東方生還録   作:エゾ末

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十九話 神、もう少しゆっくりさせて

 

 

「ん………て、またか」

 

「久しぶり」

 

「誰だお前」

 

 

 久しぶりに純和風の部屋にいた。またここか……

 そしていつもの皺だらけの老人かと思いきや、ちっちゃな男の子がいた。

 

「いや、わしじゃよわし。神じゃ」

 

「おれの知ってる神はしわくちゃの額と頭の境が分からない老人だから。こんなちびっこではないです。」

 

「ああ、これか。これはなぁ…………イメチェンじゃ!!」

 

「整形どころの問題じゃないよ……それ」

 

「実際どんな姿でもよかったんじゃがな。気分転換に男の子に変わったら天使のみんなにチヤホヤされていい気分になったからそのまんまになっておるんじゃ」

 

「おいこら、エロジジィ。それでも神かお前。」

 

「羨ましいか?」

 

「う、羨ましくないわ!」

 

 

 くそぅ、正直羨ましい……

 てかなんだよこの神、なんでもありかよ……ふざけやがって。

 

 そう、半ば拗ねながら手をズボンのポケットに突っ込もうとする。

 しかし、それはなされなかった。

 

 ……あれ?

 

 

「え? え!? おれの腕がない! ……ていうか体も足もないぞ!!?」

 

「やっと気づいたか」

 

 

 な、なんで!? まさかおれ、透明人間になったのか!!

 

 

「なわけないじゃろ。この空間に君の肉体ごと連れていくと、彼処へ戻したときに成功率が下がるからの。魂だけを連れてきたんじゃ」

 

「え、それってどういう……」

 

「そのままの意味じゃ。肉体込みと魂のみとじゃ、転生させたときに成功率が変わる。肉体込みだと、40%、魂のみだと95%ぐらいかの」

 

「95%!? 高っ!」

 

 

 なんだよそれ、ほぼ成功じゃん!

 

 

「だから魂のみをこっちに呼び寄せたんじゃ(実際は話す“だけ″なら生斗が寝ているときにできる)」

 

「ならなんであのとき肉体ごとおれをこの空間に……」

 

「君の肉体があの世界に残っておらんかったからじゃ。だからこの空間に魂を持ってきて、肉体を再構築させた」

 

「あ、そうだったんですか」

 

 

 確かに、あのときの爆発に巻き込まれりゃ、肉体の一つも残らないわな……

 

 

「それで、なんでおれを呼んだんですか?」

 

 

 とにかく、この話はこれ以上続きそうもないので、早々と本題にいくよう促す。

 

 

「ああ、ちょっと2つほど文句がいいたくてな」

 

「ん?なんか文句言われるような事しましたっけ?」

 

「あるから呼んだんじゃ」

 

「じゃあなにを?」

 

「まず一つ…………

 

 能力つかえよおぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ええ?!そんなこと!?」

 

「そんなことじゃないわ! つまんないじゃろ! 使う場面なんていくらでもあったじゃろ! ほら、花妖怪のときとか!」

 

「いやぁ、もう能力は使いたく無かったんですよね。痛いし」

 

「馬鹿もん! それで死んだら意味ないじゃろが!」

 

「痛っ!?ぶつことはないでしょ!?」

 

 

 くっ、痛みには慣れてるはずなのに拳骨だけはいつになっても慣れない……

 

 

「はぁ……実は能力の劣化をしてから、君が能力を使わなくなるじゃないかと薄々感じていたが、本当に使わなくなるとはな」

 

「気づいてたんですか」

 

 

 わかってたんなら、今おれを殴らなくてもよかったんじゃないか?

 

 

「確かに、君の身体じゃ一生分の力でも手に余る代物じゃ」

 

「わかってるならおれの身体をもう少し丈夫にしてくださいよ。一生分ぐらいは耐えれるぐらい」

 

「無理じゃ。ローリスクハイリターンなんぞつまらんからな。それに人並み以上に強化は一応しておる。どんなものかは教えんが」

 

「神のけち!」

 

 

 強化してるって……全然された感がしないんだが。

 

 

「そこでじゃ。少しだけ改良を施してやろうと思う。いやぁ、神様優しい~! ほら、敬え」

 

「……少しだけですか?」

 

「……贅沢言うんじゃない」

 

 

 だって前は大幅に劣化されたし……

 

 

「ごほん! では、能力を少しだけ改良してやる。ちょっと来なさい」

 

「? はい」

 

 

 来いといわれても今のおれは魂だけなんだけどな。

 ん? そういえばなんでおれ、さっき殴られたんだ? おれの肉体は今、ここにはないのに。

 そう疑問に思いながら神の近くまで行くと、ショタ神は小さい手でおれに触れてきた。感触的に首辺りか……

 って、え?! おれの身体ないのに触られた感触がある!?

