東方生還録   作:エゾ末

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今回はほぼ番外編みたいなものです。
輝夜を駕籠に乗せた生斗御一行と盗賊の親玉の戦闘回ですね。


⑦話 まあ、見かけ倒しだったよな

 

 ~夜中(草原)~

 

 

「くそ、なんだこの透明な壁は!」

 

「開けろ!びびってんじゃねーぞ!」

 

 

 と、盗賊共の怒声がおれの障壁越しから聞こえてくる。

 解くかばーか。悔しかったら自力で破ってみろ。鬼ならワンパンで破ってくるぞ。……おっと、ならず者の人間と酒好き妖怪を比較するもんじゃないな。

 

 現在、おれ達は引っ越しのために、京の都へと向かっている。

 その道中、盗賊と出くわした。

 この事に関しては事前に予測していたことだったので、ちゃんと対策はしている。

 

 何をしているのかというと、これは至って簡単なことだ。

 俺らが歩いてる周りに霊力障壁を生成しているだけ。これは昔、妖怪の群勢に足止めとして使った手だ。あのときは命ブーストがあったから、妖怪共に突破されなかったが、素の状態でやったら、簡単に壊されるだろう。だから妖怪がよく出没する近道をしなかった。

 

 妖怪にはあまり通じない手だけど、普通の人間にはかなり効果的だからな、これ。

 

 

「この!この!」

 

「煩い、輝夜が起きるだろうが」

 

「うぎゃっ!?」

 

 

 霊力障壁に少し穴を作り、その間から霊力弾をぶつけて盗賊を黙らせる。

 夜中だってのにギャーギャー煩いんだよ。

 やっと輝夜が騒ぎ疲れて寝たってのに……もし起きたらおれが直々に障壁からでてボコるからな。

 

 

「す、凄い。親父さん、こいつは一体何者なんですかい?」

 

「わしが雇った凄腕の妖怪退治屋じゃ」

 

 

 別に妖怪退治屋ではないんだけどなぁ……

 

 

「くそっ、こうなったら()()を呼ぶしかない!」

 

「ああそうだな!()()ならきっとこの見えない壁を壊してくださる!」

 

 

 ん、今親分って聞こえたような……いや、そりゃいるだろうな。親玉ぐらい。

 どんな奴かは知らないが、もし霊力を操る奴だったら少し面倒だな。

 おれの作る障壁は範囲が広がるほど防御力が落ちる。

 人一人分を守るくらいならば中級妖怪レベルでも5、6発の攻撃は耐えられる。だが、今は輝夜を乗せた駕籠を中心に皆が入りきるまで伸ばしているため、かなり防御力が落ちてる。これだと弱小妖怪の攻撃でやっと耐えられるぐらいだ。

 そこに霊力を操る奴が現れたら、障壁を突破される可能性がある。

 ……まあ、そんなのが現れたらおれが相手をするが。

 勝つかどうかは別として。

 

 

「おうおう、なんだこの光るのは?いかにも財宝がありそうじゃねーか!」

 

 

 と、考えていると親分らしきやつがずかずかと現れる。

 光るって言うのは霊力障壁のことだ。これ、中は透け透けの癖に、淡く光ってんだよな。こんな夜じゃ目立つことこの上ない。

 

 それに困った。今、障壁を指で突っついている親分らしき奴。かなりの手練れだ。見ただけでもわかる。

 綿月隊長と負けず劣らずの巨体に、傷だらけの顔。その見かけに恥じないような禍々しいオーラが滲み出ていて、いかにもボスキャラって感じだ。よし、こいつはゴリラ2号と名付けよう(勿論1号は綿月隊長)。

 それに他のやつと比べて霊力が明らかに多い。おれと同じ……いや、それ以上ある。

 ……はあ、こんな逸材なら、盗賊じゃなくとも食っていけるだろうに。

 

 

「なんだお前ら、こんな薄っぺらい()に手間取ってんのか?」

 

 

 障壁を膜扱いか。今の言い方、少しムカッときたぞ。

 

 

「はい、すみません、親分。でもこれ____」

 

 

    ボキッ

 

「あっ、が……」

 

「でも、じゃねよ。言い訳するやつは大嫌いなんだ」

 

 

 お、おう……子分の一人の首をへし折りやがった、こいつ。

 なんて非人道的なんだ。言い訳が嫌いだからって殺すことあるか?

