ということで拾陸話です。どうぞ!
「はあ!や、たあ!」
「おっと、ほい」カツッカッカッ
あれから何分が経過したか……結局おれが屠自古に先手を譲り、受けに回っている。
ん?なんでおれが受けに回ってるかって?そんなの決まってるだろ、屠自古の剣術を全て見切って格の違いを見せつけるためだ。ふふ、今屠自古の苛ついてる様、滑稽だ!!
……あれ?おれ今屑っぽい顔してない?
「熊口さんの屑ー!ちゃんと戦えー!」
「逃げてばかりじゃ何も始まらんぞ阿呆!」
と、あそこにいる馬鹿二人組からの罵声が聞こえているが無視無視。
「こら、二人とも静かにしなさい!」
そして二人とも神子に叱られてやんの。ざまみろ。これまでおれを弄った罰だ!
「いい加減!木刀を振れ!」
「お前がおれを本気を出させるような攻撃をしてきたらな~」
「ちっ……!」
実際そうだ。屠自古の剣は止まって見えるほど遅い。これまで窮地を乗り越えてきたおれからすればよくこんな有り様で喧嘩を売ってこれたなと逆に感心するほどだ。
これなら別に剣術指導を施してない射命丸の方がよっぽど強い。
「いいか?剣を振るときは力み過ぎると逆に遅くなるんだ。もっと力を解して、斬る!って時に思いっきり力を込めるんだ。そうすれば今よりかはましになる」
「敵の指図など受けん!」ズバァ
「はあ……」ヒョイ
こいつ、聞く耳を持たないな。たぶんおれに避けられすぎて頭に血が上ってんだな、きっと。
「んじゃ、お手本を見せてやる」
しゃーない。まだ振るつもりは無かったが相手が血が上っては格の違いを見せつけてもあまり意味はない。ここはおれの渾身の一振りを見せつけて、我に帰らせるか。
そう思いつつおれは屠自古から一旦距離をとる。
「あ、逃げるな!」
さて、こういう場合は居合いが定番だが、生憎おれは抜刀術というものがあまり得意じゃない。いや、得意云々の前に抜刀する刀がない。だってその場で霊力剣を生成して斬りつけてんだよ?抜刀も糞もないじゃないか。だから今からおれが見せるのは『唐竹』。上から下へ斬るやり方だ。別に袈裟斬りでも良かったがこっちの方がなんかカッコいいだろ?
「見とけ屠自古。これが本物の斬り方だ!」
「(自分で言ってて恥ずかしくないんですかね、熊口さん)」
「(な、なにが始まるんじゃ!?まさかあやつ、逃げるつもりか!?)」←的外れ
「(あの構えは袈裟斬りか唐竹。あのとき、私との戦いでさえ本気を出していなかった生斗の必殺の一振り……いったいどんなものなのか……)」
「何をする気だ!」
「まあ、みとけ」
おれの予想だとたぶん空を切る音が凄まじすぎてここら一体に大風が吹くだろうな!
_____よし、いくか!!
そう覚悟したあと、おれは思いっきり木刀を振り下ろした。
「……!!」フオォン!!
…………シ~ン…………
あれ?何も起こらないぞ?かなりの霊力を木刀に込めたし、自分の持ってる技術を詰め込んだ。
それなのに少しの風も巻き起こらず『フオォン!!』の音だけ?
え、え、えぇ……物凄く落ち込むんだけど……つーか恥ずかしい、あんなになにかある感だしといて何もないとか恥ずかしい過ぎる……よし、取り敢えずグラサンを目の方に持っていって恥ずかしさをまぎらわしておこう。
「く、熊口さん……」
「なんだ翠、またおれを馬鹿にすんのか?」
するならしろよ、今のおれには翠の罵声なんて聞き流せるぐらい落ち込んでんだ……
「違います!前を見てください!前!」
「えぇ~、なんだよ。前には何もないぞ。奥に屠自古がいるぐらいで……」
翠が珍しく驚いたような顔をしてきた。
なんだよ一体……と、前の方を見てみる。すると……
「え……」
え、どういうこと?なにこれ……
「空間が……」
「歪んでる?」
そう、空間が歪んでいた。なんかおれの目の前に真っ直ぐ、つまりおれが今『唐竹』というやり方で斬った箇所だ。
_____ってことはつまり……
「お、おれすげぇ!!え!まじか!空を斬るどころか空間斬っちゃったよ!!」
「……す、凄い」
「なんか喜び方が苛つきますが……たしかにこれは凄いとしか言いようがありませんね……」
「な、なにが起こったのじゃ!?なぜあやつの目の前が歪んでおる!??」
「……くっ……」
なんだこれ……えぇ、おれ、こんなこと出来たのか!これまで一回も試した事なかったから気づかなかった……
シューン……
あれ?歪みが消えた……元に戻ったのかな?
