東方生還録   作:エゾ末

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あの二人が登場です。
因みに仲はあんまりよろしくありません。


拾弐話 観察という名の覗きだろ

 

 

とある日、突然屋敷に太子様によって運ばれた者について私(と阿呆)は太子様の休憩しているところを見計らって質問をした。

するとその質問の答えはあまりにも理解しがたいものであった。

 

 

 

「私はあの者に敗けました」

 

 

そう太子が告げた時、私こと蘇我屠自古は驚愕した。

え、なぜ太子様があんな畜生に敗けたなど嘘をつかれているのかが理解できない。

 

 

「我には判りませぬ!何故太子様がそのような見え透いた嘘をいっておられるのか!」

 

 

うわ、隣の阿呆と同じ考えだった。最悪。

 

 

「嘘などではありません。現に今私に巻かれている包帯の部分は、前の戦いの時に斬られ、負傷しています」

 

「あの者の方が重症ではありませんか?」

 

私も太子様に対しての疑問を問いてみる。

 

「あの者……生斗は、刃を潰して私と戦っていました。」

 

「「な!?」」

 

 

あの畜生、そんな無礼まで働いていたのか!真剣勝負に情けなど相手にとっては屈辱の極み、ましてや太子様にその行為をしでかすなど切腹ものだ。……まあ、太子様に刃を向ける時点で切腹ものだけれども……

 

 

「許せぬ!あのなまとという奴!我が葬ってくれよう!」

 

 

阿呆はひとまず黙ってろ。それに今太子様『せいと』って言ったのに何故『なまと』なんて間違えるんだ。

 

 

「待ちなさい、布都。生斗に危害を加えてはいけません」

 

「な、何故止めるのじゃ!?太子様!あのような無礼者、さっさと始末して……」

 

 

「生斗には、傷が治り次第貴女達の剣術指南役になってもらいます。」

 

「「は、はあぁ~!?」」

 

 

また阿呆と言葉が被ってしまった。でも仕方ないだろう、あまりにも意味のわからない事だからだ。私と阿呆があの畜生の剣術指導を受ける?死ねるぞ。

 

 

「あんな無礼者の指導なんてきかねますぞ!我、そんな事するぐらいならば死にますぞ!?」

 

 

なんなの?何この阿呆、もしかして私の心読めてんの?なんで私の思ってたことと同じこと言う。そんなに私の事が好きか?もし本当に好きなら死んでくれ。

 

「反論は受け付けません。頑張ってください。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~生斗の部屋の目の前(縁側)~

 

 

「なんであんたまで来るの?あっち行け、そして乗るな」

 

「うるさいぞ屠自古!気づかれてしまうであろう!」

 

「……いや、あんたの方がよっぽど煩い」

 

 

現在私(と阿呆)は生斗という輩の部屋の前にいる。

当然、観察するためだ。

私は不本意であれ、太子様の言うことならばどんな無理難題であろうと受ける自信はある。

今回もその類い、ということでどんな輩か観察をするのだ。

 

 

「ふふふ、この懐刀であやつを葬って……」

 

「おいこら阿呆、太子様のおっしゃった事をもう忘れたのか。危害を加えるなと言っていただろ」

 

「あ!忘れておった!!」

 

「煩い!」

 

『ん~?誰かいんのか?』

 

 

くそ、この木偶の坊のせいで計画がパーになるところだった。

 

 

「おい布都、お前は一旦どっかへ行け。できれば土の下」ボソボソ

 

「なんでじゃ、土の下はおぬしが行け。そして我がここを見張る!」ボソボソ

 

 

はあ、この野郎、なにドヤ顔してんだ。ドヤ顔する要素ひとつもないだろ。何故した?何故ここでした?

……いけない、この阿呆に付き合ってる暇なんて無い、兎に角観察だ。

そう思いつつ私は障子をほんの少しだけ開け、部屋の中を見た。

 

 

「な!あの無礼者、女を連れ込んでおる!許せぬ!」ボソボソ

 

「いや、あれは守護霊らしい。昨日直接会って話したから分かる」ボソボソ

 

「それは真か!?是非とも我とも話してもらいたいものじゃ!」ボソボソ

 

 

ほんとこいつ煩い。どっかいってくんないかな?邪魔にしかなってないんだけど……

 

 

「なあ、翠。水もってきてくれよ」

 

「それぐらい自分でとってきてくださいよ」

 

 

おっと、阿呆に集中している間に中の二人が話始めた。ここは聞いておかねば……

 

 

「いや、おれ怪我人。動けない。おーけー?」

 

「動けないというなら一回死ねば良いじゃないですか。痛みも無くなりますよ」

 

 

なんか物騒極まりないぞこの守護霊!?

 

 

「いやぁ、別にいいんだけどなぁ」

 

 

そしてあの男も肯定してる!?!

