東方生還録   作:エゾ末

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16話 やっぱ来るんだよなぁ

 

 

「やあ」

 

「はあ、こっち魂をこっちにもってきたってことは………まさかまた旅出ろとかは言いませんよね?」

 

「当たりまえじゃないか。もう100年も待ってやったんじゃよ。わしにしては長いほうだとは思わんかね?」

 

「やっぱかぁ~」

 

 

妖怪の山に来て100年が経った。

そして案の定いつもの神が痺れを切らしておれの魂を自分の神域(和室とほぼ変わらない)に引っ張ってきた。

 

はぁ、なんでこの神はおれにゆっくりさせてくれないんだろうか?

 

 

「何をいっておる。100年もゆっくりしてたじゃないか」

 

「勝手に人の心を読まないでください」

 

「仕方ないじゃろ、神なんだから。君の思っていることなんて手に取るようにわかる」

 

「あんたに読まれていると思うと気色悪いんですよ」

 

「なぬ?!神に心を読まれているのが気色悪いじゃと?」

 

「まあ、そんなどうでもいい事話すよりもっと大事な事があるでしょ」

 

 

「むぅ……まあ、そうじゃな。

わしがここに魂を呼んだのはさっき君がいった通り旅に出てもらいたいからじゃ」

 

「え~、嫌、というより無理ですよ。神もわかってるでしょ?今おれ天狗の上司やってて勝手に抜け出すなんてそう簡単には出来ないんです」

 

「夜逃げしろ」

 

「無理」

 

哨戒天狗に一発でバレるわ。

 

 

「そこんところは天狗の長にちゃちゃっと頼んでさぁ」

 

「つーかなんでそんなにおれに旅させたがるんですか?

ちゃんと神のいった通り能力使ったし定期的に鬼とかとも戦ってるし」

 

「いやぁ、確かにそれについてはありがたいと思ってるよ。実際バトル展開が今回は多かったから100年も待ってあげてたわけだし」

 

「ならまだいいでしょうよ」

 

「でものぅ」

 

「なんですか」

 

「はっきりいって飽きた。鬼との勝負も最近じゃ手の内がどっちも分かっているようで同じような戦い方になってるし、天狗のほうも飯食ったり修行を手伝っているだけだし。

それ以外の時とかグラサンかけながら鼻くそほじってねっころがっているだけじゃろ」

 

「鼻くそは余計です」

 

「ま、ということで頼んだよ。

なんかいろいろ準備があるだろうから3日待ってやろう。」

 

「3日!?」

 

「それを過ぎたら強制的に元の世界に戻すから」

 

「え?!」

 

 

元の世界て……まだ月に行った皆と再会できてないぞ。それなのに戻るのは嫌だ……

 

あ、神がにやけてる。恨めしいぐらい目がクリクリしてやがる。昔はハゲ散らかしたジジィだったくせにぃ……じゃなくてそうか、神め……おれがこの世界のことが気に入ってることがわかってて脅しの材料に使ってきやがったのか!

 

 

「さあ、魂をそっちに返すからさっさと旅に出るんじゃよ」

 

「勝手なことばかりいって……」

 

「まあ、別に旅に出るといっても君の守護霊がいるから寂しくなる訳じゃないじゃろ。ほら、かなり美人だし」

 

「顔はよくても性格は最悪ですよ、あいつ」

 

「くはは、本当にそうかな?もしかすると君が思っているほど彼女は悪いやつではないかもしれんぞ?」

 

「ないない。100年経った今でもおれに対する罵倒が尽きないんだから」

 

「君らの夫婦漫才、いつも楽しみにしてるよ」

 

「夫婦じゃない」

 

「おや、100年以上も共にしているというのに……そこらの夫婦よりずっと密な関係だと思うのだが」

 

「神、あんた本当におれらの事見てましたか?そんなこと一度とたりとも無かったじゃないですか」

 

「ふむ、それもそうじゃったな。

 

