殆ど戦闘シーンはありません。
「くくっ、ついにこの時が来たね」
「あんたが八坂神奈子?その後ろに担いでいる御柱はまさか武器だったりするの?……まあ、そんなの使っても私は負けないよ」
ついに諏訪子と神奈子さんが戦う日が来た。
場所は洩矢の国と大和の国の中間地点にある森に囲まれた平地。現在二人は平地のど真ん中でなにか喋っている。かく言うおれは森の茂みに隠れて観戦中である。
なぜか諏訪子の顔が暗いが、たぶん国を賭けた戦いだから緊張してるんだろう。
「もし私が勝ったら南方道義の処へ連れていけ」
「いいよ。勝ったら……ね!!」
お、始まったか。
二人の神は勢いよく空へ飛び、雲の上まで行って見えなくなってしまった。なんで雲の上にいって見えなくなったのに戦闘が始まったのかがわかったのかと言うと雲の上から眩しいくらいの閃光と轟音が鳴り響いているからだ。
「これじゃあ観戦しに来た意味がないじゃん」
「え?誰かいるんですか?」
ありゃ、懐かしい声が聞こえたな。
今いる茂みの近くで洩矢の国でよく聞いていた声がした。
「おーい、早恵ちゃ~ん。ここだここー」
「え?!この声は……熊口さん!!?まさか幽霊の囁きなのでは?!」
「こらこら、誰が幽霊だ。翠と一緒にすんな」ドスッ
「いてっ、……て熊口さん!?生きてたんですか?」
「バリバリ生きてるわ!」
取り敢えず幽霊扱いされたので茂みから不意討ちとしてチョップをかましてやった。
そしたらやっと早恵ちゃんがおれの事を認識して急に地面にへたりこんだ。
「良かった……生きてたんですね。てっきり…………もう会えなくなるかと……」
「おいおい!?なんで泣いてんだよ?なにかあったのか?!」
「は……はい、じ……実は________」
それからおれは早恵ちゃんから大和の使者の事について教えてもらった。
「フムフム、なるほど。大和の使者がおれが死んだとデマを流してそれをお前らは信じたんだな?」
「はい…………遺品として黒眼鏡があったのでてっきり信じてしまいました。」
「ああね。…………なあ、一回叫んでいいか?」
「どうぞ。」
「あんがと」
そういっておれは大きく息を吸って
「かあぁなあぁこおぉぉぉぉ!!!!!勝手におれを殺してんじゃねえぇぇぇ!!!!!!!」
うん、かなり大きい声が出たな。隣にいた早恵ちゃんも耳を塞いでたのに尻餅ついてたし。
それと今回おれが死んだとデマを流させたのは十中八九神奈子さんだろう。だってグラサンなんて今の技術じゃ作れそうに無いしな。家とかもまだ土と木材だけで作っているぐらいだし……それなのに作れるなんて今の技術といえば神ぐらいしかいないだろう。
「熊口さんがこんなに声を出しているの初めて見ました。」
「そりゃあ自分を勝手に死んだことにされてたらこれぐらいはでるだろう」
「それもそうですね!」
神奈子さんが面白いことがあると言ったのはこの事だろう、たぶん。
実際はあの雲の上に殴り込みに行って神奈子さんをぶちのめしたいところだけど……流石に真剣勝負に水を差す真似はしたくないので止めておこう。
「そういえば熊口さん。いままで何処へ居たんですか?」
「ん?大和の国」
「え?!大丈夫だったんですか?!変なことをされたんじゃ…………」
「変なことはされちゃいないけど変なことなら起きたな」
道義を倒したらなぜか巫女からスッキリした顔でお礼を言われたこととか、道義が倒れるまで走らせたら巫女からスッキリした顔でお礼を言われたこととか……
「くそっくそっ……ごめん、生斗……仇をとれなかったよぉ……」
「ふぅ、少し危なかったねぇ」
お、二人が降りてきた。どっちもボロボロだな。今の言葉から諏訪子は負けたようだ……
「おーい諏訪子ぉー、仇なんてとらなくていいぞー。おれ生きてるから」
「え?!幽霊!?」
またそのパターンかい!
そのあと早恵ちゃんとほぼ同じような会話をしたあと諏訪子はおれが生きていることを信じてくれた。
「さて、神奈子さん。おれになにか言うことがありますよね?」
「な、なんのことかい?わわ私は知らないよ」
「よし、諏訪子次はおれも加勢するから一緒に神奈子さんを伐とうぜ」
「わ、わかったから!……すまん!!洩矢の神に本気を出させるために熊口を利用してしまった!」
「……この戦闘狂め!」
「なっ!確かに今回のことは悪かったがそんなこと言うまではないだろう!?神を嘗めているのか!」
「ほう?やるんですか?神である神奈子様が人間ごときとやるんですか?」
「やってやろうじゃないか!」
なぜかこのあと神奈子さんと押し相撲をすることになった。
勝敗はおれの勝利。負けた神奈子さんは膝を地面に落として悔しそうにしていた。あと諏訪子と早恵ちゃんの顔はひきつってた。
~数日後 洩矢の国にて~
「いやぁ、まさか民が私の事を反対するとはねぇ」
「皆祟り神である私の事を畏れているところもあるからそう簡単に変えられないんだと思うよ。」
「それもそうだな……さて、どうしたものか……」
今の会話からわかる通り、洩矢の国の皆は神奈子さんがこの国の神になることを反対した。ついでに諏訪子は最初神奈子さんを少し嫌っていたが、今では結構仲良しになっている。
ふむ、ちょっとめんどくさいことになったな。この問題はおれ的にも少し嬉しいことではあるんだけど……
だって信仰を得られない神は存在できなくなるらしいからな。これで諏訪子が消滅したら嫌だし……
……さて、それもふまえて考えて良いことを思いつけないだろうか……
「ここはいっそ二人で神をやってみれば?」
と、なんとなくてきとーに言ってみる。
「んー、そうしてもいいんだけどねぇ…………いや、出来るかも知れない」
「え?出来んの?」
「普通はこう言うのはありえない事だけど少し思考をかえれば出来ないことないね」
「確かに」
「ふーん、それってどんなの?」
まさかのおれが言ったただの思い付きで発した言葉から洩矢の国の方針が決まった。
「まさか表向きで神奈子さんがここを統治してその裏で諏訪子が実質的政を取り仕切るなんてなぁ。」
「へへーん!すごいでしょ!」
「確かにすごいんだが……神奈子さんは大和の国を出てもよかったんですか?」
「ああ、私は彼処の国を統治しているわけではないよ。私は天津神の尖兵さ。」
「え?!そうなんですか!?ならなんであんなでかい神社であんなふんぞりかえってたんですか?」
「あれは元々私の部屋さね。もっと大きいところはあるよ。」
「てことはまだ神がいるってことですか?」
「ああ、結構いるね」
「諏訪子、無謀なことをしようとしてたんだな。おれら」
「確かにねぇー」
まさかまだ神がいるとは…………
大和おそろしや……
まあ、こういうこともあって神奈子さんが洩矢の国に来た。そして勿論この数日後道義も来ることになった。
一週間大和の国に滞在したが、やっぱりわが家が一番だ。
睡眠妨害するやつがいなければ……