東方生還録   作:エゾ末

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玖話 家臣になんてならないぞ

 

「着いたわ。あそこに見えるのが太子のいる都よ」

 

太陽が顔を出す頃に出発して、昼が過ぎた頃に漸く都に着いた。

はあ、たった1日の旅ではあったけどなんか疲れた。

 

 

「よし、それじゃあお別れだな。さっさと金返せ」

 

「はいはい。わかってますわよ」

 

 

あれ?やけにあっさりだな。

そんなことを思っていると青娥は荷物の中から小袋を取り出し、おれに渡した。

 

 

「本当にいいのか?一応この都には何日かいると思うが一時すればまた出るぞ?」

 

「なにをそんな確認をしてくるのかしら?私はただ約束を守っただけですわよ」

 

 

た、確かにそうだけど……なんか裏がありそうだな……

 

 

「まあ、取り敢えず返してもらうぞ。」

 

「ええ、それでは私も太子のいる屋敷にお邪魔してくるとしますわ」

 

 

と、青娥は都へ入る門へと進んでいく。

 

あれ?本当になにもないのか?あいつの事だからどうにかしておれを聖徳太子のところへ連れていきそうなのにな。

ま、いっか。自由行動が取れるならそれに越したことはない。

 

「青娥、短い間だったけどじゃあな!」

 

「……再见」

 

 

ん?今なんていった?……まあいいや。中国語かなんかだろう。

 

そんなちょっとした疑問を抱きつつおれは門を潜るために歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再见とは″また会おう”という意味よ、生斗。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~街道~

 

 

     ガヤガヤ

 

 

「ん~、人が賑わってるなぁ」

 

 

客引きの声、人が会話している声、店の縁側で笑いあっている声。これは皆がいなければできないことだ。

これまで守矢の国やつい最近までいた村ではここまで活気のある感じはなかった。

妖怪の山も確かに沢山いて煩かったが、彼処は違う。皆人間じゃない。

 

『なんで青娥さん、すんなりと熊口さんとわかれたんでしょう……』

 

「そんなのおれが知るかよ」ボソボソ

 

人が沢山いるのであまり他には聞こえないよう小さな声で翠の質問に答える。

 

 

『そうでしょうか?私が思うになにか絶対裏があると思いますよ?』

 

「確かにそれはおれも思ったけど……でもそれを考えたっておれにできることなんかないだろ?」ボソボソ

 

『確かに……熊口さんポンコツですし。』

 

「翠!……お前なぁ……」

 

一瞬怒りそうになったけどここは人が沢山いる。ここで大声出したら迷惑極まりないので怒りたい気持ちをぐっと抑える。

 

 

『あれ?今なら熊口さんの悪口言い放題では……!』

 

「翠、もしそれを実行したらお前を今すぐおれの中から出すからな」ボソボソ

 

 

はあ、翠はなんでこうもおれを苛つかせようするんだか……もしかしてMなのか?

 

 

 

     グゥ~

 

 

……そんなことよりもまずは腹ごしらえだな。まだ昼飯食ってなかったし。

 

 

「んーとどこか店でもあるか……な……!!」

 

 

あ、あれは!!!

 

 

『熊口さん、どうしたんですか?』

 

「うどん屋だ!!」

 

紛れもない!あれは前世、週一で店に通うほど好きだったうどん屋だ!!

