Preghiera di duo~月に祈りを星に願いを~ 作:紅 奈々
「これがそのデータの一つです。
見ますか?」
弥王はディスクをファイルから引っ張り出して、京子の母親に突きつける。
京子の母親は神妙に頷いた。
もし、真実が自分たちの知らない物だとしたら、それを知らなければならない。それが、親の義務だった。
弥王は返事を聞くと、テーブルサイドのスイッチを押した。
すると、天井からスクリーンが降りてきて、その前にプロジェクターが床から上がってくる。
弥王は立ち上がってプロジェクターに歩み寄ると、それを起動させてディスクを入れ、再生する。
割と画質の良いスクリーンには屋上が映っていて、そこには京子と木吉が居た。
≪呼ばれてノコノコ来るなんて、本当にあんたって単純ねぇ。
それで?
あたしに土下座する気になったかしら?≫
高音質のスピーカーを通して、木吉の声が流れる。
木吉の言い分だと、京子が木吉に何かしているみたいではないか。京子の母親は、京子を見た。
京子はつい最近の出来事から目を逸らすように、俯く。
京子としては、見たくも思い出したくもない光景だろう。
≪それにしても、あんた一体、弥王君に何したのよ?
何、弥王君を一丁前に手懐けてんの?
あんた、立場解ってる?
あんたの所為で弥王君が可哀相≫
仰々しく手を広げて演技掛かったように言う、木吉の言葉に弥王は内心、コイツ、何でできてんの?と突っ込みたくなった。
コイツに同情される謂われはないし、そもそも、自分が好きで京子の味方に付いているわけだし、それに、お前が京子を陥れるなんて下らない事をしなければ、つか、お前の性格が腐っていなければこんな事にはなっていない筈だったんじゃないのか、と弥王は思う。
それを京子の所為にするのは以ての外だ。
≪まぁ、弥王君が虐められるのも仕方ないけどね?
あー、それにしてもアレは傑作だったわ!
振られたのは予想外だったけど!≫
スクリーンの中で腹を抱えて笑う木吉はなんて醜い生き物だろうか、と弥王は内心、反吐が出そうな噎せ返りを感じた。
生物学の時点で終わっているんじゃないだろうか。
自分が振られることを予想しないとか、どれだけ自信過剰なのかが窺える。
弥王は木吉の性格を尚、疑った。
そんな事を思いながら、スクリーンの中の京子がポツリと何かを言った。
木吉が聞き返すと、京子は顔を上げて今度ははっきりと言った。
≪もうやめて。
弥王君は関係無いじゃない・・・・・・私は別にどんな目に遭っても良いよ、私の事だから。
でも、弥王君は・・・・・・弥王君だけは傷付けないで!!≫
スクリーンの中の京子は目に涙を溜めて、懇願するように言った。
京子が自分を犠牲にしてまで弥王を守ろうとしているのが、スクリーン越しにでも解る。京子の思いが弥王には痛かった。
辛いのは、京子自身だ。弥王はそこまで辛くもない。精神面では強いと思っている。
京子の言葉も虚しく、木吉は嘲笑うように口元を歪めた。
≪っはっ、笑える!
あんた、マゾじゃないの?
あははははははははは!!
