更新できました。やったね!
ということでヴォルガノス戦。
めちゃくちゃ書き直しました。私、戦闘描写ニガテってことがわかりました。あと、注意。
舞台は2Gですが存在しない防具、武器、動きが出てきます。ごめんね。
『溶岩竜ヴォルガノス出現!』
少し前まで上へ上へと昇っていた太陽の光が、目線の先で今なお活動を続ける活火山から立ち上がる黒煙によって弱まり、濃くなっていく闇に呑まれたように次第に完全に遮られた。
ラティオ活火山。
生命の息吹など感じさせない。
焦げた臭いは常に鼻腔を貫き、砂漠とは比べ物にならない暑さが体を蝕んでいく。
太陽の光が完全に遮られた今、この暑さは太陽から来るものではない。鯨の潮吹きのように吹き出す溶岩。流れるマグマ。噴煙。火山灰。空を覆う黒煙が暑さを閉じ込めているようにも感じる。
ポッケ村を出発して灰の影響で決して透き通っては見えない海を渡り、火山に着くまで約3日。船から見える、黒海に佇む地獄のような火山には、恐怖を忘れることはない。
シルヴァは一旦ランポスXキャップを脱いで慣れない暑さでこみ上げてた額の汗を拭い、鎮座する切り立った山を見上げた。
「暑いな…火山に入ってもないのに…」
それは返事を期待しての言葉ではなかった。
火山にはあまり出向かないシルヴァにとっての、軽い愚痴のようなものだった。
ベースキャンプを出発してからまだ数時間も経ってない。じんわりした汗は火山に着いた頃から休む間もなく生じている。
シルヴァは灰色の道に転がる小石を軽く蹴って暑さによる苛立ちをできるだけ紛らわした。
小石は何も無い静かな灰色の景色に溶け、カツン、という音を残した。
静かすぎる…どう考えても静かすぎる。
これはおかしい。
エリア2に入って間もなく、シルヴァは違和感を覚えた。
あるべきものの姿が存在しなかった。
そのかわりに存在したのは、そのなりの果ての姿だった。
(骨…?)
エリア2に僅かに生える茶色い草地。
そこにあったのは砕けたように粉砕された白い塊が転々としていた。
近くに寄ってみると、頭蓋のような欠片があった。これは口の部分だろうか。
破片が飛び散り、骨粉のようなものまで砂利と混ざっている。
シルヴァはその頭蓋の欠片を、恐る恐る手に持った。すると、
「わっ」
パキン、という快音が鳴り、頭蓋は手元から綺麗に真っ二つに割れ、2つに分かれた欠片は砂利の上へ落ちると皿のように砕けて破片へと変貌した。
「…どうしたの」
辺りを見回していたレイラが異変に気付き、シルヴァの元へと駆けつけた。
「これ…」
シルヴァはその骨に視線を落とした。
レイラは片膝をついてしゃがむと、別の骨の欠片を手に取った。棒状の骨のようだった。
しかしレイラが少々乱暴に手に取ったため、一瞬にして骨は砕け、土に還っていった。
レイラはため息をついて立ち上がると、手を払いながらシルヴァの方を振り向いた。
「…ヴォルガノスとはまた違う別の大型モンスターの仕業かな…この辺のアプケロスがこんなんになったのは。」
それを聞いたシルヴァは、ハッと思い出すようにベースキャンプでの出来事を思い出した。
キャンプ地での作業中、支給品を身につけていたレイラは突然何かに気づくように体をピクリと震わせた。
その後の会話で、レイラは
「今回、結構危ないかも。対象とはまた別の輩がいる。」
と深刻な顔で言った。
「…?千里眼の薬でも飲んだのか?」
シルヴァはふと思ったが、レイラの近くで作業していたシルヴァが見るからに、そんな素振りはなかった。
シルヴァがそう尋ねると、レイラは首を横に振った。
「いや、感じたの。ヴォルガノスとは違う気配。その輩、凄い速度で動き回っている。それだけじゃない。…小さな気配が凄いスピードで減っている。」
「…?」
千里眼の薬を飲んでいないのに、そんなことを感じることができるのは、にわかには信じられないことだった。この時のシルヴァは、レイラの言ってる事が理解できなかった。