 

 

「ひ、ひぃ」

 

 

 障壁の中にいるおじさんや使いの人達は絶句する。

 そりゃあ、顔面を殴っただけで首が折れたんだから、驚くのも無理はないよな。

 

 

「おいおい、部下は大切にしろよ」

 

「ん?……ほう、お前がこの膜を貼ってる奴だな。見ただけでもわかるぜ。」

 

「ほう、それぐらいはわかるんだな」

 

『ていうか熊口さんは、首が折れてる人の姿を見ても驚かないんですね』

 

 

 なんかもう、慣れた。本当は慣れない方がいいんだろうけど。ていうか翠も悲鳴1つあげてないじゃねーか。 

 

 

「ほら、さっさとこの膜から出てこいよ。それとも俺様が壊してそっちへ言ってやろうか?」

 

 

 なんだこいつ。なんでおれを呼ぶ?さっさと壊したほうがあいつにとっては得なんじゃないのか。

 

 

「……わかった」

 

 

 そう疑問におもいつつもゴリラ2号に従い、障壁からでる。

 

 

「さて、ここで遊戯をしようじゃねーか。」

 

「急になに言い出してんだ?」

 

「なに、お前にも悪い話じゃねーぜ。勝負は簡単、俺様とお前さんが倒れるまでの殴り合いだ。」

 

「なにが悪くないだ。体格的にも思いっきりおれの方が不利じゃないか」

 

「ふっ、だが、お前は受けるしかないぜ?もし受けないのなら、今すぐにでもお前の貼ってる膜をぶち破って、俺様の部下達にお前が護ってる者らを襲わせてもいいんだからな」

 

「……ちっ」

 

 

 こいつ、さては戦闘狂だな?

 自分の強さに絶対の自信を持ってるんだろう。鬼達もそうだから、その可能性はある。

 

 

「おれが勝ったらどうするんだ?」

 

「おっ、受ける気になったか。……そうだな、今すぐこの場から離れて、2度とお前らを襲わないと誓ってやろう」

 

「なら、お前が勝ったら?」

 

「お前らを皆殺しにして、身ぐるみを剥ぐ」

 

 

 物騒だな。でもその条件の場合、おじさん達の命運はおれに任されることになる。

 それでもいいのかと、おじさんのほうへと振り向くと___

 

『お願いします』

 

 

 と、目がそう強く訴えかけていた。

 

 その目からは、おれ全てを任せると覚悟しているようにも感じる。

 

 ……はあ、こんなことになったのも、おれがこの道にしようなんていってしまったのが原因なのに……なんでおじさんはおれを責めないんだ。輝夜を危険な目に遭わせていると言うのに……

 

 仕方ない、期待には応えるか。

 なーに、これまで何度も修羅場を潜り抜けて来たんだ。これぐらいの危機、口笛吹きながら乗り越えてやる。

 口笛吹けないが。

 

 

『まあ、負けたら私がこんな筋肉の塊、ぶちのめしてやりますよ。あ、でも本当に負けたら熊口さんの顔面蹴り飛ばしますから』

 

 

 はいはい、分かったよ。要は勝てばいいんだろ。

 

 

「おいお前ら!手を出すんじゃねーぞ」

 

 

 と、ゴリラ2号が部下達に言う。

 ……よかった。おれが障壁の中にいないと盗賊の攻撃によって受けたダメージを補整できないから、現段階では、部下共でも、あの障壁を壊せる。

 それについてずっと不安だったが、それもこのゴリラ2号のお陰で解消された。

 

 

「最後に質問だが、蹴りは使っていいのか?」

 

「ん?ああいいぜ。だが、武器は無しだ。それだとすぐに終わっちまうからな」

 

「わかった」

 

 

 仕方ない。相手の土俵で戦ってやるか。霊力剣は使えないのはかなり痛いが、だからといって負けるとは思わない。

 こういう自信家の奴ほど、隙が多いからな。

 

 

「よし、それじゃあ始めるか。お前からきていぜ」

 

「ああ」シュッ

 

 

 いつもは後手にまわるおれだが、今回は剣術勝負ではないからプレイスタイルを変える。

 

 

「ほう、中々速いな。だが、ただ突っ込んでくるだけじゃただの猪だぜ」

 

 

 喋ってる暇はあるのか?そうおもいつつ、ゴリラ2号に向かって肉薄する。

 

 

「おらぁ!」

 

 

 そして、ゴリラ2号の攻撃範囲まで入った時点で、ゴリラ2号はおれに向かってなぐりかかる。

 それをおれは跳躍し、回転しながらそれを避ける。そのままゴリラ2号の巨体の上までいき、体を前に1回転させながら、殴った際にがら空きになった頭に踵落としをかました。

 

 

「ぐふっ!!?」

 

 

 よし、ダメージはあるようだ。

 だが、こいつ、僅かにだが、頭の方に霊力を集中させて、防御している。

 完全に決まったと思ったんだけどな。

 

「「「おおー!」」」

 

「「「親分!?」」」

 

「くへへ、中々やるじゃねーか。やっぱり、俺様の見立て通りだな」

 

 

 ふむ、効果は薄い、か。普通なら脳が揺れて正常な動きなんてとれないはずなんだけど。

 

 

「んじゃ、次は俺様の番だぜ!」

 

 

 そう言ってゴリラ2号はおれに向かって、技術もへったくれもない殴打を浴びせてくる。それをおれは紙一重で避けていく。

 動きが単調すぎる。こんなの目を瞑っていても避けられるぞ……

 それに次は俺様の番て……これはRPG かっての。お前の番なんて無いんだよ。

 

 

「ふん!」

 

「ぐっ……!」ボギッ

 

 

 殴るときに疎かになっている脇腹に蹴りを入れる。

 ふむ、今の感触、肋いったな。

 

 

「くへへへ!いいぜ!こんなの初めてだ!」

 

「そうかい、それはどうも」ボカッ!

