モンスターハンター《G級義兄妹の狩り日記 》   作:L.S

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お久しぶりです、L.Sと申しますけど。
更新遅れに遅れてこの結果。ごめんなさい。
今回はレイラの過去的なやつです。先に言います。後1話だけ引っ張らせてください。


第6話 狂愛

 

真っ暗な闇。

私はその中をただただ流され続けている。

まるで体と意識が別物であるように違う動きをしているかと思うほど、その中での意識ははっきりとあるが、体は自分のものではないように動かない。恐怖も不安も感じない。

感じるのは、フワフワとした浮遊感と、私は一体どうしてしまったんだ、という疑問だけ。

…待って、私は…一体誰なんだろう。

ここまで来た記憶どころか、自分が今までなにをしてきたか、どこにいたのか、それどころか自分の名前すら思い浮かばない。

…記憶を奪われた?

私はここでやっと不安を感じた。

声を出そうにも体に意識は通っていない。

口は開かないし、声帯もまるで働かなかった。

目の前の真っ暗な闇。

何もないその空間には、私の不安をじりじりと煽っていく。

これからどうすればいい?

…私は一体何をすれば…

まずは自分の名前を思い出すか?

それよりも…まず助けを呼ばないと…!

誰か…助けて…!助けてよ…!

私の叫びは混沌の海へと消えていく。

神のいたずらかと思うくらい、理不尽で傲慢で、憎らしい。

私は一生ここで過ごすしかないのか。

自分が生きているのか死んでいるのかわからないほど思考が狂っている私にとっては、それは地獄だった。

お願い…助けて…!私を…!

ここらか出して…!

叫びつづける意識は、徐々に昔の記憶を呼び覚ましていく。

私は昔からその人外な力のせいで人々から煙たがられて、友達も親も、誰一人私の周りにはいなかった。だけど、ただ一人、私を支えてくれた人がいた。

2つ年上の男の子で、私をまるで妹のように守ってくれた。

私は彼と一緒に、ハンターになった。

化け物みたいな私といつも一緒にいてくれた彼も、変わり者だと皆からからかわれた。

でも、それでも彼は私を守り続けてくれた。

皆から何と言われようと、どんなに酷い扱いを受けても、彼は私の痛みを引き受けてくれた。

彼と一緒に飛竜と戦ったり、ご飯を食べたり、街に出掛けたりすることが当たり前だったけど、私はこの当たり前の生活がこれほどになく楽しかった。彼のことが、大好きだった。

心の底から愛していた。

私達が上位のハンターになる頃、私達は自然と恋人同士になっていた。

2人を繋ぐ記念品も作った。

2人でパーティーを作ったりもした。

パーティーでの狩りも、とても楽しかった。

でも、楽しい時間は長く続かない。

…彼が死んだ。

私達を、迫り来る火竜の番から逃がしてくれた。

私は必死に彼のそばにつこうとしたけど、彼がそれを許さなかった。

他の2人に引きずられ、小さくなっていく彼の背中を見るのが、これで最後になることは、脳の片隅で思った。

助けに戻った時には、手遅れ。

折れたランス、割れた大盾。

僅かに残った彼の焼死体。

泣き叫んだ。

空を浮かぶ月に木霊するかもしれないぐらい、泣き叫んだ。

このまま崖に身を投げよう、走り出したが後ろについてきた2人に止められた。

それでも私は死のうとした。

振りほどこうにも思った以上に力がでない。

舌を切ろうにも顎が言う事を聞かない。

彼の方を向き直ると、現実が胸を焼く。

私は彼の死体の焼け焦げた胸を抱きしめた。

ただ、彼の心臓に響くように、私はひたすら泣くことしかできなかった。

 

 

 

 

「カイッ!!」

目の前で掴めそうだった気配は、蜃気楼の渦に消えていった。震える右手は燃え盛る溶岩の川の風景を掴んでいる。

(夢…)