 

 

「なぜ触れられるんですか?」

 

「なに、魂でもわしぐらいになれば触ることも可能なんじゃよ……それよりも、完了じゃ。改良してやったぞ」

 

 

 そういって手を退かす神。やっぱりこの人、なんでもありだな。

 

 

「で、何を改良したんですか?」

 

「なに、寿命ブーストを年単位にしてやっただけじゃ」

 

「……と、言いますと?」

 

「これまで、一生単位でしか使えなかった能力を、寿命である60年を切り分けて使えるようにした。つまり、最小で一年単位で寿命ブーストを使えるようになったというわけじゃ」

 

「お! それってめちゃくちゃ良いじゃないですか! 身体の負担もかなり軽減できるし!」

 

「そうじゃろう。太っ腹じゃろ?」

 

「うっ……」

 

 

 心の中でけちけち言ってたのバレてたか。まあ、口にも出してけち! って言ってたけど。

 

 

「それじゃあ、能力の改良も終えたことだし……もう1つの文句を言わせてもらおう」

 

「そういえばまだありましたね、そんなの」

 

 

 もういいだろ、めんどくさい。

 

 

「それじゃ! その面倒くさがりな性格に文句が言いたいんじゃ!」

 

「えぇ、これはもう仕方ないでしょ。性分なんだし」

 

 

 最近じゃ緩やかな生活をしているからか、前より遥かに面倒くさがりになってるんだよな、おれ。

 

 

「旅に出ろ! 今すぐ旅を出てわしを楽しませるんじゃ!」

 

 

 ……旅? 無理だな、断ろ。

 

 

「そ、それはおれの勝手でしょう」

 

「……わしは何のために君を転生させたのかな?」

 

「なんか試験って言っていたような……」

 

「違う! 暇潰しじゃ!」

 

「え、えぇ……」

 

「試験はあのとき既に終わっておる! 君があのときこの世界に転生すると言った時点でもう、単なるわしの暇潰しと化しとるんじゃ!!」

 

 

 ま、まじかよ……

 

 

「それでじゃ。その暇潰しが今、潰すことすらなっておらんのじゃ。何でだと思う?」

 

「おれがずっと洩矢の国にいるからですね」

 

「そこでた。何もイベントの起きない国に居座るのではなく旅に出ると言うのはどうかね?」

 

「確かにずっと洩矢の国に居座ってても平凡なイベントぐらいしか起きない。大きいのを起こすには旅をして各地を回った方がいいのはわかる。」

 

「じゃろ?」

 

「だが断る!!」

 

「な!?」

 

「おれは平凡が好きなんです。折角手にいれた生活。手放すわけがないでしょ!」

 

「むむむぅ~。そういえば君は極度な面倒くさがりじゃったな」

 

「今頃気づいたんですか?」

 

「いや、会って二日目ぐらいで気づいたがな」

 

「なら分かるでしょ? おれが旅なんかしたくないと」

 

 

 今の生活を潰されてたまるか。

 

 

「まあ、これは最後の忠告のつもりでいったんじゃ。だが、それも無意味とわかった今、強行手段に出るとしよう」

 

「な?! 神とあろうものが一般人のおれに何をしようと!?」

 

「ほりゃ」

 

「いでっ」

 

 

 杖で頭を叩かれた。少しだけ痛い……

 

 

 あれ? おれ今さっきまで神と何の話をしてたんだっけ? いや、それより……

 

 

「なんか旅に出たくなってきた」

 

「じゃろ?」

 

「うおぉ!!なんか未知の世界へ飛び立ちたくなってきたぞ!いける!おれは行けるぞぉぉ!!!」

 

「よし!そのいきじゃ!それじゃあさっさと起きて旅へ行ってこい!!」

 

「はい!わっかりましたー!」

 

