盗賊団をノしてから半日、ついに京の都へと着いた。
縄で縛って拘束していた盗賊共を兵士に突きだした後、おじさんが匠に建てさせたという屋敷へと到着した。
その屋敷は、神子の屋敷よりかは少し敷地は小さいが凄く立派だ。こういうのを寝殿造りっていうのか? 寝殿造りは普通貴族が住んでる屋敷らしいが、おじさんはそこんとこどうしてるんだろうな。おれには分からないが……
「ねぇ見て生斗! 庭がこんなにも広いわ!」
「そうだな。あ、ほら、池もあるぞ。橋がかかってる。」
「魚いますかね?」
「私見てくる!」
現在、おれは輝夜と翠の3人で屋敷を探検している。
そして庭にある池を見て興奮した輝夜が裸足のまま池へと駆け出していった。
「翠、輝夜が池に落ちないようについていってやれ」
「池の周りが日向しかないので無理です。熊口さん行ってください」
「骨の折れているおれは彼処まで行くのにも一苦労なんだ。翠行け」
「私を殺す気ですか? 熊口さん、行きなさい」
「縁側から下りて庭石という足元が不安定になる物が敷き詰められた庭をどうやって歩けと? 翠、さっさと行け」
「……」
「……」
こいつ、がんとして行かない気だな。輝夜がどうなってもいいってか?
「えい!」バシャアァン!
「輝夜!?」
「輝夜ちゃん!?」
と、おれと翠が、睨み合いをしていると、庭の方から水が弾ける音がした。
何事かと振り返ると、そこには池に落ちた輝夜の姿が____
「「輝夜(ちゃん)! 今助けるぞ(ます)!!」」
こうしちゃ居られない! 輝夜が池で溺れてしまう!!
そう判断したおれは足が折れてるにも関わらず縁側から走って向かおうとした(翠も同じ考えらしく、輝夜の元へと駆け出していた)。
が、縁側を跳んで庭に着地した瞬間、折れていた足が物凄い音を立てた。
「ぬおおおぉぉぉぁぁぁああ!?!!」
「きゃぁぁぁ!! 死ぬ! 胸が、締め付けられるうぅぅ!!」
おれはあまりの激痛に悲鳴をあげる。そしてお日様に照らされた庭へと飛び出した翠も悲鳴をあげ、もがき苦しんでいる。
「貴方達……なにやってるの?」
「か、輝夜ぁぁ……無事、か?」
「いやそれ、私の台詞」
「あ、ふ、たす、助けてぇ」ピクッピクッ
情けなく地面に倒れ伏すおれらに声をかけてきたのは、衣服を濡らした輝夜。
どうやらおれらが助けなくても無事だったようだ。
ていうか今、おれらの方が助けてほしい。
「そこの池、私の身長でも足が届くくらい浅瀬だったのよ。しかも透き通るように綺麗な水だったもんで、つい飛び込んでみたの。気持ちよかったわぁ」
「そ、そうか……うぐぐっ……」
「……」ブクブク
「……あの、翠大丈夫なの? 泡吹いてるけど」
「だ、大丈夫だ。いつものことだから」
「いつものこと!?」
このあと、おれと翠は使用人に救助され、輝夜は池に飛び込んだことでおじさんに叱られた。
ーーー
~2日後~
「もう嫌! 書き物なんてつまらないわ!」
そんな声が静かだった屋敷に響き渡る。
「また姫が癇癪を起こされましたか……」
「今日だけでもう3回目だぞ。これじゃあ昼寝も出来やしない」
「わしの部屋で昼寝をしようとしているのもどうかとおもうのですが……」
「あ、すいません。一人だと少し悲しいもんで」
「(寂しがりやなのだろうか)左様ですか」
輝夜が癇癪を起こすのには理由がある。
勿論、今の輝夜の声でわかると思うが習い事だ。
女房に書き物や巻物の読み方、琴の練習等、色々な事を一日中教え込まれているため、よく輝夜は先程のように癇癪を起こしている。
余程退屈かつ、面倒なんだろうなぁ。
「そういえば熊口殿、貴方宛に書状が届いておりましたぞ」
「おれ宛?」
「はい、どうやら先日突きだした賊共を引っ捕らえられた事に対する礼状らしいです。中身はまだ見てませんが」
「お、ほんとですか?」
そう言っておじさんは棚の中をごそごそと探し始め、1枚の封筒を手に取ると、棚を閉めた。
