雲ひとつない夜空の下。
大理石の広場の上で、彼は仰向けに倒れていた。
右腕はあらぬ方向に折れ曲がり、口からは血を流し、白いローブも、赤茶の頭髪も、今は薄汚れてしまっている。荒い呼吸のまま、彼は視線を下に反らすと、遠くに彼を見下ろす白髪の少年が見えた。
学生服の少年も彼と同様傷だらけで、息も荒い。ただ一点、勝ち誇っているような表情だけが、彼とは違っている。
彼は、少年から視線を外す。目を閉じて深呼吸を一度。咳き込んで血を吐きだすと、口の中に血の味が充満する。痛みは感じないが、今にも意識を失ってしまいそうな気怠さがあった。
目を開け、空を見上げる。
頭上で、満月が彼らを見下ろしている。
自分自身の呼吸音しか聞こえないような静寂の中で、彼はこれまでのことを思い返していた。
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魔法先生ネギま!二次創作
『 Memoria. 』
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話は、ひと月前にまで遡る。
「パクティオー!!」
学生寮の裏側。
四月の暖かな空気に包まれ、満開の桜が点在し、その空間は風によって舞う桜花によって彩られている。
平日の夕刻。ほとんどの学生が部活動にいそしんでいる為人気は無く、そこにはふたつの小さな人影だけが向かい合って存在していた。
青い芝生から発せられている光に包まれている赤茶の頭髪の彼は、ネギ・スプリングフィールドと言う。そして、彼の正面に立つブレザーの制服を着た少女の名は、宮崎のどかと言った。
――
魔法使いと、その者の従者になる者とを結ぶ儀式。その名の通り契約は仮のものであり、正式には、ひとりとしか執り行うことが出来ない。しかし仮契約は、その効力は落ちる事を代償に、複数の人間と執行可能な儀式である。
この場で言うのならば。魔法使いが彼、従者候補が少女、そしてその儀式を執り行っているのが、第三者であるアルベール・カモミール――白いオコジョの形をした妖精だ。
魔法陣が発動して十数秒、陣の上に立つネギに行動の変化が現れる。ネギは誰もいない場所へと話しかけている様に見えるのだが、実のところ芝生の上で爪楊枝を振るっているオコジョ――カモに向かって話していた。
「だ、だめだよやっぱり! それに宮崎さんだって、こんな騙したみたいな格好で」
「キ、キスですか? わ、私も初めてですけど……ネギ先生がそう言うのならー」
「え!?」
「それにー……私も何だか胸がドキドキしてきて……」
「えっ……えぇ~~!!」
■■■
事の始まりは、カモの悪巧みだ。
カモは、ネギの祖国イギリスで下着泥棒という情けない犯罪に手を染めており、追っ手から逃げる日々を過ごしていた。
だが、流石に逃げ切ることが難しくなったために、ネギの使い魔となれば追っても手出しが出来ないと予測したカモは、海を渡り日本へ。さらにカモは確実に使い魔となるため、ネギに従者を持たせようと画策。のどかに偽の手紙を送り、ネギには偽の情報を吹き込み、ふたりを学生寮裏に呼び寄せた。
そしてカモは仮契約の魔方陣を起動、今に至るわけである。
■■■
先に大きな行動を先に起こしたのは彼女の方だった。目を瞑り、上半身を少しばかり前に傾け、つまり、ネギに向けて顔を近づけていく。
『ど、どうしよう心の準備もまだだしキスなんてしたことないし宮崎さんは僕の生徒だし……』
ここに来て、ようやくネギの方も大きなアクションを見せた。慌てふためき、両手を振り回しながらカモへ念話を飛ばし、カモと助けを求めていたのだ。
『あーもう、ここまで来て何を迷ってるんだよ兄貴! 女性がキスしても良いって言ってるんだぜ! 女性の期待に応えないイギリス紳士が何処にいるっすか!? こんなことでうろたえている様じゃあ、イギリス紳士失格だぜ!?』
『そ、そうだよね。紳士として、女性をガッカリさせることはしちゃいけないもんね……そう、紳士として、紳士として』
