東方生還録   作:エゾ末

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11話 1年目 調子には乗りすぎないように

 

 

 

 テストが終わってから数日経った。

 

 今日も今日とで教官のありがたいがとてつもなくつまらない授業を半ば聞き流しながら受けていた。

 

 そんな授業の終わり。おれは今日一番の衝撃的なことを教官の口から聞かされた。

 

 

「はい、今日の授業は終わりだー。

 あと明日は飛行訓練を行う。危険な訓練だからくれぐれもふざけたりしないように」

 

「やったね、生斗君!ついに僕達も空を飛べるんだよ!」

 

 

 え?空って……あのおれ達の真上にあるあの壮大な大空のこと?ていうかどうやって空を飛ぶんだよ……意味わかんねーよ、なんか機械とか装着して飛ぶのか?

 そんなのできるわけ…………いや、この国ならできそうな気がする。だって物理法則無視した車や、子供の誰もが一度は羨むレーザー銃だってあるんだ。そんなのあっても不思議じゃないな。

 まあ、そんなの明日になったらわかることだし別にいいか。

 

 

 それとさっき空飛べるんだよ!!と無邪気にはしゃいでおれに言ってきたのはトオルである。

 うん、最初の方はちょっと敬遠気味にされてたけど徐々におれと話してくれるようになって、今では感情を露にして話してくれる程までに仲良くなった。

 

 うん、ここまで長かった……完全に馴れてくれるまで1ヶ月半もかかったよ…………まあ、そんなの今となっては笑い話で済まされる程度の事だ。

 終わり良ければ全てよしだ。

 

 

「まあ、そうだな。空を自由に飛べるっていいよな。どこぞのネコ型ロボットにお願いしないと自由に飛べる気がしないけど」

 

「ネコ型ロボット?なにいってるんだ。あんな市販のどこにでも売っているような孤独な人のための精神ケア製品に頼んだところで空を自由に飛ばしてくれるわけないだろ」

 

 

 小野塚君。君はたぶん本当のロボットのケア製品のことを言っているんだと思う。でももしその言葉が故意的にいっているのだとするなら全国のドラ〇もんファンを敵に回すことになるぞ。ついでにおれもドラえ〇ん好きだから敵になる。

 

 

「まあ、確かにありえないな。取り敢えず今日の授業も終わった事だしのんびり日向ぼっこしながら駄弁ろう」

 

「……もう暗くなり始めてるんだが。ていうか生斗、お前の行動って、見かけによらず年寄りだよな」

 

 

 年寄りとは失礼な。まだまだピチピチ18歳ですよ。お、18歳といえば18禁コーナーの中に入れる年頃じゃないか。

 よし、今度の休日に学校抜けてレンタルビデオ店に行こう。場所なんて全く知らないが。

 

 

「今から夕食だよ。早く行こうよ」

 

「あー、今はまだ腹には余裕があるんだよな」

 

「それはお前が俺がトイレに行ってる隙に俺の昼飯勝手に半分食ったからだろ!お陰で俺は腹ペコだ!!」

 

「そんなの気にすんな」

 

「ならお前は日向ぼっこにでもいけばいい。代わりに夕飯は貰っとくぞ」

 

「ちょっ……!?」

 

「人の飯を勝手に食べることは気にしないんだろ?お前は落ちてゆく夕日を眺めながらひもじい思いでもしとくんだな!」

 

「すいません、今度お詫びします」

 

「それでよし」

 

 くう、やっちまったな。これが墓穴を掘るということか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~次の日~

 

 

 ついに疑問に思ってた飛行訓練の時間がやってきた。

 今、Aクラスの皆は、C運動場に来ている。勿論、体操服姿でだ。

 ふむ、この学校の体操服、全体的に黒いが、所々に蛍光色の線が通っていて、少しお洒落だ。

 

 

「これから飛行の仕方を教える。

 まずは、霊力を体全体に纏わせろ。そして、以前、教えた『物を霊力で纏わせて操る』のと同じ要領で己を浮かせるんだ。自分を人間だと思うな。無機質の()と思うのがコツだ。」

 

 

 ほう、意外と単純なんだな。

 前の授業で確かに物(ボール)を浮かせる訓練があった。これは、霊力操作が上手くないと、浮かばせることも難しい訓練らしかったが、永琳さんから驚かれるほど霊力操作に長けてるおれは、皆がボールに霊力を纏わせるのに悪戦苦闘している中、軽々とボールを浮かせ、挙げ句には教室全体に移動させまくって遊んだ。因みに霊力操作で操っているボールで影女に嫌がらせをしたら、先生に怒られた。

 

 他にも浮かばせたり、少しだけ移動させたりしているやつもいたが、ボールを移動させるときにそいつとボールの間に霊力の糸が繋がっていた。

 どうやら、その線でボールに霊力の供給をしているらしい。そうでもしないとすぐにボールが落ちてしまうとのこと。

 だけどおれはそんなことをしていない。だってもっと簡単な方法があったからだ。

 その方法はいたって簡単。元から霊力をボールにある程度纏わせておけば一定の間は浮かばせる事だ。

 この方法は移動させればさせるほどボールに纏わせた霊力は減っていくが、霊力糸を繋がらせて移動させるよりかは楽なはずだ。

 

 ま、今のは全部永琳さんから教えてもらった事なんだけどね。永琳さんの家にお世話になっていたときに、霊力操作が上手いからと、そこを重点的に教え込まれたのが、こういうときに役に立った。

 

 

 なんかずるをしているように見えるが、これはおれの努力の賜物だ。予習をしているのと同じことなのだ!ははは!あのときの優越感は計り知れなかったな!

