真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

5 / 35



4

Side:一城雅人

 

チェス盤に駒を並べて、準備を整える。

 

 

いよいよだ。あの『高慢ちき』の鼻をへし折ってやる!

 

 

 

「な、なぁ。大丈夫なのかよ? 」

「君も心配性だな。『僕』を誰だと思っているんだい?」

 

 

 

 

 

僕は以前、チェスの全国大会で優勝した事がある。

 

それも『大人の部門』でだ。

 

本来なら『大人の部門』に僕は出られないが、特別に出場したのだ。

 

 

そう、言うなら僕は『日本で一番、チェスが強い』のだ。

 

そんな僕が『昨日チェスのルールを知った素人』に負ける訳がない。

 

 

 

 

 

「それにしても、遅いなぁ彼。もう給食は食べ終わっているだろうに。」

 

時計を見ながら、僕は先程カップに注いだ紅茶を口に運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドッッカァアアアアンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり先日崩壊した壁の 緊急措置として被われているビニールシートが吹き飛んだ。

 

シートの下には生徒の侵入を防ぐため、木材で穴を塞いでいたのだが、それも吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

「待たせたな、一城。」

 

 

 

 

 

『楽しそうな笑み』をしながら、彼『織田信長』が壁から出てきた。

 

 

 

 

 

「き、君は普通の登場が出来ないのかい!?」

「折角空いていた穴を防ぐ奴が悪い。お陰で『また壊す』はめになった。」

 

 

 

 

 

……よし、もう壁の事は気にしないでおこう。

 

きっとツッコンでも意味が無いから。

 

 

 

「ま、まぁ席につきたまえ。早速始めようじゃないか?」

「そうだな、始めるとしよう。」

 

 

 

向かいの席に彼が座る。

 

さぁ、いつまで『その笑み』をしていられるかな?

 

 

 

 

 

「さて始める前に『ハンデ』の説明をしよう。まず対戦方式についてだが、全部で五回勝負だ。つまり三回先に勝ったほうが勝ちだ。…だが君は僕に『一回』でも勝てればいい。それが君への『ハンデ』だ。」

 

「成程、フフフ、『一回』勝てばいいのか。」

「そうさ、さぁ始めようか。僕が『白』、君が『黒』だ。」

 

 

 

 

 

ククク、圧倒的大差をつけて恥をかかせてや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田信長にとって『将棋』は『戦の指揮の訓練』だった。

 

駒をどう動かすか? 相手の一手をどう対処するか?

 

一軍を率いる『将』として、『幼い頃』より軍事訓練として学んでいたのだった。

 

 

 

信長にとって、

 

チェスは『兵士の補給が出来ない戦』に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

「(こいつ、本当に昨日チェスを始めたばかりなのか!? この僕が『ナイト』を取られるなんて!?)」

 

「『視野』が狭いな。ほら、また一つ。」

 

「(な!? 『ルーク』まで!) ク、クソッ!!」

 

 

 

一城雅人はこんな苦戦をしいられるなんて、思いもしなかった。

 

信長の一手一手は、確実に一城の陣地を侵略していった。

 

 

『ポーン』が、

 

『ナイト』が、

 

『ビショッブ』が、

 

『ルーク』が、

 

『クイーン』が次々取られていく。

 

そして…

 

 

 

 

 

「(あり得ない! こ、この僕が、この僕が!!)」

 

「『王手(チェック)』だ。」

 

「んがぁ!!」

 

 

 

 

 

一城の『キング』の前に『ナイト』が置かれた。

 

逃げ場は無かった。勝負は僅か『13手』で決着した。

 

 

 

「あり得ない…僕が…僕が…」

 

「フフフ、何だ。貴様の実力は『この程度』のものなのか?」

 

「! 何だと!」

 

 

一城は信長を睨み付ける。『それ』を信長は『笑み』で返す。

 

 

 

「フフフ、一城。貴様に『チャンス』をやろう。」

「な、何?」

 

 

信長は『実に楽しそうな笑み』をうかべながら、一城に告げた。

 

 

 

 

 

「残り四戦、貴様は余(オレ)に一回でも勝つことが出来れば、この勝負貴様の勝ちとしよう。」

 

「!?」

 

 

「余(オレ)に大分不利な条件だが気にするな、これは貴様への『ハンデ』だ。」

 