まあともかく、次はここに呼ばれないような旅を送ってくれ」

 

「……はい」

 

 

そう言った瞬間、前と同じように頭が朦朧としてきた。

この感覚、あまり好きじゃないんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

朝、起きて早々射命丸と4馬鹿がおれん家に来たので早速旅に出ることを伝えることにした。

 

 

「ということで旅に出るわ」

 

「はいはい、寝言は寝て言いましょうね、生斗さん」

 

「そうっスよ、熊口様!旅に出るだなんていわないですださいよ!」

 

「私達四人で大天狗様に勝るほどの力を手にすることができたのも熊口様のお陰なんですよ!」

 

「そうだそうだー」

 

「どうせまたいつものきまぐれですよね?」

 

「お前ら……」

 

 

4馬鹿……そんなに慕ってくれてたか……!射命丸は論外。

 

 

「まあ、私は前々から言われてたことだから別に驚きはしないんてますけどね」

 

「そうだったな、翠。」

 

そういえば翠にはもうすぐ神が言いに来るだろうと思って先に旅の支度しとけって伝えといたんだよな

 

 

「え、てことは本当に旅に出るんですか?!」

 

「まあな、前は半日で終わったし。そろそろ再会しようと思って」

 

「でも、そしたら私達はどうなるんですか?」

 

「ん、そらなら天魔に頼めばなんとかなるだろ。お前らも随分と強くなったししたっぱなんかじゃなくなるかもな」

 

「いえ、俺らは熊口様の部下が良いんです!」

 

「「「そうです」」」

 

「うおう……」

 

おれの思っていたより信頼が厚かったよ。なんだか恥ずかしい気分だ

 

 

 

「んー、でもなぁ~……出ないとおれの存在が……」

 

「え、?どういう意味ですか?」

 

「あ、いや、何でもない。取り敢えずおれは旅に出る。異論は許さん、これは最後の上司命令だ」

 

 

なんだか長引きそう立場を利用してこの場を切り抜けることにした。

 

そしたらみんな不満そうな顔をして此方を見てくるのでなんだか居心地が悪くなった。なんだか面倒だこら早々に天魔のいる屋敷に出掛けて旅に出る事を伝えにいこうかな。

 

因みに昔、おれを斬首刑に処した天魔は代替わりとなり新しい奴が天魔となった。

しかもそいつは少し関わりがあって、たまにお茶する仲だったから色々と話しやすい。

お陰で我儘をよく聞いてもらったりもする。ほとんどがしょうもないことばかりだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天魔視点

 

 

私の名前は秋天。天狗の長である天魔だ。

私が天魔に就任したのは50年前、前天魔であった明徳様が突然病に倒れ、御臨終したのがキッカケであった。

天魔になったときはとても嬉しかった。この私が妖怪の山に住まう天狗達の頂点に君臨できたことに。

 

しかしその喜びも束の間、長であると共に仕事が山のようにでてきた。

 

主に哨戒の現状報告や、妖怪の山周辺の書類の管理、鬼による被害の削減など、いろいろな事が私の背にのし掛かってきた。

 

そして、仕事外のことでも頭をかかえることがある。

 

 

その代表が熊口の我儘だ。そして今日、哨戒の現状報告の書類をまとめている最中、奴はきて、

急に旅にでるとぬかしてきた。

 

 

 

「で、春画採集の次は旅に出るから部下の事をよろしく頼む、ですか。」

 

「うん、そうだよ、秋天。て、春画についてはお前もノリノリだっただろうが」

 

「ごほん、私は天狗の長ですよ。春画など興味ありません。それと職場では私の名前は出さないでください」

 

「嘘つけ、このエロ天狗。みんなで春画見てたときお前が一番鼻の下伸ばしてただろうが」

 

「げ、幻覚ですよ……」

 

 