『お、やる気になったか!? よっしゃ、そのままいっちまえ!』
念仏のように、『紳士として』を繰り返すネギ。そして、ネギは行動を開始する。ネギは、膝を折ってネギの顔の位置にまで頭を下ろしていたのどかの肩に手を置き、そっと――
「仮契約成立!! ――『宮崎のどか』!!」
――口付けを、交わした。
■■■
「やったぜ兄貴! 初めての従者を獲得だ! いやぁこれも俺っちがふたりのためにお膳立てをしたおかげっすね!」
二人は真っ赤になりながらも仮契約の儀式を終える。のどかはカモが喋っていることに気付いていない。ネギとキスしたことで頭が一杯になっているからだ。
そしてカモの頭上には長方形の、のどかが描かれたカードが淡い光を放ち、姿を現す。そのカードに飛びつき、喜色満面で叫んでいた。
「これで晴れて無罪放免! 後は今まで以上に注意を払って事に及べば万事おー、」
「言いたい事は、それだけかしら?」
「……けー?」
ピタリ、と。
絶対零度のその声に、カモの動きが止まった。
見たくは無い。が、無視し続けたら命の危機が訪れるかもしれないし、しかし振り返ったとしても生きていられる保証はない。カモは、錆びた機械のように、長い首についた頭だけを、ぎこちなく後ろに向けた。
そこに仁王立ちしていた人物は、カモの予想通り。
「……あ、あああ姐さん?」
神楽坂明日菜。明るい茶色の長い髪を、鈴の形をした髪留めでツインテールにしているネギの同居人だった。
走ってきたのか顔を赤らめ、荒い息でカモを睨みつけている。その両手は硬く握られており、彼女の目は、見ただけで人を動けなくさせる圧力のようなものを感じさせる。カモは必死で自分を弁護しようと試みるも、それは火に油を注ぐ行為だった。
「……い、今の台詞無し! そ、そう! これは起こるべくして起こった、まさに一種の天命」
「地獄に落ちろこのエロオコジョが――!!!」
「ギャ――!!!」
叫ぶのと同時、明日菜の拳がカモに襲い掛かる。拳の暴風がカモに殺到するも、余裕はなさげではあるがカモは紙一重でそれらを避け続けている。
「あの時の反応がおかしいなと思ったら! 何故か! あのエアメールが捨ててあるし!」
「ちょっ」
「その中身を見たら!」
「姐さっ!」
「何!? あんたホントは悪いことして逃げ出してたんじゃない!」
「危なっ!!
「しかも罪状は下着ドロボウ!? オコジョの癖に人の下着を盗むですって!?」
桜吹雪の中、ひとりと一匹による鬼ごっこ。それに終止符を打ったのは明日菜でもカモでもなかった。
「せ、先生のペットが喋ってる……?」
「――あっ」
■■■
学生寮、643号室。
明日菜と近衛木乃香――まっすぐな黒髪を腰まで伸ばしている、明日菜のクラスメイトで同居人――の部屋であり、ネギが居候として住んでいる部屋である。
そこで、ガラスで出来た小さな四角いテーブルを囲む、三人と一匹の姿があった。
窓側にネギが座り、そこから時計回りに明日菜、のどか、カモ、の順。それぞれの手元には――体の大きさに見合った大きさの――グラスが置かれており、その中には水が注がれていた。つい先ほど明日菜が台所で汲んできた物である。それを一気に飲み干した明日菜は、何かを吹っ切るようにのどかに向かい、話し掛けた。
「こいつ、魔法使いなのよ」
「はい……え?」
てっきり、この喋るオコジョのことについての話だと思っていたのどかは、その斜め上を超えた発言に目を丸くする。明日菜はその様子に苦笑した。
明日菜の話に続いたのは、のどかの正面に座っているネギである。
「明日菜さんの言うことは本当なんです。信じられないのも無理は無いと思いますけど。教育実習生と言うのは建前で、実は僕、ここに一人前の魔法使いとなるための修行でここに来たんです」
のどかは、先ほどと変わらない、呆然とした顔でネギを見ている。
「あの寮の裏でのことも、魔法に関する事だったんです。あれは仮契約と言って……」
のどかの様子にもお構いなしに、ネギはこれまでの、のどかに対し秘密にしていた事をある程度喋り続けた。