・・・・・・はぁ・・・・・・でも、それは出来ない相談よ≫
京子の懇願を鼻で笑い小馬鹿にすると、木吉は何が可笑しいのか一頻り高笑いした後で悪魔のような笑みを零した。
何処までも性根が腐った奴だな、と弥王は思った。
恭弥はこんな奴の何処に惚れたのだろうか、と弥王は疑問に思う。
≪あたしはいずれ、この日本の頂点に君臨するわ。
そして、軈て世界の頂点に君臨する偉大な女王よ。
その為には、神南弥王という存在は必要不可欠だった。
でも今は使えない、ただの駒だわ≫
木吉の言葉に殺意が沸いた弥王。
言ってくれるじゃないか、この勘違いキチガイ女。
要するにアレか、都合の悪い人間は要らないと、そう言う事か。
何処まで悪の女王気質だよ。
これはもう、意地でも――そう、たとえば兄貴や他の後継者を殺してでも――オレが王を継がないとな。何処かの堕王子ではないが。
弥王はそう、固く決心した。
≪だから、あたしはあんたは勿論、弥王君も陥れるの!≫
木吉はカッターを取り出すと、自分の手首を切り付けた。
そのカッターを京子の足下に投げて、木吉は例の如くに叫ぶ。
≪っきゃぁぁぁ≫
悲鳴は途中で弥王によってプロジェクターの電源を切られたことにより途切れ、スクリーンはブラックアウトした。
「・・・・・・これが“真実”です」
弥王の抑えた声に京子は信じられない、と言う様に弥王を見る。
この証拠品は弥王も極力は見たくもない物だった。
この事件があった日の弥王は暫く、不機嫌だった事を京子は思い出した。
きっと、木吉の言葉に弥王の矜恃はズタボロだったに違いない。
「このあと、京子さんの悲鳴を聞いて駆け付けた僕は京子さんを抱えて保健室へと行きました。
こんな事はもう、日常茶飯事のようです。
京子さんは木吉レーナの嫉妬から、木吉レーナに嵌められて、現在も傷付いています。
これを見ても尚、京子さんが悪いと言いますか?」
弥王は京子の母親を試すように見た。
京子の母親は顔面を蒼白にさせて、「私はなんて事を・・・・・・」と呟いている。
そんな京子の母親に弥王は告げた。
「京子さんは学校でも家庭でも、誰からも信じて貰えずに傷付いています。
初めて会った時、目が死んでいたくらいに。
だから、少しでも京子さんが落ち着いて傷が癒せるならと思って、僕は屋敷に京子さんを招きました。
僕は今の状態が一番の最善策だと思っています。
京子さんの事を思うなら、僕に京子さんの事を任せてもらえませんか?
この問題が解決して落ち着くまで、京子さんをそっとしておいて上げて下さい」
そこまで言うと一拍おいて、「それとも、貴女達家族は京子さんを壊すつもりですか?」と京子の母親を試すように言った。
その言葉に京子の母親は押し黙る。
それを横目に弥王は紅茶を一口、口に含んだ。
いつまで経っても無言な京子の母親に弥王は妥協案を出した。
「最後の猶予を差し上げます。
今日はこのまま京子さんを連れ帰り、ご家族で話し合って下さい。
但し、京子さんの意思を尊重して、です。
今の光景を見た貴女なら大丈夫だとは思いますが、話を聞いた程度では人の考えは変わらない物です。
もし、京子さんの意思をねじ曲げようとそる様な事があるなら話し合いは決裂、貴女の判断に任せます。
京子さんからは明日、答えを聞きますから」
事務的に対応すると、弥王は京子に顔を向けて「君も、それでいいね?」と問う。
弥王の問いに京子は頷いた。
これで話は終わり、京子の母親と京子は弥王の屋敷を後にした。
その後で、弥王はクローム、千種、犬、メリア、メテーオラを呼んで、京子が帰宅したことを告げた。
クロームとメリアは驚いていたが、理由をきちんと説明して、話し合いの内容を言うと納得した。
「でも、大丈夫かな・・・・・・?」
術師の感が何かを察したのか、クロームがポツリと呟いた。
弥王もクロームと同じように胸騒ぎを感じて、弥王はクロームの頭を撫でると微笑んで、「少し出てくる」と立ち上がった。
弥王が立ち上がるタイミングと、弥王のケータイが鳴るタイミングが重なり、弥王はケータイを開いて電話に出た。
受話器から聞こえたのは、先程別れた京子の母親の狼狽した声だった。
≪お願い、助けて・・・・・・京子が・・・・・・っ!!≫
京子の母親の緊迫した声を聞いた途端、弥王は夜の帳が降りてきた街へ走り出した。
―――――間に合ってくれよ・・・・・・!!