真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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開幕。


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対戦場である荒野の広さは東京ドーム3個分。広大な大地は先の『一年生の部』を終えて、無数の足跡によって踏み均されてある。端から端までの距離は約630m、荒野の東と西には両校の出場生徒達が開始の合図を今か今かと待ちわびている。

 

 

『ではこれより! 『東西交流戦-二年生の部』を開始する! 』

 

 

荒野に設置されてあるスピーカーから川神鉄心の声が流れる。その言葉を待っていたかのように、生徒達の瞳に火が灯る。

 

 

『正々堂々、お互い日頃の鍛練の成果を発揮せい! では…………始めっ! 』

 

プオ~ンッ……! プオ~ンッ……!

 

 

開始の合図とともにホラ貝が荒野の隅々に響き渡る。その音をかき消したのは生徒達の咆哮だった。先頭集団の生徒達は先陣を切ろうと駆け出す。

 

 

大地が揺れる。木々がざわめく。

 

『東西交流戦-二年生の部』はついに開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:直江大和

 

 

「よ~し! 敵陣一番乗り、もらったわぁ!」

「いや、自分が一番だ! さぁ、かかってこい! 西の侍達!」

 

 

先頭集団に混じり駆けていく『川神一子』、『クリスティアーネ・フリードリヒ』の二人を確認しながら、直江大和はトランシーバーを使って仲間達と連絡をとっていた。

 

 

「こちら『司令塔』、各配置(そっち)の様子はどうだ? 」

 

『こちら『弓隊』、動きなし。』

『こちら『遊撃隊』! 同じく敵に動きはねぇ!』

 

「分かった……『弓隊』は引き続き『監視』を、『遊撃隊』は先頭の様子を見ながら頃合いをはかって加勢してくれ。」

 

 

「了解」と短い返事を聞きトランシーバーを切る。

 

 

「さて…上手くいってくれよ。」

 

 

直江大和は自分がたてた作戦が成功する事を祈る。彼が考案した作戦はいたってシンプルなものだった。

 

『敵陣に突入した先頭集団が敵を蹂躙し、弓隊がそれをサポートし、敵の出方に合わせ控えている遊撃隊が先頭集団に加勢する。』

 

一見何のひねりもない作戦だが、これこそ最善の策だと直江大和は考えた。直江大和は作戦を考えるにあたって、『西方十勇士』のプロフィールを入手していた。

 

『石田三郎』、『島右近』、『大友焔』、『長曽我部宗男』、『毛利元親 』、

『尼子晴』、『鉢屋壱助』、『宇喜多秀美』、『大村ヨシツグ』、『龍造寺隆正』…

 

全員が一流の達人であり、手強い相手である。だが、直江大和は彼等の致命的な欠陥を発見した。それは『団結力』だ。強い力をもった者にあらわれる『慢心』ともいえる『プライド』。それが難攻不落と思われた城塞にあった欠陥(ヒビ)であった。

 

 

「(ああいう連中は『この手』に弱い…敵の『大将』は川神学園(こっち)の事を舐めているはず……それぞれ自分の持ち場で好き勝手やっているだろう。)」

 

 

入手したプロフィールで『西方十勇士』が不仲である事が分かっていた。おそらく作戦なんて何一つたててないだろう…それが直江大和の見解だった。

 

 

 

 

 

「さぁさぁ! 私の相手は誰!?」

「遠慮は無用! かかってこい!」

 

 

前もって設置しておいたカメラから先頭集団の映像が送信されてきた。天神館の戦力が『西方十勇士』以外は低い事を考え、川神一子とクリスティアーネ・フリードリヒを先頭に加えたのは直江大和であった。二人の戦闘力は並の生徒相手なら何十人かかろうと倒せない程高い。直江大和の見解では天神館の先頭集団には『西方十勇士』はいないとふんでいた。いたとしても、プロフィールから考えて『大友焔』か『長曽我部宗男』あたりだろうと直江大和はふんでいた。

 

 

