あ、あと今回『遷さん』って名前が出てきますが生斗を助けたお爺さんの名前です
「さて、どうしようかしらね……」
熊口生斗という不思議人間が老人に拾われて3日経った。
もう殆ど腕の怪我も完治してきたのでここからおいとましようかと考え始めてる。目的もあるし……
しかしねぇ。まだあの男の実態を掴めていないのよねぇ……だからまだここを出るわけにはいかない。
彼がきて次の日、取り敢えず試すという意味合いで影から色々してみた。
落とし穴をしかけてみたり、霊弾を彼に向けて撃ってみたり、小妖怪を彼とでくわすように仕向けたりもした。
結果。落とし穴には見事に引っ掛かり、霊弾も綺麗に頭に直撃して、小妖怪には軽くいなして森へ帰していた。
「なんだ、青娥。箸が止まってるぞ、考え事なら食ったあとにしとけ」
「あ、ごめんなさい。(貴方のことを考えてたのよ)」
あれほどおかしな人間は見たことがないわ。
落とし穴を引っ掛かったのは兎も角、加減したとはいえ霊弾を頭に直撃して無傷なんて普通の人間にはあり得ないわ。
それに小妖怪のこともそうだ。
人間は妖怪を畏れるもの。小妖怪ならばまだ普通の人間でも対処できる程度の力しかないのでまず間違いなく排除されるはず。
それに(種族の違いもあるが)小妖怪でも人を殺し、食せば妖怪としての格が上がる。そんな危険因子、目の前にいるのならそれを消す絶好のチャンスだというのに……彼は殺さずに逃がした。
ただの馬鹿か大妖怪になろうとも勝てるという絶対の自信があるのかどっちなのか、それすらもよくわからない。
「はぁ、私がなにかに固執するなんて何年ぶりかしら……」
私は家族を騙し、捨て去って仙人となった。
父が山に籠るほど道教に熱中し、そして家に残した本から私も道士への憧れがでた。
それから霍家に嫁入りしたのだけれど諦めきれず結局、自分が死んだと偽装して仙人への道へ進んだ。
そのせいもあって私は邪仙と呼ばれる部類にはいる。
しかし、邪仙であっても仙人は仙人。その時の私の高揚感は計り知れない。
そして今、そのときと同じぐらいに私はワクワクしている。
未知のものへの興味、やはりいつまでたってもこれによる興奮は抑えられないわ!
村の中心部付近
「やっぱり手っ取り早いのは彼に戦わせることだと思うのよねぇ」
なんとなくよった村の中心部で私はあの男の事を知るために思考を巡らせている。
妖怪と戦わせようにも小妖怪以上のものになると私にも誘導させづらくなって面倒だし……
「はぁ、いっそのこと私自らが戦おうかしら」
いや、相手の実力がわからない今、無闇に戦うのは得策ではないわ。
知り合いとはいえ、勝負には容赦ない人だったら危ないからね
「ねぇ、知っているかい?最近ここ付近で子供が連れ拐われているらしいわよ」
「知ってる知ってる!今日も村の有力者が集まって対策会議しているって専らの噂だわ」
彼のことについて行き詰まっている最中、道の端っこで雑談をしている奥様方の声がきこえてきた。
……子供を拐う妖怪?
