東方生還録   作:エゾ末

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⑤話 試されてたのかぁ

 

 

「熊口殿、どうか用心棒として、わしらの屋敷へと来てもらえませぬか?」

 

 

 輝夜という少女と会って2日後。おれはなんとか荒れた(荒らした)土地の整地を済ませ、今晩の夕飯となる魚を釣るため、整地した土地の付近にある川で釣りに興じていた。

 

 そして食料確保に勤しんでるおれの前に現れたのは輝夜がお爺様と呼んでいた人物。つまりおれが助けた奴だ。

 そのおじさんが、来週京の都の屋敷に居を移し、輝夜を高貴な姫君にするらしい。その用心棒に妖怪を退いたおれの腕っぷしを買い、勧誘にきたとか。

 いやぁ、まあ、おれは確かに人間の中では腕っぷしは強い方だと思うよ?ええ、なんたって何百年もいきてるんだかな!

 おっと、心の中で自惚れるのはこれくらいにしておこう。

 

 

「なんでおれを勧誘するんですか?腕っぷしが強いのなら京の都にも沢山いますよ」

 

 

 京の都には1度寄ってみたことがある。いやぁ、彼処は中々広かったよ。しかも陰陽師なんてのもいたからね。正直びびった。本当に存在してたんだなぁ、ああいうの。まあ、妖怪とかが出てくる時点でいるとは思ってたけど。

 しかも陰陽師の妖怪退治の現場を隠れて見に行ったこともある。なんか呪符を使ったり、お経みたいなのを唱えたりして、摩訶不思議だったな。だってお経唱えてたら、妖怪の足場に紋章が浮き出てきて、急に妖怪が溶け出すんだもん。いきなりスプラッタをぶっこんできたからちょっと吐きかけてしまったし。

 

 

『ほんと、なんで熊口さんなんかを用心棒にしたいんでしょうか……もしかして、頭がボケて正常な判断が取れなくなっているのでは?!』

 

 うるせー翠。おれを起用するのはいたって正常な判断だよ。

 少なくてもそこら辺の奴よりかは強い自信がある。

 

 

「実は……姫が熊口殿にどうしてもというもので」

 

「は?」

 

 

 姫って輝夜のことか?

 

 

「ていうかおじさん、お金とかどうするんですか?京にある屋敷ってどこも高いと聞いたんだが」

 

「金銭関係なら心配ご無用。少し前、黄金を山のように手にいれましたから」

 

「や、山!?」

 

 

 山のようにて……何処でそんな大金を手に入れたんだよ……

 もしおれがそんな大金を手にいれたらどうしようか……取り敢えず新築して今よりましな布団を購入したいな(なんで旅出るとき布団を持っていかなかったんだろうか……)。今なんて布一枚敷いてるだけで、ほぼ床で寝ているのと変わらないし。

 あとは日々をゆったりと過ごすぐらいか。…………うん、おれの欲は地味で味気ないな。どこまでいっても最終的に安定な暮らしを求めてしまう。

 

 

「ちょっと考えさせてくれませんか?」

 

「え?」

 

 

 取り敢えず一旦考えさせてほしい。急にそんな話を持ち込まれてもな……

 

 

「……分かりました。それでは明後日のこの時間に、また来ます」

 

 

 そう言っておじさんは川辺を後にした。

 

 

 

 

 

 

『熊口さん、なんであのお爺さんの提案を渋ったんですか?今よりましな生活ができそうですよ?』

 

「まあ、確かになぁ」

 

 

 確かに今よりかはましな生活が見込める。だけどなぁ……なんかあやしいんだよな。この前おじさんの家見たとき今おれが住んでる家と同じぐらいの大きさだったし。あ、でもおじさんを家の中まで運んだとき、高そうな羽衣とかあったな。

 

 

「おっ、きたきた!」

 

 

 そんなことを思ってると、釣竿に手応えがあることに気づいた。

 よし!今日は調子がいいぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~家『夜中』~

 

 

「結局釣れたのは3匹だけですか……」

 

「仕方ない、今日は調子が悪かったんだ」

 

「……熊口さんって釣りの才能ないですよね」

 

 