ゆっくりと手を下ろし、

途切れ途切れに口から漏れる息を整える。

じっとりと濡れた背中を、汗がひとつずつ滴り落ちていくのがはっきりとわかるぐらい、神経が敏感に反応している。

「あぁ、よかった…!目が覚めたみたいだね!」

「…!!リーダー…」

突然聞こえてきた声の方へ、反射的に首を動かす。そこには、リーダー、クロムが片手に見知った薬瓶を持ちながら、安堵の息をついていた。状況の整理がうまくいかない。

さっきまで見ていた夢の記憶が新鮮すぎて、体を動かそうとする度に震えが走る。

「痛っ…!」

電気が走ったような痛みが全身を駆け抜けた。

骨が軋み、パキパキと音が鳴る。

「ダメだよ…すぐに動いちゃ。いにしえの秘薬を使ったとはいえ、まだ完全に体が動けるようになったわけじゃない。」

クロムに体を抑えられたが、ゆっくりと体を起こせた。僅かに残る痛みに、歯を食いしばりながら小さく息を吐く。

少ししたら気持ちと痛みが落ち着きはじめ、呼吸もしっかりしたものになった。

クロムは安心したように顔が緩んでいた。

「まったく…よく無事でいたね、レイラ。正直、ダメかと思った。」

ふと、自分の体に目を下ろすと、着用していた装備はかなりボロボロになっている。勢いよく引きずられた跡だろうか、ゴム質の皮で出来たメイルやアームは深い裂傷が出来ている。

妙に頭が軽いと思ったら、身につけていたヘルムは何処かへ吹っ飛んでいってしまったらしく、見当たらなかった。熱のせいでチリチリとした赤髪が、指を通せば絡みつく。

「…シルヴァは?無事なの?」

「あぁ、無事だよ。今は、ドレイと2人でキャンプにいる。」

無意識に安堵のため息をついた。

レイラの頭で状況の整理が追いついた。

心が寒風にさらされたような感覚に襲われる。

ヴォルガノスとの戦闘中、痛みを感じ、血を見ることで得られる激しい興奮に身を任せていた。乱入してきた金獅子に突っ込み、完膚なきまでに叩きのめされた。

そのせいでシルヴァに嫌な思いをさせてしまった。

(…また化け物って言われちゃうかな)

冷めた心で皮肉に笑う。

あんな姿を見せて、あんなやられかたをして、生きているんだから。

普通なら死んでいるはずなのだ。

死んだ方が楽かもしれないとも思った。

そうすれば、死んだ恋人とも再会できたかもしれないと…

「あれ…?」

偶然、引き裂かれたアームから出た左手の薬指を見てレイラは呆然とした。

「どうしたの?」

「ない…」

「なにが?」

「指輪…!私がいっつもつけてたヤツ…!」

慌てて自分の周囲を見渡すが、それらしきものは見つからない。

飲み込まれそうなほど黒い大地に、レイラの言う指輪は影も形もない。

手探りで探しても、意味がなかった。

「うそ…どうして…」

「…多分、ラージャンに壊されたか…あるいはラージャンが持っているか…」

普通に考えて、壊されたと考えるのが妥当だ。

ラージャンの攻撃はまともにくらえば即死は免れない。そのような攻撃をレイラは何発も受けた。指輪が壊れてもおかしくなかった。

ラージャンが指輪を持っている、という可能性はほぼ皆無だ。極稀にモンスターがハンターの持ち物を奪っていくことがあるが、ラージャンがこんなことをするとは考えられない。

血の気の引いた顔を右手で押さえつけ、こみ上げてくる涙を我慢した。

だが、そのかわりに湧き上がってきたのは憎しみの感情だった。

徐々に息が上がり、震えてくる。

「くっ…うっ…」

悲しみと憎しみが混ざった複雑な感情を、レイラはどうすることもできない。それどころか情けないという感情まで入ってきて、ただただ、歯を食いしばった。

「レイラ…」

崩れ落ちたレイラの肩を、クロムは優しく叩いてレイラの顔を覗き込んだ。

紅く染まった目を、大量の涙が包んでいる。

溢れ、頬を伝い、零れた。

(やっぱり…まだカイの事を…)

