たとえこの身が灰になろうとも   作:マルシーズ

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三章
Ⅰ キュルケ


 

「大変ですぞ!!オールド・オスマン!!」

学院長室に突如顔を真っ青にしたコルベールが大慌てでノックのせず入ってきた。

「どうしたんじゃね?コルベール君。わしは今どの新入生がいい乳をしているか

 検証してる最中ちゅーのに…」

とスケベ爺と化した、栄光なるトリステイン学園の長は鼻毛を抜きながら、新入生の女子の

情報を持ってきたねずみの使い魔と談笑していた。

「ふむふむ、お前の意見だとミス・ツェルプストーとミス・ルノワールがええ体をしていると」

「馬鹿野朗」

そんなオスマンにコルベールは柔和な笑みを浮かばせながらべきべきと血管が次々と

作らせ、相変わらずエロ河童な上司に問答無用のファイアーストームを唱えた。

「ぐあああああああああ!」

コルベールの杖から時は放たれた業火がオスマンの髪の毛に襲い掛かり、コルベールとは間逆の

豊かな髪を燃やしてしまった。

「ばーたれい!!!よくもワシの髪をカリフラワーにしおったな!。ハゲになったら

 どうするんじゃい!!!!」

脳天を焼き尽くさんとする炎をなんとか水の魔法で消火させ、アフロな髪となったオスマンは

コルベールの光る頭をばしばしと叩く。

「いいじゃないですか!ハゲたらなら多少私の苦しみがわかっていただけるでしょうな!!!」

己の頭を叩くオスマンの手を叩き落し、オスマンの立派な顎鬚を手早く三つ網にして

ぎゅうっと引っ張り挙げる。

「この野朗!コパーゲール!毎日毎日わしのヒゲをもさぼりおって!いくら主の頭が

 さぶいからといって、この豊かで美しいヒゲの温もりがそんなに羨ましいか!!!」

(ご主人様!!そんな事をやってる場合ですかーー!。なんかコルベール氏の様子だと

 かなり緊急事態でないでしょうかーかーヵーヵー…」

オスマンの脳裏に己の使い魔の声がエコーで聞こえてきた。

オスマンは咳をして、「そうじゃの」と一応顔を威厳のある老人の顔に戻し、椅子に座る。

「で…どうしたのじゃね?コルベール君」

オスマンの問いにコルベールは怒りに猛り狂った心をなんとか沈め口を開く。

「それはですね…食堂で生徒により決闘騒ぎが起きましたぞ…」

それを聞いたオスマンの顔が真っ青となり、どんと立派な装飾で彩られる机を叩く。

「なにぃ!まだ朝食の時ではないか!。誰と誰じゃ!!??まあ…予想はつくが…」

「…例のミスタ・ヴァリーエルと…2,3年の男子多数…」

オスマンの体が震え血の気が一気に引く。

「2年と3年の男子多数じゃとおおおおおおおおおお!!何が!何が原因じゃ!!!」

「実は…」

コルベールは冷や汗をかきながら事の始終を話した。

内容はこうだ。

朝食の時間…、とあるメイドがうっかり2年の男子にスープをかけてしまった。

それにぶち切れた男子はメイドを叱りつけた、だがそれだけでは終わらずネチネチと嫌味を

言い、さらにメイドの顔をひっぱたいた。

それに憤ったアドリアンの妹ルイズは義憤にかられ、メイドを庇い男子に詰め寄った。

ルイズに詰め寄られた男子はさらに憤り、ルイズの体を押して倒してしまった。

丁度その時、寝坊して遅れてきたアドリアンがその現場を見つけて悪鬼の如き顔となり、

妹に暴行を加えた男子の顔をぶん殴り、数本の歯を圧し折ってしまった。

それを見た男子の仲間が一斉にアドリアンに敵意をむき出した、それに便乗し元々アドリアンの

事が気に食わなかった3年の男子達も一斉に詰め寄ってきた。

アドリアンはルイズを始め関係の無い生徒、メイドを全て食堂から追い出し、扉をしめて

扉の隙間全部に火の魔法をかけ溶接して開けなくさせてしまった。

「というわけです…」

「ぬう!他の教師たれはどうしておる!!?」

「他の教師のほとんどは…相手があのミスタ・ヴァリエールなので…怯えきってしまい…」

「カーーーーーーー!!不抜けどもが!!