 そう言いながら焼き魚をかじる翠。……こいつ、文句を言うなら自分で釣ってから言えってんだ。

 ていうか0匹よりかはましだろ。逆におれは3匹も釣れた自分を褒めたいね。

 

 

「はあ……」

 

 

 そういえばおれって、この世界に来てからあまり食べなくなったなぁ……今なんてこの魚1匹だけでも満足できる。流石に限界まで腹が減ってたら別だけども。

 

 

「翠、お前がもう1本食べていいぞ」

 

「ええ、あまり味がかかってないからあまり食べたくないんですけど……」

 

「贅沢言うな、食えるだけでありがたいと思え」

 

「そうよ、食べられるときに食べなきゃ損よ」グウ…

 

「ほら、この子を見習え」

 

 

 ったく、本当は翠は食事を摂る必要がないのに、食べさせてやってるんだ。文句を言う資格はないと思うぞ。

 

 

「え……?」

 

「それより生斗、その魚、食べないのなら私が貰ってもいい?」ダラー

 

「ああいいぞ。おれもお腹一杯だしな」

 

「え?、え?」

 

「ありがとう!いただきまーす!」

 

 

 そう言って囲炉裏の周りに串刺しにしていた焼き魚を食べ始める輝夜。ほらほら、こういう風に美味しそうに食べる方が、取ってきた側からしたら嬉しいもんだ。

 

 

「く、熊口さん?そこにいるとてつもない美少女は誰ですか?!」

 

「ん?」

 

 

 美少女て……翠、また自分のことを美少女とかのたまってんのか?

 

 

「いや、そこ!今焼き魚を美味しそうに頬張ってる子ですよ」

 

「あ?…………うお!輝夜?!なんでうちにいんだよ」

 

 

 ほんとだ……いつの間にか一人増えてた。

 

 

「はひひょうふ、おひいはまふぁらひょははふぉへるふぁ(大丈夫、お爺様から許可は取ってるわ)」

 

 

 なにいってるのかさっぱりわからん。一気に食べすぎだ、骨を詰まらせるぞ。

 

 

「……そんなことより」ゴクンッ

 

「?」

 

「そこにいる女の人は誰?生斗と会ったときは見なかったんだけど」

 

 

 そこにいる女の人?……ああ、翠か。そういえばあのときおれの中で寝てたな。

 

 

「私も聞きたいです。いつの間に熊口さん、こんな美少女と知り合いになったんですか?」

 

「まあ待て……んーと、取り敢えず自己紹介を二人でしろ。」

 

「あ、はい。……私は東風谷翠って言います。一応熊口さんにとりついている幽霊、厳密には守護霊です」

 

「幽霊?……嘘は良くないわよ。……まあいいわ。私は輝夜、あの山に住んでる翁と嫗の娘よ」

 

 

 む、翁?これも何処かで聞いたことのあるような単語だな……

 

 

「嘘じゃありませんよー、ほら見てくださいよこの足、半透明でしょ?」

 

「は?……あ、ほんとだ……幽霊ってこんな感じなのね」

 

 

 いや、そんなんで信じんのかよ。ていうか翠、おれと初めて会ったときは足がぼやけて見えてなかったのに、いつの間に見えるようになるまでなった?

 

 

「そんなことよりも輝夜、なんでお前がおれん家にいんだよ。おじさんが心配してるんじゃないのか」

 

「それはさっきいったはずよ。お爺様から許可は取ってる」

 

 

 さっきって、焼き魚を頬張ってた時か。

 

 

「んじゃ、なんで来た?」

 

 

 ていうかなんでおじさんは許可したんだ?夜に男のいる家に独りでに入ってくるなんて襲って下さいって言ってるようなもんだぞ……

 

 

「んー、なんかお爺様が行けって言ってねぇ。何を考えてるのかしら?」

 

「おじさんが?」

 

 

 どんどん謎が増えていくぞ……なんでおじさんから輝夜に行くように命じたんだ?

