次話こそ……次話こそ終わります!
「神子の屋敷からでろ?」
「そうじゃ。目を覚めたら直ぐに荷物をまとめて屋敷から出ろ。」
ある日の夜。俺が就寝するとともに
もはや見慣れた和式の部屋を来た。どうやらまたおれの魂を神のいる所へと連れてこられたようだな。
そして呼んだ本人の開口一番がこれ。ふざけてるのか?
「神、まだ1年しか経ってないんですよ?なんですか、妖怪の山で100年も過ごしたから神子の屋敷は1年で我慢しろってことですか?」
「いや、そういうわけではないんじゃが……」
何故か悩んだような顔をする元老けた老人の美少年。あまりのカッコよさから仕草の一つ一つに輝きを持ってるかのようだ。うん、ムカつく。そのスカした顔に1発キツいのをお見舞いしたいところだ。
「……神に対して失礼だとは思わんのか」
「あ、そういえば神、おれの考えてることがわかるんですね。ならもう口に出していっていいですか?」
「失礼な態度と分かっていても悪びれない君の神経の図太さにはもはや尊敬に値するのう……」
お、褒められた。悪口言われて褒めるなんて……もしかして神ってM?
「最近君、あの守護霊の口悪さが移ってきてないか?もしくは毒されたか」
「翠と一緒にしないでください。あいつはおれなんかよりもっとえげつないこと言います。例えば見た目は子供、中身はクソジジイ。その名も_____」
「仏の顔も三度までということわざを知っているじゃろう?」
「はいすいません自重します」
くっ、日頃のストレスの掃け口にしようとしたのがバレたか。
「神をストレスの掃け口しようとは……ああもうよい!話が一向に進まん!」
「話なんてしませんよ。まだおれはあの屋敷を出る気はありませんから」
「あ!最初からそのつもりで話を逸らせたんじゃな!そうはさせんぞ」
「されてましたけどね」
「煩い!」
珍しく神がご立腹のようだ。おれのせいだけど。
「……ごほん、まあ君があそこに残りたいのはわからないでもない」
「でしょ」
「だから今回は任意じゃ。出ていくなら出ていく。出ていかないのならそれでもいい」
「……?」
なにをいってるんだ?出ていかなくてもいいのなら絶対に出ないぞ、おれ。
「だがワシが勧めるのは出ていく方じゃな」
「それは神は平凡より非凡が好きだからでしょ」
「ふむ、確かに好きじゃが今回は違う」
「?どういうことですか」
どうせ神のことだから平穏な生活を見るのが飽きたから旅を促して来てるのかと思ったけど、今回もそうなんじゃないのか?
「ワシはなぁ……あんまり悲しいのは好みじゃないんじゃよ」
「は?悲しい?」
さっきから神は何をいってるんだ……全然読めない。まず悲しいのが好みじゃないなんて急に言われてもなんて返せばいいかわからない。
「ま、そういうことじゃ。」
「そういうことじゃって……勝手に自己完結しないでください」
「覚悟があるのならワシは君があの場に残ることを拒む事はせん。だが、ワシ的には出ていってもらいたい」
「はあ……」
「まあ、ワシと君との仲じゃ。君がいる世界の住人の誰よりも古い仲のワシの頼みを聞いてくれないはずがないじゃろう」
「はい、わかりました。留まることにします」
「ワシと君はその程度の仲なのじゃな……」
自分の都合で折角築いた生活をぶち壊しにしてくる神の頼みなんて聞いてやる道理はない。転生させてもらったことには感謝しているがそれ相応にぶち壊しにされたんだ。敬語を使ってあげてるだけでも有難いと思ってほしい。
「いや、確かに君に対して酷い扱いをしてることは認めるが、流石に敬語をつかってあげてるってのは違うんじゃないかの?」
「ついでにプライバシーのへったくれもない。侵害すぎる」
「こいつ!ついに声に出しおった!」
そのあと、久しぶりに神と軽い口喧嘩をした後、屋敷に留まると神に伝えておれは目覚める事にした。
「知らんぞ!本当に知らんからな!ワシの忠告したことに従っておけばよかったと後悔することになることは明白じゃぞ!」
