おれが聖徳太子……豊聡耳神子の住む屋敷に来て5日が経った。いまだにおれは布団の上での生活をしている。
はっきり言おう。最高だ。
なにもしなくても飯は食べられるし、一日中ゴロゴロしたって誰からも咎められない。……はぁ、ここは天国か?
「熊口さーん、暇です。なにか話してください。ほら、この前話した月に行った人達の話とか」
「お、それなら我も聞きたいぞ!あの話は奇天烈過ぎて逆に面白いのじゃ!」
こいつらがいなければもっと最高なんだけど……
つーかなんだよこいつら、なんで態々おれの部屋に来る?嫌がらせにも程があるだろ。
「お前ら、どっか行けよ。真っ昼間から人の部屋でぐーたらしやがって……」
「熊口さんだってぐーたらしてるじゃないですか」
「おれは怪我人だからいいんだよ。一緒にすんな」
「ふん、どうせもう治りかけてるのであろう?あまりにも元気すぎやせぬか」
「なわけないだろ。結構深くまで斬られたんだぞ。運よく内臓を傷つけなかったにしろたった5日で治るわけ…………」
そうそう、いくら腕が折れても数日で治ってしまうおれの身体でも今回は流石に1ヶ月は絶対安静だろう。
そう思いつつおれは包帯で巻かれた自分のお腹を擦ってみる。
________え?
「…………」サスサス
「ん?急に黙りこんでどうしたのじゃ?」
「お腹をずっと擦ってるってことはまだ痛むって事ですか?」
「……え?あ、そうかなぁ~!うん、痛いよ!うん!痛い!ははは!」
あっれ~?どうしよう。
怪我、もう治っちゃってる……
____どどどどうする。何てことだ。このままじゃ今までの天国ライフから剣術を教えなければならないというめんどくさライフになってしまう!
そ、それは嫌だ。折角掴んだ安らぎの時、手放す訳にはいかん。
幸い翠と布都はおれが腹が治っていることに気づいてない。これならこのままやり過ごせる。
「仕方ないですね。布都ちゃん、屠自子ちゃんの所にいきましょう」
「うむ、療養中の者の前で騒ぐと太子様にお叱りをうけるしの。あ、でも屠自子の部屋は嫌じゃ。外へ行こうぞ」
「私を殺す気ですか?」
「おうおう、いいからさっさと出ていけ」
よかった。二人ともおれの部屋から出ていってくれるようだな。
そして翠と布都のどちらも立ち上がり、襖の方へ歩いていく。
「それじゃ、熊口さんお元気でー。あ、悲しい顔をしても行きますからね。」
「いや、悲しい顔なんてこれっぽっちもしてねーから」
「嘘だー。美少女二人が出ていくんですよ?少なからず寂しいはずですよ」
「清々する、いいからさっさと行け」
「冷たいですね」
「冷たいのう」
と、襖の前で立ち止まる翠と布都。おい、さっさと行ってくれよ…………
「……もしかして熊口さん、私達をこの部屋から一刻も早く出したい理由があるんですか?」
「……!!?」ギクッ!
や、やばい!あまりにも的確な質問に驚いてしまった!
……くそ、今のおれの動作のせいで翠の顔が怪訝な顔つきになった。これはちょっとめんどくさいことになりそうだぞ……
「なんじゃ、おぬし。なにか隠していることでもあるのか?」
「いや、別に……」
「熊口さん、今の動作。なにか隠している証拠ですよね?」
「……ないって」
「ふむふむ、あくまでもしらばっくれるつもりですね」
「うむ、そうじゃの。でも男など単純じゃ、どうせ春画でもこの部屋に隠しておるのだろう。どれ、我が見つけてやろうぞ!」
と、検討外れな事をいって部屋を探索し始めた布都。
……こいつ馬鹿か?いままでおれトイレ以外にこの部屋を出たことなんてないというのにどうやって春画を買いに行く事が出来るって言うんだよ。
(と、今、熊口さんは思っているでしょう。安心しきった顔で分かります。おそらくなにか、もっと重大な…………あ、まさか)熊口さん!お腹の怪我、もう大丈夫なんですか?」
「!?!!?……いや、うん。痛いよ!今お前らにつきあってるせいで余計痛くなったよ!」
「(ははーん、さては熊口さん。お腹の怪我、もう治ってるんですね。そういえば昔、なぜか折れてた腕が2~3日でなおってましたし、たぶんもう完治してるんでしょう)でも心配ですね。少し見せてもらってもいいですか?」
「いや、いいから。さっさと布都連れてどっかへいってくれ!」
くそ、なんだよ翠のやつ。こういうときに限って心配してくんなよ……
「……はぁ、仕方ないですね。」
「ああ、早く出てい……」
「布都ちゃん!熊口さんを捕まえておいてください!」
「任された!」ガシッ
「な!?」
まさかの急襲、なぜか息の合ったコンビネーションを見せた二人は翠の掛け声と共に布都がおれの後ろに回り羽交い締めを決め、動きを止めにかかる。
ちっ、動くのが一瞬遅れて捕まってしまった……
「ふふふ、ちょっと確かめるだけです!貴方の怪我が本当にまだ治っていないのかどうかを!!」
「な、なにぃ!?」
こいつ!!気づいていたのか!ま、まさか布都も気づいていながらわざとあんな馬鹿な事を言ったのか!?それなら今の俊敏な動きにも腑に落ちる。
「なんと!こやつ、仮病だったのか!?」
あ、知らなかったのか。
「ほら!観念してお腹を見せなさい!」
「や、やめろ!おれに近付くんじゃない!」
く、どうするか……このままじゃおれの快適ライフが…………
「ほれほれぇ~、どう足掻こうが我が抑えている限りおぬしに自由など訪れぬぞ?」
くそ!見かけによらず力がつよいぞこいつ!
