東方生還録   作:エゾ末

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文視点→生斗くん視点→文視点の流れです。




14話 部下の不満を解消させるのも上司の仕事

「なあ、腕を折られた次の日に亀の甲羅を背負ってて頭に皿がのってる変人妖怪になんで会いに行かなくちゃいけないんだよ」

 

「そんなこと言いつつ結局来てくれてるじゃないですか。それとなんなんですか?生斗さんの河童への印象」

 

「翠が二日酔いでいけなくなったからな」

 

「そんな理由じゃ言い訳にはなりませんよ」

 

「『私の代わりに河童を見に行ってどんなのだったか教えてください』ってさ。まったく、人の腕折っといてよく言えるよ、あいつ」

 

「ほうほう」

 

 

と、私こと射命丸はいま話している変態の言葉に相づちをうつ。

本当はこんな奴に敬語なんて使いたくないんだけどこの前の闘いで不意をつかれて負けたせいで敬語を使う羽目になっている。

…………なんでなの?普通天狗は自分の目上には逆らわない。それは私が生まれて初めに教えられたことだ。そういう環境で育ったため、私はこれまで上司の天狗に逆らったことなんて一度もない。タメ口なんてもっての他だ。

……それなのに私は上司になったあいつに反抗し続けている。

こいつが人間だから?……いや、人間と言えどあいつは大天狗様にも負けず劣らない程の実力がある。その実力は2度戦った私が身をもって知っている。

それなのに、あれだけの実力を持っているというのに私はなぜあいつにちょっかいをだすのだろう?

 

それについて昨日私はずっと考えていた。

そして考えた末、あるひとつの答えが導き出された。

それは_____

 

__________羨ましいから。

 

 

つまり嫉妬である。

なぜあんなやつに嫉妬しているのかはすぐにわかる。

相手の機嫌を伺ったり、辛い仕事を一言の愚痴を漏らせずに延々とやらされず、自由気ままに旅をしているあいつがどうしようもなく羨ましいのだ。

 

だからつい、私はあいつにちょっかいをだしているのだろう。

 

実際のところ上司に無礼を働く行為は天狗の社会では極刑に処されるのだがあいつの場合、天狗の上司だということに不満をもつ天狗達(天魔様を含む)が少なくないため、極刑に処されることはない。

それを利用して私は嫉妬の対象である熊口 生斗に反抗をしつづけている。(半分はストレス解消)

 

…………もうやめよう。こんなことをしていてもただ醜いだけだ。

羨ましいからその対象の足を引っ張る。ただの屑やろうじゃない、そんなの。

確かに初対面であんな最低なことをされたりもしたがそれについてはもう緩和されつつある。だから私にはあいつに反抗する理由はもうなくなることになる。

 

これで最後。ここをちょっと先にある広場に待ち構えている河童達と連携して一斉に嫌がらせをする。

 

これが終われば私はあいつーー生斗さんに逆らうことはなくなるでしょう。

 

それがたとえ苦痛だったとしても。だけどそんなの大丈夫だわ。これまでセクハラやパワハラをしてくる上司にだって歯をくいしばって我慢してこれたのだ。

 

今回も大丈夫でしょう…………

 

 

「ん、どうしたんだ?急に黙りこんで……」

 

「あ!いえ、何でもありません。ささ、行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

======================

 

 生斗視点

 

 

 

 

「ここの草原にいるのか?」

 

「はい」

 

 

森のなかを歩いて10分程度。おれと射命丸は森を抜け、草原にでた。

草原といっても、処刑場にされた広場よりかは小さく、すこし先にはまた森が広がっている。

これはっ草原って呼べるのだろうか?いや、入り口付近に『草原』とかかれているから間違いない。

 

ん?まてよ、おれの記憶が正しければ草原って

木々がまったくない、草に覆われた大地だったようなきがするんだけど。

もしそうなのなら周りに木々が所狭しと立ち並んでいるここははたして草原と呼べるもんなのだろうか?