 

 

「よ、よしここで昼を済ませよう」

 

 

と、自分でもわかるぐらい挙動不審ぎみに店の暖簾を潜る。

 

何百年ぶりだ?うどんを食べるなんて……

 

 

「らっしゃいませぇ!」

 

「うわっ!?」

 

と、大きな声をだす店員。あまりにも大きな声に思わず後ずさりをしてしまう。

 

「ご注文は?」

 

「あ、うーんと……」

 

と、カウンターみたいなとこの上にうどんの名前の書いてある札をみて思案する。

 

 

「んっと、じゃあきつねうどんで」

 

「かしこまりましたー!」

 

 

いや、煩い。なんでこうも大声なんだ。

 

 

「はあ……」

 

と、カウンターから少し離れた場所に座る。

 

ああ、お腹空いた。ここのうどんはどんな味なんだろうか?楽しみだ。

 

「貴方、ここへ来るのは初めてなのですか?」

 

「え?あ、ああ」

 

「やはり……」

 

 

ひとつ席を置いたところに座っている人から話しかけられる。

一体誰だれなんだろうか……そんな疑問をを抱きつつ声のした方向を見る。

 

そこには頭巾を被り、顔があまり見えないようにされており、眼鏡をかけている女の人がいた。

女かどうかは外見ではわからないけど声からしてたぶん女だろう。

 

 

「それで、おれになんか用?」

 

「いや、特に理由があったわけではないんですが……いや、本当はあります。…………貴方はなぜそこまでも欲が変なのですか?」

 

「は?」

 

なんだ?急に……

 

 

「貴方は普通の人より欲が欠損している。今もうどんを楽しみにしているように見せて本当は布団の中でだらけたいと思っているでしょう!」

 

「な、なんでそれがわかった!?」

 

なんだこの女!?

初対面だってのにこの人はなにを言ってくるんだ!つーかなんでゴロゴロしたいってわかったんだよ……

 

 

「そして貴方、本当に人間なんですか?」

 

「へ?」

 

「貴方には生のしがらみが全く感じられないのです。普通の人間ならば少しでも長く、若く生きたいと懇願するのに。そして私も……」

 

「いや、知らねーよ。ていうかおれも生のしがらみがないって訳じゃないぞ。現に死にたくないと思っている」

 

「嘘。私を騙せるとでも?貴方は友のためなら死んでもいいと思っている」

 

「な、なにいってんだ……」

 

ほんと、この女はどうしたいんだ?意味がわからん。

というかなんかへんな気分だ。心を見透かされている、そんな気分……

 

 

「今貴方、私に嫌悪感を抱いたでしょう?まあ、確かにそれは私が急に貴方の欲を読んだから仕方がないでしょう」

 

「いや、おれはまずなんで赤の他人のあんたがおれに突っ掛かってくること疑問を覚えてるんだけど……」

 

「それは……」

 

 

と、急に考えにふける頭巾を被っている女の人。

 

 

 

「おまちどうしましたー!」

 

「あ、はい」

 

と、頼んでいたきつねうどんがくる。

おー、美味しそうだ!

 

 

「わかりました。私が貴方に突っ掛かった理由。

ずばり!私は貴方に興味を持ったのです!」

 

「いや、なんでだよ」ズルズル

 

「話している最中に食べるのはやめなさい。

……ごほん。なぜわたしが貴方に興味があるのかといえば、やはりその欲の変質さ。並の人間に大きい欲は欠陥しているのに正義感は並の人間の何倍以上もある」

 

『え!?熊口さんに正義感なんてあったんですか!?』

 

「あるわこのやろー」

 

「ん?どうしたんですか?」

 

「いや、なにも……」

 

「そうですか……それで、話を戻しますが。私は貴方のその異質な欲に興味を持ちました」

 

 

薄々だがわかった。こいつの言う欲は能力のことだろう。

たぶん人の欲を見る事ができる。そしてそれを理解する。

 

 

「普通なら簡単に人の理解をできる私が異質な欲の貴方を理解しきれていない」

 

「つまり、なにが言いたいんだ?」

 

「こういう者を私は探していました……どうか私の家臣になってください!」

 

「無理だ。飯の邪魔だからどっかへ行ってくれ」

 

 

よくわからないけどこれは確実に厄介事がおこる。

断らないのが得策だな。

 

 




ついにあの人が登場しました。格好についてですが、頭巾を被って眼鏡をかけているのはお忍びだからです。

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