しかし、
「そうか…危険だね。今、そいつがどこにいるかわかる?」
「エリア2から3へ移ったとこ。」
「小さな気配ってことは〜…そのモンスターが小型モンスターを蹴散らしてるってことかな?凶暴だねー?」
クロム、ドレイはレイラの言葉を疑う余地なく信じ、対策を練っているようだった。
昔からの仲間同士であるから信じるのかもしれないが、レイラの能力は人外だった。
シルヴァはレイラの能力に疑問を抱き、聞こうとしたが3人はどーする、あーする、こーするだのぺらぺらと話し合っていて、聞く暇がなかった。結果、そのときは聞くことができず、クロムとドレイが闖入者を調査し、レイラとシルヴァがヴォルガノスの相手をするというものだった。
合流されては全滅は免れない。
分断されてるうちに片方を早期に潰すのが一般的だが、未知のモンスター相手はそれはかなわない。二手にわかれて相手をするのが得策だった。こやし玉を使って無理矢理分断する方法もあるが、こやし玉が効く相手じゃないと意味がない。闖入者にそういったものが効くかどうかは定かではない。
シルヴァはレイラの言う通り、ヴォルガノスの相手をすることになり、あまり慣れないレイラと2人きりで行動することになった。
それよりも、重要なのは目の前に原型を保たない骨があること。何者かの仕業かは検討がつかないが、レイラが言っていた小さな気配が凄いスピードで減っているとは、このことだったのか。
「レイラ…」
「ん」
「…どうして、千里眼を使わずにこれがわかったんだ?普通ここまでわかるのは有り得ないだろ…」
シルヴァはしゃがんだレイラの背中を見て、息を飲んだ。
レイラはゆっくり立ち上がると、ふぅ、と息をついた。
「私がこうやってモンスターの細かい気配を感じることができるのは、子供の時からだし。私自身、よくわかってない。」
そう言うとレイラは踵を返し、エリア10へと続く道へと向かっていった。
「さ、行くよ。ヴォルガノスが逃げないうちに。」
「う、うん…」
レイラはつくづく謎だった。
目を合わせただけで謎の緊張が走り、
薬を飲まずにフィールド上のモンスターの細かな動きを把握できる。
そんなレイラの背中は不思議と空虚に感じた。
シルヴァはレイラを追う前に、もう一度だけ、アプケロスの残骸に目を向けた。
砕けた頭骨、粉々になった肋骨、散らばる破片、そして、抉るように穴の空いた岩壁と地。
叩きつけられ、殴られたような、そんな跡だ。
「…っ!」
突然、シルヴァは寒気に襲われた。
火山地帯にいるはずなのに、なぜか冷風が背中を摩ったように身震いがした。
火山内部に感じる怒り。
その怒り狂う、まさに激昴したようなビリビリした殺気が渦巻いている。
冷や汗が頬を伝うのがよくわかった。
「…シルヴァ」
「…ごめん、なんでもない」
レイラがシルヴァに声をかけると、今までに無かったような緊張が脳を刺激した。
まだ何もしてないのに、『死』というものの存在が急に近くまでよってきた気がした。
シルヴァはそれから逃げるように、エリア10へと続く道へと、足を震わせながら進むのだった。
エリア10へと続く道は、別の世界への入口かのような雰囲気が漂っている。ちょうど人一人が入れる程度の細い道からは、その入口の外と比べるまでもなく熱い風…蜃気楼のような空気が向かい風となって体を溶かしていくようだ。溶岩竜はこの先に広がるマグマの大海にいると言う事を、レイラの感知能力で知ることができた。
「…!」
「いた…」
黒ずんでいく細道を抜けると、暑さとは違う汗がシルヴァの頬を伝った。
視線の先、紅の海を泳ぐ竜の体は冷え固まった溶岩と同じ、熱を感じさせる黒。所々に流れる赤い模様が、火山の象徴のような気にさえ感じさせる。
早まる鼓動と呼吸を整えるように、シルヴァは背中のブルーブレイドボウIIにゆっくりと手を伸ばした。
「レイラ?」
「…なに」
