東方生還録   作:エゾ末

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第四話 これが握り飯……だと!?

 

 

  チュン チュン

 

 

 窓の隙間から光が差し込み、おれの顔を照らされたことにより、おれは重たい瞼を開け、目を覚ました。

 

 

「………ん、朝か___って、まだ日差しがちょっと見えてきたぐらいか。寝よ」

 

 

 一度布団から顔をだし、日の見える方を向くとまだ辺りが薄暗いことが分かったため、また布団の中に顔を埋める。

 

 ああ、布団の中最高……やっぱ朝の布団は格別だな!

 

 と、心の中で布団の素晴らしさに感動していると、玄関の方から引き戸を叩く音が鳴った。

 

 

 ドンドン

 

 

 ……誰か来たのか?いや、昨日の諏訪子との会話からすると早恵ちゃんか……なんと間の悪い。せっかく二度寝と決め込もうとしてたのに。

 

 仕方ない、でるか……

 そう思い布団からでようと毛布を退けた瞬間、おれは衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「熊口さぁん? 居るのはわかってるんですよ。無断で入りますからねー…………熊口さん! 何してるんですか!?」

 

「ぐっ、早恵ちゃん……」

 

 

 玄関の戸を開け、入ってきたのは案の定、諏訪子のとこの巫女、東風谷早恵ちゃんだった。

 そして開けっぱなしにされたおれの部屋を見て早恵ちゃんは驚愕の声をあげる。

 早恵ちゃんが驚くのも無理はない。現在布団の中にくるまって蛹状態になっていたのだから。

 

 

「もう、なんて格好してるんですか! 早く出てきてください!」

 

「無理だな。布団出たらめっちゃ寒かったんだから。でたら凍え死ぬのが目に見えている」

 

「いや、まだ暖かい方ですよ。これからどんどん寒くなっていきますし。もう皆起きて稲の収穫を始めてます。さっさとこの服に着替えて行きましょう」

 

 

 と、THE農民みたいなボロ衣を差し出してくる早恵ちゃん。

 は? まだ暖かい方、だと……。この寒さ、軽く前世での冬レベルで寒いんだぞ。これ以上寒くなったら凍え死ぬ、冗談抜きで。

 

 

「なあ」

 

「はい?」

 

「おれってさ。実はハムスターなんだよ」

 

「は?」

 

「ハムスターっていうのは寒さに弱い動物なんだ。おれはその中でもジャンガリアンって種類で10℃を下回ると凍死してしまうんだ」

 

「……」

 

「分かってくれたか? だからな、この布団から出るとおれ、死ぬんだ。だから仕事をするのは____」

 

「熊口さん」

 

「ん?」

 

 

 おれがなんとか布団からでないよう説得していると早恵ちゃんがおれの目の前に来た。

 

 

「何訳のわからないこと……」

 

「えっ?ちょっとまって早恵ちゃん!」

 

 

 そして足を大きく後ろにあげて___

 

「言ってんですかぁ!!!」

 

「ぐあぁぁ!?!」

 

 

 そのまま蛹状態になっていたおれの腹に思いっきり蹴飛ばしてきた。

 

 え? 布団があったから威力は軽減されてたけどくっそ痛い。これは世界に通用するストライカーを目指せるレベルだ。

 

 そう馬鹿なことを考えていると早恵ちゃんが此方に来て、また足を後ろにあげて第二撃を____

 

 

「ってわかった! でるから!! お願いだからやめてくれ!!」

 

「最初からそうしていれば良かったんですよ」

 

 

 

 あかん、早恵ちゃん怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

 

 

「うう、蹴られた腹が痛い」

 

「自業自得です」

 

「もっと平和的に解決できたと思う。うん、絶対にできた」

 

「諏訪子様には遠慮なんてしなくていいから、と言われているので」

 

「遠慮無さすぎだろ!」

 

「ほらほら、無駄口叩かないで作業に集中してください。動けばおのずと寒さは無くなりますよ。」

 

「もう結構暖まってきたけどな!」

 

 くっ、自分はしなくていいからってのんびりお茶なんか飲みおってからに。早くこんな作業終わらせてやる!

 

 現在おれは稲の収穫をしている。稲を収穫するとき、石包丁なるものを使うらしい。しかしおれは自力で刃物を生成(霊力剣など)できるので使わなかった。なので村の人から教わるということはしなくて済んだ。説明とか聞くの結構めんどくさそうだったし。

 収穫というだけあってかなりの量があり、少し、いやかなり絶望しかけたがここでおれの脳が働いてくれたおかげで結構スムーズに進んでいる。

 

 どんな事をしたのかというと、まず、人並みの大きさの大鎌を霊力で生成。初めて作ったので少しいびつになったが問題ない。そしてその鎌を霊力で強化した腕で思いっきり稲の根元付近に振りかぶる。はい、完了。単純だが、かなり有効的で、綺麗に稲の根本を切り取ることができているし、一振りで石包丁の作業5分分は稼げている。

 これを何回も何回も繰り返している。尋常じゃないくらい疲れるが、これがてっとり早いから続けている。でもこれフルスイングしないと稲が綺麗に刈り取れないんだよな。さっき力抜いてやったら刈り損ねた稲とかでてきたし。

