1話 サバイバルなんてできないぞ……
目が覚めたら森の中にいた。しかも真夜中。正直少し怖い。ていうかなんで神はおれをこんなところにスポーンさせたんだ?普通村とかの近くだろ。
と、内心神にたいして文句を言っていると頭に違和感があることに気づいた。
なんだ?頭に何かがついてるような……
「あれ?取れない。感触からして眼鏡っぽいけど………
ってこれサングラスじゃないか。なんでついてんだ?」
なんとかして取れない眼鏡っぽいなにかを動かして目の方へ掛けてみるとグラサンだということが判明した。
お、中々イカすグラサンじゃないか……ってそうじゃない!
おそらくあの神が送ったものだろう。よくよくみれば服装も登山用の服だったのがドテラに黒のT シャツにかわっている。なぜにドテラ?神の趣味?あ、でも暖かいな、これ。布団にくるまってるみたい。
ふむ、中々神も嬉しいことをしてくれるじゃないか。グラサンにドテラ。格好的には全然合ってないが、どちらも気に入った。
そうおもいながらおれはグラサンをいじってみる。
すると、おれはとんでもないことに気づいた。
「え、え?グラサンが取れない!?」
そう、何故かグラサンが耳の方にくっついていて、外そうにも外れないでいた。
おいおい、何かの冗談か?年中グラサンをつけるのなんて流石に御免だぞ……
「はあ……てかほんとに何処だよここ。」
こんな真夜中の森に放り出されてさ。神はおれにサバイバル生活をしろといってんのか?
したことなんてないぞ。ずっと温室暮らしだったわけだし。
それにサバイバルをさせるのなら何かしらの備品を用意してくれる筈だろ。グラサンとか服は用意してるんだから。
そう推測したおれは辺りを見渡す。
しかし周りに見えるのは木や木や木、もはや木しかない。サバイバル用品なんて見る影すらない。
……おい、これはどういうことだ。本気のサバイバル生活をしろってか?備品から作れってことなのか?
それは流石に酷すぎるだろ……
あ、もしかしたらポケットとかにあるかもしれない。まあ、淡い期待だ。まずポケットの中に入っているものなんてたかが知れてる。
まず、着てる分、なにかが入っているか肌に当たる感触でわかるはずだ。だけど、さっきからちょこちょこ動いているが、全然そんな感触はしない。
つまりだ、おれのポケットの中にはサバイバル用品は入っていないということになる。
でももしかしたら、なにかが入ってるかもしれない。そう淡い期待を残しつつ、おれは一応、ズボンのポケットに手を突っ込んでみる。
すると_________
「お、紙!」
1枚の紙が入っていた。もしかしてサバイバルの基本とかが載ってる説明書か?
「……て、これ手紙か。なになに、宛先は……神?」
神からの手紙?なんだ、能力についてとかか?あ、もしそれについてだったら嬉しい。この意味わからん場所から脱出出来るかもしれないし。
よし、それなら十分見る価値がある。
夜中なので見えにくいが目を凝らしたら何となく見えるな____
『これを読んでいるということは無事転生に成功したようじゃな。転生ってするのは簡単だけど成功する確率って実はかなり低いから少々心配しておったんじゃ。確率で言うとざっと40%ぐらい。
まあ、それはおいといて、実は君に言い忘れてたことがあるんじゃ。それはな……ワシが満足したら元の世界に戻してあげるということじゃ!事故前まで時を戻してな。
あ、それと能力は君がゴキブリのようにしぶとく生きられるようなやつにしたから。
PS.君のかけているグラサンは絶対にとれないし、壊れないから安心せい』
「うん。苛立ちと嬉しさが同時に込み上げてきた」
割合で言うと怒り:嬉しさ=8:2で。
なんだよ成功率40%て?!そんなの聞いてねーよ!
なに、下手すりゃおれ消滅してたの?あのとき少なからずあんたに感謝してたのに!?
……まあ、成功したのなら良しとしよう。今度会ったら文句いってやるけど。
あと元の世界に帰れることに関してはとても魅力的だ。
だって一回死んだのにまたやり直せるんだぞ?今もそんな感じではあるけれど、この世界が平和だとは限らないからな。
でもどうやったらあの神に満足させられるのだろうか。全く検討もつかない。
あの神が口を滑らせてた通りなら単なる暇潰しだろうし。あの背徳的な神を楽しませるのは少し癪だな……
それになにがグラサンは取れないから安心せいだ!寝るときとか邪魔だろうが!
ん?そういう問題じゃない?いや、問題だ。おれは寝ることが大好きだからな。少しでも睡眠を妨害するものはないほうがいい。
まあ、とにかくそれに関しては置いておこう。
とりあえず能力だ、能力。なにがゴキブリだ。あの黒光りしたやつの能力て……いや、まてよ。まさかあのゴキブリがでてくる大人気漫画みたいなのか!?おれの能力って!
「そういえばなんか力がみなぎっているような感じがするぞ」
ふむ、嫌なことばかりではないということか。さて、どんな能力か書かれていなかったことに不満はあるが、試すにはちょうどいいかもしれないな。こんな人影も糞もない森の中、おれがなにをしようと知られることはないんだからな。
ということで真夜中だけど力試しを行うことにした。まずは木の目の前に立つ。よし、いまの力のみなぎっているおれなら行ける気がする、そんな気がする。前の人生じゃ木を思いっきり叩くという行為は、ただの馬鹿がするようなことだが、いまのおれは一味も二味も違う。もしかしたら三味もちがうかもしれない。だって神に能力を授けてもらったんだからな。
まずはその能力がパワー型かどうかを調べる。
もしパワー型なら思いっきり木を叩いた場合、木は木っ端微塵になるとおもう。
予想ではな。
おれ的にはパワー型がいい。だってあまり深く考える必要もないから楽だろうし。
よし、善は急げだ。さっそく試すか!!
