)が享受したのは、『貴族』や『領主』などの『権力を持った人間』を『壊す』事だった。奴等の高慢な面が泣き崩れる様が最高だった。ふんぞりかえって偉ぶっている奴等が土下座し、命乞いする様が滑稽だった。

そして何よりも、奴等の顔が絶望に染まる様はこの上ない至福だった。

 

いつしか余(オレ)は『第六天魔王』と呼ばれ、恐れられた。初めてその渾名を聞いたとき、これ程余(オレ)に似合う渾名はないと思った。名付けた奴は天才なのだろう。

 

『魔王』……その通りだ。

命乞いする者を…恐怖で身動きとれぬ者を…微塵も躊躇なく一辺の情けもかけず、何より己の享楽の為だけに『破壊』しているのだ。余(オレ)が『魔王』でなければ、この国の住民は全員聖人と言っても過言ではない。

 

 

 

余(オレ)が戦の目的を『享楽』に置き換えたのは、『今川の阿呆』を殺した時からだったか。当時『今川』は絶大な力を誇っていた。その力に溺れていた『今川の阿呆』はあろう事か、『第六天魔王(オレ)』の領地を侵攻してきた。

 

……余(オレ)は見たくなった。奴の絶望するその瞬間を。

余(オレ)はまず考えた…どうすれば奴を恐怖で震え上がらせるかを。余(オレ)は奴をギリギリまで侵攻させた。そして奴が安心しきったところを狙って強襲した。突然の強襲に奴の軍も対処できなかった。次々と失われていく戦力を見て、奴は焦り恐怖していた。

 

 

「ままま待て! まま麿を殺せば、麿の同盟国の者達が黙ってはおらぬぞ!?」

 

「……ほぅ……そうか……で? 」

 

「っえ?」

 

「だから何だ? それがどうした? 余(オレ)には関係ない。余(オレ)はただ……貴様の『絶望に染まった面』を見たいだけだ。」

 

「!! たたた助けっ……そうじゃ! 麿を逃がせば、そちを特別に麿の腹心にしてやるぞ! そそそれに褒美もやろう! 金でも女でも何でも、だから麿をっ!」

 

「…………」

 

「悪くない話じゃろう!? そちもこんな田舎の国主で終わりたくはなかろう!? そちも武士として名を残したいであろう!? 」

 

「…………確かに、いい話だ。」

 

「! そ、そうじゃろう! なら……」

 

 

グチャッ

 

 

「『だから』?」

 

「え……」

 

「余(オレ)は『第六天魔王』・『織田信長』……余(オレ)が求めるのは『破壊』、『殺戮』、『地獄』だ。そして生憎と余(オレ)が今欲しているものは……」

 

「…かぁ……や、死にた…くな……」

 

 

「あぁ…『その顔』が見たかったのだ。」

 

 

 

この日より『織田信長(オレ)』の名は全国に広がり、全ての人間は余(オレ)を恐れた。

 

 

 

 

いったい幾つの人間を『壊した』のだろう。男も女も子供も老人も身分も関係なく……余(オレ)の進む道には虫一匹いなかった。

 

いつしか余(オレ)は『天下統一』に最も近い存在になっていた。

 

多くの武人達が憧れ追い求めた『天下の椅子』は、数えきれない程の亡骸で出来ていた。

 

 

 

 

『あいつ』が余(オレ)の前に現れたのは何時だったか。

そいつは今まで会ってきたどの武士(もののふ)よりも弱く、ちっぽけな奴だった。

あいつは弱いにも関わらず余(オレ)に突っ掛かってきた。余(オレ)は間違っていると…余(オレ)のことが許せないと…奴は面と向かって余(オレ)に言ってきた。

 

余(オレ)は取り合えずあいつの腕を『壊した』。今まで余(オレ)に意見してきた輩は数多くいたが、どんな輩も一度『壊せば』余(オレ)に恐怖し、口も聞けなくなった。

あいつもそうなると思っていた。あいつもその程度の存在と思っていた。

 

 

だが、あいつは再び余(オレ)の前に立ちふさがった。四肢を『壊され』ながら、確固たる決意を目に宿し余(オレ)が間違っていると再び説いた。

 

 

あいつに興味を持ち始めたのは何時だったか。

余(オレ)はどうすればあいつが恐怖するか考えた。たとえ残った四肢を全て『壊しても』、公然の前で辱しめても、あいつは決して『おれなかった』。

 

 

余(オレ)は考えた。あいつ自身は幾ら痛め付けたところで決して屈しない。ならばあいつ以外から、あいつの大切なものから『壊せば』あいつも絶望するのではないかと。

 

手始めに余(オレ)はあいつの家族を皆殺しにした。あいつの領地に住む民も、あいつに仕えていた家臣達も。

 

余(オレ)はあいつから全てを奪った。それを聞いた時のあいつの崩れ落ちた様は、これまで見た何よりも心を踊らせた。

 

 

 

 

 

あいつが兵を引き連れ、余(オレ)を討とうと侵攻してきた。余(オレ)が『本能寺』で休息をとっていたところを、あいつは襲ってきた。寺に火を放ち逃げ場をなくし、屈強な武人達を余(オレ)に襲わせた。

 

もしこれが『普通の人間』に対してならば有効だったであろう。あいつの唯一の誤算は、余(オレ)を見誤った事だ。

 