 あの小僧め!昨日はおとなしくしてたから大丈夫だと思ったのにのう」

「いえ…昨日は新入生の顔合わせの時…ミス・ツェルプストーに口説かれてましたが、

 逆に口説き返してました…。ミス・ヴァリエールに邪魔されてましたけど…」

「まことか!けしからん!あの…褐色巨乳に口説かれていたなんて…!小僧が!!」

オスマンの眼が血走りぶるぶると振るえ、コルベールはそれを冷ややかに見る。

「そんな事言ってる場合ですか…」

「そじゃったのう!!わかっておるわい!。コルベール君!

 わしと主でなんとかあの暴れん坊を止めるぞい!眠りの鐘を用意せい!!」

「はい!わかりました!」

コルベールは頷いて、棚にある眠りの鐘を取り出し、二人の教師は現場へと一目散に向かった。

「あのクソ坊主め許せん!!!調子に乗りおってからに!乳の恨みは恐ろしいぞお!」

「いい加減にしなさい!」

 

 

 

 

「あ~あ…もう。思ったより化粧で戸惑って遅れちゃったじゃない…」

女子寮の廊下で赤毛の褐色で豊かな胸を持つ一人の女が歩いていた。

少し切れ長の目で、悦ぽい褐色肌、大きく広げているブラウスから見える豊かな乳房の谷間が

なんとも言えない艶かしい色気を放つどことなくジャンヌに似た女性である。

彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー

(またクソ長え名前の奴が一匹…アドリ(以下省略)。

トリステインの隣国のゲルマニアという国のツェルプストー辺境伯の娘である。

ツェルプストー家とヴァリエール家は領土が隣同士で、トリステインとゲルマニアが

戦争をした時よく杖を交えた間柄かつ異性関係でのトラブルをよく起こしていた…、

戦果はともかく異性関係でははるかにツェルプストー家が圧勝していた…。

まあ簡単に言えば不倶戴天の仲である。

このキュルケという女性、無理やり結婚されるのを嫌がってこのトリステイン魔法学院に留学

していたのであった。

そして同時に同級生にヴァリエール家のものが二人いると知って歓喜した。

ツェルプストー家の代々の家訓に「ヴァルエール家の恋人は奪え」というわけわからん家訓が

ある。

キュルケはその家訓に則り、ヴァリエール家の生徒にちょっかいかけようとした、

その一号がアドリアンである。

キュルケはアドリアンの噂は知っていた、凶暴で傲岸不遜、しかも吸血鬼4匹を打ち倒した

噂を。

だがツェルプストーの娘としてこの凄まじい経歴に戸惑いながらも、ヴァリエール如きと

思い話しかけた。

実際話をしてみればこのアドリアンというヴァリエールの男…、今まで聞かされていた代々

ヴァリエール家の人間に無い匂い…そして危険な匂いを同時に感じとった。

だがこのキュルケという女…相手が強敵であればあるほど彼女の「微熱」は燃え上がる。

だが…実際口説いてみれば想像以上の強敵であった…。

今までキュルケが口説いた男と違ってこのアドリアンは…男とは思えない妖しく妖艶な瞳と

相手を快楽に落とさんと言わんばかりの空気…そして甘い言葉で逆に口説き落としにかかった。

アドリアンに手を絡まされ、耳元で甘い声で囁かされ、

彼女の体の芯が火照り、この雄に体を委ねそうになってしまった、

だがその時アドリアンの後ろでほくそ笑むジャンヌの顔を見た。

たしか…この女…アドリアンとは愛人なのか恋人なのかわからないが…恐らくアドリアンと