仮契約のこと。カモのこと。期末テストでのこと。桜通りでのこと――吸血鬼『闇の福音』エヴァンジェリンのこと。エヴァにネギが狙われ、実際に襲われたこと。
他にものどかに明かしたことはあったが、ネギは最後にこれだけは言わなければいけない事とし、呆然としてネギを見ているのどかに向かい、こう言った。
「のどかさん。隠さないといけない事だとしても、そのせいで、のどかさんが危ない目にあったのも事実です――本当に、すいませんでした」
そう言ってネギは、のどかに対して頭を下げた。
「……私のときは頭を下げなか、」
『私のときは頭を下げなかったくせに』ネギの言葉に、明日菜が不満げにそう文句を言おうとしたが、のどかの声が被さりネギの耳には届くことは無かった。
「あ、頭を上げてくださいネギ先生!」
ネギは、弾かれた様に頭を上げる。
「……た、確かに、桜通りでは危なかったかも知れないですけれど、先生は助けてくれましたし、最初の日にも、私を階段の所で助けてくれたじゃないですか。先生は、頭を下げるほど悪いことはしてないです!」
「のどかさん……」
嬉しそうな顔をしてのどかを見るネギ。のどかは顔を赤くし、たどたどしくも話を続ける。
「そ、それに……先生の新しい一面を知って私、嬉しいですから」
「え?」
「あー、こほん」
「!?」
「あんたらねぇ、そういう話は人の居ないところでやって貰えない?」
わざとらしいその咳に、二人は二人だけの世界から引き戻される。その咳をしたのは、顔を赤くし、斜め上を向いている明日菜だった。
「見てるこっちが恥ずかしいじゃない……それと、このエロ学派の前で今の会話はネタにされるだけよ」
「フギャ!?」
言葉を区切り、明日菜は正対しているカモを睨み、溜息をひとつ。明日菜がデコピンでカモを軽く弾くと、カモは悲鳴を上げて転げまわっていた。
「こいつのことは置いといて……それより本屋ちゃん」
「は、はい?」
「本屋ちゃんは、ネギのホントの姿、まぁ魔法のことを知っちゃったんだけどね、」
「あ、待ってください。その話は僕がします」
「……ん」
「えーっと……?」
「では、宮崎さん。宮崎さんは望んで魔法のことを知ってしまったわけではありません……こちらの世界は、昔ほどではありませんが、それでも命の危険が十分にある世界なんです」
――ネギは、過去に行われた魔女狩りについて語る。
教会により多くの魔法使いが殺され、それまでは普通に暮らしていた魔法使いたちは人里離れた地へと移住するしかなかった。最近魔法使いが激減した事件は、二十数年前に勃発した大戦がそれに当たる。どちらにしても、魔法界が受けた被害は尋常ではない。
ネギが、真剣な表情でのどかに問いかける。
「今ならまだ間に合います。……記憶を消して日常に戻るか。それとも記憶を消さずこちらの世界の住人になるか。選択肢はふたつあります。宮崎さんは、どちらを選びますか?」
沈黙。ネギは真剣な顔で、明日菜は何とも言えない微妙な表情を浮かべている。彼らからは、うつむいた彼女を表情を読み取ることはできない。
「……私は、」
「アスナー、ネギくーん、帰ったえ~」
「やばっ、このかが帰ってきた!」
今までのシリアスな雰囲気は消えうせ。代わりに慌しいそれが広がる。この部屋の同居人である木乃香がドアを開け、今にもこちらの部屋へ入ってこようとしていた。
話を無理やり打ち切ったのはネギ。小声で、しかしテーブルを囲んでいる他の三人には聞こえる程度の、緊迫した声で皆に伝える。
「とっ、とにかく! 返事は今日の夜十時に、アスナさんと僕とで、大浴場で待ってます! あと、木乃香さんにはまだバレてないので、そのことは話さないでくださいね! 皆さん、それでお願いします」
「あ、はっはい! 分かりました」
のどかが返事をし終わるや否や、制服姿の木乃香がネギ達のいる所へとやって来た。ネギたち三人はどこかぎこちない様子で木乃香を見、カモはテーブルの上で我関せずといった風にストローで水を飲んでいた。
