真・恋姫†無双 ~華琳さん別ルート(仮)~   作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ

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02:これが私の生きる道

商人として生業を立てる、北郷一刀の朝は早い。

商用で遠出をした帰り道、居を構える地まで約1日の距離にある町で宿を取った一刀。日が昇り始めると、そろそろ彼の頭と身体が起きようとして動き出す。仕入れや商用のために方々へ出向くことの多い彼だが、その旅路にあっても生活習慣は変わることがない。

だがそれは何も彼に限ったことではなく。これまたいつもの通りとばかりに、一刀よりも早く動き出す者がいる。

 

「朝よ義父さま、起きなさい」

 

一刀の被っていた上掛けを盛大に引っぺがし、朝の心地よいひと時を奪い去る女性。

彼の養女・華琳だ。

 

未だ意識が空ろなまま横になっている彼の上に飛び乗り、馬乗り状態になって身体を揺する。そして。

 

「んっ……」

 

覆いかぶさるようにして、唇を重ねる。

貪るような、深いくちづけ。彼女はそれをさらに味わおうとするが。

一刀は、彼女の肩に手をやり無理矢理引き剥がした。

 

「……華琳、お前いい加減にしろ」

「いいじゃない、幸せな気分になるのよ。深く繋がるような気持ちになるの。

それに愛娘の接吻で目覚めるなんて、父親にしてみれば至高の幸福でしょう」

「普通の娘はそんな方法で起こしたりしない。父親も喜ばない」

「じゃあお嫁さんならいいのかしら。ふふ、私は14歳違いなんて気にしないわよ?」

「育ての親に求婚するな。そういうのは年齢ひと桁の時に終わらせておけ」

「ひと桁の頃なら受け入れてくれたの? あぁ、そう言えば初めて会った時は6歳の私を寝台に連れ込んで」

「お願いだからやめてくれ。分かった、もう起きるから」

 

義理の娘・華琳と、養父・北郷一刀。

ふたりの朝は概ね、こんな掛け合いから始まる。

 

 

 

 

 

華琳が何某かの集団に命を狙われ、一刀がそれを救った。それから11年が経つ。

あの後、寄る辺のなくなった彼女はそのまま彼の庇護下に入り、養女となった。

 

少しでも追っ手の目を誤魔化せるよう、髪を切り、表向きの姓を北郷の「北(ホン)」に変え。極力顔を出さないようにした上で、ふたりは拠点を定めない商隊に紛れて各地を転々とした。

その道中で、華琳の、そして曹一族にまつわる状況を集める。

 

曹一族の抹殺を命じたのは、洛陽の執政を統べる十常侍の一派だという。

その誰かまでは分からない。だがことによると、その全員の総意で行われた可能性もあった。

華琳の祖父・曹騰と、父・曹嵩の存在を嫌っている。そのひとつにおいて、十常侍の考えは共通していたからだ。

曹騰は、宦官の長と言える地位・大長秋の座にあってその影響力は甚大。曹嵩もまた漢王朝の中でも強い発言権を持つ存在であり。民の生活にも目を配る治世を行おうとする彼らは、私利私欲を満たすことを優先する十常侍の面々にはひたすら邪魔だったのだ。

手を掛けた原因までは、いち商人でしかない一刀では分からなかった。だが「十常侍が曹一族を滅ぼした」という事実は、耳に敏い者なら知ることができる程度まで広がっていた。

もっとも、権力とは縁のない者たちにとってそれは「雲の上のいざこざ」でしかない。民の間では一時話題に上ることはあっても、やがてそれが起きたことも忘れてしまう。

華琳を殺すべく放たれた追っ手も、以降はそれらしき者に遭うこともなかった。

叩きのめした追っ手らが彼女を仕留め損なったことは伝わっているはず、と考えてはいた。

もしかすると、失態を知られることを怖れて虚偽の報告をしたか、逃げ出したか。

そう思いたいところだったが、安易にそう決め付け気を緩めてはロクなことにならないと。一刀は華琳を連れながら、情報を集め周囲に気を配りつつ、行商と言う名の旅を続けた。

