東方生還録   作:エゾ末

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第六話 底無しにも程がある

 

 

「それじゃあよろしく頼むよ」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 

 今日おれはお隣さんに頼まれていた妖怪退治に行くこととなっている。

 なんで妖怪退治をしなければならない状況になったのかというと実は結構めんどくさいことが重なったためである。

 まずここ最近この国の近くの森林に妖怪が多発しているのが事の発端で、2日前に妖怪に子供が襲われるという事件が発生した。その子供はギリギリのところで早恵ちゃんが助けたらしいがそれのせいでこのままでは放っておけないということとなり、つい昨日妖怪退治として早恵ちゃんが森に妖怪退治へと赴いた。しかしその森には大妖怪がいて、あえなく返り討ちにされて退散したらしい。

 大妖怪が現れたということで国内の村々での大会議となった所、お隣さんがおれに頼めばいいんじゃないか、と余計なことを言ってくれたお陰でおれが妖怪退治をする羽目になってしまった。

 

 はあ、くそ。この前皆の前で力を見せびらかさなければよかった…………

 

 大体大妖怪なんておれに倒すことができるのか? 命を使えば難なく倒すことは出来ると思うが、はっきり言って命を使うという行為はあまりしたくない。以前に使ったことがあるが、あれは耐え難い苦痛を伴う。命1つを使ってもおれの器では溢れる可能性は高いだろう。

 だから使うのは最後の手段、それこそ詰んだと思った瞬間のみに使おう。

 本当はそのような状況になるかもしれない場所なんて行きたくはないんだけど……

 まあでも、ここの人達からは良くしてもらってるし、恩返しぐらいはしなきゃな。本当にヤバイと思ったら全力で逃げるけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

「さて、と。ここがよく大妖怪がでる所か」

 

 

 ほうほう、これはなかなか。妖怪にしては良いところにいらっしゃることで。

 現在おれは昨日早恵ちゃんが大妖怪と出くわしたという場所に来ている。

 そしておれはそこへ来て思わず感嘆した。何故ならそこは沢山の花が咲いていたからだ。

 今が旬な花々が咲き乱れている。花の独特な匂いが鼻につくがそんなこともお構いなしにおれの瞳は眼前に広がる花畑に魅了されていた。

 まさかこんな森のど真ん中にこんな絶景が広がっていたなんて……

 

 

「ぎゃあぁぁ!!! 助げでぐれぇぇ!!」

 

「ん!? 誰だ!」

 

 

 と、あまりにも美しい光景にみとれていると、後ろの方から叫び声が聞こえてきた。……ちっ、折角の絶景も今の薄汚い声で台無しだ。

そう悪態をつきつつ、おれは後ろを振り返る。すると傷だらけの蜘蛛型妖怪が必死に逃げている姿が目に写った。

 は、なんだ? なんであの蜘蛛は傷だらけで此方に向かってくる? 戦意は感じられない。心の底から助けを求める声だったし……

 そう此方へ向かってくる妖怪について考察していると、その妖怪の後ろから傘を前に構えた緑髪の女性がいることに気付いた。

 

 

「さあ、死になさい!」

 

「うわっ! やべっ!?」

 

 

 そして彼女は殺害宣言を言い放つと、構えていた傘の先端から極太レーザーが放たれた。

 なんとか目視していたおれは横に逸れて回避したが、傷だらけの蜘蛛妖怪はあえなく極太レーザーに巻き込まれていった。

 

 

「こりゃあの妖怪も助からないな……」

 

 

 回避したついでに茂みに隠れて観察したが傷だらけの妖怪はたぶん跡形もなく消し飛んだんだろう。レーザーが通りすぎた箇所には跡形も残っていなかった。 まずレーザーの衝撃で地面が抉れて即席の一本道が出来上がってる。

 こんな妖怪初めて見た。即死の妖弾を出すやつなら見たことあるが、あんな極太のレーザーを見てしまったらあんなのがとてつもなくショボく見えてしまう。

 

 

「(まさかあの女が早恵ちゃんをこてんぱんにした妖怪か? はっきり言って勝てる気がしないんだが……)」

 

 

そう思いつつ、彼女の姿を考察する。まず違和感が半端じゃない。この国の人達の誰一人として着ていない赤のチェックの服装にカッターシャツ、日傘なんかもある。ただ物凄い美女だってことは分かる。出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んでる。まさに理想のボンキュッボンだ。容姿も肌白い肌に深紅の瞳、それに癖のある緑の髪が合わさって妖艶な雰囲気をかもちだしている。

 

 

「まったく、……張り合いのなかったわね」

 

「(うん、戦闘狂である線も浮かび上がってきた)」

 