余(オレ)には力があった。余(オレ)には生まれもって『最強の矛』と『最硬の盾』があった。武人達は一人残らず原形がなくなるまで、『壊した』。そしてあいつも……

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「残念だったな…どうやら此処で朽ちるのは貴様のようだな。」

 

 

「ハァ……まだ、終わっていない! 私はまだ……戦える!」

 

「……何故だ? 何故貴様は立ち上がる? 今床に倒れ、意識を手放せば楽になるというのに……何故貴様はまだ諦めない? 何故貴様はまだ……余(オレ)に屈しない?」

 

「……諦めろだと? ……ハハハ…確かに今諦めれば楽になるだろう。意識を手放せば苦痛から逃れられるだろう。立ち上がらなければ私はこれ以上苦しまなくてすむだろう。」

 

 

 

 

 

「だが……たとえ四肢が全て切り落とされようと、たとえ全身の骨を砕かれようと、たとえ…何度この身を『壊されようと』…………私は『第六天魔王(きさま)』を、断じて認めはしない!」

 

「罪の無い者を苦しめる悪党を野放しにしておけるか! 武士の誇りを蹂躙し楽しむ愚者を許しておけるか! 己の享楽の為に命を奪う『魔王』を、認めてなるものか!!」

 

「『第六天魔王』・『織田信長』! 私は屈しない! 私は諦めない! 私は何度でも立ち上がる! 」

 

 

「私は貴様を……倒すっ!!」

 

 

「…………」

 

 

こんな奴は初めてだ……不思議と口角がつり上がる、不思議と胸が高鳴る。

 

 

『壊したい』…あいつを、滅茶苦茶に『壊したい』……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺の炎が強くなる。熱が体から力を奪う。

 

体から止めなく血が溢れ出る。何度も『壊してきた』から分かる……この出血量、『助からない』。

 

 

『負けた』? 余(オレ)が? 織田信長(オレ)が? 『第六天魔王(オレ)』が?

 

何故だ? 余(オレ)には『最強の矛』が、『最硬の盾』があったというのに……全てあいつに『砕かれた』。弱くて、ちっぽけなあいつに……

 

何故だ? 何故余(オレ)が負ける? 余(オレ)は『第六天魔王』だ……余(オレ)が武士(もののふ)なんぞに…………

 

 

 

 

…………あぁ、そうか…そういう事か……

 

 

 

 

「…フフ…フフフ……フハハ、フハハハハハハハ!!!」

 

 

何て事はない……単純な事だった、当たり前の事だった……

 

 

 

 

 

「これが! これが余(オレ)の最後か! 『第六天魔王』の最後か!!」

 

 

真紅の炎が余(オレ)の体を包み込む。不思議と痛みはなかった。炎は何時までも燃え続けた。

 

織田信長(オレ)という存在が消え去っても……

 

 

 

何故余(オレ)があいつに負けたのか……当たり前の事だった……

 

 

余(オレ)は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さん…ながさん……信長さん、朝ですよ。」

 

「………ん……『夢』…か……」

 

 

妻の帰蝶の声で信長は目を覚ました。既に朝日は昇りきっており、窓からは通勤する人々が見えた。

 

 

「今日はやけに早く起こすのだな……眠くてしかたない。」

「もう、明日から『新学期』ですよ。いつまでもお休み気分でいないでください。」

「ム?」

 

 

信長はカレンダーを見る。昨日まで菜の花が印刷されていた日付用紙は、桜の印刷されたものに変わっていた。

 

 

「そうか……もう此処に来て一年が経つ頃か……」

「そうですね……時間が、スゴく短く感じますね。」

 

 

帰蝶の言葉に信長は同感した。

信長と帰蝶が天神館に転入してから一年が経とうとしていた。今年で信長と帰蝶は高校三年生になる。そして……

 

 

「(石田(あいつ)との約束も、後一年をきった訳か……)」

 

「そういえば信長さん。」

「ム? 何だ?」

 

「さっき夢かっておっしゃいましたけど、どんな夢を見てたんですか? 信長さん、スゴく『嬉しそう』に寝てたんですよ。」

「………『昔』の夢だ。懐かしい……遠い遠い『昔』のな……」

「?」

 

 

信長は夢をふり返る。そういえば石田はあいつに似ていたな……信長は『かつての好敵手』と『今の遊び相手』を重ね合わせる。二人はとても似ていた。何度『壊そう』とも立ち上がり、確固たる信念を目に宿しているところなどそっくりであった。

 

 

「(石田よ……お前は成ることが出来るかな…あいつの様に、『第六天魔王(おれ)』を倒す存在(それ)に成ることが………)」

 

 

信長は祈っていた。石田三朗が信長自身無意識に求めている『存在』になるとこを。

 

 




どうもvolcanoです!

いや~、ようやくここまで書けました。気づけば28話……いっぱい書いたなぁ。

さて、いよいよ次回から原作突入です。ついに原作主人公達が登場します。お楽しみに……て言いたいんですけど、まだネームが仕上がってません。OTL

ネーム作成時間がかかりそうなので投稿が遅れると思います。その間キャラクター設定3などをまた掲載したいと思います。

これからも『真剣で魔王に怯えなさい!!』をよろしくお願いします!


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