真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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久々の投稿……ほんとすいません。


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Side:天神館

 

 

雲一つ無い晴天の空。距離およそ400m離れた丘と丘の境目で、『矢の雨』が絶え間なく降り続いていた。

 

 

「椎名流弓術・『爆矢雨』!」

 

「咲け! 『アマヤドリ』!」

 

ヒュン‥‥‥‥‥‥‥ドォオオオオオン!!

 

椎名京が放った矢と毛利元親が放った矢がぶつかり合い矢の雨の中に爆煙の雲ができる。二人の…いや、両校の打ち合いが始まってからおよそ10分。両校一歩もひかず、戦況は均衡していた

 

 

「(クッ…『アマヤドリ』が相殺されるとは……)全員手を休めるな! 一瞬でも手を止めれば、あの矢の雨が襲ってくる!」

 

 

毛利元親は後ろに並ぶ弓隊に指示をする。

 

 

「(……両校の実力はおそらく互角…この勝負、先に一手取った方が勝つ……だが、『必殺の一撃』を放つには『溜め』が必要………)」

 

 

毛利元親は冷静に状況を読み取っていた。先に一手取った方……つまり、

 

『どちらが先に『必殺の一撃』を放つか?』

 

それがこの勝負の決着方だった。弓術とは本来遠距離からの援護や暗殺他に用いられる武術であり、敵を一撃で仕留める程の威力をもたないのが欠点である。 毛利元親ほどの達人にもなればできることはできるのだが、それをやるには充分な『溜め』が必要なのだ。だが…

 

 

「…くっ……これでは、『溜め』ができん……!」

 

飛来してくる矢を打ち落としながら毛利元親は愚痴をこぼす。絶え間なく襲ってくる矢の雨から仲間達を守るのに手一杯で、毛利元親は『溜め』の時間が得られなかった。

 

 

「……だが、それは川神学園(やつら)も同じこと! このまま此方も攻撃し続ければ、川神学園(やつら)にも『溜め』の時間はできない!」

 

 

毛利元親はそう判断した。十勇士のメンバーである大村ヨシツグから川神学園側の参加者を事前に聞いていたので、川神学園側に『必殺の一撃』が放てるのは『椎名京』『ただ一人』だと知っていたからである。

 

 

だが、それは間違った判断だった。それが後に大きな爪としてかえってくるのを、まだ彼は知らない。

 

 

 

 

 

Side:川神学園

 

 

「(流石は『天下五弓』……実力は『本物』…)………『溜め』をつくる隙が全然無い…」

 

 

飛来してくる矢を精密機械のように椎名京は打ち落としていく。彼女も毛利元親と同じ考えで動いていた。しかし、彼女もまた毛利元親と同じく動けないでいた。川神学園側は正直いって椎名京一人で何とかしている。彼女が他の生徒達が対処しきれない矢を全て打ち落としていた。勝負はこのまま長期戦にもちこまれ、持久戦になると両校の生徒達は思っていた。

 

 

だが、椎名京はそうは思わなかった。毛利元親が『溜め』の時間を欲して焦っているのとは逆に、椎名京は眉一つ動かさず、焦ることなく矢を射っていた。

 

何故彼女はこうも余裕なのか…………自分が『必殺の一撃』を放たなければ勝負はつかないというのに、何故彼女はこうも冷静でいられるのか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やっぱり私じゃ撃てそうにない………)………やっぱり貴方の力が必要……『溜め』はもう終わった?………『那須与一』…」

 

「……まったく、俺の周りにはどうして『普通の女子』ってのがいないのかね……」

 

 

何故なら、『必殺の一撃』を放てるのは彼女だけではなかったからであった。

 

 

「俺と関わると不幸になるというのに……まったく、俺の右手に封印されてある邪気がこうも人を引き寄せるとは……術式を変えた方が得策だな……」

 

「…………準備はできたの?」

「あぁ、『完成』したぜ……」

 

 

椎名京の後ろで顔に手をあて、髑髏をモチーフしたシルバーアクセサリーを身に付けた男が、通常よりも大きめな弓を天神館陣地に向けて構えていた。

 

彼の名は『那須与一』……天神館が得ることのできなかった情報、存在するばすの無い『二人目の弓兵(アーチャー)』だった。

 

 

「……まったくとことん不幸だな、俺は……いったい後何回、この手は血を求め…屍を欲するのだろうな……」

 