 そういっておれは起きるべく念を込めた。

 ……おう、意識が朦朧としてきた。もうすぐ覚めるぞぉ

 

 

 

 

 

 

「術少し強すぎたな、こりゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで旅に出ることにした。」

 

「急に起きてどうしたんですか?!」

 

「いや、なんか急激に旅立ちたくなった」

 

「私は嫌ですよ!早恵ちゃんと別れるなんて……」

 

「ん?翠は残ればいいだろ」

 

「いや、この前守護霊になったじゃないですか」

 

「そうだったな」

 

「そんなことより!私は反対です!みんなと別れるのは嫌です!!」

 

「なら言うが、いずれ早恵ちゃんも寿命で死ぬぞ」

 

「なっ?!」

 

「発想をかえるんだ。旅に出て、早恵ちゃんと別れることにより永遠に早恵ちゃんは心の中で生き続けられるんだぞ」

 

「それは早恵ちゃんが亡くなった後でも……」

 

「死に際を見た後にそんなこと思い続けられるか?」

 

「た、確かに……」

 

 ふふ、なんとか説得出来そうだな。我ながら屑な説得の仕方だが、今はそんなことはどうでもいい。今すぐにでも旅に出たいんだ。いちいちそんなことに時間をとっている暇などない!!

 

 それから30分の説得により翠を納得させることに出来た。

 

「それじゃあ準備も出来たし、皆に挨拶にいくとするか」

 

「それもそうですね!わぁー、海というもの見てみたいですねぇ~」

 

 翠を説得するときに海のことや火山の事とか色々いったらその気になってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  早恵ちゃん&道義の家

 

 

「そうですか……旅に出るんですね。随分と急ですね」

 

「まあ、確かにな」

 

「せいと。どっか行くの?」

 

「ん、そうだよ」

 

「じゃあね!」

 

 なんか枝幸ちゃんさっぱりしてる!?

 

「師匠の決めたことに口だす事などしません。どうかご無事で!」

 

「ああ、道義も元気でな」

 

「早恵ちゃん!」

 

「うわ!翠!?なんで熊口さんか出てきたの?!」

 

「そんなことより、最後にお話しよう!」

 

 取り敢えず少し長くなりそうなのでおれは翠を置いて神社へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  神社

 

 

「え?!生斗、旅にでちゃうの?!」

 

「そうだ。でも大丈夫。いつか会えるさ」

 

「そうかい。まあ、親は子供の巣立ちを祝うものさね。笑顔で見送ってやんな。諏訪子」

 

「…………それもそうだね!それにいつか会えるんでしょ?」

 

「まあな。……って、おれは諏訪子たちの子供か!」

 

「ふん。やっと出ていくのか。清々する」

 

「……ミシャグジか。お前とも長い付き合いだったな」

 

 そういいつつおれはミシャグジの前に手を出した。

 

「……ふん」パシッ

 

「あ、こら。そこは手を叩くところじゃないだろ!」

 

「そんなの知るものか!」

 

「ははは!やっぱミシャグジと生斗は仲が良いね!」

 

「それもそうだ!」

 

「諏訪子様!私はこやつと仲など良くはありません!!」

 

「そうだそうだ!」

 

 まあ、確かに喧嘩するほど仲が良いというけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洩矢の国(出口前)夜明け前

 

 

 

「翠。準備出来たか?」

 

「はい。もう大丈夫です!」

 

「そうか。それじゃあいくか!」

 

 そういっておれは荷物を背負って門を出ようとした瞬間、後ろから大きな音が出た。ん?なんか聞いたことがあるような音だな。

 そう思いつつ後ろを振り向くと

 

 

 

「うわぁ、キレイですねぇ」

 

「ああ、綺麗な花火だ。」

 

 特大の花火が上がっていた。聞いたことのある音ってこれだったか。  

 

「諏訪子たちも粋なことするなぁ」

 

「そうですね」

 

 そしてその花火が消ようとした瞬間、二発目が打ち上がった。

 

 それを見た瞬間おれは小さな声でこういった

 

「ああ、またな」

 

 二発目に上がった花火は文字だった。そしてこう書かれていた。

 

 ____『またね』

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?思ったけど夜明け前にあんなド派手なの打ったら近所迷惑やばくないか?」

 

「もう!折角いい感じだったのに全部ぶち壊しです!」




2章完結です!!

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