ど、どうすれば…………
……は、そうだ!!
「いいのか布都!お前のむ、胸がおれの背中に当たってるぞ!?」
「え…………きゃ、きゃあああぁぁ!!!?」
嘘、ほんとは当たってなんかない。
やっぱ布都は馬鹿だな、よく見ないで叫ぶなんて。
つーか煩い、耳元で叫ぶな。
……よし、拘束は解けた。このあとどうするか……あれしかないか
「うっ、布都に捕まれたせいで腹が……」
と、うつ伏せになる。そして腹を誰からも見えないようにする。
その後、ちょっとだけ包帯をほどき、治った腹に少しだけ小さい霊力刃でほんの少~しだけ切る。
……おう、ちょっとくすぐったいような痛いような感覚が……
まあ、取り敢えずこれで準備完了。包帯を結び直してうつ伏せの状態を止める。
「今なんかもぞもぞしていましたけどなにしてたんですか?」
「いや、ちょっと腹を擦ってただけだ。」
怪訝気な顔で質問してくる翠。ふふふ、気づいてないな……おれが細工していたことに!
「くっ、おのれ……我の胸を触るなど無礼な行為をしでかすなんて……死して償え!」
と、後ろでなんかいってる布都ちゃん。
「いや、胸実際当たってねーから。自分で当てないように締めてただろ」
「問答無用!!」
「うわ!?」
なんだよ、いきなり殴りかかって来んなよ!?反射的に立って避けてしまったじゃないか!
「まだまだぁ!!」
「な、やめろってこら!」
避けられたことに余計腹が立ったのか何度も殴りにかかってくる。
「ん、ちっ、当たれ!なぜ当たらぬのじゃ!」
「そ、れは戦闘、経験の、差だろ!」
挙げ句には蹴りまでかましてくる布都。
いい加減諦めろよ!?
「熊口さん」
「なんだ翠?今取り込み中なんだが……うえ!?今のは危なかった!」
「ちっ、後少しでおぬしの脳天に我の拳が届く所だったというのに……」
「……動けてますよね?」
「は?なんだって?」
「余所見をするでない!」
「少しは怪我人を労れお前は!」
「怪我、治ってますよね!!」
「え?怪我が治ってるって?………………あ」
「あ」
え~と、うん、これは~……言い訳出来ないかなぁ。
……いやしかし、ここで諦める訳には……
「ほら、アドレナリンというやつだよ!」
「あどれなりん?なに意味のわからないこといってるんですか。」
「ほ、ほら!包帯に血がついてるだろ!」
さっきおれの仕込んだ血だ!
「ふん!」
「ごへっ、?!」
翠から急に腹パンされた。い、痛てぇ……
「ほら、今殴りましたけど悶絶するほどじゃなかったでしょう?もし治っていなかったら想像を絶する痛みで悶絶するはずです」
「あー!痛い!やっべぇー!し、死ぬ!み、翠なにしやがるんだ!!」
「…………」
「……見苦しいのう、いい加減白状した方が身のためじゃぞ」
「うっ……」
どうする……他に手は!?……駄目だ、言い訳をしたらこいつらに襲われる。それに無抵抗じゃないといけないが、そんな我慢出来るわけがない、袋叩きなんてごめんだ……
でもどうすれば……逃げる?駄目だ。気絶のふり?駄目だ、叩き起こされる。多少無理矢理にでもこいつらを追い出す?絶対に無理だ!!
あ、これ駄目だ。詰んでる。
結局、おれは怪我がなおっていることを白状した。
そしたら二人はハイタッチをしておれを見下すように見てきた。
……なんだこいつら、人を弄んでそんなに楽しいのか!!
今回生斗くんがお腹を切ってその感想が『くすぐったいような痛いような』とか、いってましたが実際は普通に痛いです。カッターで指を切るより痛いです。