と、気が遠くなっていくなか、神が諦めず抗議を続けていたがおれは気にしない。
悲しいのは好みじゃない。神が言ったその言葉に引っ掛かるものがあるがもしかしたらヤバイ状況にでもなるのだろうか。まあ、敵云々なら幽香や鬼達が攻めてくる以外ならなんとかなるだろう。気楽に構えるとするか_____
_________________________
『太子様!太子様!お願いです!目を覚ましてください!!』
『なぜこんなことに……我はこれからどうやって生きていけば……』
『私があのときもっと注意深く見ていればこんなことには…………!』
神……あんたが好みじゃないってそういうことだったのか。うん、おれも悲しいのはあまり好きじゃないよ。まさかこんなことになるなんてな……
事の発端は今朝だった。
魂を戻され目が覚めた後、おれは布団の中でごろごろしていた。いつもならそうしていると翠から罵声を浴びるのだが、この日はおれの中に翠は居なかった。おそらく布都の部屋に泊まったのだろう。
そう気楽に考えつつ、朝飯が来るのを布団のなかにくるまりながら待っていた。
___でもいくら待っても朝飯が来ることはなかった。
いつもなら朝食を取りに来なかった場合、使用人の誰かがおれの部屋に持ってきてくれたいたんだけど今日はいくら待っても来る気配はなかった。
でも、部屋の外からはドタドタと慌てたような足音がさっきからなり続いている。
そして腹を空かせたおれは朝から騒々しいなと文句ついでに厨房へと布団にくるまりながら向かっていると、使用人の一人がおれの向かう反対方向から走ってきている姿が見えた。
「おい、走ってると神子に叱られるぞ」
使用人が走っているのを咎めると使用人は1度おれの前で止まり、焦った声でおれに……
「熊口殿!何を馬鹿な格好をしておられるのですか!……いや、そんなことより……!」
馬鹿な格好と言われ、今の格好が少し恥ずかしくなったが、そんな羞恥心も使用人の次の一言で消え失せた。
「太子様が毒に犯されました!!」
その瞬間、頭が真っ白になったとともに布団がおれの身体から滑り落ちた。
大急ぎで神子の部屋に行くとそこには人だかりができていた。それを押し退け、神子の部屋に入るとそこには布団の中で目を瞑る神子とその周りに屠自古と布都、青娥、翠がいた。屠自古と布都は神子の布団にしがみついて泣いている。
神子は毒を盛られた訳ではないらしい。自分で毒を飲み、犯されたとのこと。
なんでそんな馬鹿なことをしたんだと青娥を問い詰めると、本当は毒なのに不老不死をもたらすと伝われていた丹砂を飲んだせいだと説明された。
青娥は前から神子が丹砂を所持していたことを知っており、それを没収したらしいんだがどうやら神子は丹砂を複数所持していたようで、この状況に青娥は悔しそうに唇を噛んでいた。
たぶん、神子と自分への怒りからだろう。強く噛み締めすぎて口の端から血を流していた。
何度もボソボソと『私があんな単純なことに気づかないなんて……』と言っていたのでおれの解釈はあってるだろう。
結局、今日は青娥が神子に何らかの治療を施していたが神子は起きることはなかった。
そして現在、あまり寝付けないおれは縁側に座り、黄色く輝く月を見ながら遥か向こうにいる旧友達のことを思い出していた。
小野塚やトオルは今も元気にしているだろうか?おれが地上にいた時間自体は200年程度だが、何分土の中に埋もれていた期間がある。その間は神の発言からしてかなりの時間が経過していると思う。
あいつらとは25年程度の付き合いだったが、今でもおれのことを覚えているだろうか。忘れられていたらなんだか悲しくなる……
おそらく、神子は尸解仙になる。仮死状態となり、永い時を経て依代に憑いて仙人となるのが尸解仙のなり方だ。
永い時がどれくらいなのかというと100年~1000年と曖昧で正確にはいつ尸解仙になれるのかはわからないらしい。
