真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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※ついに原作主人公組が登場しますが、キャラが違うかもしれません。後、主人公組の設定がかなり違います。


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2009年 5月7日 天神館

 

 

Side:鍋島正

 

 

天神館の館長室で、鍋島は電話越しにかつての師匠と話していた。

 

久しぶりにかかってきた師からの電話は世間話をするためではなかった。

 

 

鍋島の師『川神鉄心』は武の世界において知らぬ者無しと言われる程の達人である。川神鉄心には二人の孫娘がいた。

孫娘の一人『川神百代』は齢18にして祖父を超えたとも言われる強さをほこり、『武神』の異名を持ち世界最強とまでうたわれている。

 

 

そんな川神百代が最近修行に専念しないのだと鉄心は鍋島に伝えてきた。鍋島は静かに納得した。武人が修行する目的は、己の肉体を研磨するためだけではない。自身より強い猛者と戦うため、超えるために修行するのだ。

『世界最強』とうたわれる程強くなった川神百代は自分と互角に戦える者がいない……それゆえに修行に専念しないのだ。

 

 

そこで川神鉄心は孫娘が武人として堕落しないためにも強者と戦う機会はないかと考え、かつての弟子の鍋島に相談を持ちかけた。

 

 

 

『……という訳じゃ。そちの生徒と『うちの生徒』で『合同試合』を設けてみぬか? 』

「……前から思ってたが、アンタいつも突然無茶苦茶な事言うな……」

 

 

師匠の提案に鍋島はため息を吐きながら答えた。

 

川神鉄心は『武の総本山・川神院』の師範である他に、『川神学園』という学校の校長も務めている。

この川神学園、簡単に説明すればもう一つの天神館である。むしろ歴史なら川神学園のほうが上である。そして川神学園には鉄心の二人の孫娘も通っている。

 

 

鉄心の話はこうだ。「川神学園と天神館、ともに未来ある若武者を育てる学舎。今後の彼等の成長のために、合同試合をしないか」というものだった。

 

 

鍋島はこの話にすぐにYESと返事が出来なかった。

合同試合で得するのは川神学園(むこう)だけではない。天神館(こちら)にも最近『伸び悩んでいる生徒達』がいる。その生徒達にとって合同試合はもってこいだろう。そういう点ではこの話を了承したいところではあるが、鍋島にはそれが出来ない『不安要素』があった。

 

 

そう、『織田信長』である。

あの男がこの合同試合に喰いつかないはずが無い。それだけが鍋島の不安要素だった。

 

 

『なぁに、心配せんでもこれはあくまで『試合』じゃ。お主の生徒に大事にいたるような怪我はさせんよ。』

「…………」

 

 

電話越しに笑いながら話しかけてくる師は知らない。『大事を起こす奴』が天神館(こちら)側にいる事を。

普通に考えれば何も心配はいらない。川神院の師範である師と『武神』と呼ばれるその孫娘。その他にも多数の豪傑が川神学園(むこう)にはいる。

 

だが鍋島は不安だった。それだけの武人がいても『織田信長(あのおとこ)』を止める事が出来るのであろうか……鍋島はどうしてもそのビジョンが浮かんでこなかった。

 

 

『万が一の時は儂が全力で止める。…まぁ、そんな事は起こらんしゃろうがな。』

「(起こりそうなんだがな……)」

 

 

一抹の不安を抱えたまま、鍋島は鉄心の頼みを断れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2008年 5月9日

 

Side:西方十勇士

 

 

早朝、天神館の校庭では『西方十勇士』同士による激しい修行がおこなわれていた。

 

 

「鉢屋流忍術・分身の術!」

 

 

『鉢屋壱助』が両手で印を結ぶと鉢屋の体が左右にぶれる。次の瞬間、鉢屋壱助が五人になった。五人の鉢屋はそれぞれ違う武器を持って眼前に構える相手『石田三郎』に襲いかかる。

 

 

「……フッ!」

 

 

石田は体内の氣を『足』に凝縮させ、脚力を倍増する。強化された足がくり出すスピードは忍者の末裔である鉢屋を凌ぐ程であった。石田は五人の鉢屋の攻撃を紙一重でかわし、それぞれに的確に急所へ一撃ずつ叩き込んだ。