 

 

「それに熊口さん、お手洗い行くときいつも普通に動いてるじゃないですか」

 

「まあ、そうだけど……めんどいんだよ」

 

「はあ、このマダオが」

 

 

私の視点からだとこの守護霊、物凄く毒舌なんだけど……

 

 

「仕方ないですね。この超絶美人で心優しい私が注いできましょう」

 

「本物の超絶美人で心優しい女の子は自分の事を自画自賛なんてしないぞ」

 

 

もっともな意見だけど……あの守護霊、それを言えるだけの顔は整ってるからあまり正論には聞こえない……

 

 

「なあ屠自古、あの守護霊……」

 

 

やはり布都も思うか、あの守護霊が毒舌だと言うことを……

 

「かっこよくはないか!」

 

「は?」

 

なにいってんの、この阿呆。

 

 

「このご時世、女は男よりも下になっておるというのにあの守護霊は男に対しても全く臆することなく罵倒しておるのじゃぞ!太子様ですら女だと不便だからと男と成り済ませているというのに!」

 

「シッ!煩いぞ!」

 

 

こいつ、学習というものを知らないのか?

もしそのせいでバレたらお前のもっている懐刀で刺すからな。

 

 

と、そんなことを思っている間に、反対側にある襖を開け、守護霊が何処かへいってしまった。おそらく水を注ぎにいったんだろう。

 

 

「はあ~」

 

 

一人になった途端、男は背筋を伸ばし、気の抜けた声を出す。

 

 

「あ、そういえば翠、井戸までたどりつけるんだろうか。まだ日が照ってんのに」

 

 

ん、この男、さっきの守護霊の身を案じているのか?少し感心するな。

 

 

「ま、いっか。取り敢えず寝よ。こんなにぐーたらできるのなんてそうは無いんだし」

 

 

そういって男は布団の中へ潜り込む。

 

 

「あやつ、もしかして駄目な奴なのでは」ボソボソ

 

「いや、ただ動けないから休んでいるだけでしょ」ボソボソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~5分後~

 

 

「熊口さーん、貴方私を殺す気ですか?よく思えば井戸外にあるじゃないですか」

 

「あ、やっぱりそうだったか。ま、いいだろ。おれ眠たいから寝るわ」

 

「そうですか。それじゃあ夕飯はいりませんね」

 

「何故そうなる!?夕飯時は起こしてくれよ!?」

 

「えー……あ!そうだ!熊口さん餓死しましょうよ!それなら自殺より長く生きられるし食費も浮きます!翠ちゃんないすあいでぃあ!」

 

「いや、お前殴るぞ。餓死がどれだけ辛いとおもってんだよ。もし次そんな質の悪いこといったら太陽の下、物干し竿に吊るすからな」

 

「ちょ、ちょっとした冗談ですよ。ほんとにするわけないじゃないですか。だからお願いします。それだけは勘弁してください」

 

 

うん、やっぱりこの二人の会話、どこかしら狂気を感じる……特に守護霊。

 

 

「す、すごい。流石は守護霊じゃ!」ボソボソ

 

「……あんたの脳内であの会話がどう聞こえてんのか気になってきた」ボソボソ

 

いや、やっぱみたくない。どうせ脳内お花畑なんだろ、どうせ。

 

 

「んじゃ、寝るわ」

 

「お休みなさい」

 

 

お、どうやら寝るようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ私も少し寝ましょうかね」

 

暫くして、男の寝息が聞こえてきた頃、守護霊も寝ると言い始めた。

そうか、それならこれから観察してもあまり意味無いか。

 

 

「それじゃあ我らも戻るとするか」

 

 

それもそうか。と、私が障子を閉めようとしたとき、思いもよらない光景を見てしまった。

 

 

 

「「きゃあああああああぁ!!!?!?」」

 

 

「うわ、なんだ!!?」

 

 

守護霊が、お、男の中に入っていってる!?

 

 

「どうした、お前ら!?」

 

と、私と布都の叫び声に驚いた男が起きて障子を開けてきた。

 

 

「あ、屠自古さん」

 

「あ、あぁ」

 

 

守護霊はまだ男に下半身が入って上半身だけの状態で私の名前を呼ぶ。

 

 

「ふ、布都!」

 

そういえば一緒に叫んだ阿呆をみてみる。

…………あ、泡吹いて気絶してる。

 

 

「おいおい、どうしたんだよ。なんでこんなところで叫んだりなんか……って翠か。お前、一旦出ろよ」

 

「はーい」

 

 

と、入りかけていた体を出していく守護霊。い、異様だ……

 

 

「で?なんでお前はおれの部屋を見れたんだ?障子は閉まってたはずだけど」

 

「そ、それは観察するため………」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……あ」

 

 

 

あ、言ってしまった。

 

 

 


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