だが…実際は直江大和の想像など、1mmもかすっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、俺が相手になろう。悔いを残さぬよう…全力で来い。」

 

「な!?」

 

 

先頭の映像を見て直江大和は驚愕する。

 

そこにはいないと思っていた、いるはずがないとふんでいた『石田三郎』が映っていた。先頭の二人も眼前の敵に驚いていた。

 

 

「ん? 大和は先頭(ここ)にはいないって言ってたけど……ちょうどいいわ! 『大将(石田三郎)』! 此処で討たせてもらうわ!」

「二対一だが、容赦はせんぞ!」

 

 

二人が動いたのは同時だった。二手に別れ、左右から挟み込むように二人のもつ武器が石田三郎を襲う。

 

 

 

 

 

「……フッ!」

 

ヒュンッ! ドガッ!

 

 

「「え…?」」

 

 

まばたき一回にも満たない刹那、石田三郎は一瞬にして二人の後ろに回りこんでいた。

 

 

「う…そ…」

「見えな、かっ…た…」

 

 

糸が切れた人形のように川神一子とクリスティアーネ・フリードリヒは倒れた。その少し後にチンッという音が鳴る。それは石田三郎が腰に帯刀しているレプリカの日本刀を『納刀』する音だった。

 

 

「ワ、『ワン子』と『クリス』が、一撃で……!?」

 

 

直江大和が最も驚いたのは、二人が倒された事ではなかった。『石田三郎が先頭集団にいる』事が一番の驚きだった。

 

 

「先陣は天神館(われら)が切った……! 西の猛者達よ! 俺に続けぇえええええ!!」

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」

 

 

「! た、『大将』が『特功』だと……!?」

 

 

それは先の『一年生の部』で川神学園側の『大将』がやったものとは違った。石田三郎の周りには数十人の生徒達がいて、互いが仲間を助け合いながら川神学園(こちら)に攻めこんで来た。

 

『団結力』……欠落していると思われたそれが、そこにはあった。

 

 

「くっ! ちょっと予想外の事態だ…!」

 

 

直江大和はトランシーバーで仲間達に連絡する。当初の作戦は失敗した。だが、直江大和はそれで終わるような二流ではなかった。

 

 

「『京』! 先頭集団に『大将』がいる! もし狙えそうなら射ってくれ! 『キャップ』と『岳人』は急いで先頭に加勢してくれ! 後………………………………………」

 

 

直ぐ様適格な指示をだし、風向きを調整する。これこそが直江大和の真価である。状況に合わせた最善策を瞬時に導く。それこそが直江大和が『軍師』の二つ名をもつ由縁であった。仲間達に連絡を終え、直江大和はモニターに映る石田三郎へ目を向ける。

 

 

「どうやら二年生の情報も誤りだったみたいだな……でも、そうだよな。そう簡単に自分の思い通りにはならないよな……」

 

 

普通なら、作戦が失敗した事に悔いて落ち込むだろう。責任を感じ、逃げ出したくなるだろう。

 

だが、直江大和は違った。

 

 

「……おもしれぇ…! 相手にとって不足なしだ、天神館!」

 

 

笑っていた。楽しそうに…嬉しそうに…これから始まる強敵との戦いに直江大和は興奮した。

 

 

「こちら『司令塔』。思ってたより出番が早くなりそうだ。準備してくれ。」

『了解した!』

 

開始からまだ三分程しか経っていない。直江大和は確信していた。この東西交流戦(たたかい)、大接戦の長期戦になるであろうことが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

「凄い……まさに一騎当千…」

 

 

先頭集団が戦っている地点からおよそ200m程離れた丘の上で、『椎名京』が率いる『弓隊』は石田三郎の猛進を見ていた。刀をふるうたび、一人二人と倒されていく。石田三郎の実力は『本物』だった。達人である川神一子とクリスティアーネ・フリードリヒを一撃で倒した事が証明であった。

 

 

「……アレは危険…大和のためにも、ファミリーの皆のためにも、倒さないと……!」

 

