東方生還録   作:エゾ末

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拾話 痛覚神経働けよ!

 

 

「はあ、なんでこうなったのか」

 

「そんな悠長なことを言ってる暇はあるのですか?」

 

 

 おれと頭巾ちゃんは今、都から少し離れた草原へ来ていた。

 なんでこうなったのかと言うとおれがこの頭巾ちゃんに家臣になれといわれ、それを丁寧?にお断りしたせいだ。

 

 

「貴方の手に少しですが中指と薬指、そして小指に豆ができていますね。これは正しく剣を扱っている証拠。」

 

 と、急にいいだし、色々あってこの草原へ連れてこられ、勝負しろと宣戦布告された。いや、したくないんだけど。

 あ、因みに現在、翠はお昼寝中だ。

 

 

 

「私が勝てば家臣になってもらいます。」

 

「え?なんで戦う感じになってんの?嫌だよ、おれしたくない。」

 

 

「そういえば貴方、刀を持っていませんね。仕方ない、私のを貸してあげます」

 

「いや、だから!」

 

「満更でもないんでしょう?否定から入っていますが。私にはわかっていますよ、既に貴方が戦闘態勢にはいっているのが」

 

「……入ってない」

 

「見え透いた嘘を」

 

 

 無意識のうちに取っていたか。おれも大概だな。

 

 

「はあ、別に戦闘狂って訳じゃないんだけどな」

 

「それは乗るってことですか?」

 

「もしおれが勝ったらうどん奢れよ」

 

「そんなものでいいんですか?」

 

「いいよ。どうせそんなに長引くことじゃないんだし」

 

「随分と余裕ですね。(ただのはったりじゃない。本当に彼は安定している……)」

 

「あと、別に刀は貸してもらわなくて結構だ。こっちで用意できる」パッ

 

「ほう」

 

 と、おれは霊力剣を生成する。ふぅ、久しぶりに純粋な剣術勝負か。

 

 

「貴方、只者ではないようですね。此方も本気で行かせてもらいますよ」バッ

 

 

 そういって頭巾ちゃんは頭に被せていた頭巾をとった。

 

 

「お、お前の髪型……ツンツンしてるな……」

 

「……癖毛です。気にしないでください」

 

 

 なんか獣耳みたいな髪型だった。ていうか思ってたより幼い顔だな。てっきり30代ぐらいの顔かと思ってた。

 

 

「それでは、この小石が地面に落ちるとともに始めます。いいですか?」

 

「そんなのいいからさっさと始めようぜ?」

 

 

 そして獣耳髪の女の子は小石を投げ、そして____

 

 

 

 

 

 

 ____落ちた。

 

 

 

「いきます!」

 

 

 と、女の子は無駄にカッコいい鞘から刀の刀身をだしながら肉薄してくる。

 ……おもってたより早いな

 

「やあ!」

 

「ぐっ……!」

 

 女の子がそのままおれに向かって袈裟斬りを仕掛けてくる。それをおれは霊力剣で防御。それにより少しの間生まれる剣と剣のぶつかり合い。

 

 

「おりゃ!」ドガッ

 

「うっ……」ドサ

 

 

 そこの僅かな隙をつき、足払いをかける。それにより女の子は軽々と転ける。

 

 そこへおれはすかさず霊力剣を女の子に向かって振る。

 しかし女の子もただ倒れるだけでなく回転して地面の着地地点を変え、おれの追撃を避け、地面に衝突した衝撃をバネにおれの足を斬りつけようとしてきた。それをおれは飛んで避け、少し距離を置いた。

 

 

「中々やるな。今避けなかったらおれの足切断されてたかもな」

 

「私こそ、あのとき体を捻らせてなかったら只じゃ済みませんでしたよ」

 

 今の身のこなしかた、これだけでもあの女の子が強いことがわかった。少なくても道義より強い。

 

 

「しかし私は皇族であり神童と呼ばれている身。この七星剣に誓って負けるわけにはいかないのです!」

 

 

 そんな掛け声とともに女の子がまたもや肉薄してくる。

 

「中々気合いが入ってるな。」

 

 

 こりゃあ手加減なんて考えないほうがいい。本気でやらないとこっちがやられそうだ。

 

 

「はあ!」

 

 お次は突きをしてきた。今のは危なかった……寸でのところで避けることが……

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 できたと思ったら背中に衝撃がきた。

 

 

「くっ、鞘か!!」

 

 

 後ろを見ると鞘があった。おそらく突きで避けたところを左手に持っていた鞘で背中を叩いたんだろう

 

 

「余所見をしてる場合ですか!」

 

「な、めんなよ!」

 

 またもや女の子は突きを仕掛けてきたのでおれは避けずに霊力剣で弾く。

 しかしその弾かれた反動でそのまま女の子は回り、また斬りつけてくる。

 それをおれはしゃがんで避け、さっきのお返しにと突きする

 

 

「んっ!」カキンッ

 

 だけど左手に持っている鞘で防御される。

 くそ、あの鞘邪魔だな……

 

 

「仕方ない、一本増やすか」

 

「……!!そんなのありですか……」

 

 

 どうにか一本で済ませようと思ったけどこれじゃあ決着がつくのに日が暮れる。そう判断したおれは玲瓏七霊剣のうち、一本を追加した。これで二刀流。おれは左手に剣を持つと″変”になるから持たず空中に浮かせる。

 

「この技は脳に負担がかかるがその分厄介だぞ」

 

「……そんなこといってもいいんですか?」

 

「いいさ」

 

 

 そういって次はおれが女の子に接近、そして斬りつける。女の子はそれを刀で受け止めるがそこにできた隙を逃さず、空中に浮いていた霊力剣がお腹を斬る。

 

 

「ぐっ……」

 