肌と合わせた女であるに違いない。

ジャンヌの顔を見てキュルケは感じた…あの眼は喰えるなら喰ってみなさい…逆にあんたが

喰われると言っている眼だと…。

キュルケはこの女も強敵と見た、好きな男が他の女を口説いてるのを平然と見てさらに

挑発的に笑う、こんな女は見たことも無い。

あの余裕な態度、自分と同じく艶かしい体…そして妖艶な雰囲気そして自分の褐色な肌とは

対照的に白い肌。

この女には自分と対照的ながら同じ匂いを感じた…。この女は楽しんでいる…、

アドリアンを巡る自分との恋と悦楽の戦いを…。

そう感じたキュルの心はさらに燃え上がる、「微熱」の二つ名を返上し「灼熱」だと

言わんばかりに。

さらにこの自分を悦楽の業火に飲み込まんとするこの男はヴァリーエル家…自分の家の

恋の敵だ、それにツェルプストー家はこのヴァリーエル家にその手に関して連戦連勝

してきた。そんなツェルプストーの人間がこのヴァリエール家如きに負けるのはプライドに

傷をつける…事だ。

だが今までのヴァリエールの人間と違いこの男は本当にやばい、じわじわと自分の

プライドを媚薬とも猛毒とも言える魅力で溶かそうとしてくる。

このままだと陥落されると思ったとき、どこからかもう一人のヴァリエール家…

アドリアンの妹のルイズが顔を真っ赤にして邪魔してきて、それを遮られキュルケはなんとか

アドリアンの誘惑から逃れた。

このルイズという可愛らしい娘は兄と違って…余裕の無い娘だった。

顔をトマトみたいに真っ赤にして、子犬みたいにキャンキャンと「兄様をあんたの汚い手で

触るな!」とか「これだからツェルプストーはいやらしいのよ!」と吼える。

あんたの兄も大概よ!と思ったが…なんか典型的なヴァリエールらしい態度で吼えるこの娘を

子犬みたいで可愛いと思ってしまった…、

あの淫魔の如きの兄と比べてしまったからかもしれないが…。

ルイズのおかげで周り立ち込める卑猥な毒気が晴れ、すっかり気が冷めてしまった3人は

ルイズを生暖かい目で愛で(いじっているとも言える)この悦らな昼ドラマは終焉に終わった。

しかしキュルケとしてはこのままで黙ったままでいるような弱い女ではない。

自分の部屋に戻った彼女は一晩中どうやってアドリアンを自分の虜にするか作戦を練った。

おかげでこの通り、すっかり寝坊して遅刻してしまったが。

「どうやって…あいつを口説こうかしら…?下手なやり方じゃ逆に喰われるし。

 はぁ…。やっぱり正攻法にこれしかないわね…」

キュルケは露になっている谷間から紙を取り出して開く。

そこにはアドリアンを自分の部屋に誘うとする恋文であった。

「ま…恋は正攻法て言うしね」

キュルケは闘志を胸に燃やし手紙を谷間の隙間に入れる。

「なぁに?キュルケ。それってアドルにあげる手紙?」

突然後ろから声が聞こえて体がびくっとなり後ろを振り向く。

そこには魔女の如き妖しく艶かしい笑みをするジャンヌがいた。

「あ…あら?ルノワールじゃないの…貴方も遅刻?」

顔をひくつかせ、ジャンヌの魔女のようなオーラーに耐えながらも余裕たっぷりに笑う。

「そなの。もう!アドルったら私を起こさないんだもの…おかげで遅刻よ!

 でも昨日は激しかったな」

とジャンヌは顔をうっとりさせながらキュルケを挑発的に見る。

そんなジャンヌを見てキュルケは闘志を持って話しかける。

「いい気になってられるのも今のうちよ?