 

椎名京は背中に背負っている筒から矢を取りだし、石田三郎に向ける。彼女の弓の腕前は凄まじい。『天下五弓』にカウントされるその腕は、200m離れた位置からでも獲物を射ぬけるほどだ。

ギリギリと弓がしなる。弦が限界まで引かれ、椎名京の鷹の目が石田三郎に照準を合わせる。

 

 

「(動いているから狙いずらいげど……ここで終わらせる…!)」

 

 

 

 

 

フォン……

 

「?」

 

 

風を切る音が耳に入る。椎名京は矢を引く手を止める。

 

 

「…!?」

 

 

常人より発達した椎名京の『第六感』が体を動かした。

 

 

ズッガァアアアアアアアアアンッ!

 

ほんの一秒前まで立っていた地面が爆発した。周囲の生徒達は突然の事にあたふたしている。だが、椎名京は違った。視線を『風を切る音』がした方向へ向ける。

 

彼女は分かっていた。地面が爆発したのは爆弾が仕掛けられていたからではない。彼女の鷹の目はとらえていた。此方に向かって飛来してきた『矢』を…

 

椎名京達がいる丘からおよそ400m離れた場所。ちょうど対局の位置にある丘の上に、椎名京は注視する。

 

 

 

 

 

「フッ……『天下五弓』の称号は伊達ではないようだな。」

 

 

400m離れた丘に立つ天神館の生徒達。そして彼等の前に立ち、弓を此方に構えている一人の男。常人なら目視することは不可能だが、椎名京は見えていた。

 

 

「不粋な真似はするな、川神学園。我等が『大将』の美しき猛進……貴様等ごときが止めていいものではない。」

 

 

声は聞こえないが、何か言っているのは分かった。男の外見に椎名京は見覚えがあった。直接会ったことはないがその顔は知っていた。

 

そして理解する。『あの男が射ったのだ』と……

 

 

 

 

 

「『毛利元親』……!」

 

「貴様等の相手は、この華麗なる私と私が選びぬいた精鋭達務めよう。」

 

 

 

椎名京 VS 毛利元親

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

「おぉ~、『大将』が先頭に立つとぁ…直江の作戦、いきなり駄目になったな…」

「フンッ! だから此方はあんな山猿の案など信用するなと言ったのじゃ! 」

 

 

次々と味方を倒し、侵攻してくる天神館の先頭集団を『井上準』と『不死川心』が率いる部隊は、先頭から100m程離れた地点から見ていた。作戦が失敗に終わった直江大和を井上準は同情し、不死川心は悪態をついていた。

 

 

「しかし『大将』が先頭に立つとは……どうやら天神館もたいしたことのない輩の集まりのようじゃな。」

「どうかねぇ……たった一人で特功してくるなら分かるが、天神館(むこう)は集団で来ている。それに弓隊からのサポートがねぇ…弓隊(そっち)も何かあったのかもしれねぇな。」

 

「フッ…弓隊の隊長も所詮はF組、作戦が失敗してあたふたしておるのじゃ。」

「(…椎名の奴が遅れをとる相手……気ぃ引き締めた方がよさそうだ……)」

 

「……む? おい『ハゲ』。何か、近づいてくるぞ。」

「あぁん?」

 

 

不死川心が指差す方向で土煙が舞っていた。50m先、いや40m、30m先……どんどん近づいてくる。距離が近づくにつれ土煙の中に人影が見えてきた。数は十数人、顔が視認できるまで近づいてきて、井上準は戦闘体勢に入る。

 

近づいてきたのは天神館の生徒だった。そして先頭にたつ二人、その顔に井上準は見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「お~お~、どんな奴が待ち構えていると思うたら……何やエライ上品なのがおるなぁ。」

「ゆだんはするなよ『宇喜多』。きもののとなりにいるタコ頭、強いぞ…!」

 

 