 

 

「いやー、凄いですね。熊口さんってこんなこともできるとは。少し見直しました」

 

「そうか? こんなの頑張れば誰でも作れるぞ」

 

「……自慢ですか?」

 

「自慢だ」

 

「見損ないました……」

 

「……見直されてから約5秒で帳消しにするおれってある意味凄いと思わないか?」

 

「確かに凄いですね。誉められたもんじゃないですけど」

 

 

 まあ、確かにな。でも霊力操作についてはおれの自慢できるものの一つなんだよな。今は月にいる皆の中でも群を抜いて霊力操作上手かったし。もしかしてこれもう一つのおれの能力なんじゃね? 、と思ったけど霊力剣を作れるぐらいならちらほらいたから違うということがわかったけど。

 あと自慢できるのと言えば剣術とグラサンぐらいだな。

 

 

「はあ、こんな駄弁ってたら昼飯に間に合わないな」

 

「ほんとは一日かけてするものなんですけどね」 

 

「まあ、後半分もないしさっさと終わらせるか!」

 

 

 昼飯持ってきてないけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 ~1時間後~

 

 

「はあぁぁ、疲れたぁ。手のひらに豆ができたの久しぶりだぞ」

 

「お疲れ様です。熊口さん」

 

「……結局手伝わなかったな」

 

「いえいえ、熊口さんが刈った稲を回収する作業は手伝いますよ」

 

「げっ、それもあんのかよ」

 

「まあ、取り敢えずお昼ご飯にしましょう」

 

 

 そう言って早恵ちゃんは風呂敷から木箱を取り出した。

 ま、まさか?!

 

 

「早恵ちゃんが作ってくれたのか?」

 

「? はい、そうですけど」

 

 

 やった! 美少女が作った弁当だ! これまで作って貰ったと言えば永琳さんくらいだったし、永琳さんのはちょっと違う、家族的な人から作ってもらった感じだったからな。

 

 

「これです! 残さず食べてくださいね!」

 

 

 そう言って早恵ちゃんは木箱の蓋を開け、作ってきたという弁当の中身を露にする。

 

 

「おお! ありが…………と……う?」

 

 

 そして木箱の中から姿を現したのは、おにぎりでもおかずでもなく、未知の物体であった。

 

 ____ん? なんだこの緑色のスライムみたいな形状の物体は。

 

 

「なにこれ?」

 

「握り飯です」

 

「いじめ?」

 

「そんなわけないでしょ!? 一生懸命に作ったんですよ!!」

 

「いや、はは……」

 

 

 どうやったら握り飯がどろどろの緑のスライムになるんだよお!!!米はどうなったんだ!!! 早恵ちゃんの手は握ったものをスライムにすんのか!!?

 

 

「……もしかして嫌でした?」

 

 

 な、上目遣いだと?!しかも目に涙を浮かべているというコンボ。

 もしかしてこれ食べなきゃいけないやつなのか? 正直食べたくない。しかし、だ。もしおれがこの握り飯(謎)を食べなかったらどうなる? おそらく、いや確実に嫌な雰囲気になる。もしかしたら泣かれるかもしれない。もしそうなったら諏訪子から殺されてしまう。十中八九。

 ……くっ!男ならやらなければならないときがあるんだ!

 

 

「ふん!」バチーン!

 

 

 男を魅せるため、生きるため、そして覚悟を決めるため、おれは己の頬を両手でひっぱたく。

 

 

「きゅ、急にどうしたんですか!? 頬をいきなり叩いて……」

 

「気合いを入れ直したんっ、だ!」

 

 

 そういいつつおれは早恵ちゃんが持っていた木箱の中にある握り飯(謎)をとる。

 すると手から握り飯(謎)がどろどろとこぼれ落ち、地面を汚していく。

 くっ、これ本当に握り飯か? 心なしか落ちたのが地面を少し抉ってるように見えるんだけど……

 

 ああ! 覚悟を決めたんだろ! ここで怖じ気づく訳にはいかない!

 

 そう、自分に言い聞かせ、息を止めつつ一気に口の中に放り込んだ。

 

 

「んぐっ!?!!?」

 

 

 なんだこれは?! 息を止めてるのにくっそまずい! この世のものとは思えない! やっべ、吐きそう。いかんここで吐いたら食べた意味がない!

 

 

  ゴックン

 

 

 吐きたい衝動を必死に抑え込み、なんとか喉を通すことが出来た。なんと早恵ちゃんの握り飯は後味までも最悪で、最早動物の死骸を生で食べた方が余程美味しいんじゃないかと錯覚してしまうほどであった。

 ここまで不味いものは生まれて初めて食べた……

 

 

「急にがっつくなんて、そんなにお腹がすいてたんですね! 大丈夫です。まだまだ沢山ありますよ!!」

 

 

 え? 早恵さん? まだ私にそんな劇物を食べさせる気ですか? ……もしかしたら美味しいんじゃないかと淡い期待をしてたけど見た目通りの不味さだったし。でもここでやめたらさっきの苦労が……

 

 

 

 

 結局、緑スライム握り飯を3つ食べた後おれは気絶した。

 

 

 あの握り飯は食べ物ではありません。毒です。

 

 


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