東方生還録   作:エゾ末

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25話 おれの予想は少し外れていたようだ

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 あれからどれぐらいの時間が経ったか。

 

 

「んぎぃいやぁぁ!?」

 

 

 大半の妖怪らを障壁に閉じ込めてから、奴らの断末魔を何百、何千と聞いているような気がする。

 いや、実際聞いてるんだろうな。

 聞きすぎて耳にタコができた。

 奴らにはおれが悪魔のように見えているだろう。服も妖怪らの返り血とおれの血によって赤や緑と、気色の悪い色をしているし、匂いもかなりキツい。

 まあ、おれの鼻がおかしくなったのか、臭いとはあまり感じないが。

 

 

「ば、化物め……」 

 

 

 化物に化物と言われてはおれもおしまいだな。

 

 霊力については、実はというと何度も枯渇している。その度に巨大障壁から少しずつ霊力を回収して戦っていたが、それもそろそろ限界だ。

 これ以上、妖怪らを閉じ込めている障壁から霊力を取ると妖怪らに壊される恐れがある。

 今が奴らに壊されないギリギリのライン。後は今ある霊力で、まだまだいる妖怪さん方のお相手をしなければならない。

 

 薬のことに関してももう効果は切れてると思う。

 だが、おれの器には現状で溢れるほどの力はないので、身体に異常をきたしたりとかはしていない。

 まあ、巨大障壁を全部回収したらまた身動きとれなくなると思うが。

 

 

「はぁ、はぁ、くそっ……」

 

 

 一匹も壁内に入れないといいながら、実は既に結構壁内に侵入している。

 あいつらでいうところの抜け駆けって奴だ。

 おれを殺すのを諦め、足早に人間を食ったり拐ったりしようとした奴が少なからずいたのだ。

 そいつらは当然優先的に倒したが、取り逃しが無かったわけではない。

 

 国の方を見れば、煙が上がっていたりと被害が出ていることは確かだ。

 一般人に接触される前に兵が倒していればいいが……

 

 

「はぁ……ぐっ」

 

 

 自爆によって赤黒く変色し、感覚を失った左足から出てくる血が先程から尋常でないほど溢れてくる。

 やはり応急措置だけでは長期戦は難しかったか……

 

 流石にやばい。これ以上血が溢れたら出血多量で死ぬ。

 さっきから血が少ないからか頭が回らないってのに。

 

 

『熊口部隊長! 一般人の転送が完了致しました!

 後は兵である私達を残すのみです!』

 

「そうか……!!」

 

 

 血で濡れてもなお、機能を失っていなかった万能通信機から、待ち望んでいた報告がおれの胸ポケットから聞こえてきた。

 

 

『部隊をそちらへ派遣し、熊口部隊長の身柄を保護します。お疲れでしたでしょう。後少しですので頑張ってください!』

 

「保護?」

 

 

 保護、か。それは駄目だ。そんなことをしていたらまた遅くなる。一刻も早くここから脱出しなければならない。

 まだ壊されていないとはいえ、障壁が後どれぐらい持つのかなんてわからないのだから。

 

 

「保護はいい。それよりも早くお前らも月へ行け。そこにいる最後の奴はもう、自爆装置をセットしていて良いぞ」

 

『なっ!? そこまで無理をしなくても良いのですよ! もう部隊長は充分にご活躍なされました!』

 

「まだ終わっていないから言っている。もしここにきた部隊が妖怪共にやられでもしたらまた時間がかかってしまうだろ。

 これは命令だ。おれに構わず、月へ行け」

 

『うっ……本当にそれで宜しいのですか』

 

「勿論だ。いいからさっさと行け。自爆装置の設定、忘れるなよ」

 

『……わかりました。ご武運をーー』ピー

 

 

 よし、これで良い。後はおれが国の中心部にある転送装置に行けば全てが終わる。この傷だって永琳さんがいればなんとかなるだろう。

 

 

 後は潜るだけ。それでおれらの勝ちだ!

 

 

「悪いな。そういうことだから。おれ、行くわ」

 

「俺らが、そうさせると思うか?」

 

 

 全員には聞こえていなかっだろう。しかし、おれの近くにいた妖怪共はバッチリ聞いていたようで、おれを行かせまいと包囲網をつくる。

 

 

「……ちっ」

 

 

 こりゃ参った。おれの今の霊力じゃこれを抜けるのは骨が折れそうだ。

 このままじゃ制限時間内に間に合わない可能性がある。

 

 どうしようか……このままじゃまずい展開になりそうだな。

 

 そう考えていると突如、国を囲む壁の方から閃光が走った。

 

 

「なに!?」

 

 

 その閃光は包囲網を作っていた妖怪らを瞬く間に包み込み、そしてゆっくりと霧散していった。

 すると妖怪らは目的を失ったかのように辺りをキョロキョロしだし___

 

 

「お、おい!? 急に辺りが真っ白になったぞ!」

 

「何も見えねぇ!」

 

「どうなってやがんだ!!」

 

 