先頭の二人が井上準と不死川心の前にたつ。不死川心は目の前の二人をただの天神館の生徒と思っているのだろう。だが、井上準は知っている。二人の正体を……

 

『西方十勇士』のメンバー、『尼子晴』と『宇喜多秀美』を知っていた。

 

 

「う~ん……見れば見る程エエ着物やな。いくらするんや、それ?」

「ニョホホ! 庶民にしては良い目をしておる。これは有名な老舗の一品で、数百万する代物じゃ。」

 

「数百万!? ほぅ……それはそれは……尼子! ウチはあの着物の奴とヤるは! そっちのハゲは任せたで!」

「……まったく、金がからむといつもこうだ……」

 

 

敵の一人、宇喜多秀美は目をキラキラと輝かせながら不死川心に背中に背負っているハンマーを構える。

 

 

「そこの着物! ウチが相手や! 着物汚したくないんやったら、今すぐ脱いでウチに寄越しなはれ!」

「フンッ! 下品な目で此方を見るでない。だが、かかってくるというなら……此方が遊んでやろう。」

 

 

「と、いうわけだ。タコ頭、わたしがあいてだ!」

「……やれやれ…君のような可愛いお嬢ちゃんとは公園で出会いたかったもんだぜ。」

 

 

 

井上準 VS 尼子晴

 

不死川心 VS 宇喜多秀美

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

「ウオリャァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「オラオラ! いくぜぇ!」

 

 

『島津岳人』と『風間翔一』は嵐を彷彿させる勢いで、天神館の生徒達をなぎ倒していく。先頭集団が敗れてから、二人は加勢に向かおうとしたのだが、天神館の生徒達がそれを阻んだのだ。

 

 

「くらえ! マッスルラリアット!」

 

「ゴヘァアアアアアアア!」

 

「竜巻キィィック!」

 

「ドワァァアアアアアア!」

 

 

二人は次々と敵をなぎ倒していく。一見すると川神学園側が優勢に見える。だが実際は違う。両校の戦況は均衡していた。

 

 

ドォン‥‥‥!

 

「! 『また』アレがくるぞ!」

「みんな、下がれ!」

 

 

爆発音が耳に入ると同時に、二人は近くにいる味方に避難を促す。指示に従って避難を始めるが、対応に遅れ、何人か逃げ遅れてしまった。

 

 

ドガァァアアアアアアアアアン!

 

「「「うわぁあああああああ!!」」」

 

 

逃げ遅れた生徒達を爆炎が襲う。全員直接当たっていなかったため大怪我にはいたらなかったが、それでも動けなくなるほどの怪我を負っていた。

 

 

 

 

 

「見たか! これぞ『大友家』秘伝・『国崩し』!」

 

 

天神館側から女性の活気な声が聞こえてくる。大きな大砲を脇に抱え、短く切られた髪を揺らして仁王立ちしているのは『西方十勇士』のメンバー、『大友焔』であった。

 

 

「くそっ! 大砲とかアリなのかよ!?」

「チクショウ……敵だと分かっているが、カッコイイぜ……!」

 

「石田の勝利のため、天神館(われら)の勝利のため! ここで討たせてもらうぞ!」

 

 

脇に抱えた大砲に次弾を装填する大友焔。その隙を二人は狙っていた。

 

 

「! 今だぁ! 」

「仲間のカタキだぁああああっ!」

 

 

二人は大友焔目掛けて駆ける。大砲の次弾装填に時間がかかることは、何度も喰らっているうちに二人は理解していた。

 

だが、大友焔は慌てない。何故なら敵が二人で来るのと同じく、大友焔にも『仲間』がいるからである。

 

 

 

 

 

「おぉ~と、ここから先は通行止めだぜ?」

 

「「!!」」

 

 

二人の前に2m近い巨漢が立ちふさがる。全身オイルまみれで立つ鋼の壁は『西方十勇士』のメンバー、『長曽我部宗男』であった。

 

 