 

漫画に出てくるキャラクターが喋るようなクサイ、そしてイタイ台詞を那須与一は一人で喋りながら、構えた弓を持って前に立った。

 

 

「お前達は、生と死の境界線をさまようだろう……奥義!」

 

 

彼の手が握っている矢から強烈な氣が溢れ出す。それは仲間である川神学園の生徒達も一瞬おののく程であった。

 

 

「七大地獄への誘い(ワールド・ツアー)!」

 

 

そして、那須与一の手から今、『必殺の一撃(それ)』は放たれた。

 

 

 

 

 

Side:天神館

 

 

「! な、何だ…この氣は……まさか!?」

 

 

前方から感じる威圧感に毛利元親は冷汗を吹き出す。400m離れた場所からも確認できる眩い強光、そして、それが秘める破壊力に毛利元親は恐怖した。

 

ヒュゴォオオオオオオオオオッン!!

 

「! 全員地面に伏せろぉ!」

 

「「「は、はいぃいいい!」」」

 

 

普段決してそのクールな態度を変えない毛利元親の焦りの怒号に生徒達は驚愕しながらも、すぐにその指示に従う。

 

 

「(間に合うか…!) 開け! 『シダレザクラ』!」

 

 

毛利元親はすぐに向かってくる脅威に向けて、氣を込めた矢を放つ。しかし…

 

バァギィイッ!

 

「ぐっ! 駄目か…! 『力』が足りない…!」

 

 

弓術の威力は『溜め』で決まる。といっても、ただユックリと矢を引くという意味ではない。引きの際に生じる弦の反発力、反動、射った後の風の抵抗他…あらゆる要素で矢の威力は落ちてしまう。達人はそれらを考慮し時間をかけて『溜め』、最高の瞬間に矢を射るのだ。

つまり何が言いたいのかというと……『時間をかけてしっかりと『溜め』られた矢』と『急いで『溜め』た矢』とでは威力に明確な差ができるという事だ。毛利元親の放った矢は那須与一が放った矢をおさえることさえできていなかった。

 

 

「(クッ…だが、それなら………!)…ハァアアアアアアアアア!」

 

ヒュン…ヒュン、ヒュン、ヒュンヒュンヒュン……!

 

毛利元親は再び矢を射る。先程と同じ『溜めの弱い矢』を……しかし、今度はそれを何度も繰り返した。射ってすぐ次の矢を構え放つ。それを何度も何度も繰り返した。それは全て『同じ箇所』に被弾した。

 

水が何度も同じ場所に落ち続け、石をえぐるように……束になった矢は太く強靭になるように……

 

 

ビキッ‥‥‥‥‥

 

「! よし……これで少しはおさえられた筈っ……後は…!」

 

 

亀裂音が耳に届くと同時に毛利元親は弓と矢を守るように抱えて地面に伏せた。そして…

 

 

 

ドゴォオオオオオオオオオンッ!!

 

 

那須与一が放った矢は天神館陣地を大きくえぐり巨体な土煙の雲を生み出した。着弾した際の破壊音には天神館生徒達の声が混じっていた。そして、その声はやがて土煙の中に消えていった。

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

天神館の弓隊陣地より少し離れた場所で、龍造寺隆正は巨体な破壊音に思わず足を止めた。

 

 

「!?…… 毛利!」

「お~、スゴい音だね~…」

 

 

驚愕する龍造寺隆正。それとは逆にいつも通りの呑気な口調で榊原小雪は立ち上る土煙を見ていた。

 

 

「これで『終わり』だね~、後はキミをたおしてトーマとの約束も終わりだよ~。」

 

 

背中を向け立ち尽くす龍造寺隆正に榊原小雪は突撃する。一気に距離をつめ、一撃で気絶させる程の蹴りを放つ。真後ろからの死角をついた完璧な奇襲だった。

 

 

 

 

 

「……………『終わり』?」

 

「!」

 

 

しかし、榊原小雪の蹴りに龍造寺隆正は後ろ向きで対応した。首を狙ってきた蹴りを左手でせいし、威力をそのままカウンターにつなげる。

 

 

「っ!」

 

 

しかし、榊原小雪はそれを巧みによけ龍造寺隆正と距離をおく。二人はお互いに構え、相手の動きを探る。

 

 

「……おいおい、シニョリーナ……笑えねぇジョークだぜ…『終わり』? アイツ等が? アイツが? 」

 