 

 

「「「ぐふっ!?」」」

 

 

加速によって重さが倍増された一撃に鉢屋の意識がぐらつく。地面に倒れこんだ時には、鉢屋は一人になっていた。

 

 

「ガトリング・クロゥ! 」

 

 

鉢屋の猛攻をかわした石田に、間髪いれず『大村ヨシツグ』が無数の拳打をくり出す。

 

 

「タァ!」

 

 

石田は嵐のような拳打をかわし、強化された足で大村の胴体に一撃を入れる。

 

 

「ごふぉ…!?」

 

 

大村もまた鉢屋と同じように地面に倒れこんだ。あまりにも滑らかに、そして呆気なく二人は敗れた。鉢屋壱助、大村ヨシツグの両名はけして弱くはない。武人としても一流の達人である。だがそんな二人を石田三郎はたった二撃で倒したのだ。

 

 

「スゴイ……たった二撃であの二人を……」

「石田のやつ、めっさ強うなったなぁ……」

 

 

修行の様子を見ていた他の十勇士は石田をたたえる。わずか一年たらずで鉢屋壱助と大村ヨシツグを倒すまでの実力を身につけたのだから。

 

 

「これで十勇士No.1は石田で決定かぁ…ついこの間まで勝てたんだけどなぁ。」

「これも石田さんの努力のたまもの。流石としか言い様がない。」

 

「動きも以前より洗練され良くなったしな。無駄のない鮮やかな動き……実に美しい…」

「お前は何で何もかも全てそこに結びつけるかねぇ。」

 

 

仲間達の賞賛をあびる中、石田の心中は晴れやかなものではなかった。

 

 

「…………」

「どうした石田? 渋い顔をして。」

 

「……俺は、本当に強くなったのだろうか……?」

 

 

仲間の問いかけに拳を強く握りながら石田は答える。

この一年弱、石田はまさに血ヘドを吐くような修行をつみ重ねてきた。それは比喩ではなく、実際に石田は何度も倒れ、酷い時は病院に運ばれ意識が数日戻らぬ時もあった。

それでも休む事なく修行をし続けた石田は、ついに鉢屋と大村を倒す実力を身につけた。

 

 

だが、石田は自分に『自信』が持てなかった。

 

 

「あまり自分を過小評価するな、お前は強くなった。…それこそ、今のお前は『かつてのお前』とは比べ物にならない程な。」

「………どう、なんだろうな…」

 

 

自信を持つことは悪いことじゃない。むしろ確固たる自信は一流なら誰しも持っているもの。自信を持つことで技に磨きがかかることもある。

 

だが石田はかつて自信…正確に言えば『慢心』を持っていたため、『右腕』を失った。その事がどうしても頭にあるためか、石田は自信が持てなかった。

 

 

「……『証拠』が欲しい…俺が強くなった証拠が、以前の俺より強くなった確実な証拠が…!」

 

 

石田は確かな事実が欲しかった。根拠のある誰もが納得できる確証が欲しかった。

 

 

「それなら『いいのが』あるぞ。」

 

 

いち早く復活した大村が石田に『とある情報』を教えた。何でも近く『川神学園』と『合同試合』が行われるらしい。石田は川神学園の名を聞いて興味をもった。川神学園といえばあの『武神』をはじめ、多くの名のある武人達が通っていると聞く名校であった。

 

 

「……川神と合同試合か…! 面白い! それなら俺がどれだけ強くなったか、今の俺がどれだけ『あいつ』に通用するか分かる! 大村、その合同試合について詳しく教えてくれ! 」

 

 

大村は自分が入手した情報を細かく石田に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日

 

Side:織田信長

 

 

天神館3-7、最高学年の最低クラスで織田信長は妻の帰蝶と一緒に、教室の窓から見える桜の花を見ながら茶を楽しんでいた。

 

 

「フゥ……落ち着きますね。」

 

 

適温で入れられた緑茶を飲みながら帰蝶は一息ついた。購買で買ってきたみたらし団子をお茶うけに、信長は咲き誇る桜を観ていた。

 