「ほぅ、いい男が二人もいるじゃねぇか。特にそっちのガタイのいい兄ちゃん、なかなかの筋肉だ。」

「へぇ~、西には分かる奴がいるじゃねぇか。来な! 俺様の肉体美に酔いしれやがれっ!」

 

「任せたぜ、岳人! いくぜ! お前の相手は俺だぁああああああ!」

「来い! 西の力を見せてくれる!」

 

 

 

風間翔一 VS 大友焔

 

島津岳人 VS 長曽我部宗男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

「どうやら直江大和の作戦は失敗したようですね。」

「たく、あのガキ……初っぱなから大誤算かよ。」

 

 

荒野の周りを生い茂る密林の中を『忍足あずみ』と『マルギッテ・エーベルバッハ』は駆け抜けていた。彼女達が何故密林の中にいるのか? 彼女達は直江大和のたてた作戦で『大将を奇襲する』役目をおっていた。だが作戦は失敗し、敵の『大将』は前線にいる。彼女達が密林の中にいる意味はもうなく、前線に加勢しようと彼女達は駆けていた。

 

 

「しかし意外だな。てっきりお前は『お嬢様』を助けに一目散に飛び出すと思っていたけど……」

「……『クリスお嬢様』と約束したのです。「今回は助けは無用。自分の事は自分で何とかする」と…………貴女の方こそ、『主』から離れるなんて意外でした。」

 

「……あたいも同じだよ。『英雄様』が「直江の作戦に協力してやれ」って……直江の野郎、この試合が終わったら絶対ボコる。」

 

「……ところで『女王蜂』。今の戦況をどう思います?」

 

「あたいをその名で呼ぶな。……五分五分じゃねぇか? 天神館(むこう)はどうか知らねぇが、川神学園(こっち)には『切り札』があるし、大丈夫だと思う。だがそれは天神館(むこう)も同じだ。とんでもない『隠し玉』を潜ませているかもしれねぇ……」

「貴女もそう判断しますか……」

 

 

二人は冷静に戦況を考察する。先陣はとられたが負けた訳ではない。現在両校の戦力差はほぼ同じ。川神学園側には『切り札』があるので安心できるが、二人は楽観的に考えない。軍に所属する二人は戦場において敵を軽視したり、あまく見たりは絶対にしない。川神学園(こちら)と同じく『切り札』を隠し持っていると想定し、一刻も早く自陣に戻ろうと駆け出す。

 

 

だが、密林にいるのは二人だけではなかった。音はなかった、気配もなかった、だが戦場で培って発達した『勘』のレーダーに反応があった。

 

 

「! 誰だ!」

 

 

忍足あずみは反応地点に大量のクナイを投擲する。弾丸のような速度で飛ぶクナイは隙間なく反応地点に襲いかかる。

 

 

 

キンキンキンッ!

 

「!」

「……どうやら貴女の『同僚』のようですね。」

 

 

投擲されたクナイが全て弾かれる。忍足あずみは自分の攻撃が防がれた事に驚きはしない。彼女が驚いたのは『クナイを弾いたモノ』であった。それは遠い昔、今ではその数は減少してしまった『忍者』が扱っていた投擲武器『手裏剣』であった。

 

 

 

 

 

 

「………素晴らしい腕前だ。貴殿もそれがしと同じ者とお見受けするが……如何に?」

 

 

木々の物影から一人の男が現れる。全身を漆黒の衣で包み、物音をいっさいたてずに現れた人物は『西方十勇士』のメンバー、『鉢屋壱助』であった。

 

 

「……その手裏剣の形状……貴様、『鉢屋』だな…」

 

「そういううぬは『風魔』か……隣の御仁もかなりの腕前と判断する。」

 

「正しい判断ですね。敵ながら賞賛に値します。」

 

 

突如現れた忍者に二人は動揺しない。ゆっくりと自然な動作で戦闘体勢にうつり、眼前の敵に強烈な闘気をぶつける。それに答えるように、鉢屋壱助は腰にさしてある短刀を構える。

 

 