 

こうした数年の流浪生活を経て。曹家に関する話が聞けなくなり、洛陽にいる十常侍らが華琳ばかりに煩っていられないだろうと判断した一刀は、自分が居を構える町に定住することを決め。ふたりは改めて親子として生活することとなった。

 

11年という月日は、人に相当な変化を与える。

幼かった少女は成長する。

切った髪は新たに伸び。

本来のものであろう好奇心旺盛で闊達な性格が表に出て。

整った顔形は、"可愛らしい"から"美しい"へと変遷し。

ひとりの女性として、その魅力を増していった。

難点を言うならば、養父への依存度が高いということくらいだろう。

だが彼女の境遇を考えるなら、それも多少は仕方のないことだろうともいえる。

もっとも、多少で済むのかどうかは甚だ疑問だが。

 

 

 

北郷一刀がまだ幼い華琳の面倒を見ようと決心したのは、彼が持つ、人には到底信じてもらえないようなある事情からだ。

 

彼は、今この時代に生まれた人間ではない。

遥か未来、およそ1800年も先の世界からやって来たのだ。

 

といっても、彼自身がそれを望んたわけではない。

元の世界で、いつも通りの生活をし、いつもの通り就寝した。

いつもの通り目を覚ますと、そこは1800年も昔の荒野。身ひとつで放り出されていた。

 

理由など分かるはずもない。

彼は自身を襲った突然のことに驚愕し、混乱し、絶望するばかりだった。

文字通り生死の狭間を何度も行き来し、それでもなんとか生き長らえたのは、訳の分からない理不尽さに対する憤りゆえかもしれない。

確かに絶望はした。このまま死ぬのは楽そうだが、しかしそれは何か悔しい。

何に反発したのかは当人でさえ定かではないが、とにかく彼はそんな考えを持つに至り。この時代では低い身分とされている商人として身を立て。足掻き続けた甲斐もあり、泥水をすすらなくとも何とか生きていけるようにまでなれた。

 

"生き抜く"ということにひと息つけるようになった。そんな頃に出会ったのが、華琳である。

少し前までの自分と重なるようで、少しばかりの余裕が生まれた一刀には、彼女を見捨てるという選択は取れなかった。

彼は彼女を保護することを決める。

そのために負う苦労は増したが、むしろそれは娘の成長というものに反映されることで楽しみにすらなった。思いも寄らぬ父性の発露と言える。

 

娘が懐くのに応えるが如く、一刀は、華琳が望むものは節度ある範囲で与えるようにした。

物であれ、知識であれ。

 

彼女はなにより、養父の知識に夢中になった。

この時代、一般市民の識字率はお世辞にも高いとは言えない。そんなところにやって来た、一般市民のほぼ全員が読み書き計算のできるところの人間。実際に彼は知識どころか考え方から、ほかの人たちと異なる。

一刀自身も、育った時代背景が違うということを理解し、自分の持つ知識を小出しにしていた。だがその小出しにしていたものであっても、元より敏く、頭脳も精神も育ち盛りな少女にとっては実に刺激的なものだった。

現状を踏まえた上で養父が口にする言葉のひとつひとつに華琳は反応し、貪欲に吸収し、さらには自分なりの解釈をしてみせる。それはもう嬉々として。

教育と言うべきか、刷り込みと言うべきか。とにかく華琳は、一刀の影響を相当受けて成長する。

 

 

 

1800年先の教育と知識は、一刀が商人として身を立てるに当たっても甚だ有利に働いた。

読み書きも計算もでき、できないことがあっても習得までに時間が掛からず、それでいて"近代的な思考"から多方面で効率のいい働きを打ち出すことができる。

先に触れたとおり、この時代の識字率は相当低く、商人の中でもそれがあやふやな者がいるほどだ。そんな中にあって、字の分からない者にも噛み砕いた上で要点を伝えられる技量、どんな地位の人間に対しても物怖じしない豪胆さ、もしくは鈍感さや無知さ、といったものが上手く噛み合い、周囲からひと足もふた足も速く動き出す。彼のそんなところが、いつしか"損をしない、させない商人"として一部で知られるようになり。これまたいつの間にか人を使って商いを広げるまでになる。