「アイツになにか弱点とかある?」
レイラはヴォルガノスに視線を合わせると、腰の後ろの極鎚ジャガーノートを構えた。
レイラには、モンスターの弱点を見透かす能力も持ち合わせている。
シルヴァはその能力だけは、事前にクロムから教わっていた。
どうやら新手のモンスターと戦う時は、まず先にレイラが対象の弱点を探るらしい。
しかし、レイラは怪訝な顔をしてヴォルガノスを睨んだ。
「あいつ、弱点部位が見当たらない…」
「な…!?それってどういう…」
「頭、腹、尻尾から足まで全てにおいて肉質はほぼ同じ。強いて言うなら腹かしらね?」
「…他にはもうないの?」
「属性は水。だけど水武器なんて持ち合わせてないから意味無い。」
「…だよね」
聞いても意味は無かった、とでも言いたげな顔でシルヴァはため息混じりでそう言うと、黒焦げた大地を蹴って走り出した。
シルヴァはブルーブレイドボウIIを素早く展開し、矢をつがえた。溶岩の中にいる状態のヴォルガノスにダメージを与えられるのは、ガンナーであるシルヴァだ。ある程度ダメージを入れれば、他の魚竜と同じく地上に引きずり出せる筈だ。地上に引きずり出せればこちらのものだ。
「――ふっ!」
シルヴァは弦を引き絞り、ペイントビンを装填した貫通矢を放った。ヴォルガノスは危険を察知したのか、威嚇するように溶岩の海を狂うように泳いでいる。が、動く的を射るのには慣れている。放った矢は背鰭を貫通し、強烈な臭気を残して海へと消えた。
――ゴォォォォ
こちらを敵と認めたのか、ヴォルガノスは溶岩から顔を出して魚竜特有の白目を向け、大口を開けて吠えた。
気味の悪い目を向けられたシルヴァは真横へ移動しながらヴォルガノスに矢を当て続けた。
ザクザクと貫通していく矢を鬱陶しいと感じたのか、ヴォルガノス身を翻しては溶岩の中へと姿を消した。
「逃げた…?」
目の前に広がる赤を見渡すが、どこからも出てくる気配はない。
「シルヴァ!避けて!」
「っ!?」
レイラの叫びを理解する間もなく、シルヴァは危険を察知して何も考えずに体を真横へ投げ出した。
焼けた大地に体を預け、立ち上がろうとした刹那、
ゴゴゴゴ…!
シルヴァの足元で円形に赤く変色していく地面から、ヴォルガノスが姿を現した。
大地に穴を開け、勢いよく飛び出したヴォルガノスは腹で着地すると、体を巧みにくねらせて地面を這いずり、レイラに向かって突進していった。
「っ…!」
立ち上がったシルヴァは、少しでも反応が遅ければ殺されていた恐怖とギリギリで助かった安堵が合わさり、すぐに声を発することができない。視線は突進していくヴォルガノスに向けられていたが、矛先であるレイラを見て心臓が張り裂けそうになった。
レイラがハンマーを後ろに構えたまま動かない。
「はぁっ…!はぁ…!レイラ…!」
低く姿勢を保ったまま動かないレイラに、必死に絞り出した声を浴びせたつもりだったが、微動だにしない。
「くっ!」
ブルーブレイドボウIIに矢をつがえた時にはレイラのすぐ目の前までヴォルガノスが迫っていた。少しでもいい。勢いを殺せれば。
矢を放とうとしたその時、
「そう…それでいい…」
風のような声が耳を吹き抜けた。
「せやぁ!!」
グシャ、と潰れたような音が鮮明に響いた瞬間、暴風が吹き荒れた。
(なっ…!?)
一瞬の暴風でシルヴァは目をかすめたが、そこに写ったのはレイラがハンマーによる最大の溜め攻撃を、突進するヴォルガノスの頭にヒットさせた、有り得ない光景だった。
――グオォオ!
唸り声を上げて後ろに仰け反るヴォルガノスの頭は、ちょうど額のあたりが陥没するようにへこんでいる。人間がモンスターの突進を止めた。シルヴァはしばらく手を止めて相対するレイラとヴォルガノスを呆然と見ていた。
「…さぁ、狩りの始まりよ。」
不敵な笑みを浮かべると、レイラは極鎚ジャガーノートを持ち直し、ヴォルガノスの正面から突っ込んでいった。
――ゴォォォォ!!