「刃は潰してある。斬っても血は出ないだろ」

 

「くっ、私に情けをかけてるのですか……」

 

「いや?さっきからの話だとお前、中々偉いご身分そうだから傷つけたらめんどくさそうだなあっと思って」

 

「そんなもの、必要ありません!次は刃を潰さずにきなさい!」

 

「……やれやれ」

 

 

 確かに勝負事に情けをかけるのは強者にとって屈辱でしかないらしいからな。おれには全くないけど、かけてもらえるなら存分にかけてほしい。

 

 

「んじゃ、続きやるか」

 

 

 おれはまたさっきと同じ方法をしようと女の子に接近する。

 

 

「一流には二度同じ手は通じないんですよ?」

 

「……な!?」

 

 

 そしてまたおれが斬りつけ、それを受け止められたところに霊力剣で斬りつけようとしたところ、そこにおれの隙ができたようで受け止めていた刀を引っ込めた女の子が押し寄せる二つの剣を軽やかに避け、おれを斬りつけた。

 その動きに少し反応が遅れ、おれは避けることができずに刃がおれの腹の肉を切断した。

 

 

「くっ……あ、あぶねぇ。かすった……だけか……」

 

「ちっ、あと少しだったのに……(あれ?完全に斬った感覚があったのに……)」

 

 

 や、やばい。あれは完全に斬りにきた感じだ。もしあのとき完全に斬れていたら……考えるだけでも恐ろしい……ていうかあいつ、おれを家臣にするんじゃなかったのか?完全に殺しにきてるよ……

 

 

「貴方のその浮いている剣、それに集中しているせいで本体である貴方に隙ができていた。その技は今回の戦いにおいて役たちそうもないようですよ?」

 

「ああ、確かにこの腹の傷はこの霊力剣に集中していて、そしてまた斬れると油断したからできたものだ。……だからな」

 

「……?」

 

「おれはこれから、一切の油断をしない。次で決めるぞ!____『玲瓏・七霊剣』!」

 

「なっ!?」

 

 そしておれは剣の切り札、玲瓏七霊剣をだした。この技は一度に6つの剣がそれぞれ別の動きをして、まるで意思を持っているかのように斬りつける。これは多大に脳に負担がかかるため、長時間維持することが出来ない。15分が限界だな……しかし、この技を破られたことは一度としてない。←(幽香に攻略されかけた事を忘れている)

 

 

「七つの光る刃……美しい…………いや、今は勝負の真っ最中!これしきの事で負けてたまるか!」

 

「いくぞ!!」

 

 

 そしておれと女の子はそれぞれ相手に向かって走りだし、決着をつけるため、剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______________________

 

 

 ~夜中~

 

 

「あれ、ここは?」

 

「都の中だ。といっても街道だけどな。」

 

「そうですか……私は、負けたのですね」

 

「ああ」

 

 

 あのあと、結局女の子はおれの玲瓏七霊剣を破ることは出来なかった。粘ってはいたものの、手数の差が激しく、女の子の持っていた刀を弾き飛ばした後、おもいっきり斬りつけて気絶させた。

 そして現在、女の子をおぶって都の中を歩いている。

 

 

「貴方、やはり刃は潰したままでしたね」

 

「まあな。別に殺しあいって訳じゃないし」

 

「まあ、今回は許しましょう。現にもし刃を潰されてなかったら私は死んでいましたし」

 

「だろ?」

 

「……ところで、今何処へ向かっているのですか?」

 

「ん?うどん屋」

 

「え?」

 

「え?じゃない。約束しただろ。勝ったら奢って貰うって」

 

「あ、そうでしたね。でも今は……」

 

「そういえばまだ名前いってなかったな。おれは熊口生斗、人間だ」

 

「あ、はい。私は豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)。家臣にならないというのなら素性は教えられませんが、皇族です」

 

「ふーん、神子か」

 

 

 豊聡耳ってのはなんか聞いたことがあるけど……まあいっか。

 

 そして、漸く昼に行ったうどん屋にたどり着いた。

 

 

 

「あ、彼処だ……ってもう閉まってんじゃん」

 

「でしょうね。もう辺りも暗いですし」

 

「はあ、それじゃあどうし……ようか……ね?……」ドサッ

 

 

 あれ?

 

「え?大丈夫ですか!?」

 

「ありゃ、なんで、だろうな」

 

 なんでおれ、倒れたんだろう……ていうか体に力が入んない。

 

「あ、貴方!お腹の傷が!!」

 

「え?……あ」

 

 

 原因はこれか。かすっただけと思ってたけどどうやら思いっきり抉られていたらしい。ここから血があふれでている。

 

 

「なんかぼーっとするなぁ、て思ってたら……これだったんだな」

 

「そんなこといっている場合ですか!?」

 

 

 おれの痛覚神経の無能さに腹がたつよ、まったく。麻痺してんじゃねーのか?

 

 

『ふあぁ、よく寝た……げっ、もう夜じゃないですか』

 

 

 翠、今頃起きたのか……ていうかよくあんな戦闘が行われている中眠れたな。

 

 

「早く!早く治療しないと!!」

 

「あ……そうか?別にしなくても……」

 

「なにいってるのですか!これは私の責任!貴方を必ず助けます!」

 

『え?今どんな状況なんですか……って熊口さんお腹から緑色の液体が……!!』

 

 赤色だ馬鹿野郎。こんなときにふざけている場合かっての……

 

「必ず、救ってみせます!人々を導く者として!」

 

「え……あ、はい。……よろしく」

 

『まあ、頑張ってください。死なないことを祈ります』

 

 

 

 ……はあ、中々めんどくさい事態になった気がする。

 

 そんなことを思いつつおれは意識を手放した。

 

 

 


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