Preghiera di duo~月に祈りを星に願いを~ 作:紅 奈々
追記・手直し完了。
標的1
それから、4時間目に入る頃には授業に飽きてしまって、弥王は教室を出ていた。
それにしても、
全て、弥王がイタリアで修めていた内容だ。ただ唯一、家庭科は面白かったが。
そんなワケで、別に授業受けなくても良いかぁー。と投げやりに思って、屋上に向かっていたのだ。
何故かって、答えは簡単。唯単にバレにくいからである。
廊下を徘徊するより、屋上で時間を潰した方が良い。
屋上に出る重たい扉を開くと、緩やかな風が弥王を包むかのように吹き抜けていく。
屋上に出れば、午後に差し掛かろうとする太陽が強く弥王を照らして、眩しさに弥王は目を細めた。
今まで窮屈に椅子に押し込められていた体を伸ばせば、窮屈さから解放されたように全身の力が抜けていく。
新鮮な空気を肺に一杯溜めると、吐きだした。
雲もなく、青い空だけの快晴だ。暖かさに弥王は徐に目を閉じた。
「♪例えば 途切れた
振るえる 僕の声が聞こえるのなら」
弥王は歌い出した。
たまにこうして歌っていないと、いざと言う時にその能力が役に立たなくなるからだ。
まぁ、能力以前に弥王は、元々歌う事は好きだった。
気が付けば、1人の時は大抵、何処でも歌っている。
別に聴かれようが知ったこっちゃあないと言うかのように。
「♪バラバラに砕けるほど 舞い上がれ
引き裂かれた 記憶の
――
弥王は歌いながらに思う。
彼は偉大な大空だ。
彼の元にもう一度、行きたいと願っている自分はやはり、あの非日常を捨てきれていないのだろう。
騒がしくも冷たいようで、温かいあの場所に戻りたいと、ずっと願っている。
血に濡れた道だろうが、あの非日常が好きだった。
もう一度そこに戻れるなら、何だってする覚悟はもう出来ている。
あとは時期だけ――。 いつになれば、そこに戻れるのだろうか。
そんな事を思って、首を振る。
ダメだ、こんな事を思っていては。自分はもう、あの場所に居ないのだから。
振り切るように、弥王は歌い続けた。
「もしも、君じゃなかったら もしも、僕じゃなかったら
こんな気持ちさえ 知らずにいたね
切り裂け
もっともっと正義の闇へ
走れ走れ 灰になるまで
理屈を捨てて心で 咆えろ 咆えろ
断ち切れ
軈て軈て 生まれる星に
君が君が 居てくれるなら
僕らの輝きは――無敵にもなれる」
歌い終わって人の気配に弥王が気付いた時、不意に手を叩く音が聞こえてきた。
振り向けば、扉の前に今朝の天使が居て、弥王は目を見開いた。
あの後、どうやらまた虐められたようで、その可愛らしい顔が埃と傷、痣だらけだ。
おまけに卵まで被っていて、酷い有様だ。
弥王と天使の目が合うと、天使は気まずそうに顔を俯けた。
弥王は顔を拭いてあげようとして、天使に近付くと手を伸ばした。
「ひ・・・・・・っ」
弥王が手を伸ばすと撲たれると思ったのか、天使はこちらでも解りやすいように肩を震わせ、怯えたように目を閉じる。
――やっぱり、この子は何もしていないんだ。
弥王はそう直感した。
木吉を虐めて、その見返りで虐められているなら、そもそもこんなに怯えた顔をしない。
これが演技だとは到底思えない。
演技のプロならともかく、普通の女子中学生がそんなスキルを持っているとは思えない。
弥王は彼女を怖がらせないように努めて優しく、彼女の顔にタオルを当てて、顔に付いた汚れを拭いた。
持ってきていた鞄からもう一枚タオルを取り出して、今度は髪に付いた卵を拭っていく。
タオルの柔らかさで落ち着いたのか、さっきよりは怯えたような顔をしていないことに弥王は安堵した。
「あの……」
恐る恐る彼女は弥王を見上げてくる。見上げてきた黄金色の大きな瞳と目が合う。
弥王は悲しげな顔で呟いた。
「辛かったな……」
「え……?」
弥王が呟いた言葉に彼女はキョトン……と目を見開いた。
まさか、そんな言葉を掛けられるとは思ってもいなかったのだろう。
それもそうか。彼女は今まで、クラスメイトから暴行を受けていたのだから。
むしろ、自分に危害を加えない人間が居るなんて思っていないのだろう。
弥王は鞄から制服の替えを取り出すと、それを彼女に手渡した。
「いつまでも汚れた制服じゃあ気持ち悪いだろ?
服を貸してやるから、着替えた方が良い」
「え……あの、でも……」
その制服は、今日は午後の授業に体育があった為、持ってきていた物だ。
それが解ったのか、彼女は制服を持ったまま、あたふたと戸惑う。
弥王は後ろを向くと、そんな彼女に言った。
「大丈夫だ、どうせ、午後の授業はサボる気だし。
それに、制服の1着や2着、ボロボロになった所でまた買い直せば良いだけだ」
「気にせずに着替えなよ」と、弥王は言うと、空を見上げた。
天気が良くて眠たくなる目を擦って、午後の空をボーッと眺める。
暫く空を眺めていると、不意に声が聞こえた。
「あの……っ」
声が聞こえて、もう着替えたのだろうと思った弥王は彼女の方を振り向く。
すると、ぶかぶかの制服の袖や裾を折って着こなしている天使がそこに居た。
弥王よりも小さなその体に彼の制服は大きすぎたようだ。
それでも着こなしている彼女に弥王は流石女子は凄い、と思った。
――可愛い、結婚しよ。
弥王は、天使を嫁候補に入れた。