東方生還録   作:エゾ末

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7話 考え方を変えたら得したな

 

 

 編入試験を受かってから一日経った今日この頃。

 おれは依姫が編入前に一度どんなところ見てみたいと、永琳さん家まで来ておれを引っ張ってきた。なので今、おれと依姫は士官学校の敷地内にいる。

 ついでに依姫も同じAクラスらしい。まあ、エリートのクラスって言ってたし、依姫がAクラスに行くのは当然か。おれが行くことになったのは少し不思議だが。

 

 

「なあ依姫、なんでおれまで一緒にいかなくちゃいけないんだよ。眠むいんだよ、寝せておくれよ。家でごろごろさせてくれよ」

 

「熊口さんは気にならないんですか。ていうかもう12時です!来週から私達も此処の訓練生ですよ、もっと兵として自覚を持ってください。それに彼処は八意様の家であって熊口さんの家ではありませんよ!?」

 

「本当のことを言うとちょっとは気になってはいる。でもあくまで優先順位はだらけることなんだ。それに永琳さん家ってなんか寛げるんだよ。なんというか、安心感がある」

 

「……はあ、八意様がおっしゃっていた通りの人でしたね……

 まあ、それでもついてきてもらいますけど」

 

「まあ、もう着いてしまったしな。おれは1歩も足を動かしてないのに」

 

「私が引きずって連れてきましたからね」

 

 

 

 永琳さんが言うにはおれが依姫にとっての初めての友達らしい。なぜこれまでの友達がいなかったのかを聞くと、やはりあのゴリラ親父の影響らしい。

 いつも修行やらなんやらさせらてたり、父親が総隊長ということで周りには同年代と同等の扱いをしてもらえなかったり、力を持つゆえか周りからの期待の眼差しを向けられたとかのせいで、それが重みとなって軽い鬱になり、一時の間、地下に引きこもってずっと修行をしていたそうだ。

 その間での話し相手が姉か両親や永琳さんだけだったと聞いた。

 

 だからこんなに絡んでくるんだろう、依姫は。

 初めての友達て……結構責任重大だな。……と言っても、この世界じゃおれの同年代の最初の友達も依姫になるんだけどな。

 

 

「改めてみると凄いよな、どれだけ金かければこんなになるんだか」

 

「運動場がABCと3つあるらしいですからね」

 

「それにしては校舎はいたって普通だな」

 

「1年~4年生のクラスがそれぞれ5クラスあるから…………教室だけで20部屋。確かに普通ですね」

 

 

 と、パンフレットを見ながら依姫が答える。

 パンフレットってそんなことまで書いてんのか……

 

 

「なあ、一つ聞きたいんだけど。」

 

「なんですか?」

 

「あのA運動場の先にあるでかい建造物はなんだ?」

 

「んーと、あれは……体育館ですね」

 

「え、あのスタジアムが?嘘だろ!?」

 

 

 あのスタジアム、軽く東京ドームより大きいぞ……

 

 

「いいえ、ここのパンフレットに書いてありますよ、ほら」

 

「……ほんとだ……あんなに大きくする必要性あるのか?」

 

「私に聞かれても……」

 

 

 それから一年Aクラスのところにいってみた。生憎丁度マラソンをしているようで、クラスには誰もいなかったが。会ってみたい気もしたがいないのなら仕方がないな。

 まあ、そのあとは適当に依姫とブラブラした。

 

 

「それじゃあ、帰りますか」

 

「あ、ちょっとまって。そういえばツクヨミ様に用があるんだった。着いてきてくれないか?」

 

「え?なにかあるんですか?」

 

「編入試験の時おれが投げたボールがツクヨミ様の家の盆栽に直撃したらしい」

 

「なにやってるんですか…………ああ、あれはそういうことだったんですね」

 

「ん、なにが?」

 

 

 なんだか嫌な予感……

 

 

「私が試験を受けたAコートってツクヨミ様の家から近いじゃないですか」

 

「ああ、そうだったな」

 

 

 近いもなにもA運動場とツクヨミ様の家は隣接していた筈だ。

 

 

「それで、私達が長距離走で走っている途中、急にパリーンって音がして、そのあとにツクヨミ様の絶叫が響いてきたんですよ」

 

「うお、まじか」

 

「それからは大変だったですよ。一時試験は中止になって試験官の人達が青い顔してツクヨミ様の家へ走っていきましたし」

 

「…………」

 

 

 ま、まじか……おれ、知らないうちに試験の妨害までしてたのかよ……

 

 

「どうしたんですか?」

 