「……終わりだよ…だって、キミのトモダチみ~んなふっとんじゃったもん。」

 

 

今だ立ち上る土煙を指差して榊原小雪は言う。

 

 

 

「ハハハ……ふっ飛んだ? …………『それで』?」

 

「え…?」

 

 

榊原小雪は戸惑った。目の前にいる龍造寺隆正が浮かべる不敵な笑みに。

 

 

 

「なぁ、シニョリーナ…いったい何処のどいつから天神館(おれたち)の情報(こと)聞いたのか知らないが……『あれ』しきでやられる『タマの奴』なんて、天神館(うち)には一人もいねぇよ。ましてや……『アイツ』がこの程度で音を上げるわけねぇだろ……」

 

「『アイツ』?」

 

「あぁ、俺の悪友でね。いつも人のナンパの邪魔するは、人の口説いたレディを横取りするは、変な美学をいつもするはで、もう散々な奴でね……」

 

 

 

 

 

「……………そんなアイツが、よく分からねぇ変な美学をいっつも追求しているアイツが…………こんな『美しくねぇ負け方』、するわけないんだよ……!」

 

 

 

 

 

Side:川神学園

 

 

「やった! 勝ったぞ!」

「流石、椎名に那須与一だ! 圧倒的だったぜ!」

 

 

川神学園側の弓隊陣地では勝利の喝采が上がっていた。全員が武器をおき、勝利の余韻に浸っていた。

 

 

「……まだ、終わっていない…」

 

 

しかし、椎名京は他の生徒達とは違い一人険しい表情でいた。

 

 

「まだ、大和達は戦っている……加勢にいかないと…!」

 

 

そう…まだ『東西交流戦』は終わっていない。椎名京は他の生徒達にかまわずこの場を離れようとした。まだ戦っている仲間達のもとへ向かうために。戦闘態勢を崩さず…

 

だがらであろう。彼女がいち早く『それ』に気づけたのは……

 

 

「……!?」

 

 

誰よりも『それ』にいち早く気づいた彼女はおよそ反射行動に近く、そう…例えるなら『熱したヤカンにさわってしまい、思わず手を遠ざけるように』……椎名京は『それ』に向かって矢を放った。

 

 

バキィイ!

 

「ひっ!? 何だ!?」

「何か飛んできたぞ!?」

 

 

突如聞こえた破裂音に川神学園生徒達は喝采を止める。

 

 

「なん……だと……!?」

 

 

呟いたのは那須与一だった。彼もまた闘いは終わったものだと思い、帰ろうとしていた。

 

 

「まだ………『終わっていなかった』…!」

 

 

椎名京が打ち落としたのは、『矢』だった。つまり…

 

 

「お、おい……また来るぞ!?」

「マジかよ!?」

 

 

矢が飛んできた先、天神館の陣地から再び矢の雨が川神学園に襲いかかってきた。

 

 

「早く構えて! もたもたしないで!」

 

「「「は、はい……!!」」」

 

 

滅多に出さない椎名京の大声に川神学園の生徒達はビックリしながらすぐに弓を構えた。

 

 

「チッ……俺としたことが……右手の力をおさえすぎたか……」

「…………」

 

 

後ろでそんな事を言っている那須与一をよそに、椎名京は己を叱責していた。

 

心の何処かで、彼女は天神館を舐めていた。とるに足らない存在だと……今、それが大きな過ちである事を悟った。

 

 

「………これが……『西の武士』…!」

 

 

前方から来る矢を防ぎましたながら、椎名京は自分が闘っている相手がいつも闘っているチンピラやヤクザとは違うのだと改めて認識する。

 

彼等は、西の猛者達の中から選ばれた『精鋭達』なのだと。

 

 

 

 

 

Side:天神館

 

 

「打てぇ! 打ちまくれぇえええええええ!」

「うぉおおおおりゃああああああああああ!」

 

 

先の那須与一の一撃により多くの負傷者を出し、戦力を大幅に削られたにも関わらず天神館の勢いは衰えるどころか増しているといってもいいほどだった。動ける者は全員弓を構え、川神学園に攻撃をしていた。

 

 

「『3分』だ! 『3分』持ちこたえろぉ!」

「毛利さんの『準備』ができるまで、意地でも手を止めるなぁあああああああ!」

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」

 

 