 見てなさいよ?貴方の男…必ず私の虜にしてみるから…」

「ふふ…楽しみにしてるわよ?私、アドルみたいな野蛮人と違って暴力は嫌いだけど

 こういう戦いは好きだもの…」

「上等ね…戦線布告と見るわよ?」

「いいわね…。貴方ってなかなか強敵そうだもの…。楽しくなりそうね…」

互いが笑いながら見て火花を飛び散らせる。

「でも気をつけることね。アドル…あの子の魅力は麻薬みたいなものよ?

 危険で…気持ちよくて…病み付きになったら蟻地獄にはまったかのように

 ずるずると堕ちていく…。あなたもそうならないようにね」

とジャンヌは妖艶に笑う。

今この場で女のプライドを掛けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

とそんな雰囲気だったが、食堂に向かって一緒に歩きながら会話していると、似たもの同士

なにかと互いに感じるものがあったのかすっかり意気投合して話が弾んでいた。

そして食堂に近づくとなにやら辺りが騒がしかった。

「やば…」

ジャンヌは何かに気づき汗を流す。

「どうしたの?ジャンヌ」

不思議そうにキュルケが問うと、後ろから血相を抱えた黒髪でショートカットのメイドが

大慌てで走ってきた。

「あら?貴方は?」

ジャンヌが黒髪のメイドに話しかける。

「た!大変なんです!!えっとあっと…!」

慌てふためいて口を噛むメイドにジャンヌは優しそうに笑い。

「もしかするとアドル…アドリアンが暴れてる?」

その言葉を聞いてジャンヌは勢いよく首を立てに振る。

「そ…そうなんです…。私が粗相な事をしたばかりに…」

涙を貯めてメイドはジャンヌにしがみ付く。

ジャンヌは困った笑みをしてよしよしとメイドの頭を撫でる。

「どうしたの?何があったか言ってごらんなさい」

「実は…」

メイドはこの騒ぎの事を二人に話す。

シエスタと名乗るこのメイドが粗相をして二年の男子にスープを掛けてしまったこと…。

そしてネチネチと嫌味を言われたあげく顔をはたかれた事…。

それを見たルイズが男子に詰め寄って、男子の仲間にかこまれて暴行を受けた事…。

そして現れたアドリアンが男子をぶん殴って乱闘騒ぎになった事…。

「へぇ~~やるわねあのルイズって娘。兄に隠れてるだけと思ったけど」

「はい…!ミス・ルイズが「貴族は平民を護るもの!」と啖呵を切ったときは感動しました!」

眼を輝かせて言うシエスタにジャンヌはルイズの成長に喜ぶ…としたい所だったがそれどころ

ではない。

「とりあえず、先生達はどうしてるの?まさかアドルにぶっ飛ばされたとか?」

「いえ。先生方は隅で震えてます」

その言葉を聞いて二人はずっこけた。

「あ~~もう!エレオノール姉さんからここの教師のだめっぷりは聞いてたけど…

 まぁ…相手がアドルじゃ仕方ないか…」

ジャンヌは顔をしかめながら頭を掻く。

「で?どうするのジャンヌ。けっこうな騒ぎだけど」

人事のように言うキュルケにジャンヌはにこりと笑って。

「キュルケ、丁度良かったわ。あの子と付き合うなら知っておくといいわ?あいつがなんで

 狂犬て呼ばれてるか…あれを見て逃げ出すようなら私は貴方をライバルとは思わないわよ?」

まあ初めてあいつがぶち切れてるとこ見たときは引いたけどねと笑う。

そんな事を言うジャンヌを見てごくりと唾を飲む。

二人が食堂前に行くとざわざわとざわめく人だかりがあった。

「あ!じゃんぬ!」

ジャンヌを見たルイズが涙を貯めながら、駆けつけてしがみ付く。

「あう…ふぇ…兄さまが!ごめんなさい!私のせいで!」

「よしよし。泣かないの。話は聞いたわよ?立派だったじゃない。ちゃんとメイドを護ってさ

 素敵なレディーになってるじゃないの」

ジャンヌはルイズを抱きしめ子供をあやすように頭を撫でる。

「とりあえず、どうするのこれ?すっごい音してるけど…」

キュルケは扉の向こう側にドォン!ドォン!と鳴る音を聞いて呆然とする。

「ま、とりあえず止めなきゃね。あいつ切れてても殺しはしないと思うけど普通に骨を

 圧し折ったりするからねえ」

それを聞いてキュルケはマジかと言い唖然とする。

そしてジャンヌは真剣な顔でルイズを見る。

「ルイズちゃん。アドルの事が好き?」

「うん…大好きよ?」

「それなら…いい機会ね…。ルイズもそろそろあなたのお兄さんの恐ろしい面も知っておくべき

 ね…。今までアドルは私達に出来る限り自分の恐ろしい面を見せないようにしてきた。

 でもね、本当に好きならそういうマイナス面も知って受け止めるべきなの…それがどんなに

 怖い事でもね…。好きっていう事はそういう事なの。決して眼を背けちゃだめよ?」

そう言ってジャンヌはぎゅっと抱きしめる。

ルイズも意思を固めて頷いた。

 

 

 

 

 