 

 

「熊口さん、邪なことはしないように」

 

「するか、逆にこれまでそんなことしたことあったか?」

 

「春画……」ボソッ

 

「……100年以上も前の事だ。」

 

 

 こいつ、中々昔のことをよく彫り上げてくるな。

 

 さて、それじゃあどうするか。風呂は今の生活じゃ無理だから、体を拭くくらいしかないからすぐ終わるし。

 

 

「んじゃ、お前らは身体洗ってこい。おれは片付けをしておくから」

 

「はーい」

 

「……覗かないで下さいよ」

 

「覗いてほしいのなら、もうちょっと魅力的な身体になってから言え、まな板」

 

「なっ!セクハラですよセクハラ!」

 

 

 はいはいうるせーうるせー、とっとと行け。

 そう思いつつ二人に布を渡す。

 そして二人は体を拭きに居間から出ていく。

 

 

「はあ、めんどくさいなぁ」

 

 

 翠だけならまだしも一昨日会ったばかりのやつの面倒まで見なきゃいけないなんて……今度おじさんにあったら怒ってやる。

 

 

「取り敢えず屑を集めて捨てるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたよー」

 

「さっぱりしたわ」

 

「そうか、それじゃあおれも拭きにいくか」

 

 10分ほど経ったぐらいに、二人が居間に戻ってきた。

 風呂も入るわけでもないからそんなに長くは無かったな。もし風呂だったらかなり長風呂だからな、翠って。

 

 そんなことを思いながらおれも居間をでる。

 

 

 ガサッ

 

 

「ん?」

 

 

 なんか外に人の気配がした気がするんだが……まあいいか、今現れたところで、男の裸なんて見てもなんの特にもならんだろう。今現れたかどうかは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~就寝時~

 

 

「それじゃあ寝るぞ」

 

「なんか寝る前に衝撃的なところを目撃してしまったせいで、寝れる気がしないんだけど……」

 

 

 まあ、翠がおれの背中から入っていったからな。初めてのやつは大抵驚く。

 あのクールぶってる屠自古は女の子らしい悲鳴をあげ、布都に至っては口から泡吹いて気絶したからな。

 

 

「さて、輝夜。ここには布団と呼べるものは1つしかない。これがどういう意味かわかるか?」

 

「え?……そ、それってもしかして」ドキドキ

 

「そう、すまんが輝夜は床で寝てくれ」

 

「え……えぇぇぇ!?」

 

 

 なんか予想外だと言う風な声をあげる輝夜。

 

 

「そこは、その、二人で一緒に寝ようとかじゃないの!?」

 

「なんだ?二人で寝たいのか?」

 

「嫌よそんなの!」

 

「だろ?だからおれが寝る」

 

『熊口さんさいてー』

 

 

 言ってろ。

 

 

「うっ……分かったわ。泊まらせてもらってる身だもの。贅沢は言えないわ」

 

 

 と、悲しそうな顔をする輝夜。

 

 …………ん~……

 

 

「冗談だよ、輝夜がそこで寝ろよ」

 

「え?」

 

 

 流石に女の子を差し置いておれが布団で寝るのもな……冗談のつもりが少し面倒な感じになってしまったな。

 

 

『本当は冗談じゃなかったんじゃないんですか?』

 

 

 ………………冗談に決まってるだろ。

 

 

「あ、ありがとう」

 

 そう言って輝夜は敷かれている薄い布団に入る。

 

 

「気にすんな。ほら、さっさと寝るぞ」

 

 そう言っておれはずっと天井付近に出していた霊弾を消滅させる。

 

 

「うわ、暗くなった。」

 

「当たり前だろ、光が無くなったんだから」

 

 

 よし、じゃあ寝るか。そう思い、おれは壁に寄りかかる。最近は野宿でよく座って寝ることが多いから、あまり苦にはならない。起きたら腰が少し痛いぐらいか。

 

 

「お休みなさい」

 

「ん?……ああ、おやすみ」

 

『お休みです』

 

 そしておれは目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~深夜~

 

 

「ん~、うーん……」

 

「……ん?」

 

 

 もう夜更けだろうか。おれは輝夜の唸り声で目を覚ました。

 

 

「うっ、寒っ!?」

 

 

 起きてみるとかなり冷え込んでいた。この時期にこんなに冷え込むなんて珍しいな。

 

 

「うーん……」ガクガク

 

 

 そうか、輝夜が唸ってるのは寒くて震えてるからか。

 ……はあ、めんどくさいなぁ……

 

 

「……」スゥ

 

 