 どうやら今の光は妖怪共の視覚をおかしくするものだったらしい。

 こんなこと、一体誰が……

 

 

「生斗君。君って人は本当に人を頼ろうとしないのですね」

 

「ツクヨミ様!?」

 

 

 妖怪共の包囲網を潜り抜けてきたのは、淡い光を身体に纏わせ、神々しい雰囲気をかもちだしていたツクヨミ様だった。

 

 

「なんで僕がここに? ていう顔をしていますね。勿論、生斗君を救うためですよ」

 

「なっ! そんなことのためにツクヨミ様がこんなところに!?」

 

「こんなことって……これでも大変だったんですよ? 少しでもと月から自分の力を持ってきたのですから」

 

「な、なんでツクヨミ様がそんな真似を……貴方は神なんですよ? おれ達のトップであり、月を統べるお方だ。そんな尊い方がおれなんかのために力を使うなんてするべきじゃない」

 

「君も、僕の存在をやっと理解してきたようですね。

 しかし、この場は退けませんね」

 

「……なんでです?」

 

「友人の危機を救うのは、友人として当たり前の事でしょう?」

 

「!!」

 

 

 つ、ツクヨミ、様……

 

 

「で、でも……」

 

「それは生斗君もしてきたことでしょう。僕達のためにそこまで命を張ってくれている。そんなにまで頑張ってくれている友人に手を差し伸べないで、誰が友人と名乗れようものか。

 それに今は位なんて関係ないです。地球にある撮影用のカメラは今の閃光で全て破壊しました。これから行われることは、月にいる皆には分からない」

 

 

 ツクヨミ様……おれのこと、友人と思ってくれていたんですね。

 

 

「さあ、僕の言葉に甘えなさい」

 

「いいえ、甘えませ……」

 

「因みに、君が断れば、僕と君の友情に傷がつくことになりますが」

 

「うぐっ」 

 

 

 そ、それはずるいでしょ。

 

 

「さあ、早く行きなさい。この妖怪らの目が回復しないうちに」

 

「ツクヨミ様……本当に良いんですか」

 

「さっきから良いと言っているんです。そもそも僕も、力の一部はこの地球に残しておこうとしていたんです。ここは、君達人間に出会えた運命の場所なのだから。

 だから、こうして役に立てていることは逆に僕にとって喜ばしいことなんですよ」

 

 

  …………。

 

 

「ツクヨミ様、ありがとうございます」

 

「ふふ、礼なら後です。()()

 

「はい、ツクヨミ様」

 

 

 実際は納得していない。だが、ここはツクヨミ様に甘えることにしよう。

 あ、でもその前に。

 

 

「あのすいません。最後に厚い抱擁を交わしても良いですか?」

 

「いや、それは本当に止めてください」

 

「ほら、良いじゃないですか。これも友情の一つと捉えて」

 

「君の今の姿を見てから言いなさい!」

 

 

 あ、そういえば今血だらけだったな。感覚がおかしいのか完全に忘れていた。

 

 

「まったく、こんな戦場で少しはましになったのかと思っていましたが……元は全くと言っていいほど変わっていませんね」

 

「へへ、こんな状況だからこそ自分らしくなくちゃですからね」

 

 

 これは何気に大切なことだ。殺戮を繰り返せば普通の奴は気が狂う。それが人を食う化物であっても、だ。奴らだっておれ達と同じで話すし、食事もするし、家族だっている。

 はっきりいってほぼ人間と変わらない。種が違うだけであってな。

 

 そんな奴らを千を越える数を殺ってきているんだ。

 おれだって何度断末魔をあげる妖怪に許しをこいたことか。

 全てこの国のためにと、そう自分を言い聞かせてやっていなくちゃ、今頃罪の意識で戦闘不能になっていただろう。

 

 それでもおれの心は沈みきっていた。

 これが当然のことではあるんだけどな。どんなに大義名分を掲げていようと、おれのしていることは大量殺戮だ。

 どちらかと言うと、おれは少し異常なのかもしれないな。心が沈む程度で済んでいるんだから。人によっては反乱狂になってもおかしくないというのに。

 

 その沈みきった心を照らし出してくれたのが、今現れたツクヨミ様の存在だ。

 ツクヨミ様がおれのことを友人といってくれなかったら、未だにおれの心は海底の奥底に沈みきっていただろう。

 

 それでわかった。自分らしくなければと。

 心が沈んでいたって今の状況がなんとかなるわけではない。

 罪の意識に囚われていてはいつも通りの思考なんてできやしない。

 それらがなんだ。自分で決めた結果なのだ。自分が決めたことで鬱になっていては意味がない。自分で決めたことは責任を持つ、それを実行するには自分らしくするのが一番だ。

 自分らしくあれば鬱なんて吹き飛ばすことが出来る。

 

 これがこの戦いの中でおれが学んだことだ。

 それを気付けるきっかけを作ってくれたのはツクヨミ様のおかげだけどな。

 

 

「生斗、そろそろ」

 

「はい、ここでは一時のお別れとなりますが……」

 