「ぐああ!!!!」

少年の体が血を噴出しながら宙に舞って、テーブルにグシャっと音を立てて落ちる。

「うぁぁ…あああああ」

金髪の少年はこの地獄絵図を見て腰を抜かし、じわりと股が湿る。

少年は目の前で暴れ狂うアドリアンを見て後悔する。

元々この少年はアドリアンを人目見て気に食わなかった。

1年の分際で指定のマントを羽織らず、ファーの黒いマントを着るこの男の事が。

黒いマントそれは貴族の男子なら誰でも憧れるトリステイン魔法衛士隊が羽織るものである。

この少年も他の男子と同じく魔法衛士隊に憧れていた…。

それをこのアドリアンという男は形が違うとはいえ、黒いマントを平然と羽織り、さらに

背中にかけてある、2メイルもある長剣はただの剣ではなく杖剣だ。

そんなもの生徒が持つ様な代物ではない。

さらにこいつはあのマンティコア隊の隊長とグリフォン隊の隊長と仲が良いという噂を聞く。

そういう事も知ると益々この男に対して嫉妬をしてしまう。

たしかにこいつは吸血鬼を殺したという噂だが、その現場にワルドもゼッサールもいたので

(双璧とアニエスは平民なので無かった事にしている)、

本当はこいつが倒したのではなく両隊長があの吸血鬼を倒したのだと思い、

ただ奴は公爵家の息子という事で贔屓され、

あれが吸血鬼を倒したという事にした思い込んだ。

またさらに言うとアドリアンの容姿が人間離れなほど美しく、周りの女子は怖いと思いながらも

遠い所からうっとりと眺めていて、それを見たこの少年の嫉妬心はさらに憎悪となって燃える。

という訳で、この乱闘騒ぎが起きた時丁度いいと思った。

あの生意気な奴を完膚なき叩きのめし、長くなった鼻を叩き潰してやろうと。

しかし結果は目の前の通り…、あの男は皮肉げに笑いながら素手で同級生、上級生を次々と

血祭りに上げている。

周りを見渡すとあたり一面は哀れな犠牲者の血で染まっていた。

アドリアンに殴られたものは顎が砕けたのか、悲鳴を上げながらガタガタと震える。

それを見た少年は体が震え始め、この悪鬼の様な下級生に喧嘩を売った事に後悔した。

「ひぃ!!」

鼻の折れた友人の体が少年の目の前に血を流しながら飛んできた。

「ああ…うう…助け…て…」

鼻の穴から大量の血を流した友人が必死に少年に近づき命乞いをする。

「うわああくるなああ!」

そんな友人の有様を見て少年は手を振り払おうとする。

「おい…まてや…」