 

「あぁ……『こういう』趣向もたまには良いものだな。」

「そうでしょう、フフ……あ、お茶のおかわりいりますか? 」

「ん……」

 

 

帰蝶は信長の湯飲みにお茶をつぎたす。信長は窓から香ってくる桜の匂いを満喫していた。その様子を帰蝶は嬉しく思いながら自分の湯飲みに口をつけた。

 

 

「……これで『闘争』でも起こればなお良いのだがな…」

「ぶっ!?」

 

 

危うく盛大に吹き出しそうになり、必死で堪えるが帰蝶はむせかえった。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……な、突然何を言い出すんですか!?」

「ム? いや、ただ余(オレ)はこの場で戦でも勃発せんかとぼやいただけだが? 」

「何でこんなのどかで気持ちのいい春を血生臭くしようと考えるんですか!?」

 

 

お茶が気管に入ったのか、帰蝶は涙目になっていた。

 

 

 

 

 

「何故? それは余(オレ)が『第六天魔王(オレ)』だからだ。」

 

 

当然のように信長は答えた。

 

 

「余(オレ)はこうして美しく咲き誇った花を見るのが好きだ。こうして団子を味わうのも好きだ。こうして茶をすすり心を落ち着かせるのも好きだ。」

 

「だがそれ以上に、余(オレ)は闘争が好きだ。刀と刀が、拳と拳が、信念と信念がぶつかる闘争を見るのが…闘争に身を投じるのがたまらなく好きなのだ。」

 

 

信長の話を帰蝶は不機嫌な表情で聞いていた。

帰蝶は自分の夫が『そういう人物』だと分かっている。が、分かっていてもそれを心の底から受け入れることは出来なかった。

 

 

「(『そういう考え』さえなければ……)………貴方が望むものかどうかは分かりませんが、近々他校との合同試合が行われるそうですよ。」

「……何? 」

 

 

帰蝶の言葉に信長は呆気にとられる。

 

 

「…珍しいではないか、お前が余(オレ)に『そのような情報』を提示するなど。」

「いずれ分かる事ですし、今私が言ってもかまわないでしょう……それに、せっかく燕さんが教えてくれた事ですから。」

 

「ツバメサン? 誰だ? 」

「『松永燕』さんですよ。」

 

 

信長は額に手をあて記憶を探る。帰蝶の友人はこの学校には片手で数えるぐらいしかいない。その中で松永燕という名前は……

 

 

「あぁ…『女狐』のことか。そういえば最近見んな、どうした? 」

「どうしたって……二年生の三学期に転校したじゃないですか。お別れ会もしたでしょう。」

 

「覚えとらん。」

 

「……貴方って記憶が良いのか悪いのかどっちなんですか…?」

「自分で言うのも何だが良いほうだと思うぞ。ただ余(オレ)は興味も無いどうでもいい記憶をいつまでも覚えていてやるほど寛容ではない。」

 

 

確かお義父さんの誕生日も忘れてたんだっけ…帰蝶は言葉にしなかったが心の中で「都合のいい頭だな」と思った。

 

 

「それで、その合同試合とやら詳しい情報は無いのか? 」

「あ、そうですね。」

 

 

ハッと思いだし、帰蝶は鞄から携帯電話を取りだしメールを読む。それは友人である松永燕から送られてきたメールであった。メールには合同試合について詳しく書かれてあった。

 

 

「試合は三週間後、神奈川県の川神市にある川神学園とするそうです。対戦方法は……」

 

 

帰蝶は信長にメールの詳細を一字一句もらさず伝えた。

 

対戦方法が各学年ごとに分かれ、合計2勝した側が勝利すること…

参加人数は各学年200人ずつということ…

 

その他もろもろ伝え終わる頃には信長の顔は嬉しそうに『笑っていた』。

 

 

「……以上が『東西交流戦』の詳細です。」

「……『東西交流戦』…か、……面白そうだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神奈川県 川神市 『川神学園』

 

『天神館』と同じく武をカリキュラムに取り入れた学校。全国から多くの若武者達を集い、育てる学舎である。

 