 

 

信長の提案。

 

それは先程一城が告げた『ハンデ』そのものだった。

 

 

 

「あぁそうだ、ついでに余(オレ)は自軍の駒をいくつか減らそう。これなら『貴様』でも勝ち目が出よう?」

 

 

「ふ、ふざけやがってぇ!! いいだろう!! 後四戦!! 全勝してやる!!」

 

 

「フフフ、では始めるとしよう。先攻はそっちだ。」

 

 

「(負かしてやる! 絶対負かしてやる!!)」

 

 

 

 

 

一城はかつてない程真剣な表情になっていた。

 

一城はチェス盤に集中していたためか気付いていなかった。

 

 

 

 

 

織田信長がまるで『欲しかった玩具を手にいれた子供』のように笑っているのを。

 

 

 

 

 

第二戦

信長は『ポーン』三騎、『ナイト』を使わず、24手目で勝利した。

 

第三戦

信長は『ナイト』、『ビショッブ』を使わず、17手目で勝利した。

 

第四戦

信長は『ナイト』、『ビショッブ』、『ルーク』を使わず、19手目で勝利した。

 

 

 

 

 

「嘘だ…嘘だ、僕が…ぼ、ぼくが…」

「どうした? 次は貴様の番だ。 早くしろ

 

 

そして第五戦 21手目

信長は『ポーン』、『キング』以外の駒を使わず、一城の駒を次々と奪っていく。

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

「『王手(チェック)』だ。」

「…………」

 

 

 

 

 

 

一城の『キング』の前に『ポーン』が置かれた。

 

勝負は信長の『完勝(パーフェクト)』で終わった。

 

 

 

 

一城は言葉が出なかった。

 

勝負を見ていた生徒達も同じだった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

「結果は『五回』だったな。フフフ、一城。」

 

「?」

 

 

それまでの勝ち気な表情は微塵も無い顔で、信長の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『歩兵』に命(タマ)を取られるとは、貴様は随分と愚鈍な『王』なのだな。」

 

 

 

 

 

信長は『今までにない程の笑み』をうかべていた

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

一城は目を白くして気絶した。

 

彼の『心』は完全に『壊れた』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織田信長。彼は『享楽主義者』である。

 

 

 

彼の『愉悦』は遊戯から読書、会話、闘争、略奪、侵略までと幅広い。

 

 

 

 

 

そして…織田信長の『一番の愉悦』。

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

 

 

『壊すこと』である。

 

 

 

 

 

名匠がつくった力作を

鍛えぬかれた武士の技を

高貴な生まれに生まれた者の傲慢(こころ)を

 

 

 

 

完膚なきまでに『壊すこと』が。

 

 

 

 

一流の芸術品が

長年積み上げた技が

自信にあふれた笑みが

 

 

 

砕け散るのを見るのがこの上なく好きなのだ。

 

 

 

 

 

「1-2」の生徒達は知っていた。

 

信長の『一番の愉悦』を。

 

 

 

 

ゆえに彼等は一城雅人を必死に止めようとしたのだ。

 

 

彼等は以前も信長が『壊す』のを見たことがあった。

 

 

 

それは入学式から少したってからの事。

 

信長のことを生意気だと思っていた上級生達が、信長を痛めつけようと押しかけてきた。

 

 

 

彼等はその時見た。

 

 

『砕かれた』上級生達を

 

『壊された』上級生達を

 

 

信長の『愉悦にひたる笑み』を。

 

 

 

彼等は恐怖した。

 

もしかしたら、

 

『あの笑み』を向けられていたのは、自分達かもしれなかったのだから。

 

 

 

 

 

信長に押しかけてきた上級生達は、今だに病院のベッドで目を覚まさない。

 

 

 

 

 

「まぁ、中々『楽しい余興』であったぞ。一城。」

 

 

 

 

気絶した一城を見下ろしながら、

 

信長は『楽しそうに笑っていた』。

 

 

 

 

 

この日を境に、信長に喧嘩を売る生徒はいなくなった。

 

 

 

 

 

『第六天魔王』は再び人々の心に、恐怖を植えつけた。

 

 

 

 




将棋の歴史って、かなり古いんですね。江戸時代くらいかとっていたんですけど、平安時代からあることにビックリしました。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。