 

彼の商いが飛躍的に広がった一端は、華琳にあった。

一刀に引き取られてからというもの、小さいながらにできることを細々と手伝っていた彼女。養父の仕事のあれこれをつぶさに見ながら、そのひとつひとつがどういったものなのかを教わる。

ただの商売の理屈ではない、状況と時勢を先読みし、時には手元にないものでさえ商品にしてしまう一刀の商いの手法は、幼い華琳をして驚かせると同時に呆れさせもし。どちらにしても、彼の言動は彼女を見ていて聞いていて飽きさせなかった。

そんな中での言葉のひとつ。

 

「商人というのは身分が低く見られている。商人というだけで嫌われることさえある。

だが俺たち商人が動かなければ、世の中の多くは立ち行かなくなる。

武具も食料も、王城を支える柱1本ですら、だ」

 

商人が取り扱うのは、物と金。

それらを意のままにできるなら、漢そのものでさえ裏から牛耳ることが可能だ、と。

 

大宦官の一族の娘として、生まれてから"身分"を持っていた彼女は、何事かを成そうとするには身分が必要だと思い込んでいた。

それなのに、世間では身分が低いとされる商人の身にも関わらず、その気になれば世の中を自らの腕で左右できるというのだ。

さすがに声を潜めて言うそれに、華琳は蒙を開かれたような気持ちになる。

 

彼女は一刀に尋ねる。

そんな考えに至る貴方は、商人としてなにを成すつもりなのか、と。

彼は言う。

 

「流通するすべてが、自分の手を経て世の中に出るようになること。

それが俺の目指すところだ」

 

つまり、陰からすべてを支配してみせる、と言うことか。

 

ふたりの想像したものが一致していたのかは定かではない。

だがこの時、華琳の中で成すべきことがひとつ、生まれた。

 

新たな幸せを手にし浸っていた華琳は、このことを機に目標が生まれ、意識を新たなものにする。

目指すのは、十常侍を物的に干上がらせ、泣くまで許しを乞わせた上で断罪すること。

その後は、後ろから漢の趨勢を左右するようになるのも面白そうだな、と考える。

一刀の目指すものも、自分の陳腐な復讐の後ならばやり易くなりそうだ、とも。

 

育ててくれた恩返し、というには、物騒に過ぎるわね。

華琳はひとり笑う。獰猛な色を湛え、覇気に似たものを滲ませながら。

 

祖父たちの仇を討ちたいという気持ちはもちろんある。

だがそれ以上に、商人という身分から洛陽の高官に手が届くところまで行けるという考えが彼女を刺激した。

そして、"身分"とは目的ではなく手段でしかない、と言い切る養父・一刀が見据える先を、華琳もまた見てみたくなったのだ。

 

 

 

成り上がる。そのために、彼女は本格的に教えを乞うようになる。

一刀もまたそれを受け入れ、自分の広げた商人同士の繋がりすべてに彼女を絡めようとする。

商談の場があれば必ず連れ出し、顔を合わせ、時に彼女自身にやり取りを任せる。

華琳は、"商い"という名の実戦を重ねていった。

 

 

 

 

 

過去も未来もワケありのふたり。今は商用による遠出から、居を構える町へと戻る帰途の途中。

荷を乗せた馬を引く一刀と華琳は、洛陽から遠い地、益州巴郡の郡治・江州へたどり着いた。

 

町に入るや否や、ふたりを出迎える声がひとつ。

 

「北郷のおじちゃん、おかえりなさーい!」

 

幼くも元気いっぱいな声の主は、一刀に駆け寄り飛び付いて来る。

勢いよく突進してきた彼女を、彼は柔らかい笑みを浮かべながらしっかりと受け止めた。

 

「ただいま、璃々。いい子にしてたか」

「うん。璃々、おかあさんのいうこときいてずっといい子にしてたよ」

 