 

Side:------

 

 

川神学園の一室『だらけ部・部室』では生徒達による東西交流戦にむけて作戦会議がおこなわれていた。

 

 

「以上が天神館に関する情報です。他に必要な情報(もの)はありますか? 『大和』君。」

「いや、十分だよ『葵』。これだけあれば最良の作戦がたてられる。」

 

 

『直江大和』は『葵冬馬』から受け取った資料に目をやり、頭の中でいくつものシュミレーションを想像する。

 

直江大和の考えでは今回のこの東西交流戦(ごうどうしあい)、自分達二年生が勝ちさえすれば勝利できるとふんでいた。

試合の勝利条件は「合計2勝すること」、一年生は天神館(むこう)も川神学園(こちら)もそれほど戦力差はない。どちらが勝ってもおかしくない。

三年生は…『負けるはずがない』。何故なら川神学園(こちら)には『姉さん』がいるのだから。

 

となると、勝利の鍵は二年生になる。二年生が勝ちさえすれば合計2勝で勝てる。直江大和はそうふんだ。

 

 

「でも問題は天神館(むこう)も二年生が一筋縄ではいかない…てところか。」

「『西方十勇士』…ですか…」

 

 

直江大和と葵冬馬は眉間にしわをよせる。

 

『西方十勇士』……西日本最強とうたわれる天神館の精鋭達。十人で構成される彼等は全員『二年生』…川神学園が勝つには彼等に勝たなければならない。

 

 

「彼等のプロフィールを拝見しましたが……川神学園(ここ)以外にもこんな方達がいるなんて、驚きです。」

 

 

直江大和は葵冬馬の言葉に無言で同意した。『姉さん』程とは言わないが、全員が川神院の門下生を軽くあしらう程の実力者だ。二人が必勝の作戦を考えていると……

 

 

ガラガラ‥‥

 

「うぃーす、大和ぉ。はかどってかぁ~? 」

「お疲れ~。差し入れ持ってきたよ。」

 

 

部室の扉から大柄な男子生徒と小柄な男子生徒が入ってきた。二人は直江大和がよく知る人物であった。

 

 

「『ガクト』、『モロ』。ありがとう、今調度俺達二年生の作戦を考えているところなんだ。」

 

 

部屋に入ってきた二人、『島津岳人』と『師岡卓也』は直江大和の幼馴染みであった。三人は小学生の頃からの関係でとても仲が良かった。

 

 

「何だよ、俺様達なら大丈夫だろ? 『ウチの女性陣』も出るし、それにS組の『アイツら』も出るんだし。」

「そうだね。あんまり考えこまなくて良いんじゃない? 」

 

 

二人の言葉に直江大和は心の中で少しだけ同感していた。二人がこんなにも勝ち気なのには理由がある。それは……

 

 

ガラガラ‥‥

 

「ウィ~ス…今日の『決闘』終わったぞぉ~。」

「こら『弁慶』、だらしないぞ。そんな怠そうな顔をするな。」

 

 

また部室に二人の生徒が入ってきた。先程と同じく二人とも直江大和のよく知る人物であった。違う点を言うなら、二人の性別が女性だということだ。

 

 

ガラガラ‥‥

 

「ウ~、大和~…今日も『義経』達に勝てなかったぁ~。」

「クゥ…自分もだ。まだまだ鍛練が足りなかった…!」

 

「大和お疲れ様。皆のために一生懸命頑張る大和、素敵。結婚して。」

「お友達で……噂をしたら皆集まったな。」

 

 

間髪入れず新たに三人の女生徒が入室してきた。三人も直江大和の知り合いで、同じクラスのクラスメイトであった。五人を席に案内し、皆が持ってきた差し入れを全員に配った。

 

彼女達こそ島津岳人達が東西交流戦(こんかいのたたかい)に余裕をもつ理由であった。

彼女達は全員、剣・弓・薙刀他の武器にたけた武人なのだ。特に最初に部屋に入ってきた二人、『源義経』と『武蔵坊弁慶』は『壁を超えた実力者』であった。『壁を超えた実力者』とは世界でも数えるほどしかいない達人の総称である。