 

 

 お次は顎を殴る。それにより少しゴリラ2号の動きが止まる。

 その間におれはゴリラ2号の身体を何度も殴る。

 1発1発殴る毎に、拳が肉にめり込む感触がするから少し不快感があるな。

 

 

「これまでどんな奴でも一撃で屠ってきた!」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 

 おれでもこいつのパンチを受けたら只じゃすまない。まあ、受ける気なんて更々ないが。

 そう思いながらゴリラ2号の腹に飛び蹴りをし、吹き飛ばす。

 

 

「相手になりませぬな。熊口殿が圧倒的に優勢じゃ」 

 

 と、おじさんが遠くからそう呟く。まあ、そうだろうな。

 これまで技術で生きてきたからな。ただ単に暴力で全てを手に入れてきたやつとは違う。

 まあ、幽香は別格だけどな。あいつの場合、おれの攻撃を受けながら不適に笑って「こんなものなの?」と余裕をかましながら挑発してくる。

 

 

「くへへへへへ!お前は確かに強い。俺様が血反吐をはくほどな!」

 

 

 と、そう言いながらふらふらと立ち上がるゴリラ2号。

 なんだこいつ、タフだなぁ。てかやっぱり予想通り戦闘狂だな、こいつ。

 

 

「だが、お前は負ける。俺様を本気にさせたんだからな!」

 

「あー、はいはい。さっさとかかってこい」

 

 

 負けるやつの台詞って大体こんなのが多いんだよなぁ。

 

 

「ふふ、そんなことを言ってるのも今のうちだぜ!俺様の本質はこの鍛え抜かれた脚にある!俺様の最高速度についてこられた奴はこの世に誰一人としていない!」

 

「あっそ」

 

 

 なんか余裕があるなぁと思ったら、それがその余裕の理由か。

 でも速さ。速さねぇ……

 

 ゴリラ2号は、満面の笑みで、脚に力を込めている。少し遠くにいるおれにすら聞こえてくる筋肉が軋む音。あれからトップスピードでおれに攻撃を仕掛けてくるわけか。

 

 …………よし、あれを逆に利用してやるか。

 

 

「いくぜ!!!」

 

 

 そしてゴリラ2号は、その場から消えた。

 ……こちらへと向かってきているな。

 

 うん、速さ世界一を豪語するぐらいには速い。

 だが________

 

 

「すまんが、おれに速さだけで挑むのはあまり得策じゃないぞ」

 

    ボゴオォォッッッ!!!

 

「ぐぶはぁぁ!?!」

 

 

 おれは、そのまま突っ込んできたゴリラ2号の顔面に膝蹴りをかました。

 対面から来るあいつのスピードにより、おれの膝蹴りの威力は倍増。見事にゴリラ2号は身体を1回転させ、顔面から地面に倒れる。

 ふむ、やっぱり霊力による視力強化は凄いな。

 ゴリラ2号の動きがはっきりと見えた。速さはそのままで、合わせるのに苦労したけどな。

 

 

 

「!!……っつ……」

 

 

 くそ、膝蹴りをしたとき、あいつのスピードの反動で、右足がいかれてしまったようだ。

 思わず地に手をつける。

 奴は…………

 

 

「…………」

 

 

 よし、気絶しているようだ。

 

 

「ふぅ、どうやらおれの勝ちのようだな」

 

 

 少し期待外れな気もするが、これぐらいで済んでよかった。

 もしこいつがチートレベルだったら確実に終わったからな。

 

 

 

「「「親分!しっかりしてくだせぇ!」」」

 

 

 

 そう言いながら子分達がゴリラ2号に近づいていく。

 

 

 はあ、これなら遠回りした方がよっぽど良かったな。

 そうおもいながら、おれは霊力杖を生成しながら、皆のいるところまで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、騒ぎで起きてきた輝夜が騒ぎ出して、全然ゆっくりできなかったことは蛇足か。

 

 

「ねえー、暇ー!生斗、なんか芸やって」ポカポカ

 

「痛っ!?なんでピンポイントで右足を叩いてくる!」

 

 

 





活動報告にて生還録で重大な発表があります!

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