よしよし、と、抱き抱えた少女・璃々の頭をかいぐる。

頬をほころばせて、大きな手の感触を堪能した彼女。そしてすぐに一刀の腕から離れ、次なる目標へ飛び付いていく。

 

「華琳おねえちゃんもおかえりなさい!」

「ただいま、璃々。変わりはないかしら?」

 

同じように璃々は突進し、華琳もまた同じようにそれを受け止めた。

久方振りの再会を喜ぶように、笑みを浮かべながら互いにじゃれ合う。

 

そんなふたりを優しく見つめる一刀。そしてまた、近づいてくる女性の姿に気付き。

 

「帰ってくるという便りが届いてから、璃々ったらそわそわしっ放しだったんですよ」

「これは内政官殿、お見苦しいところお見せしまして」

 

現れたのは、この町の内政に関わる公人のひとり。

表情を改め、一刀は彼女に対し頭を下げる。

 

「やめてください、北郷さん。璃々はもちろん、私もあくまで個人として出迎えに来ただけなんですから」

「まぁ分かってるけどね」

 

改まった彼の言葉と態度に、気を悪くすると言うよりは拗ねるような声音で返す女性。

そんな彼女に対して、からかっただけだ、と、一刀は口調を崩して話しかける。

 

「ともあれ、ただいまです。紫苑さん」

「ふふ、お帰りなさい。北郷さん」

 

彼の言葉に、璃々の母・黄忠は柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

 

「北郷のおじちゃん、肩車してーっ」

 

璃々が再び一刀に飛び付き、肩車をねだる。

この時代に肩車と言う言葉があったかどうか定かではないが、璃々をあやす際に使っていた言葉がいつの間にか定着している。

そして彼女の大のお気に入りだった。

 

「よーしいくぞー」

「わーい、たかいたかーい」

 

一刀の肩にまたがり、あふれんばかりの笑顔を浮かべご満悦の璃々。そんな娘の姿を見て、黄忠の笑みはより優しいものになる。

 

「まったく、養父さまは子供に甘いわね」

「あら、いいことじゃない。華琳ちゃんもしてもらっていたことでしょう?」

「確かにね。でもさすがに今の齢じゃ、人前でしてもらうのは少し抵抗があるわ」

「……人前じゃなければいいのかしら」

 

お帰りなさい。ただいま。

互いに挨拶を交わしつつ、離れていく小さな背中と大きな背中を見やるふたり。

はしゃぐ娘の姿を見つめる黄忠の表情は、微笑ましさと同時に、どこか羨んでいるようにも見えて。

少なくとも、養父に対して好意を隠さない華琳にはそう感じられる。

 

「羨ましかったら、璃々に代わってもらったらどう?」

「できるわけないでしょう。人前じゃなくても抵抗があるわ」

「あら、もったいない」

 

想像してしまったのか、少しばかり顔を赤くし否定してみせる黄忠。華琳はその言葉を受け流し、はいはい、と取り合わない。

そんな彼女らを置いたまま歩き出していた一刀が、離れてしまったふたりに向け声を掛ける。

 

「おーい、ふたりとも行くぞー」

「おかあさぁーん」

 

一刀に肩車をされたまま、璃々が大きく手を振る。

傍から見れば親子そのものの姿に、思わず苦笑してしまう。

そんなふたりに向かって、華琳は駆け出し、黄忠はゆっくり歩き出した。

 




・あとがき
1話だけしかないのはどうかと思ったので急遽投稿。

槇村です。御機嫌如何。





そんなわけで、「華琳さん別ルート(仮)」2話目になります。

このお話の舞台は、黄巾の乱のちょっと前、まぁ原作と同じくらいですね。
でもこの時点で、一刀さんはすでに三十路越え。紫苑さんより年上です。
華琳さんを助ける数年前にやって来たって設定。

いや本当に、外史の管理者ちゃんと仕事しろよ(笑)

話をいじっている内に、華琳さんが超ファザコンになってしまった。
経緯を考えれば分からなくもないが、自分でもびっくり。
……嫉妬に狂ったりするのかな。



「愛雛恋華伝」も含めて、次は今月中にできればいいなぁという感じ。
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