この人は……いつも私のペースを狂わしてくる。

初めて会ったときだってそうだった。

自分で言うのもなんだけど仕事に忠実で何事にも積極的に取り組む私の噂を聞き付けてやってきた熊口が私にちょっかいを出してくるようになったのが最初の出合いだった。

それからは休憩中の茶屋で出くわしたり、哨戒任務をしっかりと遂行しているか見回りをしているときに熊口とその部下達で変な動きをしているところを発見したところを見つかって私まで変な動きをする羽目になったりと

熊口とあってからろくなことがない。

 

 

 

 

 

 

でも、良いやつではある。

 

私が今の妻と婚姻を結ぶ時などは一番に喜んでくれたり、たまに鬼達とする宴会の時も天狗達に被害があまり来ないように鬼達の目を熊口の方へ向けてくれたりもする。

 

そして仕事上の関係であまり他の天狗と親しくなれない私の話し相手をしてくれる数少ない友人でもある。

 

 

「なにぼーとしてんだ。秋天」

 

「だから天魔と呼べと……」

 

「別に良いだろ。この部屋、無駄に広いわりにはお前以外居ないんだから」

 

「だからといって今は仕事中です。」

 

「はいはいわかりましたよ、天魔様。…………で、おれの我儘、聞いてくれるか」

 

「はい、勿論了承しませんよ」

 

「え、しません?」

 

「はい、了承なんて絶対にしません。天狗の社会から抜けるということは全天狗の敵になると言うこととほぼ同義です。

私は熊口を敵にするのは友人として嫌なのです」

 

それに友人であるから反対するだけではない。はっきりいって熊口の部下達は落ちこぼれ達だった。

射命丸は確かに優秀だが、上司との付き合いが悪かった。

そして白狼天狗の四人は天狗の中で最底辺の力しか持っていない落ちこぼれ兄弟。

 

しかし今では射命丸はかなり友好的になり、白狼天狗の四人組は4対1とはいえ大天狗に勝るほどの力を手にしている。

それもすべて熊口による指導のお陰だ。

天狗達の密かで行われている《上司にするなら誰が良い?》のランキングで十年連続で一位を獲得しているほどだ。

だから天狗の発展のためにも熊口を手放すわけにはいかない。

 

 

「はあ?敵て、なるわけないだろ。」

 

「熊口の気持ちの問題ではないのです。これは天狗の掟です。」

 

「……はぁ、何でかなぁ」

 

「ほら、私の部屋の目の前にいる君の部下達も安堵していますよ。よかったですね」

 

「は?」

 

 

と、熊口は後ろの方へ振りかえる。すると襖の間から見ていた5人が慌てて襖を閉めた。

 

「あいつら……ついてきてたのか」

 

「いいじゃないですか。愛されてるってことですよ」

 

「そうかぁ?……」

 

「それでは私は仕事に戻りますので。くれぐれも妖怪の山を出ていこうだなんて考えないでくださいよ」

 

「うーむ」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「仕方ない、秋天」

 

「?」

 

「じゃあな!縁が会ったらまた会おう!あと射命丸と4馬鹿も元気でな!」

 

「え!?」

 

 

いきなり熊口が障子を突き破って外へ出ていってしまった。

 

……まさか!

 

 

「そこのもの達出てきなさい!!」

 

「は!天魔様!」

 

そういうと襖のさきで隠れていた熊口の部下達がでてきた。

 

「今すぐ全天狗、及び鬼達に報せなさい。熊口が妖怪の山から出ていこうとしていると」

 

「「「「御意!」」」」

 

 

そして熊口の部下達は熊口と同じように障子を突き破って出ていった

 

 

「…………普通に玄関から行けよ……」

 

そういうところは熊口に似てきているな……あいつら。

 

と、そんなことよりも私も行動に移さなければ。

萃香様にもこの事を伝えればすぐに熊口も見つかるはず……

 

絶対に逃がさないぞ、熊口。我々天狗の発展のためにも、そして友人としてもな!




天魔さん、最終話前に登場でしたね笑
次話かその次の話で3章完結です

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