「ええ、そうですね。まあでも、本体の僕は現在月にいますので、またそこで」

 

「はい、楽しみにしています。それでは、また月で」

 

 

 ここにいるツクヨミ様は月にいるツクヨミ様の分身(わけみ)だ。先の話からすると、その分身のツクヨミ様はこの国に留まるつもりなのだろう。この地は国の人達とツクヨミ様が出会った思い出の場所だから。

 

 おれなんかのためだけにツクヨミ様が足止めを買ってでる訳がない。ついで程度だろう。

 

 分かっている。ツクヨミ様が本当に国の人達の事を愛していることに。

 

 だからそれを邪魔をするのは無粋だろう。ツクヨミ様はこの思い出の地を守るべく、これから戦うのだから。

 

 

 そう判断したおれは、最後にツクヨミ様の背後を見た後、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

 生斗をワープゲートに行かせ、僕がここにいる妖怪の相手をすることができました。

 

 

 

    パキッパキッ

 

 

 ヒビの入った結界の中にいる有象無象の妖怪らの大量発生は、僕に落ち度がある。

 この数を相手にするのも、また自分のした事による代償と受け取ることにしましょう。

 

 

 妖怪とは、人間の想像を具現化した存在。その想像は喜であり、恨であり、怒であったりと、様々存在しており、それに生物の穢れが混ざりあい、妖怪が発生する。それは1つの例であり、他にも人が妖怪になったりと色々な方法で妖怪は発生するが、僕の今言った方法で一番、妖怪は発生していると思います。

 

 

 何故その話を今しているのかと言うと、それはとても大事な事だからです。

 妖怪は人の想像と穢れによって生み出される。

 例えどんなに人が想像しても、人一人の穢れはそれぞれ大小があり、想像に比べれば、あまり多い方ではない。

 しかし、その多くなかった穢れを大量に出されるという異変が起きました。

 その異変を起こしたのは他でもない、僕自信なのです。

 

 僕が月から地球へと降り、そこにいた人々の事を愛してしまいました。

 そんな彼らの寿命はとても短く、僕にとっては瞬きをするぐらいの時間で、彼らの寿命は尽きていきました。

 それが嫌だった僕は、寿命という概念を出来るだけ無くすために穢れを彼らから取り払いました。

 

 それが今回の結果です。

 穢れを無くしたことにより、長い間生きられるようになり、沢山の子を生み、人口はこれでもかというほど増えました。

 その子らの穢れも僕は一人残さず取り払いました。

 

 その結果が今回の妖怪の大量発生の原因を作ってしまいました。

 

 増えすぎた人口の穢れを取り払ったせいで、妖怪を生む元を生成してしまっていたのです。

 

 

 人口が増えれば想像も増え、そして穢れも増える。

 

 その想像が、妖怪を否定したものであれば、妖怪が増えることはないが、生まれながらに妖怪の存在を認知している彼らにとっては、それは無理な話でした。

 

 結果的には僕の行いは妖怪を増やすきっかけを作ってしまったのです。

 それでも、僕の力があればどうとでもなると高を括っていましたが……まさかこの状況で猛威を奮われるとは。

 

 

  バキッキッ!!!

 

 

 だからこそ、この妖怪の群勢を相手にするのはこの僕です。

 己の甘い考えが生んだ罪。それを拭うのは、余所者であった友人、生斗の責務ではない。

 

 

   バキバキバキバキバキバキッ!!!!!!  

 

 

 ついに生斗の結界も破壊されました。

 この数を相手取るのは中々面倒そうだ。

 

 しかし、これは試練。ここで逃げれば、一生悔やむ羽目になる。

 

 

 やる。生斗が無事、月へと行き、尚且つこの妖怪の群勢を時限爆弾で消し去れば、罪を償う事ができる。

 

 

「くそがあぁぁ!! あの糞カス! 見つけ出して八つ裂きにしてやる!」

 

「八つ裂きだけじゃ足りねぇ! 四肢を裂いて串刺しにしてやれ!」

 

 

 どうやら妖怪らは生斗にご立腹なようです。

 まあ、その怒りの矛を生斗にぶつけることは、もう叶わないのですがね。

 

 

 

「結界から出られて、解放された妖怪の皆さんに悲報です」

 

 

 僕の声は届いているのだろうか。いや、おそらく奴らの耳には届いていないでしょう。

 

 でも、まあいい。これから言うことは確定事項なのだから。聞いてようが聞いてなかろうが、関係ない。

 

 

 

 

 

 

 「ここにいる皆、一匹残らず抹殺します」

 

 

 そう言って僕は神力を解放した。

 

 

 




ここに少し解説を。
ツクヨミが自分に罪があると言ったことについてです。
ツクヨミの思っている罪は、妖怪を増やす行為をしてなお、それを対処しなかった事です。

その尻拭いを生斗や兵士にさせてしまったため、罪の意識が芽生えたという感じです。

だからこそ、その罪を少しでも償うために、ツクヨミはしんがりを買って出たのです。まあ、他にも色々な理由はありますが。恩返しとか。


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