おれが今月の皆を思い出しているのはこれが原因だ。いつかまた会えるとはいえ身近な人が何百年以上も会えないなんて寂しい……洩矢や妖怪の山の皆は確実に元気にしているので別にいいんだが。
「熊口さん。そこで何をやってるんですか?」
と、後ろの方から声がかかってくる。声からして翠か。
「どうした、布都の所で寝てるんじゃなかったのか?」
「布都は……今は寝ています。私はちょっと夜風にあたろうと出てみたんですが……まさか熊口さんに会うなんて、今日はほんとに厄日です」
「……はあ……」
今は翠の毒舌にも全然苛々しない。そもそもそういう気分じゃない。
チラッと翠の顔を見てみたが目元が腫れていた。どうやら翠も布都と一緒に泣いていたらしい。
おれが翠の顔を見て、今の考えを察知したのか、翠はの隣に来て腰を下ろし、不機嫌そうな口調でおれにこんなことを聞いてきた。
「熊口さんは……神子さんがもう長くないのを知っているのに泣かないのですね」
「……」
そういうことか。翠は神子が尸解仙になることを知らないらしい。まあおれも青娥に聞くまでは尸解仙の存在すら知らなかったんだけど。
「男は、泣かない生き物なんだよ」
ここは少しカッコつけてみる。
「友人のために泣くぐらいの気概はあると思ってたんですが……熊口さんの友人に対する感情がどれぐらいなのかはよくわかりました。」
どうやら翠は他の意味で捉えてしまっているらしい。うん、カッコつけるんじゃなかった。
ていうか翠、こいついつも以上に不機嫌だな。まあ、仕方のないことだが。
「翠、もうそろそろ旅の準備をしとけ。」
「……貴方って人は!!今そんなことを言っている場合ですか!!」
翠が珍しくご立腹のようだ。もしかしたら人を怒らせる才能が目覚めたのかもしれない。
「私は……友人として神子さんの最期を見届けるつもりです」
「……」
「あのときみたいに貴方の口車に乗ってしまい、早恵ちゃんの最期を見れなかった、ということは嫌ですから」
……口車?なんか語弊があるような……
まあ、いい。実際に翠が早恵ちゃんの死に際をみれなかったことを後悔していた事は知っている。
ただ、翠は今勘違いをしている。
「翠、神子は死なないぞ。いや、死んでも生き返るか」
「…………!!……なにをいってるんですか?神子さんは熊口さん見たいなゴキブリ並みの能力はないはずですけど。嘘をつくのならもっとましなのにしてください。趣味悪いですよ」
おう、翠さんがちギレだ。なんだよ、おれ嘘なんかついてないぞ。もういっそのこと尸解仙になることを教えようか。別に隠すことでもないし……
「あのな翠……実は神子……「ふん!」ぐあっ!?」バキッゴーン…
尸解仙の事を話そうとしたら顔面を殴られ、吹き飛ばされてしまった。
え、えぇ……
「もう口を開かないでください。これ以上ふざけた事を言ったらなにするかわかりませんよ」
「……」
そういって翠が立ち上がって何処かへ行ってしまった。今の状況では翠の姿を目視することはできないが、足音からしてあってるだろう。
「いや、平手打ちならまだしも……」
改めて思う。なんでビンタじゃなくグーパンだったんだろうか。女の子なら普通ビンタだろ。なぜ殴った、なぜおれの顔が壁にめり込む程の威力で殴った。もしあのとき霊力で防御してなかったら首折れてたぞ……
「はあ、どうしたものか……」
顔にめり込んだまま、おれはこれからの行動について考える。
神子が尸解仙の儀式をし終えるまで残るべきか、それともすぐにでも旅に出るか。
すぐに旅に出るというのはおれもあまりしたくない。だけどいずれ出る羽目になる。おれは神子の客人だ。表向きでは神子は亡者扱いになるため客人であるおれがいつまでもこの屋敷に残るということはできない。
……はあ、神子から相談されたときもっと聞いてやればよかった。
なんだよ、『おれは今楽しい話を欲してる』て……そんな馬鹿なことを言ったこの前のおれをぶん殴ってやりたい。ついでに神子も。
「生斗、貴方なにやってるの?」
「んあ?その声は青娥か?できたら抜くの手伝ってくれ」