「おい、お前……」
「なんだ、屠自古。もう負けを認めんのか?それはおれが認めないぞ。」
「いや、負けを認めた方がいいのはお前の方だ。右手に持ってる木刀を見てみろ」
「は?何を言って…………おう」
なんてこった。木刀の半分が綺麗に無くなってる……ま、まさかおれが今やったのが原因なのか!?
確かに空間を斬ってるんだ。並大抵の耐久力じゃ折れても仕方ない……うん、どうしようか。これじゃあ満足に戦えないぞ。……でもまあ、これぐらいの長さなら行けるか。
「ま、いっか。ほら、かかってこい」
「なっ……お前まさかその折れた木刀で私とやりあうつもりか!」
「ん、そうだけど」
「私を舐めるのも大概にしろ!」
「そう思うなら倒してみろ。おれからしてみればちょうどいいハンデだと思うが」
相手が剣の達人なら兎も角、幼少の頃にちょっとかじった程度のやつに負ける気なんてしないからな。
「ちっ……本当にそのままでやるつもりか?」
「あたぼうよ。」
「…………」
おっと、急に屠自古のやつが黙ったぞ。
あ、わかったぞ。あれだな、ちょっと静かにした風に見せて『なら致し方ない。死ねぃ!』とかいって攻撃してくるやつだな。昔、諏訪子のおやつ勝手に食べたときそんな感じだったのを覚えてる。
「……なら仕方ない」
お、予想通りだ!
「私の敗けだ。お前の言う通りにする」
「は?」
なんでだよ!ここは激昂して襲いかかってくるのをおれが華麗に一本とるというシチュエーションが破綻するじゃないか!
「無理だ、おれの剣術を披露できてない」
ここは当然否定の意思を示す。
「そんな折れた木刀では満足してその剣術を披露も出来ないだろう。それに十分すぎるほどに伝わった。私に″剣術では”勝ち目はない。だから降参する」
な、なんて勝手な……少なからずおれ、馬鹿にされたこと傷ついてるんだぞ?
「でもおれは認める訳に……」
「いいじゃないですか、生斗。屠自古が負けを認めているのならそれを受け入れても」
「いや、でも……」
と、おれが屠自古の負けの申し出を断ろうとしたら神子がそれを阻んできた。
「そうだそうだー!熊口さん大人げないですよー!」
「ん、なんじゃ翠殿。生斗は大人じゃなかったというのか?」
「ええ、布都ちゃん。あれの精神年齢は幼児以下です」
「おいそこの馬鹿二人、お前らは3日ぐらいおれの前に姿を現すな」
ったく、あいつら神子の後ろで言いたい放題言いやがって……
「はあ、仕方ない。今回は仕方なく屠自古の申し出を受けてやるか。」
「そうしてくれるとありがたい」
「でもな屠自古、お前は明日から剣術の指導はさせん」
「……え?」
「はっきり言ってお前に剣術の才能がない。だから霊力操作について教えてやる」
霊力操作は剣術と同じくらい得意だ。屠自古には剣術の限界が知れているのが今回、少しやりあっただけでわかる。だからこその方向転換、強さは剣術だけではないんだ。屠自古を強くするなら基礎中の基礎、『霊力操作』を教えるのが妥当だとおれは判断したのでそれを提案した。
「霊……力?なんだそれは?」
「は?」
と、おれがなんで屠自古に霊力操作を教えるのか頭のなかで説明していると急に屠自古から予想外な事を聞かされた。
「おい、まさか『霊力』を知らないのか?」
「知らん、太子様は知っておりましたか?」
「いいえ、初めて聞きました」
おいおい、まさか神子も知らないってのか……それなのにあんなに強かったのか……
「我も知らんぞ!なんじゃ霊力とはなんぞや!」
うん、布都。お前は予想できてた。
それにしても_____
「こりゃ、最初の方から教えなきゃなぁ……」
面倒な事になりそうだ。
あれ、そういえば青娥も霊力扱えてたよな?ならあいつに教えさせた方が良くないか?
よし、そうしよう。今は青娥のやついないようだが帰ってきたら取っ捕まえて教えさせよう。おれが楽するためにもな!!