咆哮するヴォルガノスに、レイラは怯まず突き進む。
「ふんっ!」
ヴォルガノスの眼前、レイラは自分の勢いを滑るように受け止めると、ハンマーを下から上へと力強く振り上げる。顎を捉え、ヴォルガノスの首は大きく天を仰いだ。
「はっ!やっ!」
間髪いれずにレイラは大きく懐へと踏み出すと、ヴォルガノスの左脚と、比較的ダメージの通りやすい腹を殴打していった。
耐えかねたヴォルガノスは後ろへ抜けていったレイラを、尻尾で左右に凪いで後方へと飛ばした。
「く、やるね…!」
レイラの顔は、これほどなく笑顔だった。
目は獲物を狩る、狩人の目だったが、口元はまるで悪魔のように歯を剥き出しにして笑っている。
(…っと)
我に返ったシルヴァはつがえていた矢をヴォルガノスへと放つ。強撃ビンを装填した矢は風を切ってヴォルガノスの鰭から胴体にかけて確かな手応えを与えた。
向いていた矛先がシルヴァへと変わる。
頭先がこちらへと向くと、シルヴァは3発の矢を頭部に撃ちつける。
その頭がぐるりと回ると、口元から炎が漏れ、それをシルヴァへと放った。
(ブレス…!)
「う…わ!?」
ブレスが来ることは予想していたが、ブレスは着地点から爆発し四散した。
たまたま避けた方向は欠片の飛び散る方向ではなかった。
どうにか傷をおったレイラへの注意を引けたのはいいが、今度は完全にシルヴァが標的にされている。ガンナーは囮役には向かないが、少しでもレイラの回復時間を稼がねば。
シルヴァは回り込むようにヴォルガノスの周囲を走り、隙あらば矢を撃ち続けた。
「はぁっ!」
傷を癒したレイラが再びヴォルガノスの黒い胴体に打撃を浴びせる。ヴォルガノスは悲鳴にも聞こえる鳴き声をあげながら尻尾を振り回しているが、近くにいたレイラは完全に見切ったように回避している。だが、ヴォルガノスの体への損傷は思った以上に浅かった。
シルヴァの放つ矢は、かろうじて体を通る程度、レイラの打撃でさえヴォルガノスの体はそれを受け流しているように感じる。
「おっ…と!」
「ぐっ…!?」
不意にヴォルガノスの体が宙に放り出され、次の瞬間凄まじい衝撃とともにヴォルガノスが体を地面に叩きつけた。
その衝撃は凄まじく、地面を通しての振動がヴォルガノスから約10m離れたシルヴァにも十分伝わった程だ。
ヴォルガノスに押し潰される寸前、レイラは横っ飛びに転がって回避したが、強い衝撃のせいで立ち上がるのに手間取っているようだ。
体を叩きつけたヴォルガノスは少しの間釣られたように跳ねていたがすぐに体勢を立て直してレイラに狙いを定めると、体を横に向けて右半身を勢いよく押し出した。
「あぐっ!」
隙を狙われたレイラはヴォルガノスの標的になっていた。まともに体当たりをくらったレイラは大きく溶岩の川に向かって吹っ飛ばされた。
「レイラッ!」
シルヴァは注意を引こうとヴォルガノスに曲射を浴びせる。雨のように放散する矢は、ヴォルガノスに中々効果があったのか、悲鳴をあげて振り払うように体を震わした。溶岩に落とされる寸前で受身をとったレイラだったが、ゲリョスXヘルムから覗く口元からは血が溢れている。
「ごほっ…!」
レイラの目の前に血溜りができた。
ゼェゼェと息を切らして左胸を掴むように抑えている。肋骨をやられたらしい。
ヴォルガノスのブレス、体当たり、尻尾振りを紙一重で避けながら、シルヴァは1人で耐え忍んでいた。
(レイラ…!このままじゃマズイ…!)