生徒達全員の熱意が、闘志が、一つになっていた。彼等はただヤケクソに攻撃しているわけではない。彼等の攻撃には『目的』があり、全員がそのために残る力を全てふりしぼっていた。

 

 

 

 

 

5分前、那須与一の『必殺の一撃』により天神館の生徒達はほぼ戦闘不能におちいられた。まともに動けて、かつ闘える者は十人いるかいないかだった。全員が敗北を悟った。

 

悔しかった。情けなかった。何もできぬまま試合が終わるのがどうしても納得できなかった。けれどこの戦力ではもう闘えない。悔いを残し、試合が終わるのをただ待つだけだと全員が思った。

 

 

『一人』以外は。

 

 

「何を……弱音を吐いている…それでも、天神館の精鋭部隊か……」

 

 

そう、毛利元親である。最後まで応戦していたためか、彼が一番怪我をしていた。だが、彼の目は先程よりもアツく燃えていた。

 

 

「フフフ……私はな、正直勝ち負けなんてのはどうでもいい。華々しく勝利するのはいいが、偶然勝ったようなショボい勝利なら、盛大に散る敗北の方がましだ……」

 

「なぁ、認められるか……こんな『負け方』。いきなり不意討ちのような一撃を喰らわせられ、己の実力も出しきれていない……こんな『負け方』………………私は断じて認めん!」

 

 

ボロボロの肉体で、今にも気を失いそうな意識でありながら、毛利元親は笑っていた。その姿に天神館の生徒達は不思議と心が動かされた。毛利元親の言葉に、消えそうな彼等の闘志は再び燃え始めた。

 

 

「私は認めんぞ……こんな『結末』など……我々がとるべき『結末』は、『美しく勝利する』か『美しく敗北する』か……二つに一つ……! 」

 

「故に! ………私はまだ、闘うぞ……納得のいく『敗北』をするため、納得のいく『勝利』をするため、微塵の後悔のない『結末』にするため……! 」

 

「「「………………」」」

 

 

いつの間にか土煙は消え失せ、それと同時に全員の心に『風』がふいた。とても爽やかな『風』が………

 

 

「いくぞ………ここからが……真の『東西交流戦』だ……!」

 

 

 

 

 

そして、今にいたる。

 

再び闘志を燃えたぎらせる彼等は一切の恐怖を持たず矢を放っていた。そして、その後ろ……ほんの数m離れた場所で毛利元親は精神統一をしていた。

 

そう、『必殺の一撃』を放つため。

 

暫くして、川神学園からの反撃が始まった。戦力が大幅に削られている天神館は攻めから一転して守りに。だが、彼等は揺るがない。全ては毛利元親の『最高の一撃』を完成させるため……

 

 

 

 

 

「お前達……『3分』、『3分』だけ時間を稼いでくれ……私が川神学園(やつら)を倒すためには、それだけの『溜め』が必要だ。」

 

 

3分……日常ではカップ麺を作る程度の短い時間だが、戦場において『3分』というのはとてつもなく長く、重要な時間だった。最初、毛利元親からそれを聞かされた時も彼等はできるかどうか心配だった。

 

 

だが、今……彼等は不安など微塵もいだいていない。何故なら…

 

 

 

 

 

「どうした? 何を心配している……お前達なら楽勝だろ? お前達は…………『この私』が選び抜いた『精鋭部隊』だ。私はお前達の実力を『信頼』して頼んでいるのだ……これ以上に、お前達に頼む理由が必要か……?」

 

 

ある筈がなかった。『信頼している』……その言葉が彼等から不安を消し飛ばした。

 

 

 

「「「天神館を……舐めるなぁあああああああああ!!」」」

 

 

 

 

 

Side:川神学園

 

 

天神館の反撃を防ぎながら椎名京は考察していた。

 

 

「(この攻撃……まるで『後』を考えていない……)」

 

 

弓術とは非常に精神力、体力を使う武術であり、いかに体力を温存するかが闘いではキモとなる。しかし、天神館の攻撃からは体力の温存など微塵も感じ取れなかった。

 

 

「いったい……何を考えて…………!」

 

 

そして椎名京は思い出す。突然の反撃に対処するのに気をとられ忘れていたが、天神館(むこう)には『彼』がいることを…

 

 

「そうか………毛利元親……」

 

 

そして彼女は気づく。天神館の作戦に…

 

 

