Preghiera di duo~月に祈りを星に願いを~ 作:紅 奈々
遂に笹川了平、動く――――!?
標的1
翌日、いつまでも落ち込んでいたって仕方がない、と弥王は案外すんなりと立ち直っていた。
京子は自分の心配が杞憂に終わった事で、安堵する。
よく考えて見れば、弥王は何だかんだで立ち直るだろう、と京子は心配のしすぎで肩を落としていた。
逆に、弥王に寝不足を心配されると言う事まであり、今度から弥王に関しては適度に心配する事にした。
そんな事もあり、何だかんだで昼休みになると弥王は京子を保健室に預けて、屋上に行った、
屋上に行けば、弥王を呼び出した張本人―――笹川了平がフェンスに凭れて弥王を待っていた。
何故、弥王が屋上に行ったのかは、元より昼休みになると屋上に行く予定だったが、朝、教室に行くと黒板にデカデカと「神南弥王、屋上にて待つ!!笹川了平」と書いてあった為である。
あの呼び出しの仕方は何だ、恥ずかしい。
そのお陰で今日の今まで、ずっとクラスの人間にクスクス笑われていたのだ、勿論、好奇の目で。
「待たせたな」
先輩にも拘わらず、弥王はぶっきらぼうに言葉を投げた。
勿論、あの仕打ちに対する恨みも籠もっている。
笹川は弥王の姿を認めると、弥王を見据えた。
「いきなり呼び出して、すまぬな」
「それよりも、あの呼び出しは何だ?
こっちは
笹川の言葉に弥王は今朝の仕打ちの話をした。
笹川は「あぁ」と話し出す。
どうやら、母親に京子を連れ去った男の名前を訊いたのは良いが、誰がそいつか解らなかった為に、取り敢えず京子と同じクラスだろう、と言う事で黒板に書いたらしい。
笹川の話に弥王は項垂れる。その所為で、好奇の目で見られたオレの身になってくれ。冗談じゃない。
笹川は弥王の隣に京子の姿がない事に気付くと、「京子は?」と京子の所在を問うた。
「妹さんは保健室だ。
教室に置いておくと、また虐められるからな」
弥王の言葉に笹川は「そうか・・・・・・」と俯いてそれっきり、笹川は黙り込んだ。
沈黙がその場を埋めると、笹川は軈て、口を開いた。
「京子は・・・・・・何と言っている?」
笹川の問い掛けに若干、弥王は驚くも、初めからそんな気がしていた。
まさか、こんな所に呼び出してフルボッコはないだろう、と思っていたからだ。
弥王は溜息を吐いた。
「何故そんな事を訊く、今更?
先輩は妹さんを突き放したんだろ?
なら、どんな罵詈雑言を言われていようが先輩には関係無い事で、気にする事でもないじゃないか」
実際に罵詈雑言は言われていないが、敢えて言われてますよ、と言う様に弥王は笹川の問いかけを突き放した。
弥王の脳裏には、京子を迎えに行ったときのことが鮮明に蘇っていた。
あの日、笹川は京子を怒鳴り散らし、殴ろうとしていた。
笹川も木吉を信じていたんじゃなかったのか?
一体、どんな心境の変化だ、と弥王はあらゆる可能性を考察する。
考えられるとしたら、昨日の争奪戦か?
人は死ぬ目に遭った時、一番大切なモノが浮かんでくると言う。
では、笹川は深層心理の中で京子を大切だと思っていたのか?
可能性がないとは言い切れない。
実際にこうして、死に直面した後で京子の事を訊いてきたのだから。
弥王の言葉に笹川は「それもそうだが・・・・・・」と口籠もって、黙り込む。
午後の風が緩やかに吹いて、弥王の太腿までの長髪を撫でた。
「・・・・・・良い子だと思うぞ」
暫くの沈黙の後、弥王は静かに言った。
弥王の言葉に笹川は驚いたように弥王を見る。
そんな笹川に構わず、弥王はフェンスに腕をかけると、空を仰いだ。
午後の太陽が白く輝いて、弥王は目を細める。
「普通、あんなに酷い事をされたら、誰だって兄だろうが嫌いになるモンだ。
それこそ、「死んじまえ」って思う」
弥王は言いながら、昨日の京子を思い出した。
あの時の京子は兄を心配する妹の顔をしていた。
確かに気になる事を言っていた気はするが、それは年頃の女の子のちょっとしたお茶目だろう、と弥王は受け取っている。
京子はどんなに酷い事をされても、笹川を―――了平をたったひとりの兄として思っているんだ、今も・・・・・・。
「だが、
怪我してないかだの、風邪引いてないかだの。
一番にお前を心配している」
弥王がそこまで言うと、了平は驚いたように弥王を見上げた。
弥王はそんな了平に構わず、続けた。
「校内でお前を見る度に京子は心配そうな・・・・・・それでもって、安心したような顔をする。
どんなに酷い事をされても、やはりお前は兄なんだよ」
弥王の話を聞くと、了平は俯いた。
どうしてそんなに京子は優しいのだろう、と了平は我が妹の優しさに心を打たれる。
こんなにも酷い事をしてきた俺に一体どうして、そんなに優しい思いを持てる?
そんな事を思っていた了平に目を向けると、弥王は了平の額を小突いた。
「お前がする事はひとつ。
京子と向かい合い、もう一度、京子を信じる事。
京子は誰でもない、お前を待っている・・・・・・」
弥王の言葉に了平は顔を上げた。
その顔は不安そうに弥王を見上げている。
弥王は微笑んで言った。
「なぁに、やれるさ。
心配しなくても、京子はお前を許す。
京子はそんな、復讐するとか惨い事を考えるような子じゃねぇよ。
京子の性格は、先輩が一番よく知っているだろう?」
何もかもを見透かしたような弥王の言葉に了平は大丈夫だ、とそんな気がしてきた。
不思議と、弥王に「心配するな」と言われると大丈夫だと思えてくる。
弥王はケータイを取り出すと、ブラインドタッチで高速で京子にメールを打つ。
それを送信すれば、直ぐに返信が来た。
内容を確認すると、弥王は了平を見た。
「さて、「善は急げ」だ。
今日はこのまま授業サボって、遊びに行くぜ」
ケータイを仕舞うと、弥王は了平に告げた。
弥王の言葉に了平は「とんでもない!」と言いたげな顔で弥王を見る。
「そんな事!
俺は今日、部活・・・・・・」
「あのさー」
了平の抗議を遮って、弥王は了平の肩を叩く。
丁度、低い位置にある了平の肩は叩きやすかった。
「先輩は肩に力入りすぎ。全体的に力みすぎ。頭固すぎ。
まるで、ドイツパンみたいだ。
京子と和解するのに部活なんて行ってみろ、いつまでも和解するチャンスなくなるぞ。
力抜く時は抜いて、リフレッシュしないと。
今、大切な時じゃん、部活とか気にしてる暇はないだろ」
次回、京子と和解できるのか・・・・・・!?