「…………なあ依姫、おれの顔、今どうなってる?」

 

「……青い顔してますね。汗もすごいです」

 

 

だよなぁ。今のおれの顔色なんて鏡見なくてもわかる。

 

 

「やっっちまっったぁぁ!!!」

 

「ははは……自業自得ですね」

 

 

 

 このあと、ツクヨミ様の家にいくことをやめ、永琳さんの家に全力疾走で帰ろうとしたが、依姫に羽交い締めをされてしまい、渋々行くことに。

 結局、重い足取りでツクヨミ様のお宅へ謝りに逝くことになってしまった。

 くそう、あのとき思い出さなければ家でのんびりできていたのに!!なんで面倒事をさっさと済ませた方がいいかなと浅はかな考えをしてしまったんだ!!!

 ……だが、もう過ぎてしまったことにはかわりない。腹を括るしかないな。

 

 

「あの……死んだかのような顔してますよ」

 

「ああ、心配ない。おれは大丈夫だ、綿月が心配することではない。」

 

「え?」

 

 

 皆は自分が死ぬっと思った出来事を体験したことがあるのだろうか。おれは少なくても三回ある。

 1つ目は橋から落ちたとき、あれは死ぬって思ってほんとに死んだことであったが。2つ目は永琳さんによくわからない液体を顔に塗られかけた時だ。

 

 

「く、熊口さん?え、どうしました?急に固まって……」

 

 

 あの時は、永琳さんに恐怖を感じた。あの液体、地面に1滴零れただけなのに1メートル近く地面を抉っていたし。そして3つ目、それが今回のことである。これはもう死ににいくようなものだ。今おれは処刑台へ向かう死刑囚のような気分でいる。

 まだ罪を犯しているわけでは……いや、ツクヨミ様の私物を壊しているんだ。それだけでも死に値するほどの______

 

 

「しっかりしてください!」

 

「ぶへっ!」

 

 

 思いっきり木刀で腹を叩かれた。物凄く痛い。

 どうやらまた現実逃避をしていたらしい。ありがとう依姫、止めてくれなかったら1日中フリーズしていただろう。

 

 

「すまん依姫、ちょっとばかし現実逃避していた」

 

「もう……ちゃんと誠意をもって謝ればツクヨミ様も許してくれますよ。あの方も鬼じゃないんですし」

 

 

 確かにあの温厚なツクヨミ様だ。手紙で敬語になっていなかったからかなりびびったが、依姫の言う通り誠意をもって謝れば許してもらえるかもしれない。

 

 

「そうだな…………よし、覚悟を決めた!いまから全力でツクヨミ様に謝ってくる!」

 

「その意気です!」

 

 

 覚悟を決めたときはその瞬間に行動に移した方がいい。何故なら、時間が経つにつれ、その覚悟は薄れていくからだ。ほら、勉強するぞ!って決めたけどその数分後に、やっぱ良いやってなるのと一緒だ。

 

 自慢じゃないがおれは決心が鈍るのが早い。特に自分に関しては、だ。今回はツクヨミ様に関してだから、決心が鈍るのは遅いと思うが、延ばせば延ばすだけ確実に鈍っていく。

 いずれやらねばならないのなら今のうちにやっておくのが吉だ。

 

 そう考えたおれは早速、ツクヨミ様に謝るべく、長い廊下を全力疾走し、ツクヨミ様の部屋の前まで来た。

 

 

「ふん!」ドン!

 

「なっ!?生斗く……」

 

 

 よし、ツクヨミ様発見!

 こういうのは勢いが大事だ!

 まずおれは豪華な襖を開ける。

 そしてそのあとツクヨミ様に有無を言わさずすかさず土下座。

 勿論、遠くでは意味がないので一気にツクヨミ様の前まで跳躍してそのまま土下座する。

 

 これぞ、ジャンピング土下座だ!!

 

 

「ツクヨミ様ぁぁ!!ほんっとうに申し訳ございませんでしたぁぁ!!」

 

 グシャベチャ

 

「ああああああああ!!!」

 

 

 ん? 着地した時、なんか変な音が……それにこの手を地面についた時についた黒い液体は……

 

 

「ぐぐぐ……盆栽のみならず僕の書き物まで踏み潰しましたね……」

 

 

 あ、そういうことね。つまり今おれはツクヨミ様の書いた物の上にいると。そしてこの手についた黒い液体は墨汁と……

 

 はい、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと四時間ガチ説教を受けて漸く許してもらいました。

 ふむ、周りをよく見ることも大切だということを学んだな。


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