「ちょっと失礼してよろしいかしら。その話、詳しく聞かせてもらいません?」
「あら、貴方は遷さんのとこの……」
「霍青娥と申します」
ふふ、良いことを思いつきそうだわ
「(ここね……)」
現在、私は屋根裏にいる。理由は勿論奥様方の言っていた会議の内容を盗み聞きするため。
「村からでた子供が行方不明になるという騒動が多発しているわけだが……遷さん、どうするんです?」
「そうだな。子供達が無事でいてくれればいいんだが……」
「それもあるけれど……いい加減元凶の妖怪を仕留めないと。このままじゃこの村の子供が全ていなくなるかもしれませんのだぞ」
「(ほうほう、これはお困りのようね…………いや、これはまたとない好機かもしれないわ!)」
ある思案を思いついた私は今いる屋根裏に鑿によって穴を空け、皆が囲んでいる丸い大机に着地した。
「急に現れて申し訳ありません。
しかし今のお話で私に良い案がありますのでついでしゃばってしまいましたわ」
「な、何者だ!?」
「青娥さん?なぜ貴方がこんなところに……」
流石に急に現れたので会議に参加している殆どの人が驚いているようね?ま、そんなことお構い無しに話をつづけるけど
「今回の件、私と生斗に任せてもらいませんでしょうか?」
「「「は?」」」
「青娥さん!?これは貴方たちには関係のないことだ!貴方たちが命を危険に晒すことははいのだぞ!」
やはりこの老人、優しいのね。自分の村の事が大変な事態になっているというのに私達の心配をしてくれるなんて……
でもそれはいらぬ心配よ。私だって命を賭けるなんてまっぴらごめんだし。
それに今回のは私の作戦の駒になってもらうだけだから逆に受けさせてもらわないと困るのよね
「私と生斗はそこにいらっしゃるお爺さんに命を救ってもらいました。しかしそのご恩、いまだに返しきれていません。
なのでどうか、私と生斗に今回の件を任せてもらえないのでしょうか?」
「だから別に恩を売るために助けた訳じゃ……」
「いいじゃないか遷さん」
「!?」
「どちらにしてもこの村には屈強な男はいない。ここでどれだけ会議をして対策をしようと結果は同じこと。元凶を絶たなければ……!」
「しかし……」
「賭けて見ましょうよ!遷さん!私は昨日、あの生斗という人の剣捌きを見せてもらいました!
あの剣捌き、私がこれまで生きてきた中で見たことのないほど美しく、かつ繊細でした!あの人ならば必ずや元凶の妖怪を抹殺してくださるでしょう!」
なにそれ、私それ見てないわ!羨ましい……
「むむむぅ~」
「お爺さん、私からもお願いです。大丈夫、私は仙人です。そこらの人間より丈夫にできておりますし強いです」
「その仙人というものがよくわからないんだが………」
「今さっき見せてあげたでしょう」
「……部外者に村の事を任せるのはどうしても気が引けるのだが……」
中々しぶといわね……仕方ない
「お願いします!私はお爺さんに……いや、この村に恩返しがしたいのです!部外者である私を心暖かく迎えてくれたこの村に!」
「遷さん……この人もこんなにも言ってくれてるんだ。任せてみないか?」
「うむぅ…………わかった。今回の件を青娥さんと生斗くんに任せることにする。しかし、これだけは約束してくれ。
死ぬなよ!」
「そんなの、百も承知ですわ」
このときの私はとても満面の笑みを浮かべただろう。
頑固なお爺さんを説得できたのだから。
ふふ、これで彼の実力が解るわ!
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森の中
「んで、なんでついでにおれまで行く羽目になっちゃってんの?
仙人さん一人で事足りると思うんですよね」
「あら、か弱い女の子を一人で数も強さもわからない妖怪と戦わせるつもりですの?」
「お前が勝手に約束したことじゃねーか……ったく」
「あら、あんまり怒らないのね。貴方の守護霊には遠慮なくアイアンクローっていう技を繰り出してたくせに」
「そりゃ今回があまりにも理不尽だったらお前にもくらわせてたよ。でも今回は子供達の命がかかってるんだ。呑気に昼寝している場合じゃないしな。あ、あと翠は今お爺さんのとこで昼寝してる」
「ねぇ、思ったのだけれど貴方の守護霊、全然貴方のことを守護してないわよね?」
「おれはあいつを守護霊とは思ってないからな。」
それよりも子供達の命がかかっているから……ね。
普段では見られない正義感ね。
3日だけの仲だけど彼がかなりのグータラだってことはわかっている。
やはり生斗には色々楽しめそうなものがあるわね
「それでは、いきましょうか。妖怪退治」
「もう行ってる最中だけどな」