「そうはさせない……時間かせぎしているってことは、『まだ『溜め』が終わってない』ということ……」

 

 

椎名京の読みは正しかった。毛利元親が『溜め』に要する時間は『3分』。天神館が反撃をしてからまだ1分程しかたっていなかった。

 

つまり……この勝負の決着方は先程と変わらない。

 

『どちらが先に『必殺の一撃』を放つか?』

 

それ一つだった。

 

打ち合いが続く。矢と矢がぶつかり合い、雨は暴風雨になっていた。どれほどそれは続いたのだろう。時間の間隔は全員麻痺していて、1秒たったのか1分たったのか分からなかった。

 

 

そして……さきに『溜め』が終わり、『勝利の女神』が微笑んだのは……

 

 

 

 

 

「クッ……少々侮っていた…まさかこの右手に封印した邪気を開放することになるとはな……」

 

 

川神学園だった。先程よりも強い氣を纏った矢を那須与一は構える。それは当然の結果だったのかもしれない。歴史上随一の弓の達人『那須与一』のクローンである彼が要する『溜め』の時間は、毛利元親よりもはるかに短い。実際彼が要した時間はわずか1分半だった。

 

 

「我放つ雷神の一撃に慈悲はなく、汝を貫く光とならん!」

 

 

那須与一が握る矢から強い氣が溢れ出す。それと同時にいっそう眩しさを増すその矢に、思わず椎名京や他の生徒達は手を止める。

 

 

「竜神王咆哮破(ドラゴニックブレス)!」

 

 

そして、それは凄まじい破壊力を秘めて天神館へと襲いかかった。

 

 

 

 

 

Side:天神館

 

 

それはすぐに分かった。「間に合わなかった」…それを見た瞬間、天神館生徒達はそう思った。だが、彼等は諦めたわけでなかった。

 

 

「ぐ……! 打て、打ち続けろぉおおおおお!」

「アアァァアアアアアアアア!」

 

 

誰一人諦めなかった。その手を止める者は一人もいなかった。

 

 

「あがけ……あがいて、あがいて、あがいて、あがきまくれぇええええええ!」

「ちくしょう、指が痛ぇ……! あぁ、ちくしょう……痛ぇぞこの野郎ぉ!」

 

 

彼等の思いは一つ。勝ち負けなど彼等にどうでもよかった。ただ一心に『後悔だけはしたくない』……そう思いながら手を動かし続けた。

 

石田三郎(大将)が言った。毛利元親(リーダー)が言った。自分達か憧れる武士(もののふ)が言った。

 

『悔いを残すな』と……ここで動かなければ一生の悔いになる。だから彼等は動き続けた。弦が指に喰いこみ、肉がさけ、血が吹き出してろくな構えもできていない弓で彼等は攻撃し続けた。

 

 

「「「負けるんなら……灰になるまで燃え尽きてやるぜぇえええええええ!!」」」

 

 

彼等の矢は強烈な光の中へ吸い込まれ、まるで歯が立たなかった。それでも、確実に、それはコンマ1秒にも満たない僅かな時間であったが……彼等はそれを喰い止めていた。

 

 

 

 

 

「よくぞ吠えた……それでこそ、私の選んだ者達だ…」

 

 

そして、『3分(約束の時)』は訪れた。

 

 

「! 毛利さんっ!」

 

「待たせたな……準備は整った。派手に吹き飛んで敗北するか、見事に逆転勝利するかのどちらかのな……」

 

 

ボロボロの体でありながら毛利元親は力強く地面に立ち、『溜め』に溜めた矢を構えていた。ギシギシと弓がしなり、氣で満たされた矢が飛来してくる矢(それ)に向けられる。

 

 

「さて、お前達……もう悔いはないか……?」

 

「「「…………ハイ!!」」」

 

「フッ……そうか……では、ゆくぞ!」

 

 

すみきった声の返事を聞き、毛利元親は笑った。他の生徒達も同じだった。迫り来る脅威を前にしながら、全員が穏やかに笑っていた。そして……

 

 

「………………………翔べ!」

 

 

毛利元親の『必殺の一撃(それ)』は放たれた。

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

ドッガァアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 

「げ!? な、何! 何この音!?」

「爆発か!?」

 

「嘘………アレを『受け止めた』……!?」

 

 

椎名京、川神学園生徒達、そして那須与一は驚愕した。那須与一が放った『最高の一撃』は敵陣地に着弾する前に、飛来した矢によって喰い止められたのだ。

 

威力だけなら那須与一が放った矢の方が上だっただろう。しかし、毛利元親が放った矢はドリルのように回転していた。えぐるように、削り取るように…… 切っ先に集中された氣は那須与一の矢に喰いこんでゆき、そして……

 

 

バァギィイイイイッ!!

