Preghiera di duo~月に祈りを星に願いを~ 作:紅 奈々
願うことは唯、ひとつ。
君に笑っていて欲しい―――――――。
だから、この地獄―インフェルノ―を壊したい。
「アホじゃねぇの、彼奴ら?」
弥王は現状に溜息を吐いた。
教室の目の前で京子と弥王は立ち止まっている。
弥王の視線の先には、バケツが吊してあるドア。
いつまでも学習しない生徒達に呆れながら、弥王は少しずれてドアを開けた。
最初に引っ掛かったのは、唯のサービスだ。そうそう何回も引っ掛かってたまるかよ。
バケツも水も弥王や京子に掛かることはなく、床にぶち撒かれる。
開けたドアの先では、引っ掛からなかった事が不満らしく、生徒達が舌打ちをした。
その様子を「何か?」と可哀相なモノを見るような目で見て弥王が問えば。全員が黙り込んだ。
笑える、下らない。弥王はそんな事を思った。
小学生かよ、お前らは?
あまりに低レベルな嫌がらせに弥王は呆れる。
弥王が自分の机を見ると、机中にびっしりと落書きがしてあって、その上に菊の花が置いてある。
弥王の口から、思わずこんな言葉が出てきた。
「・・・・・・ワォ」
雲雀じゃないが、言いたくなった。
しかも、椅子を引けば瞬間接着剤で椅子にびっしりと画鋲が仕込まれている。
こんなモノに、誰が引っ掛かるのだろうか。
虐めなら、正々堂々とすればいいのに。まぁ、虐めに正々堂々もないが。
こんな陰湿な虐めで屈するほどに弥王の神経は柔じゃない。
するんなら、徹底的に豪快にすればいいモノを、面倒くせぇ。弥王は思わず。そんな事を思った。
「京子ー。
どうやら、オレ達は来る学校間違えたみたいだぜー」
京子の肩に手を回して弥王は言った。
京子はキョトン、とした顔で弥王を見る。
「だってさぁ、さっきのバケツと言い、オレの机見てみろよ、悪口がびっしり。
その上に献花?
んで、トドメが画鋲チェアだ!
これって、
オレらはちゃんと中学生だからさ、来る学校間違えたな」
言いながら弥王は皮肉に笑う。
こんな状況でも笑えている弥王に京子は強いなぁ、と感心した。
嫌がらせを皮肉で返すなんて、思いもしなかったと、言うか、そんな皮肉の言葉を京子は思いつきもしなかったのだ。
その後も、嫌がらせは続いた。
陰口や悪口は京子と喋って聞こえない振り、卵を投げられれば、京子を庇いつつ、避けながら「おぉ、これだけあればどれだけお菓子が作れるだろう!」と回収、水掛け大会なんてのもあった為、水を掛けてきた奴らを睨んでやり返したり、黒板消し投下もあったから、全部キャッチしてイタイモノを見る目で一瞥、石をくるんだ紙を投げられたから、石だけを取って、紙に「暇人」だの授業の問題等を書いて投げ返したりした。
「ごめんね、弥王君・・・・・・私の所為で弥王君まで巻き込んじゃった・・・・・・」
波瀾万丈(?)な午前中が終わり、弥王と京子は屋上で昼休みを過ごしていた。
京子は目に涙を溜めて、弥王に謝罪する。
そんな京子の頭を撫でながら、弥王は首を横に振った。
「気にするな。
遅かれ早かれ、オレは同じ様な事になっていただろうし・・・・・・悪いのは京子じゃない」
「う・・・・・・っ、でっ、でも・・・・・・っ、弥王く・・・・・・っ」
京子を落ち着かせる為に言った言葉は逆効果らしく、京子は反対に泣いてしまった。
弥王は困った様に京子を抱き締めて、幼い子供をあやすように京子の背中をトントン、と優しく叩いた。
こんな時、どうすればいいかが解らない。
「み・・・・・・お、く・・・・・・ん?」
「悪かった。
オレはただ、京子には笑っていて欲しい。
こんな事で、その笑顔を絶やさないでくれ」
予想外の弥王の行動に京子は戸惑いの声を上げる。
そんな京子に弥王は言った。
ただ一つ言えることは、京子の笑顔が好きだと言う事。それを守りたいだけ。
「京子、オレは・・・・・・必ず、この下らない喧噪を終わらせるから・・・・・・」
京子の髪を撫でて、弥王は言った。
京子は小さく頷くと、静かに涙を流す。
午後の風が静かな屋上に流れて、弥王と京子は暫く屋上で束の間の休息を過ごした。
願うことは唯、ひとつ。
貴方を巻き込みたくない―――――。
でも、この地獄を壊したい。