アドリアンは少年の友人の襟首を掴む。

「ひぐ!うっぐ!助けてぇぇ!ごめんなさい!!」

友人は涙を流しながらアドリアンに命乞いをする。

「エアーハンマー!!!」

まだ闘志を失っていない上級生が後ろからアドリアンにエアーハンマーを唱える。

「…」

アドリアンは己に襲い掛かるエアーハンマーを冷めた目で見て拳で叩き落す。

「ひぃ!!!!」

さっきの闘志はどこへやら、上級生は自分の魔法を拳で叩き落とすという人間離れした

芸当され、顔が真っ青になって悲鳴を上げた。

アドリアンは掴んでいた男を上級生に向かって放り投げる。

「うばぁ!!」

上級生と周りの生徒は飛んできた生徒にぶつかり巻き込まれ次々となぎ倒される。

アドリアンは何も感慨も無く、怯える少年に眼を向ける。

「ひいいいいいいい!」

金の眼を光らせるアドリアンを見て、体を丸めガタガタと振るわし両手を組む。

「すみません!すみません!もうしません!もうしません!お願いですお願いです!」

少年の必死の命乞いにアドリアンは無表情で口を開く。

「このクソボケがぁ…メイドの姉ちゃんどころか…俺の妹を殴りやがってよ…」

アドリアンの顔がビキビキと血管を浮かばせ、鬼のような形相となる。

「ひぃ!!」

「ひぃ…じゃねえだろぉが!!!」

アドリアンの拳が次々と少年の顔をグシャグシャにする。

「てめぇ!こらぁ!女殴ってただで済ますと思ってんのか?!ああ!??

 誰の妹を殴ったと思ってんだああ!?てめぇそれでも金玉ついてんのか!?

 そんなにてめぇの貴族の大紋が偉ぇかボケがぁ!!

 雑魚のくせに貴族の大紋振りかざして調子に乗ってんじゃねえぞ!!おらぁ!」

拳が血で真っ赤染め上がり、ごっごっ!と音と立て少年の顔を歪ませる。

その時、轟音と共に溶接をして開かなくなった鉄の扉が吹き飛ばされた。

「こりゃぁ!!小僧が!!やめんかい!!」

とオスマン、コルーベールにルイズ、ジャンヌとキュルケが血塗られた食堂に入ってきた。

「わ~~やっぱり」

ジャンヌは汗をかきながら額を押さえる。

ジャンヌ以外の4名は地獄絵図と化した食堂をただ唖然と見た。

「すごいわね…私もけっこうトラブル馴れしてると自負してるけど…ここまでのは…ね」

「どお?怖いでしょ?怖気づいたなら今ならまだ逃げ出せるわよ?」

その言葉にキュルケは笑ったように首を振る。

「上等じゃないの。ここまで来て途中下車するなんてツェルプストーの名に沽券が関わるわ?

