東方生還録   作:エゾ末

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言い合いにて青娥に勝るものなし!

今話は前半に前話の続きと後半は生斗と翠のイチャイチャ回です。


拾参話 そんなの聞いてない

 

 

「______と言うわけだ」

 

「ふむふむ、なるほど。神子からおれに剣術を習えと言われ、その下見としておれの部屋を覗いていたと言うことか」

 

「な!……太子様の名をきやすく呼ぶでないぞこの阿呆!」

 

「阿呆はお前だ布都、少し黙っていてくれ、できれば一生」

 

 

はあ、折角の昼寝がお釈迦になってしまった。それもこれもこの二人組のせいだ。もしこれが夜中だったら間髪いれずに爆散霊弾かましてたぞ。

 

 

「んで、そんなことよりもお前らに聞きたいことがあるだけど」

 

「「ん、なんだ?」」

 

 

この二人、仲悪いように見えて実は良いんじゃないか?

 

 

「いや、おれ。お前らに剣術を教えるなんて初めて聞いたんだけど……」

 

「え!真か!?」

 

 

うわ、この子……布都っていったっけ?……滅茶苦茶嬉しそうな顔をしてきたな。

 

 

「しかし私達は太子様の命令なので知らなかったの一言では退く事はできないな」

 

「屠自古!いちいち余計なことは言わなくていいのじゃ!あやつも知らぬと言っておるのだしさっさと戻ろうぞ!」

 

「つーかまずおれ、この傷癒えたら此処出るから」

 

「よし!」

 

 

なんだこの子、おれの事嫌いなのか?まあ好かれるような事はしてないけど。

 

「それは初耳だ、太子様に報告しなければ……」

 

 

おいおい、神子の奴、いつの間にそんな話をしてたんだ?

 

 

「あらあら、寂しい事言うのね、生斗」スゥ

 

「……青娥か。なんで態々壁を抜けて入ってくる。普通に開けて入れよ」

 

「あ、青娥殿」

 

 

あー、めんどくさいのが来たぞ。

 

 

「なに面倒なのが来たぞっていうふうな顔をしてるの。それより伝言よ」

 

「はいはい、どうせ神子からだろ。もうそのパターンは読めてる」

 

「正解、ここにいる二人の剣術指導をお願いですって」

 

「答えは勿論無理。この怪我治ったらすぐに出る。面倒事は御免だ」

 

 

道義しかり4馬鹿しかり……なんでおれが来るところ来るところで剣術を教えなきゃいけないんだ。

 

 

「そんなことをいっていいの?折角神子から救ってもらったというのに。その恩を返さないなんて……人としてどうかしら?」

 

「あ?それはおれが勝ったから……」

 

「もし神子が敗けたことを悔しみ、倒れた貴方を置き去りにしていたら……」

 

「!?」

 

「もし神子が性格がねじ曲がっていたら」

 

「……」

 

「もし貴方が刃を潰して情けをかけていたことに苛つきを感じていたら____生斗、貴方死んでいたわよ」

 

「くっ……た、確かに……」

 

 

それもそうだ。あのとき神子は自分より大きいおれを態々担ぎ、血で服が汚れることなど気にせず、此処まで運んできたと翠に聞いた。

もし神子が今青娥の言った例のように人間性がなければおれは遅かれ早かれ死んでいたかもしれない……

 

 

「わかったでしょう?貴方には返さなければならない恩がある。」

 

「…………」

 

 

これは弁明できない。正論過ぎる。

 

 

「……はあ、わかった。教えればいいんだろ?」

 

「流石は青娥殿!見事こやつを論破してくれましたぞ!」

 

「布都、あんたさっきまで教わるの嫌がってなかったっけ?」

 

「そ、そうじゃった!?」

 

 

はあ、もう少し此処にいることになってしまったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ~夜中~

 

 

「結局また青娥さんに言い合いに負けましたね~」ニタニタ

 

「(う、うぜぇ……)」

 

 

翠が物凄いにやけ顔で反対向きで寝転んでいるおれに近づいてくる

 

 

「しかも完敗!言い返す事すらできてませんでした!」プヒャ―

 

「(無視無視)」

 

 

こういうときの翠の絡みはほんとにウザいんだ。ここは寝た振りを決め込むのが最善の策ってことは長年の付き合いでわかっている。

 

 

「悔しくないんですか?え?」

 

 

うわ、こいつおれの耳元で囁いてきやがった。い、いかん、握りしめた右手が翠の顔面に向かって発射しそうだ……

 

 

「……あれー、寝たんですか?いつもならここで激怒するのに」

 

 

翠、お前もしかしてMなのか?そんなにおれから怒られたいか?

 

 

「……はあ、つまりませんねぇ。」ドサッ

 

 

「…………っ!?」

 

と、そんなことを言いつつおれの怪我してる胴体を枕代わりにして寝転ぶ翠さん。くそ、一瞬声に出す所だった……

 

 

 

「う~ん、無理に熊口さんを起こすと酷い目にあうし……下手すると殺されちゃうし……あ、私死んでるので別に大丈夫か!」

 

 

大丈夫じゃねーよ!つーか暗い事いって開き直んな!

 

 

「くーまぐーちさぁーん!おーきてー!」ドンドンドンドン

 

「ぐがががが!?」

 

 

や、やめろ!?怪我してる腹叩くな!痛い!痛いから!

 

 

「あ、これ楽しい」ドンドン

 

「やめろぉぉ!!」バサッ

 

 

たまらず起き上がる。この野郎……おれが動けないからって調子に乗りやがって!

 

 

「あ、熊口さん起きてたんですね」ニタッ

 

「……しまった」

 

 

さて、ここで問題だ。翠は実は寝る必要がないらしい。そしてさっきまでおれの悪口を言って暇を潰そうとしていた。いつもならここでおれが怒って終わるのだが、今は安静の身。激しい運動ができない。そんななか、翠の前に起きている姿を見せてしまったということは……

 

 

「ふふふ、熊口さん。私の暇潰しに付き合ってもらいますよ」

 

「断る!」

 

 

少しでも離れようと廊下へ出ようとする。しかしやはり怪我人であるおれはそこまで早く出ることができず、呆気なく翠に捕まってしまった。

 

 

「こらこら熊口さん、怪我人なんだから安静にしないと駄目ですよ?」

 

「……なら、静かに寝させてくれ」

 

「無理です。観念してください」

 

「…………」ダッ

 

「あ!待ってください!」

 

 

傷が開くのを省みずおれは走って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なに夜中で騒いでおるのだ。しかもおぬしは怪我人であろう。安静にしておれ」

 

「そうですよ。なんで逃げようとしたんですか?」

 

「…………」

 

 

くそ、途中で布都とでくわしたせいで捕まってしまった。あと翠、逃げたのはお前が理由だからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと、布都と翠がなぜかおれの部屋でお喋りを始め、あまり寝ることができなかった。他の部屋でやれと言ったが二人は揃ってそれを却下。なんで却下されたのかというと……

 

 

「嫌がらせじゃ!」

 

「嫌がらせです!」

 

 

お前ら治ったとき覚悟してろよ。

 

そう心に誓いながら布団の中に潜り込むおれであった。

 

 




ついに総話数が80話を越えましたね。
ここまで長かった……(まだ半年)

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