綾人のルームメイトが同じクラスの女子の布仏本音だということが発覚してから一日が過ぎた。その時はもう何事もなく無事に眠りについていた。そして朝になり
(……朝か。時間的にも丁度良いな。で、お隣さんは?)
綾人は本音が寝ているベッドを見ると、本音はまだ寝ていた。
(先に着替えるか)
綾人は本音がまだ寝ているうちに着替えを済ませた。
(……まあ、同じ部屋同士、ここは起こしてあげるか)
「布仏さん、朝ですよ。起きてください」
「……ふぇ?あ、あやや?おはよ?」
綾人は流石に女子の体を揺すって起こすことはできなかったのか、声だけで本音を起こした。
「おはようございます。僕はもう着替えましたので先に行きますよ」
「は?い」
綾人は本音より先に部屋から出て行った。そして綾人は食堂に向かった。
綾人は食堂で一人で朝食を食べているが、そこに一夏がやって来た。いや、一夏だけじゃない。女子が一人一緒だった。
「綾人!」
(織斑か。朝からテンション高いな)
褒めているのか、それとも呆れているのか、はたまた皮肉で言ったのか。それは誰にもわからない。
「おはようございます織斑君。えっと、そちらの方は?」
(確か昨日の朝に織斑を連れて行った篠ノ之箒だったな)
「ああ、紹介するよ。幼馴染の篠ノ之箒だ」
「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」
「湊綾人です。よろしくお願いします」
(まあ知ってるけどな)
綾人個人としては必要の無い自己紹介だっただろう。
「あの、織斑君。一つ聞きたいことがあるんですけど」
「ん?なんだ?」
「織斑君の部屋って、一人部屋でした?」
綾人は一夏に部屋ついての質問をしたが、やはり気になっているのだろうか?
「いや、俺は箒と同じ部屋だぜ」
(やはりこいつも女子と同室か。要するに同じ条件ってことか。違う点をあげるとすれば、織斑は幼馴染と。そして俺は、全くの初対面との同室か。……明らかに環境が違う。唯一の救いが、同じクラスってことか)
「それがどうしたんだ?」
「いえ、僕だけじゃ無いってわかったので、ありがとうございます」
「じゃあ綾人も女子と同室なのか?」
「はい。僕は同じクラスの人と一緒です。いやー、焦りましたよ。違う鍵番号だったのでつい一人部屋だと思ったので」
(まあ、こんな話はどうでもいいんだけどな)
そしてそんな話をしているうちに綾人は食べ終わった。
「じゃあ、僕は食べ終わったので先に行ってますね」
「ああ、また後で」
綾人は先に教室へ向かった。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
(専用機?まさか、そんなことが……)
綾人は一夏に専用機が与えられると知り少々驚いたが、すぐに冷静になった。
(これなら今度の試合はわざと負けることはない。訓練機と専用機の性能差で勝負を決められる)
綾人は完全に自分が負けるイメージで考えていた。もとより、勝つ気が一切無い綾人にとって、一夏が専用機を持つことは嬉しい誤算だった。
「せ、専用!??一年の、しかもこの時期に!??」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」
(……こいつら、ISをなんだと思ってるんだ?それに、専用機を手に入れたところでどうするつもりだよ)
「?」
(そして当の本人が全くわかってないっていう)
「織斑、教科書の6ページを音読してみろ」
「え、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」
「つまり、本来だったら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。だからソレ等に所属してないお前が専用機を与えられるのは異例中の異例だ」
「へえー」
「しかしお前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解出来たか?」
「な、なんとなく……」
(要するに織斑はモルモット同然の扱いか。やはりただで専用機は与えてくれないみたいだな。まあ、俺はそんなものいらないけど)
「あの、先生。思ったんですけど、篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」
(誰だか知らないがその事を聞くなんて。確かに俺も気になっていたところだが、そう簡単に答えてくれるのか?)
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
(いや、答えるのが早いって。そこは嘘でもいいから無関係って言っておこうぜ。でも、本当にあの篠ノ之束の妹だったのか)
「ええええーっ!??す、すごい!!?このクラス有名人の身内がふたりもいる!!?」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!??やっぱり天才なの!??」
「篠ノ之さんも天才だったりする!??今度ISの操縦教えてよ!!?」
すると女子達が一斉に箒に詰め寄って行った。
(おいおい、本当に単純な奴らだな。有名人の身内ってだけでこれか)
「あの人は関係ない!!?」
(!??なんだいきなり?)