「うおりゃぁ!!」
バキッボキッ
うん、嫌な音がした。まず木は……おお、折れはしていないがくっきりとめり込んだ後がある。予想を遥かに下回った。
だけど前のおれだったらめり込む事すら叶わなかっただろう。ふむ、でもこれがパワー型の能力だったら泣くな、おれ。
それと殴った右腕は………………見なかったことにしよう。決して自分の右の中指が青黒くなって感覚がなくなってなんかいない。うん。そうだな……
「痛っ!?え、マジか!?絶対これパワー型の能力じゃない!痛い痛い痛い!!」
ちょ、マジで痛い。なんだよこれ、強く叩きすぎてしまった!おそらく、変な木の出っ張りに中指が当たったから折れたんだ。
くそ、殴るところをちゃんと確認して殴るんだった!
「うっぐ……!」
くそ、この止めどない、無限にやって来るような痛みはなんだ……
助けを呼ぼうにもこんな森の中、しかも真夜中に人がいる可能性なんて0に等しい。まず、この世界には人は存在するのか?
もしそうなったら詰むんだが。本格的にサバイバル生活を送る羽目に……てか、この指の施術法すらしらないんだけど!
お願いします!神様仏様!だれかこの森に医療技術を持っているグラマーなお姉さんが来ますように!
……いや、無理か。神があんなだし……
くっ、ほんとにこの痛みをどう沈めれば……
そう思っていると草を踏む足音が此方に近づいてきているのが聞こえた。
「誰かいるの?」
「だ、誰だ?」
まさか……ほんとに人が来た!?
もしかしてあの神が気を利かせてくれたのか!……いや、あの神はあり得ないな。たぶん仏様がおれを助けてくれたんだ。ありがとう、仏様。
でも本当に運がいい。ここで人に会えるなんてな。
後は今声を発した人に道案内をしてもらえれば……
と、その声の主の方を振り返ってみた瞬間、おれは絶句した。
…………うおい、なんだこの超絶美人は。髪は銀色の三つ編みで、容姿は整った骨格に透き通るような白い肌。まるでテレビ画面からそのまま出てきたかのようだ。
服は、うん。赤青が趣味ですか?ナイスセンスしてますね。まあ、それを着こなせているこの美女はおれがこれまであった女の人のなかで一番の美女だ。しかもグラマーときた。
ほんと仏様、ありがとうございます。もう死んでもいいぐらい満足です。
と、いきなり現れた美人さんにみとれていて忘れていたが今中指折れてるんだった。
「す、すいません。ここら辺に病院ってありませんか?」
スっと右腕を背中に隠しながら美女に聞いてみる。こんな美女の前でカッコ悪い姿は見せられない。
「貴方怪我してるじゃない。ちょっと見せなさい。
診てあげるわ」
「え?」
まじか、なんで隠したのにわかるんだ、この人?観察眼が凄いな。
そう思っていると美女はおれの側まで来て、隠していた右手を取り、折れた中指を診始める。
あ、この人の髪、良い匂い……
「大丈夫、これぐらいならここで治せるわ」
「あ、はい……」
なんか信じられないがこの美人さんが言うと安心するな。ていうかこの人、美人な上に応急処置の仕方までできるのか?……もはやパーフェクトだよ。パーフェクトレディだよこの人。
「……っう」
と、安心しきった状態でいると、中指をいきなり掴まれ、無理矢理まっすぐさせられた。かなり痛い。え、これ正規の治し方じゃなくない?
そして、痛みに耐えていると、なにかわからない緑色のドロッとした液体を中指に塗られ、包帯に巻かれた。乱暴過ぎる……
と文句を言いそうになったが急に痛かった中指の痛みがすーっと軽くなってきた。
「え……これは?」
「まだ動かさない方がいいわ。痛覚は今塗った薬で消えてるけど骨はまだ完全にはくっついてはいないから」
どんな塗り薬だよ、聞いたことないよそんな薬。
もし後から酷い副作用が出るとか言われてもおかしくなさそうだな。
まあ、でも処置を施してくれたのは事実だ。素直に礼を言おう。
「こんな赤の他人のために……ありがとうございます。
あ、おれの名前は熊口生斗っていいます」
「どういたしまして。私は八意××。永琳とよく呼ばれているわ。」
永琳……良い名前だなぁ。いや、それよりも今永琳さん何て言ったんだ?
「え?いまなんていいましたか?」
「……決まりね。」
そういうと永琳さんは無言でどこからか取り出したか分からないが弓を構えてきた。
___え?決まりってなに?なんでいきなり弓を構えてきたの?
「な、なんですか?!」
「私の名前を聞き取れなかったでしょ?あれは私達の国の人々でしか言えない言葉。つまりそれを聞き取れなかった時点で貴方は余所者よ。ま、それは大体予想できてたけれどね。」
え、えぇ……余所者だからって、えぇ……
いきなり死んじゃうやつかこれ?
この世界にきてまだ1時間も経ってないぞ……
1話続いて読んでくださった方。ありがとうございます!