 

「! 『相殺』……しただと……!?」

 

 

矢と矢は互いに相手を削り合い、空中で粉々に砕け散った。その光景に那須与一は開いた口が塞がらなかった。その他の川神学園生徒達は事態に追い付けず茫然としていた。

 

しかし、椎名京は違った。

 

 

「…………?」

 

 

彼女は『ある異変』に気がついた。それは彼女が卓越した『観察眼』を持っていたから気づけたのだろう。

 

那須与一、毛利元親の両名が放った矢は空中で砕け散った。それは確かだった。だが……

 

 

「何……あれ……『破片』が『空中に浮いている』……?」

 

 

砕け散った矢の破片は重力に従いパラパラと地面に落ちていった。だが、毛利元親が放った矢の破片は空中に浮いていたのだ。一つ一つが『回転』し、『氣』を纏いながら………

 

 

 

 

 

 

「………『桜』の『一番の見時』を知っているか…? 川神学園……」

 

 

遠く離れた天神館陣地で、毛利元親は川神学園に向けて喋っていた。

 

 

「それは……七分咲きでも、満開でもない………桜の最高に美しい瞬間は、『花弁が散る瞬間』だ。」

 

「桜は他の花と違い、散る時は一斉に散る……だからこそ、美しい。『一斉に咲き、一斉に散る』……他の花は持ち得ない『散るからこその美』が、桜の美しさなのだ。…………そして、『この技』もそうだ。」

 

 

………シュル、シュル、シュル、シュル……

 

「矢は元々『砕けやすく』できている……回転加えることで威力と速度を増し、氣を纏わせることで強度を上げる。」

 

 

……シュル、シュル…シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル…!!

 

「さぁ………舞い散れ……『千本桜』!!」

 

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルシュル……ヒュォンヒュオンヒュオンッ!!

 

 

砕け散った矢の破片は、まるで風に舞う桜の花弁のように、川神学園に襲いかかった。

 

 

 

 

 

「? 何だ……アレ?」

「破片が………! 此方に来るぞ!?」

 

「!」

 

 

川神学園がそれに気づいた時は、もう遅かった。毛利元親の矢の破片による第二撃は破片で軽い分、先程よりも速い速度で襲ってきた。椎名京と那須与一は急いで対処しようとするが……

 

 

「……! 駄目……『的』が『小さすぎる』……!」

 

 

椎名京も那須与一も間違いなく達人だった。しかし、いかに達人である二人でも『空中をもの凄い速度で飛ぶ小さな小さな矢の破片』に矢を当てるのは不可能だった。

 

 

ヒュォンヒュオンヒュオン…………ズドドドドドドドドドドドドォン!!

 

 

「「「うぉあああああああああああ……!!」」」

 

 

そして、それは川神学園陣地に無数に降り注いだ。一つ一つが『必殺の一撃』と同じ威力を持つ破片が、無数に襲いかかったのだ。

 

 

 

「大……和………ゴメン、『負け』……ちゃ、った……」

 

 

 

そして、時間にしておよそ20分……『東西交流戦』の『弓兵対決』に決着がついた。

 

 

 

「………最初の石田を狙った事といい、不意打ちに等しい攻撃といい、不粋な連中ではあったが………その散り様は桜と同じく、美しかったぞ……川神学園。あぁ、それと………覚えておくといい。『勝利の女神』は、浮気癖が強いことを…………」

 

 

そう言い残すと毛利元親は地面に倒れた。他の天神館生徒達は毛利元親を抱き上げ、静かに寝かせる。その寝顔はとてもすみきった笑顔であった。

 

 

椎名京 VS 毛利元親

 

勝者: 毛利元親

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:------

 

 

「ヒュウ~♪ やるじゃねぇか、アイツ……」

「!」

 

 

龍造寺隆正と榊原小雪は無数に降り注ぐ矢の破片を遠くから見ていた。そして二人は確信する、『決着がついた』と……

 

 