木乃香は目に入った光景に首をかしげて、
「あれ~? のどかがウチの部屋に来るなんて珍しいな~。何かあったん?」
「えっ? えぇとですね……」
「のどかがネギの雑用の手伝いをしたから、そのお礼でネギが招待したの。それで、のどかは今帰ろうとしてたトコ」
たじろぐのどかにネギは慌てる。そこに助け舟を出したのは明日菜だ。木乃香から目を逸らし、口からでまかせの嘘をつくが、木乃香はそれを疑うそぶりすらない。
「そうなんか~。良かったなーのどか」
「え? あ、はい、そうですね」
返事の可笑しいのどかに、木乃香はまた首をかしげる。その様子に、これ以上のどかがここに留まったらボロが出ると、明日菜はこの話を打ち切ることにした。そして、ネギも明日菜に合わせる。
「じゃあ、またね。のどか」
「え、っと……ありがとうございました、のどかさん」
ネギは軽く頭を下げ、のどかに一礼。
「それじゃあ、また」
のどかは逃げるように、駆け足で玄関へと向かっていった。
■■■
時刻は十時を回ろうとしている。消灯時間となり、麻帆良学園の女子寮内大浴場は非常灯から発せられている緑の光でぼんやりと照らされていた。
既に寮内の学生たちは入浴を終え、いつもは明るく騒がしいそこは静まり返っている。ネギ、明日菜、そしてカモはそこにいた。
ネギはパジャマ姿、浴場掃除用のサンダルを履いている。明日菜はジャージ姿に同じくサンダル。カモはネギの肩に。ふたりは浴場内の大きな支柱に寄りかかっていて、窓から差し込む光と非常灯、そしてネギが詠唱した発火呪文による小さな火の光だけが辺りを照らしていた。
「宮崎さん、何て答えるでしょうか?」
「本屋ちゃんかー。多分ね、記憶を消して欲しくないって言うんじゃないかしら」
下を向きながら明日菜に問いかけたネギだが、彼女の答えを聞くや否や、彼女の方に勢いよく顔を向けて、その自身の疑問にあっさり答えた明日菜を凝視した。
「ど、どうしてそう思うんですか!? 魔法がばれたらオコジョですよ? ……宮崎さんはそんな危ない事に関わらないと思います」
「……あの娘の思ってることは、あの娘がネギに言わなきゃならない事だと思うし。言うのは止めておくけど……でも、ネギ。私は危険な目に遭ってもいいとか思ってないでしょうね?」
「え?」
溜息をつき、一度視線を外す。一息ついた後、明日菜は半目でネギを軽く睨んだ。
「あんた、最初は私の記憶消す気満々だったでしょうが」
「あっ」
そうなのだ。ネギは明日菜に魔法のことがばれた当初、問答無用で明日菜の記憶を消すつもりだった。『魔法は隠匿されなければならない』。魔法界の掟である。
では何故、明日菜の時とは違い、ネギはのどかの記憶を消そうとしなかったのか。ネギが此処へ着任してから二月が経過し、生徒たちとの楽しい日々が記憶されてしまったからに他ならない。
「そ、それはそうなんですけど……明日菜さんと忘却魔法の相性が悪いみたいで……普通はこれを使ってパンツがなくなるなんて有り得な、」
「ストップ!」
明日菜が慌ててネギの言葉を遮り、正面に回って両肩をつかんだ。
「す、すとっぷ。それ以上は禁句よ、禁句。それは忘れたい記憶なんだから」
「それは初耳っすね兄貴。どういう状況だったか詳しく教えぇ!?」
「禁句と言ったでしょうが。もしまた聞いたりしたら……」
余計な一言のおかげで、カモはネギの肩から支柱に叩きつけられ、明日菜の手によって磔にされる。
「わ、分りましたって姐さん! だから離して下さいお願いします! これ以上やったら潰れ、」
その時、カラカラと遠慮がちな音を立てて、大浴場の入口が開いた。
「せ、先生? 居るんですか?」
「あ、は、はい。のどかさん、こっちですよ」
入口から恐る恐る顔を出し、あらぬ方向を向いていたのどかにネギは声をかけた。彼女は彼に振り返り、彼の姿を確認すると、暗く広い空間で不安げな表情を浮かべていた彼女の顔に笑顔が浮かんだ。
のどかは制服姿のままでサンダルを履いている。彼女は小走りでネギたちの前に向かい、そして挨拶を交わした。