「レイラ!大丈夫か!?」
「アッハハ…!」
「え…?!」
口元を血に濡らしながらも、はっきりと聞こえる呼吸と確かな笑い声。レイラはヴォルガノスの血で赤くなったハンマーを右手で持ち、満身創痍の体をしっかりと立たせている。
「やっぱり…自分の知らないモンスターと戦うんだったらこうでなくちゃ…!鍔迫り合って…お互い血を吐きながら…戦うことって…!やっぱり楽しいっ!!」
「レイラ…?」
フラフラとおぼつかない足取りでハンマーを引きずりながらヴォルガノスへと歩み寄っていくレイラ。その背中から、悪魔のような気配すら感じた。
ヘラヘラと笑いながらヴォルガノスの懐に、瞬間移動でもしたかのように一瞬で潜り込むと、ムチャクチャにハンマーを振り回した。
――ゴォォォォアアァ!!
じたばたと体をひねって再び体当たりを繰り出すが、レイラは体当たりの衝撃をうまく回避している。どうにも掴みどころがない回避で、まるで幽霊のようにフワフワとしている。
無慈悲にハンマーを振り回すレイラの白い肌に、ヴォルガノスの赤黒い血がびしゃびしゃと降り掛かった。
「ハハ…!アハハ…!アァ…!」
(…なにあれ…)
笑いながらモンスターの血で体を染めていくレイラに、シルヴァはなんともいえない不気味さに体を震わせた。もはや矢を放つことすらできない。ヴォルガノスは悶え苦しむように怯み続け、あっという間にヴォルガノスの体は無惨にも体のすべての部位が継ぎ接ぎに組み合わさったような形をしている。
「ハァ…ハァ…」
立ちながらも体をブランと垂れさせ、両腕やヘルムからは血が滴っている。
あんなに黒々としていた装備が、一瞬にして真っ赤に染まった。
息を切らしたように立ち止まるレイラは、ヴォルガノスへの攻撃をやめ、その場で立ち尽くした。
ヴォルガノスは足を引きずって溶岩の中へと潜り込もうとしていた。
(……!逃がすか…!)
シルヴァは最後、震える手を叱りつけ、ブルーブレイドボウIIを天にかざして曲射の体勢に入った。黒空に矢を放とうとした時、一筋の光が目の前を過ぎていった。
その光はすぐ近くで落雷のような音を響かせ、ヴォルガノスに落ちた。
「…なっ!?」
閃光の行方を追って見えた光景は、これまた信じられないものだった。
閃光の主が、ヴォルガノスの体をその丸太のような腕で押さえつけ、天に向かってけたましい咆哮を上げていた。
――オオオォォォ!!
ヴォルガノスは絶命している。
だらしなく口を開き、ピンク色の舌をだらりと垂らして主の思うがままに踏みつけられている。閃光の主に、シルヴァは見覚えがあった。
(ラージャン…!?どうして…!?)
ラージャン。金獅子と恐れられる牙獣種。
超攻撃的生物と言われ、漆黒の体毛と側頭部から伸びる一対の角が特徴で、牙獣種の中では特に屈強な肉体を持っている。
環境適応能力が高く、どの地域でも生息しているが目撃情報が少ない。その理由はその攻撃性であり、その視界に入ったあらゆる生物に徹底的な攻撃を加える。つまり、ラージャンと遭遇した者が生還する事自体稀であるということだ。ある文献には唯一古龍に匹敵すると記されていたり、黄金の暴風雨とも呼ばれている。
そのラージャンが、今目の前にいる。
しかも、怒り時に見せる黄金の毛を逆立て、体には雷を帯びている。考えるまでもない。
(に…逃げないと…!)
はっ、と正面にいたレイラに目を向けると、
レイラが怒り状態のラージャンに突っ込んでいくのが見えた。
「バカッ!!何して…!」
「コレはワタシの獲物…!止まれるわけないでしょ…!?こんナにも…タノしいんだからッ!!」
レイラは最早狂気と化していた。
目の前にいる相手が誰かわかっているのか。
それすらも謎だった。
「ハァァ!」
――オオオォォォ!!
ラージャンに真正面から突っ込み、ハンマーを振るう。その一撃はラージャンの腕を捉え、手応えのある一撃を与えた。
血が吹き飛び、レイラの顔に返り血がこべりついた。
しかし、
ズドン
「がっ!」
メキッ
「づっ!」
バキッ!