 ここまでする必要なんて無いんだけどな。

 唸られるのも面倒だから、おれが着ているドテラを毛布代わりに羽織らせた。

 

 

「う……ん……」

 

 

 着せると、輝夜は先程まで寝づらそうにしてあた顔が嘘かのように気持ち良さそうな寝顔になった。

 さっきまでおれが着ていたから暖かいだろ。

 もし翠にやったら絶対に後から「熊口さんの体温が残ってるなんて不快です!」とか言ってきそうだな。

 まあ、寝てるから問題ないか。

 

 

「……うぅ、寒っ」

 

 

 ふう、どうするか。今は上半身黒T1枚だ。かなり寒い。

 

「ま、寝れるだろう」

 

 

 寒いと思っているから寒いんだ。寒くないと思えば寒くないはず。

 

 

「熊口殿」

 

 

 ん?なんか今誰かに呼ばれたような……

 

 

「熊口殿!」

 

 

 気のせいじゃない、確実に今誰かに呼ばれた。

 

 

「……誰だ?」

 

「わしです!(みやつこ)です!」

 

 

 造……確かあのおじさんの名前だったよな。

 なんでおじさんがここに?

 そう思い、顔をあげると、玄関におじさんが後ろに屈強そうな男を二人連れて立っていた。

 

 

「なんでおじさんがここに……」

 

「話は外でしましょう。」

 

 

 おじさんは小声でそう言い、外へ出ていく。

 ……なんか面倒そうな予感が……

 と、思いつつもおじさんに従い、おれも外へでる。

 

 

「この度は、姫を泊めていただき、ありがとうございます」

 

「そのことですが……なんでもおじさんが輝夜にここへ泊まるように命じたらしいじゃないですか、何故ですか?それに後ろの男二人組は?」

 

「はい、この事については本当に申し訳ありません。今朝にも言った通り、姫が熊口殿をどうしても用心棒にしたいと申されたのですが……」

 

「いってましたね……」

 

「そこで、無礼ながら試させていただくことにしたのです。本当に熊口殿が信用に当たる人物かを」

 

「おいおい」

 

 

 つまり、おれが輝夜に変なことを本当にしないか、ずっと見張ってたって事か?

 

 

「……てことはつまり、そこにいる男二人は……」

 

「はい、もし熊口殿が姫を襲うようなことをしたときに停めて貰うために雇いました。」

 

 

 はぁ、結構なことで……  

 

 

「しかし、そのような事をする必要は無かったようですね。熊口殿は信用できる」

 

「はあ?……ありがとうございます?」

 

 

 喜んでいいのか?

 

 

「そこでもう一度お願いします。

 どうか!姫の用心棒になってくれませぬか!」

 

「それは今朝も言った通り、少し考えさせてほしいと言ったのですが……」

 

「貴方ほど信用できるものなどいません!」

 

「過大評価し過ぎじゃ……」

 

「いいや、これは正当な評価です。見ましたぞ、わしらを襲った妖怪を退いた跡地を。あれほどまで大地を揺るがす輩はわしの生涯で見たことがありませぬ!」

 

 

 まあ、確かに爆散霊弾の威力は凄いよなぁ。おれ自身の力とは不相応な威力がでる。

 

 

「どうか!!」

 

 

 こんなにも頼み込まれるなんてな……なんでおれなんかを……

 

 

「はあ……わかりました。その申し出、受けることとします」

 

 

 まあ、別に渋る必要もないしな。ちょっと怪しかったから延ばしたが、こんなおじさんがおれを騙すようなことはしないだろ。ていうかまずおれを騙しておじさんが得する事なんてないしな。

 

 

「ありがとうございます!本当にありがとうござます!」

 

「いえいえ、こちらこそ。こんな自分をここまで評価していただき、ありがとうござます」

 

 

 まあ、いっか。これで今よりましな生活が出来るだろう。

 

 

 

 

 




翁と嫗って男の老人と女の老人のことを言うらしいのですが、輝夜の自己紹介ってあれであってるのか少し不安です……
あと、翠がたまにセクハラとかボキャブラリーとか昔の人が使わないような事を言ってるのは生斗くんが言ったことを真似て覚えたものです。他の人は使わないようにしています。

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