東方生還録   作:エゾ末

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19話 自分のことは棚に上げないように

 

 

 月移住まで残り10日前に事件は起きた。

 

 

「トオルが重体?!」

 

『ああ、この前巡回中に妖怪の群れに襲われたらしい』

 

「なんでだ?トオルは危険を察知できるんじゃなかったんじゃないのか?」

 

『いや、トオルの能力だって万能じゃない。

 危険を察知できるのは異変が起きた場所の半径50メートルまでだからな。事前に察知できていればこんなことなかったんだが……』

 

「そうか……で、トオルは無事なのか?」

 

『ああ、今は永琳様に治療してもらっている。

 しかしかなりの重症だから目覚めるのは月に着いた後らしいな。俺が頼んでトオルは転送日を初日にしてもらうつもりだ』

 

「ああ、だろうな」

 

 

 今の会話のとおりトオルが妖怪に襲われたらしい。その事を電話で小野塚に聞かされたとき肝が冷えた。

 死んでしまったのかと思ったけどどうやら重症ですんだらしい。

 それに永琳さんに治療してもらってるのなら安心だな。

 兎に角、明日休みだから早速見舞いに行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 小野塚との電話があった次の日。

 おれはトオルの見舞いに行くために病院へ来た。

 そのあと受付の人と話してトオルの部屋を教えてもらい、トオルのいる病室まで行く。

 

 

「おーい、トオルー、見舞いに来た…………ぞ……」

 

「げっ糞グラサン」

 

 

 最悪、糞(影女)が居やがった。そういえばこいつトオルと付き合ってたな……ほんと、トオルの趣味には理解が出来ない。

 

 

「まるでミイラみたいにぐるぐる巻きにされてるな……」

 

「……そうね」

 

 いつもならさっきこいつが言った糞グラサンって言葉だけで喧嘩に発展していたけど、今はそんなこと気はない。

 それもそうだろう、病室の中で、しかも怪我人のすぐ側で暴れでもしたら大変だしな。……何しろ気分が乗らない。

 

 

「……う、うぅ…………」

 

「お?!トオル!」

 

「奴等が…………来る……!……皆逃げ……うぅ」

 

「トオルが目を覚ましたぞ!」

 

「いいや、それをずっと言ってるのよ。たぶん無意識のうちに言ってるのね……。それほど恐ろしかったのかしら」

 

 

 え、そうなのか!?っと言いそうになったがどうにも引っ掛かることがあった。

 まずそれまで恐れていたことに関してだ。

 おれ達はこれまで何回もこの国から調査のために出ていた。その出た回数分以上に妖怪と遭遇していた。

 殆どは返り討ちにしたけど何回か食われそうにもなったり、殺されそうになったりもした。

 その時は流石におれと小野塚もトオルと同じようにうなされていたが、その時のトオルは寝ているとき一度もこんな風にうなされていた記憶はない。

 なのに、今回はこんなにもうなされている。

 いや、一人で妖怪の群れに遭遇したんだ。何もなくてもうなされるのはわかるからなんとも言えないが……

 それともう一つ不可解な点がある。トオルが言った『皆逃げ……』の部分だ。トオルが妖怪に襲われたとき確か一人だったはずだ。それで食われそうになったところに丁度他の見回りの班のやつが見つけて助けたらしい。

 それなのに何故皆逃げろなんて言うのだろうか。

 まさかこれから起こることに関しての危険を皆に知らせようと無意識に言ってるのか……

 そのことを聞こうにも当の本人は意識不明の重体で聞けない。……まあ、全部おれの勝手な推測だけど……

 

 

 そのあと10分程、トオルの部屋で過ごしてから出た。

 おれがあの影女と密室で10分もなにもせず過ごしたのはある意味奇跡かもしれないな。

 まあ、トオルがこんな状態なんだ。するはずもない。

 

 

「ま、取り敢えずトオルが無事でよかった」

 

 

 おれの推測もどうせ杞憂で終わるだろう。

 考えるだけ無駄だ。

 

 

 

 

 しかし、おれの考えていた推測が杞憂でなかった。

 それを知るのは月移住2日目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『妖怪接近中!妖怪接近中!直ちに一般市民の方は転送装置の前に集合してください!』

 

 

 そう機械的な声のアナウンスが国の中で流れ続ける。

 どうやら、月移住2日目にして、妖怪の群れがこの国に向かって攻めてきているらしい。

 なんてタイミングだ。まるで計ったかのように。

 もしかしたら月移住の情報が妖怪側に漏れている可能性がある。

 どうやって情報を掴んだかは知らないけどな。

 そんなことを考えている暇はない。

 

 おれを含め、部隊長以上の奴らは緊急会議に出席を命じられている。

 急がなければ!