 

彼女達を見て直江大和は考える。

 

天神館側には『壁を超えた実力者』がいるという情報はなかった。そんなに難しく考えなくてもいいかもしれない……直江大和はそう思った。

 

 

「(……正直、今回の対戦は川神学園(おれたち)に『分がある』よな。二年生には義経達がいるし、三年生は……)」

 

 

直江大和達が余裕をもつのには『もう一つ』理由があった。それは……

 

 

ガラガラ‥‥

 

「ヤッホ~! 作戦会議さしてるって聞いて来たよん♪ 」

「あれ? 義経ちゃん達もいたんだ。」

「こんなに美少女がいっぱい……いい身分だな、大和? 」

 

 

新たな来訪者が三人やってきた。例に漏れず三人とも直江大和の知人であった。三人の登場に部屋にいた友人達も喜ぶ。

 

 

「『お姉様』~、アタシまた義経に負けたぁ~!」

「おぉ、よしよし。可愛い義妹だなぁ~。」

 

「あれぇ? 『清楚』まで来たんだ、珍しい。」

「帰る途中で『百代』ちゃんに捕まっちゃって…」

 

「おやおや、賑やかになりましたね。『松永』先輩達も席についてください。女性を立たせるわけにはいきませんから。」

「そう? じゃあお言葉に甘えて♪ 」

 

 

新たにやってきた知人『松永燕』、『葉桜清楚』、そして『川神百代』。彼女達こそ直江大和達が余裕をもつもう一つの理由であった。

彼女達は三人とも三年生で、三人とも『壁を超えた実力者』なのだ。

川神百代は『武神』と呼ばれる程の達人。葉桜清楚はその清楚な見た目からは想像出来ない武器さばきをほこり、松永燕は『武道四天王』の一人。

正直彼女達が負ける想像が出来なかった。それほど彼女達は圧倒的に強いのだ。

 

 

「モモ先輩、大和に何か用でもあるのか?」

「ん? あぁ、そうだ。東西交流戦の作戦会議をしていると聞いてな。どうだ? 天神館(むこう)に楽しめそうな輩はいたか? 」

 

「ん~…いや、『三年生』には姉さんと戦えるような奴は『いなかったよ』。」

「え~、楽しみにしてたんだけどなぁ~。」

 

 

むすっとむくれ顔になる川神百代(ねえさん)を見て、直江大和は「それは相手が可哀想だ」と思った。世界最強とうたわれる姉さんに敵う相手などそうそういないからだ。

 

ふと直江大和は松永燕の方を向く。見ると松永燕はいつものような親しみのある笑みを浮かべておらず、真剣な面立ちで天神館の資料を見ていた。

 

 

「……先輩? どうしました? 」

「……この資料、大和君達が調べたの?」

「え、えぇ、そうですが…?」

 

 

いつもと違う様子に部屋にいる全員が松永燕の方へ注目する。

 

 

「……大和君。悪いけどこの資料(じょうほう)、『デタラメ』だよ。」

「え!? な、何でそんな事分かるんですか!? 」

 

 

自分が集めた情報が偽りだと言われ直江大和と葵冬馬は驚愕する。情報収集にかけては二人は川神学園一といわれる程なのだ。

 

 

「一年生と二年生はともかく、三年生の『彼』の情報が嘘っぱちだもん。多分…『彼』は自分の情報をさらさせないよう根回ししているね。」

「な、何故そんな事を?」

 

 

葵冬馬は慌てた様子で訊ねる。松永燕はゆっくり直江大和の方へ顔を向ける。

 

 

「大和君なら分かるよね? 『情報が分かっている敵』と『分かっていない敵』とではどちらが『恐い』か。」

「…………」

 

 

その言葉に直江大和は納得する。どんなに強敵であろうと戦い方や戦術が分かればいくらでも対策がねれる。しかし、逆に言えばどんなに弱い敵でも戦い方や戦術が分からなければ、どう戦えばいいか分からない。

戦において敵を知る事は何よりも大事な事だと直江大和は思っている。だから松永燕の言葉はよく分かった。

 

