時として記憶とは非常に脆弱なものである。
「つまりここは結界で周りから隠されているの」
「ふぅん」
物理的要因はもちろんのことストレスなどでも記憶の喪失は起きてしまう。
そしてこの記憶喪失にもいくつか種類があり、前者の場合ショックなどで一時的に記憶を失うだけで自然に治ることもある。
「そういえば此処って名前とかあるのか?」
しかし精神的要因の場合はやっかいだ。尋常ではない心への苦痛、それは己の中の現実《じょうしき》を非現実《ひじょうしき》に変えてしまい、自らの心を守るためにき記憶を消してしまう。
「もちろんあるわ」
彼の場合は果たしてどちらか。それは誰も知るよしもなかった。
「ここは幻想郷。すべてを受け入れる忘却の園よ」
†
「おお……」
彼の口から感嘆の声が漏れる。
「どう? 私の自慢の花畑」
眼前に広がる名も無き野原には色とりどりの花が敷き詰められたように咲いており、時折風に靡いては楽しそうに揺れるのであった。
先日に春告精が訪れたことによってか空気は暖かく、また春ならではの柔らかな風が頬を撫でていく。とても心地がよい。
少し遠くに見える林や連なる山々を見る限り人の手はほとんど入っていないのだろう。全てがゆっくりと時の中を流れているように見える。彼が記憶を無くす前にどのような環境に居たのかは分からない。
しかもそれは彼自身にさえ分からない。だがこの何者にも縛られず、すべてが生きる事そのものを心から楽しんでいるようなこの世界が彼の瞳にはとても美しく、魅力的に映ったのだ。
「全部幽香が育ててるのか?」
隣に座っている幽香に尋ねる。それに合わせてか風に乗ってふんわりとした花の香りが二人を包んだ。
「ええ、もちろん」
へぇ、と感嘆の声をあげる彼の横では幽香が笑顔で日傘を回している。その姿はちょうど揺れている花達によく似て見え、それだけで絵になった。
「綺麗だなぁ……」
溜め池息のような彼の声に隣の幽香が嬉しそうに顔を赤らめる。そしてにんまりと笑いながら「ありがと」と呟き、再び傘を回すのであった。
†
「なんかここって良いところだな」
「そう?」
花畑に設けられたベンチに腰かけ二人は休憩していた。彼はメディに拾われた際に自分が履いていたというブラウンのハイカットブーツの紐を結び直し背もたれに寄りかかった。
「俺が言うのもなんだけどこんなに綺麗な場所は見たことがないよ」
そう言うと幽香はまたもや嬉しそうに笑いくるくると日傘を回す。
「ここの他にも花が咲いている場所は沢山あるわ。機会があったら連れていってあげる」
その後もあれやこれやと楽しそうに話す幽香を見て彼は「なんだか犬になつかれてるみたいだなぁ」と思い、幽香が尻尾を振っている様子を想像し笑うのであった。
なんだか説明回のようになってしましましたが私は元気です←
あ、そうそう。ここは「太陽の畑」ではないのであしからず。
では、読了ありがとうございました!
次回もまた!