「ぐっ!!あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ぁぁぁぁぁ!!!!」
レイラの断末魔が響き渡った。
何が起きたかはわからない。
ただシルヴァには、これだけはわかった。
さっきまで一緒に戦っていたレイラが、ラージャンによってグチャグチャにされている。
「うっ…!」
恐怖のあまり叫ぶことすらできない。
シルヴァはただ、今まで味わったことのない恐怖にすがることにか出来なかった。
目の前に映る金獅子の腕は、レイラの血で赤く染まっていた。
レイラの使っていた極鎚ジャガーノートは根元から折れ、影も形もない。
ラージャンがこちらをギロりと振り向いた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
その瞬間、今までのある記憶が呼び起こされた。レイラの言っていた大型モンスター、エリア2で見たアプケロスの骨。これらは全てコイツの仕業か。骨まで砕かれ、粉にされるまで嬲られる。自分も、あそこに横たわっていたアプケロスのようになってしまう。
その考えが、シルヴァの足を動かした。
無意識に全力で走り出す。
本能はエリア2へと繋がる細道へ行けば助かるかもしれない。と言っている。
ウオオォオオオオ!!!
血にまみれた腕で大地を掴み、ラージャンも同じタイミングで走り出す。
(怖い!怖い!!怖い!!!)
「はぁっ!はぁっはぁっ!!」
シルヴァの脳内は、恐怖で埋め尽くされていた。狩りの中で味わう最悪の感情が、実体を持ってすぐ後ろで暴れている。
訳もわからず走る。ただただ走る。
振り向けば終わりだ。間違いなく死が襲ってくる。レイラを壊したあの血にまみれた手でいつ体を掴まれるかわからない。
無理だ、助かる訳が無い、ここで殺される。
死の気配が濃くなっていく。
オオオォォォ!!!
「ああああああぁぁぁ!!!!!」
左目からだだ漏れる涙を拭く余裕などない。
止まってくれない。涙も、鼻水も、死の気配も。
(死にたくない!死にたくない…!助けて!!フェリクス…!!)
「シルヴァさん!」
「…!!?」
聞き覚えのある声と、ズン、と鈍い音がシルヴァを我に返した。
しかし、固定されたように走ることしかできなくなった首と体は目前まで迫ったエリア2への細道へと吸い込まれるように入った。
「はぁっ!!はぁっ!!」
細道に入ると、この一瞬の間に流れ込んだ負の感情を全て吐き出さんとばかりに息を大量に吐き出す。
足ががくつき、手がブルブル震え、まだ涙は止まっていない。
「お、お疲れぇ〜…シルヴァちゃん…」
「…!!ドレイ…!?」
目の前に立っていたのはマカルパZ装備の仮面の左半分を砕かれ、胴装備と脚装備に引き裂かれたような傷を負ったドレイがいた。
「どうして…?」
仮面からあらわになったドレイの素顔に突っ込む気力はなく、ほとんど泣きながらドレイに尋ねた。
「やーね?レイラが言っていた輩、あいつみたいでさぁ。僕もリーダーもボロボロだよ。どうにか君達のとこには合流させないようにしてたんだけど、無理だったみたい…ごめんね?」
ドレイが岩壁から顔を覗かせると、そこには1人でラージャンと奮闘するクロムがいた。
「助けないと…!」
「ダーメ。リーダーの指示で、一旦ベースキャンプに戻ることになってるから。一回戻って、ちょっと心の整理をしたほうがいいね。」
「…!レイラは…」
「ん、知ってる。」
ドレイはそれ以上、何も言わなかった。
軽く息をついてドレイはいつもの笑顔で
「大丈夫!リーダーはあぁ見えてかなり強いからさ!」
と言った。
レイラのことを言わなかったあたり、レイラはもうきっと、無事ではないだろう。
シルヴァはこれまで感じることがなかった痛みに心を撃ち抜かれたような気分と同時に、恐怖とは違う感情の涙が頬を伝うのだった。
最近気づいたんですけど誤字とか結構あります。
ここ文字おかしくね?ってとこあったら教えてくれたら嬉しいです。曲射。これ、2Gありません。ランポスX。そんな防具ありません。小説の中だけの防具ってことで。ないよね?