考えに耽っていると青娥の声が聞こえてきた。……おう、こんな姿を見られてちょっと恥ずかしいおれがいる。
「はあ……神子のみならず布都も馬鹿げた事をしたってのに……比較的まともな貴方までも馬鹿な事しているなんて、頭が痛くなるわ」
「おい、ちょっと待ってくれ。これはおれが悪いんじゃないんだ。誤解だ。青娥ならわかるはずだ。おれが急に壁に頭をめり込ませるなんて奇行に走るわけ…………は?布都が馬鹿げた事をした?」
あの阿呆なら年中馬鹿げた事をしているけど……神子が大変なときにそんなことするか?まず、あいつは翠と一緒に今日ずっと泣いていたはずだけど…………
「まじかよ……あいつ、短い付き合いとはいえおれに一言も無しにいったのか……」
「そうね……でも布都はこういってたわよ。
『どうせまた会うんじゃから別に別れなど言わんでよかろう』って」
「……そうか……まあ、あいつらしいな」
どうやら、布都は尸解仙になるらしい。
早とちりも良いとこだ。青娥から尸解仙の事を聞いてすぐにそれを実行したそうだ。
青娥は流石に止めたらしいが、何度言っても聞かなかったそうで、結局青娥が折れて尸解仙の儀式を施したとのこと。
その聞かなかった理由が『太子様が安心して尸解仙になれるようしなければなるまい』。つまり尸解仙の儀式の実験台になると自ら志願したんだ。
あいつはいつもどこか……いや、沢山抜けてて脳が幼児レベルの悪戯娘だったが、神子にたいしては心の底から忠誠を誓っている。
だからこその実験台だろう。それを聞いたとき、おれは布都にたいして初めて尊敬の意を抱いた。
儀式は無事成功し、依代もちゃんと長持ちするもので、安心だと、青娥が言っていた。
……おれが部屋でぼーっとしていた間にこんなことが起こっていたなんてな……
「屠自古はどうしたんだ?」
「ええ、あの子もいずれなるって言っていたわ……はあ、折角の優秀な初弟子達が尸解仙になるなんてね」
と、青娥が深いため息をする。
「あれ、ちょっとまてよ。布都が尸解仙になったってことは……青娥、その時翠も側にいなかったか?」
「?……ええ、いたわよ」
……てことは翠のやつ、神子が尸解仙になるってことを知ってたのか。
なのに最期がどうとかって……しかも布都は『今は』寝てるともいった。
もしかしたらあいつ、まだ割り切れていないのかもしれないな。いつか会えるといっても1度は死ぬんだ、わかっていても普通は割り切れなんかしない。
あれ?それならなんで翠、おれが死んだときはなんともないんだ?
……ああ、おれの場合もう何度も体験しているから慣れたんだろう。うん、きっとそうだ。
「それで、本題なんだけど」
「あ?……ああ」
まだ、本題に入っていなかったのか……
「神子が先程目覚めたわ」
「……ほんとか!」
「ええ。それで神子から伝言よ」
「なんだ?」
神子が目覚めた。良かった……もう何も話せず儀式になるのかと心配していたが、その心配も無事に解決した。
それで、青娥に伝言を頼むなんて……よほど神子の身体はボロボロなんだろう。
「『早朝、私の部屋に荷物をまとめて来てくれ』だそうよ」
「…………そうか」
荷物をまとめてっということはつまり、そういうことなんだろう。
「はあ……わかった。」
「私としては貴方にも尸解仙になってもらいたいのだけど……それは神子に反対されそうね」
「だな、おれも反対する」
おれも出来れば神子が尸解仙の儀式が終わるのを見届けてから旅は出たかった。
でもまあ、神子のことだ。なにか理由があるんだろう。明日それについて聞けばいい。
そう思い、おれは手に霊力を集中させ、壁から頭を引っこ抜く。
「青娥、このあと一杯どうだ?今日は眠れる気がしないし」
「そうね……別に構わないけど、まずは止血からね」
「お……あ、そうだな」
引っこ抜いて初めて気づいた。頭からダラダラと血が出てきている。
翠のやつ、どんだけ本気で殴ってんだよ……
まあ、仕方ない。この痛みも酔って忘れるとするか!