 

 

 

 

『さて、諸君。君らはこれから一般市民が安全に転送が終わるまで命をかけてもらうことになる』

 

 

 

 モニター越しから坦々と話すなんか偉い人。

 1度見たことがあったが、どんな人物かは忘れた。覚える必要もないと思っている。

 だってこいつ、おれらが今から命を張るって時に自分だけさっさと月に逃げた臆病者だからな。

 臆病者だと思っているのはおれだけではないらしく、隣にいる小野塚を含め、殆どの者が眉を寄せて上官の話を聞いている。

 

 

『綿月大和総隊長が戦場での指揮をとり、綿月依姫副総隊長が_____』

 

 

「なあ、生斗。なんか妙だと思わないか?」

 

 

 偉い人が色々指示をしているなか、隣にいた小野塚が話しかけてきた。

 

 

「ああ、タイミングが悪すぎる。まるで此方が引っ越しをするのを分かってたみたいにな」

 

「いや、それもあるんだが……何故指揮をとっているのが副総監なんだ?」

 

「それになんの疑問が?」

 

「おおありだ。総監と副総監で派閥ってのがあってだな。

 それで今指揮をとっている副総監は過激派でな。一体何を考えているのよくかわからん。なにかよからぬ事を考えている可能性があると俺は考えているんだが……」

 

『小野塚歩部隊長!!』

 

「は、はい!?」

 

『さっきから何度も呼んどる。

 __小野塚歩部隊は市民の誘導を任せる。』

 

「は、はぁ!?」

 

『反論は受け付けん。頼んだぞ』

 

「……くっ」

 

 

 小野塚、あのなんか偉い人に目をつけられてるな。

 ていうかあいつ、副総監なのか……過激派か。

 なんだか匂うぞ。糞以下の匂いがプンプンとな。

 もしかしたら小野塚は今回の妖怪のこの襲撃はあの副総監と関係していると思っているだろうな。

 でも今は正直、()()()()()()

 今はこの状況を打破する事が先決だ。

 

 そしてそれを退けられるかもしれない可能性をおれは持っている。

 おれの能力があればな。

 

 

「あの、すいません。」

 

『なにかね、熊口生斗部隊長』

 

「おれの部隊が出撃する順番、最後にしてもらえませんか?」

 

『何故だ?』

 

「理由は……言えません」

 

 

 言ったら絶対に反対されるからな。

 

 

『話にならん。この状況に臆したか臆病者め。熊口生斗部隊は最初の出撃とする』

 

 

 いや臆病者て……そりゃあんただろ。

 

 

「待ってくださいな」

 

 

 と、早々に諦めて次の手を考えているとゴリラが異議を唱えた。

 

 

「熊口生斗部隊長の出撃を最後にしてやってくれませんかね?」

 

『……はあ、なんでかね?綿月大和総隊長』

 

「この者がただ臆したからと言って出撃を最後にして欲しいといったわけではないと私はおもうのですが……だろう?熊口君」

 

「え?まあ、そうですけど」

 

 

 あんたたちにしたら少しマイナスかもしれないことだけどな。

 

 

「本人もこう言っております。ここは1つ、彼の要望に答えてやってはくれませんかね?」

 

『……』

 

 

 綿月隊長……なんていい人なんだ。これまで(20年)ゴリラなんて思ってすいません。

 

 

『はあ、わかった。綿月大和総隊長に免じて熊口生斗部隊長の部隊を最後にする』

 

「ありがとうございます」

 

 

 ふう、ゴリラ……綿月隊長のお陰でなんとかなったな。

 

 

『それでは、各自戦闘準備を整えるように!解散!』

 

「「「「「は!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「なあ、生斗。なんでお前、あのとき最後にしてくれって頼んだんだ?」 

 

「あ?……ああ、ちょっとやりたいことがあってな」

 

「なんだ?やりたいことって」

 

「ふっ、今はそんなことを話している場合じゃないだろ。

 あ、おれあっちだから」

 

「お、おう……あ、生斗!」

 

「なんだ?」

 

「なんか他人任せで悪いが……俺の分まで頑張ってくれ……!!」

 

「……なんも悪くねーよ。任せとけ」

 

 

 

 

 

 

 さて、これで覚悟は出来た。

 

 やっと、この国に()()()ができる。

 

 

 

 

 

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