 

 

「では、私はここで。」

 

「え、なんでだよ」

 

草原についてかんがえてたら射命丸がここを立ち去ろうとした。

 

「ここの河童は臆病者が多くてですね。複数人で来られると恐がって近寄ってこないんです」

 

「は?まじか。…………てまてよ、お前河童と知り合いじゃなかったのか?」

 

チッ「はい、一応知り合いなんですがやはり複数人だと恐がってしまうようで。まだ話すようになって間もないですし」

 

なんか舌打ちされたんだけど……

 

「……はあ、仕方ない。んじゃ、おれそこらの茂みで見ておくから射命丸があってこい」

 

「え!?あ、いや、生斗さんが会ってきてください。河童と直で話し合えるチャンスですよ」

 

「えー……」

 

まあ確かに後で翠からどんな話をしましたか?とか言われるとき言葉につまるからなぁ。

 

「わかった。じゃあ射命丸が茂みで隠れといてくれ」

 

「はい!」

 

 

何故か射命丸は満足そうな顔で返事をした。

ほんと、こいつなんなんだろうな。

 

取り敢えず河童のことに集中しよう。

さて、全身緑色で背中に亀の甲羅を背負っていて口が鳥と同じくちばしで頭に皿をのせた河童はどこにいるだろうか?

もしかすれば天狗の時と同様で見当外れなのが来るかもしれないな。

 

 

 

「……___の」

 

「ん?」

 

なんか奥の木の方から声が聞こえた気がする。河童か?

 

 

「いけー!!」

 

「うわ!?」

 

聞こえた方の気に向かって草原?の真ん中付近まで行き着いたところで全方向から青色の服を着ていて帽子を被った5~6人はいるであろう少女が一斉に飛びだして来た。

 

 

「冷た!」

 

 

後ろから冷たい何かが付着した。なんだ?と思って背中を触ってみてみると水だということがわかった。

それを確認しているうちに飛びたしてきた少女がおれの頭に落ちてきた

 

「うぶっ」

 

なんとか倒れそうになるのをこらえ、頭に引っ付いた少女を引き剥がして後ろを見てみるとバケツをもった少女がいた。

さてはこいつがおれに水をかけたんだな!

 

「えい!」

 

「うぎゃあぁ!!?」

 

バケツをもった少女の方へ近づこうとしたら次は足を誰かに蹴られた。

そして少し体勢を崩したところを少女が骨折している右腕を思いっきり叩いてきた。

 

 

「こ、このやろう……」

 

「とどめです!」

 

「な?!射命ま…………うわあぁぁぁ!?」

 

 

つうに堪忍袋が切れそうになったおれの背後から社命丸が大竜巻を起こして俺を吹き飛ばした。

 

 

やっぱりなにか企んでたか!このやろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またもや文視点

 

 

 

空は星空が瞬き、月が真っ暗の地上を照らし、うっすらと私達を照らしてくれている。

そんなとき、私に向かって生斗さんが核心をつく質問をしてきた。

 

 

「なあ、射命丸。おまえ、なんか悩んでることはあるのか?」

 

「…………」

 

「ずっと黙ってきたがおれもお前がなにか悩んでたのかはわかる。伊達に長い間生きてきてないからな」

 

「別にありませんよ、そんなの」

 

「そうか…………じゃあ質問を変えよう。なんでおれによくちょっかいをだしてきたんだ?」

 

「…………そ、それは生斗さんが初めてあったときに私のスカートを破ったからですよ!」

 

「ほんとにそうか?ならなんで今少し間があったんだ?」

 

「!?」

 

「お前、つかれてんだろ?」

 

「そりゃあそうですよ。いつも四人分の哨戒任務をまかせられてんですから」

 

「いや、そういう意味じゃなくて。精神的な意味でだよ」

 

「は?」

 

「そのまんまの意味。溜まってたんだろ?これまでろくに自分のやりたいこともできず、上司にはよくいびられて、それでもお前は文句を一つも言えずにひたすら我慢してきたんだろ?」