レイラの目を見て、クロムは昔、黒馬のパーティーの創設者の1人であり、レイラの恋人でもあったカイ…カイ・クロードの事を思い出した。レイラを最もよく知る人物であり、古き良き相棒であり、彼女を最も愛した唯一の人物。

いつも2人で幸せそうに話している光景は、他のハンター達にはまず見られない、貴重なものだった。いつもクールに振舞い、どちらかというと愛想の無いレイラも、彼の前ではいつも笑顔だった。

『カイがいなかったら、今頃私は死んでたかもしれない。アイツは…私の命の恩人。…いつか恩返しができたらいいけど。』

と、言っていてただの恋人ではない、レイラにとっての特別な存在であることもわかった。

その後、レイラはせめてもの恩返しとして、お揃いの指輪を買ってプレゼントしていた。本来なら逆だと思うが、ある意味レイラらしいなと思った。

そんなカイが火竜に殺され、遺体を目撃したときの気持ちは、想像するにたえない。

今まで感じた負の感情が一瞬で入ってくる感じだろうか、あるいはそれ以上か…人智を越えたものかもしれない。

あれから2年が経つが、レイラは肌身離さずその指輪をしていた。今でもカイを愛してやまないレイラは、これほどなく健気だ。

指輪に対する思いは強いだろうが、これ以上ここに居ては危険だ。

死んだヴォルガノスの死体が異臭を放っている。この匂いで他のモンスターがつられてやってくる。ラージャンとの戦闘中、僅かではあるが太刀で皮を削いだ。クエスト達成ということにはなるだろう。クロムはレイラをゆっくりと立たせ、力を失った彼女の肩を持ちながら

「さ、帰ろう?シルヴァさんもドレイも心配してるだろうし…」

と言った。

しかし、

「…は…?」

充血した両目で、肩を貸すクロムを見つめた。

その声には明らかに、怒りと憎しみがこもっていた。

「ここに居たら、モンスター達に囲まれる。そうなる前に…」

「…何…言ってんの…?」

「…レイラ?」

「…ラージャンを探す…探して…殺す…殺してから…徹底的に死体を壊して…それから…」

「レイラ!」

「…何」

「…!」

正気だ。

これほどなく冷静で、落ち着いていて、残酷な目をしている。

充血した目は血を欲しているように見える。

怒りと憎しみが度をすぎると、正気を失う。

正気を失えば自殺行為となる行動を平気で起こす。

復讐だ。

今の彼女には、自らが求めるラージャンの血に置かれた肉片しか見えていない。

「何を考えて…!あのラージャンは普通のラージャンと違う!…恐らくギルドの報告であった《激昴したラージャン》だ。僕はさっきそいつと戦ったけど、殺されかけた。薬は君用の秘薬を残して全部使ったし、罠も余りなく使った。それでやっと傷を負わせて、逃がした。1人だったからかもしれないけど、いくらなんでも危険だ、2人でどうにかできるものじゃ…」

「…じゃあいい…リーダーが行きたくないなら1人で行くから」

「はぁ?!ダメに決まってるだろ!?それに君は武器も折られてるのに…!」

「…」

チラリと顔を左に向けると、すぐそこに柄を折られ、まるでさびた槌のような変貌を遂げた極鎚ジャガーノートを見たレイラは、ため息をつきながらクロムから離れ、右手を出した。

「…貸して」

「…え?」

「武器。リーダーの。貸して。」

クロムの背中に背負われた夜刀-月影-。

レイラはその太刀に目をつけた。

レイラに取り憑いた復讐心は、おそらくこの太刀でも引き裂けないだろう。

「…ダメだ。君を行かせることはできない。」

「普通なら私は死んでるんだから…仮にこれから死んでも問題ないでしょ?」

「そういう問題じゃない!パーティーのリーダーとして、君を死なせることはできない!」

「…リーダーは元々カイと私。このパーティーを作ったのはカイと私よ?…知ってた?クロム?」

「それは…!」

「わかったら早く武器を貸して。モンスターに囲まれるんでしょ?早く逃げないと…」

「くっ…」

クロムの意志が一瞬揺らいだ。

確かにこのパーティーは元々、カイがリーダーで、カイが死んでからリーダーはレイラになるつもりだったが、レイラがそれをクロムに譲った。理由は面倒というものだが、それでも創設者である。立場は確かに上だった。