「どうだい、シニョリーナ? 『あれ』が天神館(おれたち)だ。ちょっと前なら君の言う通り、さっきのアレで負けていたかもしれないが………大将の性格がうつったのか、俺達全員『諦め』が悪くてな……」

 

「…………」

 

「さて、と……向こうも終わったことだし……こっちも決着つけるかい?」

「………僕に勝つつもり?」

 

 

不敵な笑みで構える龍造寺隆正を、榊原小雪は不思議なものでも見るように見る。

 

 

「…………キミじゃ僕に勝てないよ~…だってキミ、『弱っちい』もん……」

「ハハハ……イタイとこついてくねぇ、シニョリーナ。」

 

 

先程から何度か繰り広げられた攻防で、榊原小雪は龍造寺隆正の実力を見透かしていた。ハッキリいって……龍造寺隆正は榊原小雪よりも格下だった。何度か攻撃を防がれたが、『それだけ』だった。

 

「……確かに、俺の八極拳は護身用程度の腕だ……君を倒すほどのものじゃない。けどな……」

 

 

腰を低く落とし、左手を後ろに隠す構えをとり、龍造寺隆正は榊原小雪に対峙した。

 

 

「『これ』は別に一対一の『試合』じゃないんだぜ……勝つか負けるかのルールの試合じゃねぇ………どっちが最後まで立っていられるかの『戦』だ……!」

 

「……………」

 

「さてと……お喋りがすぎたな………そろそろ俺達の勝負も、クライマックスといこうか!」

「! ……負けないよ……ぜったい……!」

 

 

二人が駆け出したのはまったくの同時だった。龍造寺隆正は依然左手を後ろに隠しながら、榊原小雪は足に氣を纏わせながら、お互いの距離をつめた。

 

 

「やぁああああ……!」

 

 

榊原小雪が先に仕掛けた。今までで一番最高の威力で放った蹴りは龍造寺隆正の頭部目掛けて繰り出された。

 

しかし、

 

 

「くぅ……あぁっ!」

「!」

 

 

龍造寺隆正はそれを紙一重でかわす。それは本当にギリギリで、後ほんの数mmで間違いなく蹴りは命中していただろう。

 

ギリギリのところで蹴りをかわした龍造寺隆正はすかさず隠していた左手を、榊原小雪につき出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャン‥‥‥‥‥

 

「え?」

 

 

金属と金属が擦れあう音が耳に届いた瞬間、すっとんきょうな声を出した榊原小雪は……

 

 

「え? え、うわぁあああ!?」

「くぅ……痛っええ!」

 

 

龍造寺隆正と一緒に盛大に転んだ。

 

 

「な、なにこれ……『手錠』?」

「ハハハ……言ったろう、『これはルール有りの試合』じゃないって……」

 

 

榊原小雪の右手には手錠がはめられていた。先程の金属音は手錠をかけられた音だったのだ。そして、手錠のもう片方は龍造寺隆正の左手にはめられていた。そして二人が転んだのは、蹴りをよけた反動でこけた龍造寺隆正につられて榊原小雪も一緒に転んだのだ。

 

 

「これで、勝負は『終わり』だ。この手錠はメチャクチャ固いし、君の力じゃ壊せない。鍵で開けようにも、俺も鍵を持っていなくてね………この勝負、『引き分け(ドロー)』ってことで……どうかな?」

 

「………手錠(これ)……外して……」

 

「まぁまぁ、そう嫌がらずに……勝負も終わったことだし、俺と愛を育まないか?」

 

「いやだ、ベェ~だ!」

 

「ハハハ……はぁ、これで『二人目』だよ……フラれたのは……」

 

 

不機嫌そうに頬を膨らませる榊原小雪を見ながら、龍造寺隆正はやれやれといった表情で笑っていた。

 

 

榊原小雪 VS 龍造寺隆正

 

勝者:なし 引き分け

 

 

 

 

 




今回毛利と龍造寺の闘いをまとめて投稿しましたが………二人のキャラが違う!! (゜ロ゜;

あれ、この二人こんなキャラだったっけ?
もっと情けない感じのギャグキャラじゃなかったっけ?
信長にバリカンで丸坊主にされなかったっけこの二人?

まぁ……あれですね。完全にキャラが崩壊してますね。毛利と龍造寺以外も。

でも、この作品は所詮二次創作ですし、大目に見てください。


二年生の部は後3話ぐらいで終わらせたいとおもっています。


では、次回をお楽しみに。
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