 やべぇよ、あのレーザーは流石のおれの障壁じゃ防ぎきれないぞ……逃げるか。気付かれていないうちにさっさと逃げてしまった方が絶対に良いだろ。これはおれの手に負えられる相手ではないぞ。

 

 

「それで、今そこの茂みに隠れた人間。出てきなさい」

 

 

 うわぁ、バレてたー。逃げられる確率ぐんと下がったー。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。おれは別……にぃ!?」

 

 潔く出て、極力相手の機嫌を損なわないよう、穏便に済ませようとしたら、容赦なく極太レーザーを撃ってきた。

 次は反応が遅れたため避けることは諦め、霊力の障壁を作った。だけどそれも1秒程で霊力障壁は決壊した。だが、その隙に避けることには成功した。

 なあ今の、あいつ全く溜める素振りを見せてなかったよな。それでこの威力かよ……いや、最初から撃つことを前提に溜めていたのか? もし本当にノーモーションで撃てるのならばおれは完全に詰むことになる。お願いだ、おれの予想が当たっていますように!

 

 

「驚いたわ。完全に決まったと思ったんだけど」

 

「いや、おれも死んだと思った」

 

「ふふっ、少しは骨がありそうね」

 

 

 怖!! あの女の人はただ笑っているようだけどおれからしてみれば薄気味悪いだけだ。顔は誰がどう見ても美少女の部類に入るというのに……

 

 

「貴方って熊口生斗でしょ?」 

 

「え、なんで知ってるんだ?」

 

 

 おれはこの女のことを勿論のこと知らない。知ってる妖怪と言えば鬼か異形系妖怪だけだ。

 

 

「昨日巫女が私のところに来たとき教えてもらったのよ。黒いなにかを頭につけている奴が私より強い!ってね」

 

 

 昨日の巫女? 黒いなにか? 黒いっていうとグラサンのことだよな。そして昨日の巫女っていうと____

 

 

「早恵ぇぇぇ! あのやろう!!! 売りやがったな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~一方その頃~

 

 

「それで、馬鹿にされたからついカッとなって生斗の事いっちゃったの?」

 

「はい……すいません。『人間もこんなものなのね。がっかりだわ』っていわれてついムキになってしまって……」

 

「まあ、でもそのお陰で助かったんでしょ?」

 

「でもそのせいで熊口さんが生け贄に……」

 

「いいよいいよ。たぶん大丈夫でしょ」

 

「そんな根拠が何処にあるんですか?!」

 

「ん、なんとなく」

 

「いってきます!!」

 

「あ、ちょっと早恵!?まだ怪我が治ってないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ始めましょうか!」

 

「もうやだ!!」

 

 日傘をもった女性(たぶん妖怪)がおれに向かって

 肉薄してきて、傘を振り回してきた。

 それをおれは霊力剣を生成して止めた。

 

「ほんとにそれで戦うのか?」

 

「これをただの日傘だとは思わないことね!」

 

 まあ、たしかに普通の日傘から極太レーザーなんてでないけどな。

 

 そう思っていると次は殴ってきた。

 ふ、こんなちっちゃい拳で何ができるというんだ。

 と、ちょっと油断したおれが馬鹿だった。霊力剣で受け止めようとした直後おれは吹き飛ばされた。

 

 

「ぐわっ?!」

 

「油断大敵よ!!」

 

 くそ!なんであんな細い腕からこんな威力が出るんだよ!!

 もしこれ自分の手とかでガードしてたらポッキリ折れてたかもしれんな……

 

 っと飛ばされながら考察していると目の前に妖怪が現れた。

 

「これで、終わりよ!」

 

「な、めるな!」

 

 そして日傘を思いっきりおれに振りかぶってきた。

 それをおれは霊力剣でギリギリで受け流す。しかしその反動でおれは地面に叩きつけられた。

 なんなんだいったい!威力もさることながらスピードも早いて!

 こりゃ勝てる気がせんぞ……

 

「ああもうやけくそだ!攻めまくってやる」

 

「あら、貴方に攻められるかしら?」

 

 地面に叩きつけられてすこしバウンドして空中に浮いた拍子におれは手を使って回り、そのまま妖怪の脚に切りつけた。

 

「っつ!中々やるわね」

 

「こっちの方は得意でね」

 

 

 

 

 さて、急に始まったバトルだが、何回も言うが勝てる気はしない。それは今切りつけたときにわかった。だって切った場所少し切れて血が少しでたぐらいだもん。それに対しておれの作った霊力剣は刃先がボロボロになっている。

 

 これははっきり言って無理ゲーです、はい。

 もし死んだら早恵ちゃんを一生恨みます。死んでも生き返るけど……


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