一筋の風が吹く。

血のような色の髪が、レイラの顔の前で揺らいだ。まるで髪の毛でさえも生きているように、さらに、早くしろとでも言っているかのように。

「…ダメだ。絶対に行かせたりしない。君は…」

「そう…残念」

「…?」

言いかけた言葉を、レイラが遮った。

出していた手を下ろし、さっきまでの詰まっていた空気が晴れたような気がした。

クロムはため息をついてレイラの近くに寄った。

「帰るよ…レイラ」

諦めてくれたのだろう。

憎しみに身を任せて身を滅ぼすことは、ハンターにもよくあることだ。

レイラもその話をよく聞いていたはず。

レイラは黙っていた。

しかし、歩けばついてくる。

レイラの気持ちはわかる。

愛する人といつまでも一緒にいたい、その願いを砕かれれば愛は憎しみへと形を変えて増幅する。復讐という名の刃は自分を傷つけ、挙句の果てには殺される。

それだけはなんとしても避けなければならない。

「…リーダー」

「なんだい……っく!?」

レイラの方へ振り向いた瞬間、クロムの顔の前で何かが弾けた。それは白い霧を放ち、溶けていった。

「く…なんだ…?うっ…」

視界が溶けていく。

脳が思考を止め、体が落ちる。

クロムはその場でゆっくりと倒れた。

「はぁ…ホント残念だなぁ…」

哀れむように倒れたクロムの背中に背負われた太刀を、自分の背中に背負い直した。

右手には捕獲用麻酔玉の残骸。

レイラはクロムに向けて捕獲用麻酔玉の霧をぶつけた。元々モンスター用なので、人間に対してその効果は未知数だが、死にはしないだろう。

「…悪いね、クロム…」

倒れたクロムを比較的安全なエリアを結ぶ道へと運び、新たに現れた気配に目を向ける。

地中から現れたガミザミの群れ。

腐りかけのヴォルガノスの死体に集り、肉を食おうとしていた。

(ちょうどいい…)

不敵な笑みを浮かべ、レイラは群れに向かって走り出した。

太刀を抜刀、薙ぐように切り払うと甲殻種特有の紫血が頬を掠めた。

鉄塊を振り回していた時とは違う軽い感触。

目の前にいた3匹のガミザミは、堅い甲殻を引き裂かれている。

(いいね、これ…)

感じたことのない感触に、レイラはただ笑った。切り裂けば切り裂くほどに舞う飛沫と刃を通して伝わる衝動。

楽しい。

カイを殺した火竜をめちゃくちゃにしてやった時みたい。

血を浴びる事に思い出される復讐の日。

死ぬほど憎んだ相手が自分の手で血に塗れていく。相手も自分も。それが、何よりも快感だった。あの時、レイラは自分自身、人間であることを忘れていた。

自分は化物なのだ。

もう戻れない。

なら、とことん堕ちてやろう。

 

「あはっ♪」

 

ぐしゃ。

三匹のガミザミは血肉と化した。

大量の返り血を浴びたレイラの表情は恍惚に満ちたものだった。

濡れた手を舐め、顔についた血を拭う。

そして、レイラはこう言った。

「カイ、もうちょっと待ってて…あと少しの辛抱だからっ…また私達、一緒になれるから…それまでっ…ね…?」

 




次回、何故かラージャンVSレイラです。
雰囲気ぶち壊し。
あとこんなに空いたのに以外と短いかも?
それと、注意。
以外と誤字があったりします。もしあったら報告してください。
感想等はどしどし受け付けています。
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