 

「……でも、俺や葵でさえ掴めない奴なんて…」

「無理はないよ。だって『彼』は『裏社会の権力者達』と繋がっているもの。情報の操作なら君達より上だよ。」

 

 

直江大和は目を広げた。『裏社会』……情報を何より大事とする直江大和はその言葉の意味する事を瞬時に理解した。

そんな奴が天神館にいる……冷静を装っているが直江大和の心中は穏やかなものではなかった。

 

 

「な、何者だよ!? ソイツは!?」

「そ、そんなスゴい奴が天神館にいるっていうの!?」

 

 

島津岳人と師岡卓也は松永燕に問いかけた。

 

 

「……皆知っていると思うけど、私は川神学園(ここ)に来る前は天神館にいた。『彼』は、私が二年生の時に天神館に転校してきた。」

 

 

松永燕は部屋にいる全員に顔を向け、『彼』について語った。

 

 

「……天神館には『将選挙』っていう学校の代表となる『大将』を決める伝統行事があるんだけど、『彼』は他校から『大将』に選ばれた異例の存在だった。当然、天神館側の生徒は納得しなかったよ。その中でも当時一年生だった生徒が『彼』に決闘を挑んだんだ。」

 

 

一区切りして、松永燕は大きく深呼吸して話の続きを語った。

 

 

「……『彼』は決闘を受け入れ、全校生徒が見る中で勝利した。……対戦相手の『右腕』と『誇り』をメチャクチャに壊してね…」

 

「「「!!」」」

 

 

その言葉にその場にいた全員が息を飲む。

 

 

「それ以来『彼』を大将と認めない者は一人もいなくなった。『彼』は『恐怖』で天神館を手中におさめたんだ。」

「…………」

 

「な、何だその男は!? 許せん!」

「義経も同じ気持ちだ! 武士の誇りをメチャクチャに壊すなど…許されるものではない!」

 

 

女性陣が非難をまだ見ぬ敵にかける中、直江大和は言葉が出なかった。そんな危険な奴の情報を一切持たない状態で戦おうとしていたなんて……全身から汗が吹き出し気持ち悪かった。

 

 

「へぇ…おもしろそうじゃないか。」

 

 

この場にいる多くが汗を流し、顔をこわばらせている中、ただ一人楽しそうに笑っている者がいた。

 

 

「なぁ、燕。そいつは東西交流戦(このたたかい)に出るのか?」

 

 

『武神』・川神百代は興味津々に松永燕へ訊ねた。

 

 

「……多分出ると思うよ。こんなおもしろそうな事に『彼』が喰いつかないわけがないから。」

「そうか、じゃあそいつと戦えるってわけか。ククク…楽しみだ。」

 

 

その言葉に部屋にいる全員の緊張が少しやわらいだ。たった今とんでもない強敵がいると聞かされたにも関わらず、自分達の頼れる姉貴分は楽しそうに笑っているのだから。

 

 

「(まったく……この人には敵わない。)」

 

 

直江大和はやれやれといった面持ちで川神百代を見た。松永燕も同じだった。自分でも戦いたくない相手に、まだ見た事もない相手にこんなにも興味を抱いているなんて……

 

 

「……百代ちゃんって、本当に戦いが好きなんだね。」

「あぁ、そんな強そうな奴がいるなんて知らなかった。俄然おもしろくなってきた! 燕、そいつの名前は何て言うんだ?」

 

 

そう言えば松永燕は『彼』の名前を言ってない事に気づく。そして、この場にいる全員にその名前を教えた。

 

 

彼等はその名を生涯忘れる事は無いだろう。彼等の人生をも変える、その名を。

 

 

 

 

 

「彼の名前は『織田信長』。『第六天魔王』の異名をもつ天神館最強の男だよ。」

 

 

 




主人公組の設定は
・松永燕がすでに転校している
・『武士道プラン』が一年早く行われている
・↑なので、義経達も東西交流戦に参加する

といった感じです。


こうしたのは成長した石田の相手を原作の風間ファミリー達じゃ対処しきれなさそうだし、信長の相手が百代だけじゃつまらないと思ったからです。


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