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
(要は自分と姉を比べるなって事か?まあ、当然といえば当然か)
「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
千冬の合図によって授業が開始された。
(元はと言えば、あんたが蒔いた種だろ)
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
(なんだかいちいち態度がでかいな)
「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね」
「?なんで?」
「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう」
(わざわざそんな大げさに言い回さなくてもいいだろうに)
「この私、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの!!?」
(やはり専用機を持っているか。まあ、俺としてはありがたいことこの上ないがなl)
「へー」
「……馬鹿にしていますの?」
「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」
「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ!!?」
(いや、全人類って言うけどそんなものはあくまでIS操縦者の中での話だろ。その六十億超えの中でもって言うけどISを動かせない奴らを含めても意味が無い。なんでわざわざスケールをでかくするのかねー)
「そ、そうなのか」
「そうですわ」
「人類って六十億超えてたのか」
「そこは重要ではないでしょう!??」
(織斑って何て言うか……単純バカ?か?)
「そこの臆病者のあなた!あなたはどうなんですの!?」
(また臆病者か。確かに、思っていることを口に出さない辺り、本当に臆病者かもしれないな。でも今は、臆病者で構わんさ)
「ちょっと、聞いていますの!??」
「えっ!??あっ、えっと……ぼ、僕には専用機は無いです……」
(あったとしても俺には必要のない物だからな)
「では、まさか訓練機で私と戦うおつもりで?」
「そ、そういうことです」
(他に何があるんだよ)
「なら、ハンデを差し上げましょうか?」
(今更その話かよ)
「い、いりませんよ。ハンデは無しで」
「そうですか。では無様に負ける事ですね」
(元より、そのつもりだからな)
昼休みの時間になり、綾人と一夏、そして箒が食堂で食事をしていた。
「なあ綾人、試合までどうする?」
「?どうするとは?」
「特訓とかした方がいいんじゃないかと」
「……確かに、特訓は必要かもしれませんね」
(俺はそんな気は無いけどな)
「でも、特訓をするにしてもどうやってやるんですか?僕達二人だけでするのは無茶な気がするんですが」
「それなんだよな。どうするかな……」
(何も考えてなかったのかよ)
「……なあ箒、俺にISの事教えてくれよ」
「なっ、何故私が!?」
「頼れるのはお前だけなんだ、頼むよ」
(この際誰でもいいと思うけどな)
「ねえ。君たちって噂のコたちでしょ?」
「ん?」
「えっ?」
綾人と一夏は見知らぬ人に話しかけられた。その人を見ると、相手が先輩であることがわかった。
(何でこの人、俺たちに話しかけたんだ?)
「はあ、たぶん」
「あ、あの、噂ってなんですか?」
「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」
(やはりそのことか。本当に噂ってのはすぐに広まるんだな)
「はい、そうですけど」
「でも君たち、素人だよね? IS稼働時間いくつくらい?」
「いくつって……20分くらいだと思いますけど」
「僕も、それくらいです」
「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ? だったら軽く300時間はやってるわよ」
(代表候補生なんだからそれくらいは普通なんだろうな。俺は勝つ気がないからそんなことは知ったこっちゃないけどね)
「でさ、私が教えてあげよっか?ISについて」
「はい、ぜ――」
「結構です。私が教えることになっていますので」
(いや、まだ何も言ってないだろう)
「あなたも一年でしょ? 私の方がうまく教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから」
(……おい、さっきと言ってる事が違うだろ。掌返しか?)
「篠ノ之って――ええ!?」
「ですので、結構です」
「そ、そう。それなら仕方ないわね……」
流石に先輩も篠ノ之束の名前に押されたのかここは退いた。
「なんだ?」
「なんだって……いや、教えてくれるのか?」
「そう言っている」
(なんだこいつ。さっきは関係ないと言っておきながら、ここではそれを利用した。随分と都合のいい奴だな)
「じゃあ、僕はこれで」
「綾人、お前も一緒に特訓するか?」
「僕は大丈夫です。二人で頑張ってください」
綾人は一人で食堂を出て行った。