 

 

 

 …………んとまあ、そういう訓練が以前にあったってことだ。

 んで、今回はその応用みたいな物だな。永琳さん、自分を浮かせるなんて教えてくれなかったから、おれもこれに関しては予習なるものをしていない。

 

 しかも自分を浮かせるんだ。拳ぐらいの大きさのボールを浮かせるのとはわけが違う。

 これは相当訓練しないと出来そうにないぞ……

 

 

「まあ、今回は足が浮くぐらい出きれば上出来だ」

 

 

 ほら、教官もそう言ってる。やはり飛ぶというのはそう簡単にはできないようだ。

 

 まあ、霊力を身体に纏わせるぐらいはやっていたので、浮くぐらいは出来るだろうな。

 よし、皆ももう浮く練習を始めてるし、おれもやるか!

 

 

 

 

 

 飛べました。しかも一発で。現在、おれは皆が苦戦している中、1メートル近く宙に浮いていた。

 

 

「なんだよ、飛ぶのってこんなに簡単なのか」

 

「お、おぉ!」

 

 

 教官が驚いたように感嘆の声をあげる。

 

 

「流石は霊力操作校内1位と言ったところか…… 」

 

「くそ!あんな奴なんかに負けてられないわ」

 

 

 くくく、影女のやつ、むきになって何度もジャンプしてやがる。そんなんじゃいつまで経っても飛べないぞ?

 

 

「ほらほら、お前らも熊口訓練生に負けないように頑張れー」

 

「「「は!」」」

 

 

 はあ、なんて優越感。皆が必死で飛ぼうと頑張ってる中、おれはその名の通り空の上から高みの見物を決め込んでる。

 

 

「ふむ、もう少し飛べそうだな」

 

 

 まだ縦横無尽には動けそうにないが、上に上がるだけなら出来そうな気がする。

 

 よし、いっそのことこのこいつらが米粒サイズに見えるくらいまで飛んでみるか!

 

 そう考えたおれは身体に纏わせた霊力を増やして、上にいくように念じてみる。

 ボールを動かすときは『この方向に動け!』って念じればその通りに動く。

 今のおれじゃ人間ぐらいの大きさじゃ、念じたぐらいじゃ簡単には操作が出来ないので、取り敢えず一番簡単な上にいくように頑張る。

 上にいくだけなら今のおれでも念じれば出来るからな。

 

 

「あ、ちょっと待て熊口訓練生!」

 

 

 なんか教官が言っているようだが無視。どうせ勝手な事をするなとかそんなところだろう。

 

 

「ーー~!!」

 

 

 ほうほう、どんどん皆が小さくなっていく。

 人が塵のようだ!……なんちゃって。

 そしておれはついに雲を掴めるほどの高さまで飛ぶことに成功した。

 

 

「うう、なんか寒いな……」

 

 

 雲のあるところまで来ると寒気が凄い。

 でもまあ、凍え死ぬ程ではないから良しとしよう。

 

 

 ……ほう、上空から見るとこの国の大きさが容易に分かるな。

 あの巨大な防御壁って、国全体を囲んでるんだな……

 それにしてもこの国の周りはなんかあれだな。森しかない。

 森、森、森。緑が豊かに広がってらっしゃる。

 

 

 中々いい景色だ。このまま日が暮れるまでここにいてもいいが、授業は午前中までなんだ。一時したら戻るとするか。

 

 

 と、その前にちょっと降りよう。ここはちょっと肌寒い。

 

 そう思い、おれは少しだけ高度を下げようとした。

 しかし、そこでおれは重大な事を思い出した。

 

 

「あれ?降り方わかんない」

 

 

 そう、()()()降り方がさっぱりといっていいほどわからなかった。

 念じれば確かに上に上がることは出来る。しかし、他の右左下は、全くといっていいほど操作できなかった。

 

 そのことを忘れておれはこんなところまで上がって来てしまった。

 

 

 とんだ馬鹿野郎だ……最初浮いたときに真っ先に確認してたのに、一瞬で忘れるなんて……

 

 いや、危険だが降りる方法は確かにある。

 自分に纏っている霊力を解除すればいいのだ。だが、そうすると重力により物凄いスピードで地面まで落ちることになる。

 それじゃあ地上にいる皆にスプラッタをお見せしてしまう。

 地面に着地する瞬間に霊力を纏って少し浮けば大丈夫かもしれないが、そんな高等技術おれが出来るとは到底思えない。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 やっぱりあれか、調子に乗った罰ってことか?いや、罰にして重すぎるだろ。

 このままじゃ霊力が尽きてどのみち落ちることになる。

 今こそおれの才能が爆発して自由に空を飛べるようになればいいんだが……

 

 

 いや、ほんと、どうすればこの状況を脱せますかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この10分後、鬼の形相をした教官に救助された。

 

 勿論、そのあとこっぴどく叱られ、午後の座学で先生の問いに全てあてられるという罰を受けました。

 

 今後、調子に乗った行動は取らないようにしないとな……

 


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