「これです」
「ありがとうございます」
ふむふむ、この礼状、一体どんな官僚からの物なのだろうか。
楽しみだ。もしかしたら褒美をやるとかそういうのかもしれないし。
褒美を貰えるのならふかふかの布団か美味い食べ物がいいな。ここの飯は良くも悪くも健康的過ぎる。
そう、礼状がどんなものなのか胸を踊らせつつ、書状を開封する。
するとそこには流し書きされた漢字ばかりの文字がずらりと____書かれていたが伊達に何百年以上も生きてないので読めないという訳でない。ていうか天狗の字よりかは分かりやすい。あれを書けるようになるまで20年はかかったし。
「どのようなものでしたか?」
「あ、ちょっと待ってください。読んでますので」
「これは失敬」
なになに…………んむ、回りくどい事を長々と書かれているな。面倒だ。
簡略すると『あの賊共を捕らえてくれてありがとう。是非とも礼がしたいので私の屋敷まで来てくれ。この書状を見せれば私の屋敷に入れる。 藤原不比等』てな感じか?
なんだこれ。礼状ていうか招待状じゃないか。
面倒だなぁ……いちいち屋敷に呼ばないで物だけ渡せよ! と思うんだけど。
「藤原不比等!?」
「うおっ!?」
礼状が招待状だったことに不満を垂れていると後ろから突如おじさんが驚愕の声をあげた。
おじさん……後ろから覗いてくるのは別に構わないが驚かすのはやめてくれ。
「熊口殿! これは大変素晴らしいことですぞ! 不比等殿は尊いご身分である貴公子! そんな方から招待状を送られるなど、後世にまで伝えてもいいような名誉なことですぞ!」
「は、はぁ」
藤原不比等ってそんなに偉いのか? ……って藤原って姓がつくから偉いか。昔は藤原姓は偉いっておれの認識ではあるからな。
いやほんと、この世界っておれのいた世界に類似してるよなぁ。おれ、歴史とかあまり得意じゃないからメジャーなものしかわからないが。
「何故熊口殿が嫌そうな顔をしておられるのかが理解できません……」
「いや別におれ、名誉とかどうでもいいですし……はっきりいって行く気はありません」
「なっ!? なんて無欲な! 流石は…………いや、それでも行くべきですぞ。無下にすれば逆に何されるか」
「え? そうなんですか?」
「はい、彼方からすると、折角わざわざ低い身分の人間に礼をしてやると言ってるのにそれを無視するなんて許せない! という感じで怒りを買うことになってしまいます」
「そ、それだとおじさん達にも迷惑をかけることになりますね……」
「そういうことになります……」
はあ、それじゃあ行くしかないじゃないか。おれだけの問題ならともかく、輝夜達にも迷惑がかかるというのなら話は別だ。
「分かりました。それでは早速、明日にでも行こうと思います」
「それがいいでしょう。存分に楽しんでいって下さい」
「ですが、おれは藤原不比等とやらの屋敷を知りませんし、貴公子相手の作法も心得てません。おじさんもついてきてもらえませんか?」
「え? わしがですか?!」
まず一人でなんて無理だ。何をすればいいかわからない。
せめておじさんに着いてきてもらわねば。それにもしかしたらおじさんも雇い主ということで褒美を貰えるかもしれないしな。
「はい、是非よろしくお願いします」
「う~む……承知した。わしも案内人として着いていきましょう」
「雇い主、としてで良いですよ」
さて、なんか偉い人から招待状を受け取ったわけだが、なんだか嫌な予感がする。
だって賊を捕まえたぐらいで尊いご身分の人が低い身分のおれに礼なんか普通するか?
いや、おれがなにか悪いことした訳じゃないから晒し首とかはないだろうけど……
こういうときのおれの勘って、結構当たるんだよなぁ……
いやぁ~、久々の更新です。覚えてますか?
1章を大幅に修正したのでそちらの方も見ていただけると嬉しいです。