 

「な、なんでそれを?!」

 

「ああ、あの4馬鹿からお前の生い立ちは聞いたよ。」

 

「……あいつら!」

 

「それで。これまで天狗の上司からいじめられた分をおれで解消しようとしてたのか?」

 

「いや!…………いえ、はいそうです。生斗さんをストレスを解消の対象としてみてました。

でも、今回ので最後にします。これからは生斗さんに反抗をしたりは一切しません。」

 

 

 

「いや、いい。これまで通りちょっかいをだせ」

 

「え?」

 

「お前がこれまで抱えてきたもん、全部おれで吐き出せ。

それが上司であるおれにできることだ。」

 

この人はなにをいってるの?

 

「な、なんで…………そんなことできません!」

 

私はもう貴方に逆らわないと決めたのだ。もう変えることはしない

 

「遠慮なんかするな。それにさ、おれ、お前のことをすごいと思ってるんだよ」

 

 

「……?」

 

「だってさ、上司だからってだけで好き勝手する天狗に文句を一切もいわずに我慢してきたんだろ?

おれにはそんなこと耐えられない、上司を訴えた後グーパンするぜ、きっと」

 

なんで生斗さんは私を褒めているの?そんなこと褒められたことじゃない。他の天狗達だって私を哀れな顔で見るだけ。労いの言葉すらかけてくれない。

 

 

「で、でも、わ、私は」

 

 

言葉を出そうにも口が上手く回らない。何でだろう。こんな感情初めてだ。

褒められるというのはここまで嬉しいことなの?これまでどれだけ頑張ってきても誰からも褒められたことがない。それなのにこの人まっすぐな顔で私のことを凄いと言ってくれた。そう……いってくれるだけで凍りついていた私の心が溶けていく感覚に陥る。

そして、頬から何かが流れ落ちるのがわかった。

 

 

「おいおい、泣いてんのか?」

 

「だっ、て……褒めら、れるのは……初めて、で」

 

 

これまでのことを思いだし、必死にこらえてきた涙がたかが外れたようにあふれでてくる。

恥ずかしい、泣いているところを見られるなんて……

これまでやってきたことが報われた。生斗さんの一言のお陰で私の苦労してきたことが報われたのだ。

 

それゆえか流れ落ちる涙はいまだにおさまることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分後

 

 

結局私が泣き終えるまで生斗さんにまってもらった。

恥ずかしいけど、それ以上になにかが吹っ切れた気がして気分は清々しい。

 

 

「それで?これからはどうすんの?」

 

「はい、これからもいつも通りさせてもらいます」

 

「ふむ、それでいい」

 

 

「それで……1つお願いがあるんですが……」

 

「ん、なんだ?」

 

 

「もうそろそろ紐を解いてもらえませんか?もう頭に血が登ってきてそろそろ危ないです」

 

そう、私が泣いていたときもずっと木に吊るされていたのだ。

勿論河童達と私が生斗さんを叩きのめした罰として。

 

あの襲撃のあと、生斗さんの逆鱗に触れたようであの爆発する弾を乱射されてやられてしまったのだ。

お陰で河童達と私は気を取り戻した時には木に吊るされていた。

 

 

「ん、なにをいってるんだ。イタズラも度が過ぎればお仕置きの必要があるだろう」

 

「もうしませんから~」

 

「無理だな。今回のでおれの腕が余計痛んだからな。そこの河童とやらと同じくもう少し反省していろ」

 

「この鬼!」

 

「鬼は萃香だ」

 

 

 

 

 

ありがとうございます。生斗さん。貴方のお陰でこれまで溜め込んでいたものがスッキリしました。

 

 

そして___これからもよろしくお願いします。

 




あれ、生斗くんと射命丸を仲良くさせようかなと思ったら
なんかシリアスなかんじに…………

実際はもっとお気楽なかんじにしようと思ってたんですが……

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