「こんばんはネギ先生。それに、明日菜さん、カモさんも」
「こんばんは宮崎さん」
「こんばんは、のどかちゃん」
「おぅ、宮崎の嬢ちゃん」
三人と一匹が挨拶を終える。数秒の沈黙の後、初めに切り出したのはネギだ。
「……決まりましたか?」
いきなりの直球な質問。ネギは、のどかが返答に困るかと思っていた。
「はい。実はもう、最初にテーブルを囲んだ時、答えは決まっていたんです」
「え?」
しかし、意外にも返答はすぐに帰ってきた。不意打ちを突かれ、逆にネギの方がうろたえてしまう。
目を閉じ大きく息を吸い、そして吐いた後。のどかは顔を赤くしつつもしっかりとネギを見据え――答えを出した。
「私は、記憶を消して欲しくありません。だって、この事を忘れてしまったら、先生と本当の意味で接することができなくなってしまいますから。私は……ネギ先生の真実を心に留めて…………先生と一緒に居たいんです」
固い決意。
ネギは驚きを露わにし、明日菜はやはりといった顔でのどかを見つめる。ネギはその時間で、のどかの意思が変わることはないということを感じ取ってしまった。目を瞑り、たっぷりと時間をとった後、のどかの顔を見据える。
「分かりました。それでは改めて……ようこそ魔法の世界へ! そして、これからもよろしくお願いします、『のどかさん』」
ネギは、初めて彼女を名前で呼んだ。それはネギにとってのどかが唯の、先生と生徒の関係ではなくなった事の現われだった。
「こ、こちらこそ! よ、よろしくお願いします!」
「よぉーし、やったぜ兄貴! これで、晴れて最初の従者を獲得したっすね! 嬢ちゃん、これがその証っすよ!」
カモが従者のカード、そのコピーをのどかに投げる。のどかは慌ててそれを受け取り、そのカードに目を丸くした。
「これ、が……? 綺麗な、カードですね」
「本屋ちゃん、これから大変よ? こいつと一緒に居ると碌な事が無いんだから」
その様子を見た明日菜は、苦笑しつつものどかにアドバイスを出す。実体験から見出されたそれは、のどかに重く受け止められる。そしてその言葉にネギはむくれた。
「あ、酷い事言わないで下さいよ明日菜さん!」
「ん? んん!? おぉ、そうっす! 兄貴、姐さんと仮契約を結んじまいましょう! ひとりよりふたりっす!」
「え、ちょ、カ、カモ君何言ってるのいきなり!?」
「そ、そうよ! またふざけた事言ってるとタダじゃ、」
「え、明日菜さんは先生の従者じゃなかったんですか……? じゃあ私が先生の最初の従者……」
「ん~? あれあれあれ姐さん、まさか、いやまさかとは思いますけどね……嬢ちゃんさえもしたキスを、したことが無いってことは無いですよねぇ?」
「ば……! バカ! 有るに決まってるじゃないキスの一回や二回!」
「ほー? じゃあ大丈夫っすね? では早速仮契約の準備を……」
「ま、待ってよカモ君! その、心の準備がまだ、」
「何言ってるっすか! 嬢ちゃんひとりが従者になったからあの真祖の吸血鬼に勝てる、なんて思ってないでしょう!?」
躊躇うネギに、カモはネギの肩から首を伸ばし、ネギの顔へと自分の顔を近づき詰め寄る。そのカモの強気な姿勢にネギはたじろいだ。
「う……それは……」
「ほら! 分かったなら早く準備するっす! ……姐さんはキスに抵抗が無いみたいだし、いやぁ良かった良かった!!」
カモのワザとらしい台詞に、明日菜は顔を赤くして震える。
「こ、このエロオコジョが……!」
「んー? 何か言ったっすか姐さーん?」
「くっ……!」
「さぁ出来たっすよふたりとも! さぁ早く円の中に入った入った!」
いつの間にネギの肩から降りたのか、カモは既に大浴場の床に仮契約の魔方陣を書き終わっていた。少しばかりの沈黙の後、ふたりとも決心がついたのか、陣の中に入っていく。
「行くっすよ、ふたりとも! パクティオー!!」
半ば成り行きで、明日菜はネギと唇を合わせる。暖かい感触。視界の隅でのどかが顔を赤くしているのを見て、明日菜は顔が熱くなるのを感じた。