「忍が正面から戦うとは……正気か?」

「私達二人を相手に白兵戦を挑むと? それはあまりに無謀な考えです。」

 

「……確かに…忍の本分を考えるなら、それがしのとるべき行動はこの場を離脱し敵の『大将』の首をとること。だが今のそれがしは忍よりも、『武人』として、『仲間』のために貴殿達と戦うのだ。………ご教授してやろう、圧倒的戦力差とはどう覆すかをな……」

 

 

 

忍足あずみ、マルギッテ・エーベルバッハ VS 鉢屋壱助

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

「う、う……ん…あれ、私…?」

「ん……此処は……」

 

 

地面から伝わる振動で川神一子とクリスティアーネ・フリードリヒは目を覚ます。

 

 

「私、確か……! そうだ、石田三郎(あいつ)は!?」

「『彼処』だ。…どうやら自分達は随分と寝ていたらしい…」

 

 

二人のいる場所から200m程離れた場所で戦闘がおこなわれていた。その中に石田三郎の姿があるのを二人はとらえた。

 

 

「く……! 情けない…! たった一撃でやられるとは……!」

「……悔しいのは分かるよ。けど今はみんなと合流しよう。まだ試合は終わってないよ!」

 

「…そうだな! 自分達も何かの役になる筈……! 行こう!」

「うんっ!」

 

 

二人は足下に落ちている武器を持ち直し、遠く離れた戦地に向けて走り出す。一刻も早く仲間達のスケットにと二人は全力で走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、お前達を行かせるわけにはいかないな…」

 

「「!!」」

 

 

二人の前に一人の男が立ちふさがる。二人は瞬時に武器を構え、眼前の男に警戒する。二人は男をよく観察する。その顔は何処かで見たことのある顔だった。記憶を辿っていく……つい、ほんの少し前に見た顔………

 

 

「………………『大村ヨシツグ』……?」

 

「ほぅ、知らない間に有名になったものだな。」

 

 

その言葉を肯定と受けとる。二人が男を大村ヨシツグと判断するまで時間がかかったのは、大村ヨシツグの外見に理由がある。

 

二人が試合前に見た『西方十勇士』のプロフィールでは、大村ヨシツグは病弱で十勇士のサイバー担当。他のメンバーとは違い、戦闘員ではなかった筈………

 

だが眼前の大村ヨシツグは病弱な様子など微塵もなく、真っ直ぐに伸びた背は屈強な雰囲気を漂わせ、その目はまるで猛禽類のような鋭かった。

 

 

「……大和の情報だと、大村ヨシツグは非戦闘員と聞いていたが……」

「おや、とんだデマを教えられたようだな。そっちのサイバー担当は、随分マヌケとみえる。」

 

 

二人は情報の誤りに驚かない。既に石田三郎(大将)が先頭にいるという前例を見ているのだ。今さら戦闘員が増えた事に一々驚きはしなかった。

 

 

「……そこをどいてもらえる…?」

「無理な相談だ。お前達を此処にしばりつけておくのが、俺のミッションだからな。」

 

「ならば、力付くで押しとおる!」

「いくわよっ! でぇやああああ!」

 

 

二人は構えた武器を大村ヨシツグ目掛けて降りおろす。

 

 

「……その無鉄砲ぶり…うちの『大将』そっくりだな。……たが、通すわけにはいかんなぁ。残念だが、お前達の東西交流戦は此処で終了だ。」

 

 

川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒ VS 大村ヨシツグ

 

 

 

 




二年生の情報が違っているのは、もちろん信長の仕業です。自分の情報を隠匿するついでにやりました。

さて、ようやく開始した東西交流戦。次回からの戦闘シーンにご期待を……っていいたいのですが、読者の皆様に質問です。

この作品、以前まで擬音を多用していたのですが、戦闘シーンに擬音いりますか? いりませんか? もし良ければ感想の方に皆様の意見を書いてほしいのですが。

その意見をもとに、この先の戦闘シーンを書いていこうと思います。


-追記- 誤字修正 3/25

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