 それに私…、火遊びが好きなのよ」

キュルケはそう言って、血塗れのアドリアン見る。

「くす。大火傷を通り越して黒焦げにならないようにね?」

「あなたこそあいつの灼熱の業火に蒸発しないようにね?」

水と火を司る女二人は互いの目を見やり笑いながら火花を飛び散らせた。

「お兄様…」

ルイズは初めて見る優しい兄の鬼の如き姿を見て青ざめる。

そんなルイズの震える両肩をジャンヌはやさしく持つ。

「ルイズちゃん、怖がるのは仕方ないけど、しっかりと前を見てアドルを見なさい。

 たしかに本当に怖いよね…。

 でもね今まであいつはこうやって自分の体を血に染めて私達を守ってきたの…」

ルイズはジャンヌの言葉に頷く。

そして言われたとおりぎゅっと唇をかみ締め己の兄を見る。

ルイズはその姿を見て初めて心から実感した。

自分の兄はこうやって心を灼熱に燃やし、

どれだけ傷つこうが、血塗れになろうが、悪名を得ようが構い為しに私達を守ってきたのだと。

そう思ったその時、オスマンとコルベールがアドリアンを取り囲み、杖を向けた。

「くらぁ!これ以上お痛すると後が怖いぞい!」

「ミスタ・ヴァリエール!話は全て聞きましたぞ!君の怒りはよくわかる、だが私としては

 一教師としてこれ以上君がその凶牙を振り回す事は見過ごせん!」

ジャンヌはアドリアンを囲む教師二人を見て「なかなかやるじゃない」と思い、

二人を止めようとする。

「オールド・オスマン、ミスタ・コルベール!止めてくださいな。それだとあいつの業火に

 油を注ぐことになりますよ!」

そう言ってジャンヌは目を赤くギラつかせて異様な鬼気を放つアドリアンにずかずかと歩き

ながら魔法で鉄のハリセンを作って頭をはたく。

「いてぇ!!」

はたかれて瘤を作って頭を抑えたアドリアンは「あにすんだよ!」と怒鳴るが…、

ジャンヌは両手を腰に当て、怒った顔でアドリアンの頭をつつく。

「あにすんだよ!じゃない!アンタなんつー事してんの!こんなに食堂を汚しちゃって!」

すごい剣幕でまくし立てるジャンヌにアドリアンは汗を垂らしながらたじろぐ。

「だってよ~」

「だってよじゃない!もう!こんなに汚しちゃって!!!メイドさん達が大変じゃない!」

その言葉を聞いていまだ意識のある生徒が「お…俺達は?」と言う。

それを聞いたジャンヌの額に血管が浮かびキッと睨む。

「元々はあんた達がシエスタちゃんとルイズちゃんに暴行を加えたからじゃない!!

 たしかにシエスタちゃんも悪かったけどちゃんと謝ったんだから!、

 一言説教して終わらせなさい!男の癖にネチネチ言っちゃって!しかも暴行加えたって?

 最低だねあんた達!そんな事じゃ女にもてないわよ!」

手を腰に当てておかんのように次々と男共を説教するジャンヌを見て周りがポカンとする。

「…わしらは無力じゃのう」

「そ…そのようですな」

オスマンとコルベールそれを見て汗をながらヒゲを掻いたり、光る頭をかく。

ジャンヌは調理室に入って、掃除用具を大量に持ってきてアドリアンに渡す。

「なんだよこれ」

「なんだこれじゃないの!はい!ちゃんとこれで食堂を掃除しなさい。 あんた達もよ!」

それを聞いた生徒は「なんで貴族が掃除なんか」と文句を言うが…。

「そんな事言うからおぼっちゃんなのよ!

 男なら自分でしでかした事は自分でけじめつけなさい!!」

いい!?とバンとテーブルを叩く。

生徒達はジャンヌの迫力に押されたのか次々と雑巾を取り、掃除を始める。

キュルケはそんなジャンヌを見てつくづく強敵だわと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「はい!みなさん食べてください!」

シエスタはジャンヌとルイズとキュルケ達に様々な料理を見せる。

ちなみにアドリアンはオスマンたちに連行されて今は院長室でお説教中である。

「これって?」

ルイズはシエスタに不思議そうに問う。

そんなルイズにシエスタはにこりと笑う。

「だって皆さん、私達を庇ってくださったものそれのお礼です」

「そうですぞ!皆さん!」

シエスタの隣に立つ体格のいい調理服を着た中年のコックが太い笑いを見せる。

「貴方達のおかげで助かりましたわい、とくにミス・ヴァリエール、シエスタを庇ってくださり

 ありがとうございます」

中年のコックは感激した顔でルイズの手を握り深々と頭を下げる。

「ちょっとやめなさいよ!私は…ただ…当然の事をしただけだし」

その言葉を聞いて中年のコックはさらに感動してうんうんと頷く。

この中年のコック…アルヴィーズ食堂の料理長マルトーと言う。

この男実は大の貴族嫌いで有名であるが、ルイズが自分が娘のように可愛がっているシエスタを

貴族のボンボンから庇った事、そして調教師の如くアドリアンとボンボン達を掃除させたのを

見て心から感激をして、その礼にと今までに無いほど腕を振るい彼女達の為に料理を作った。

「私はなんもしてないんだけどねぇ」

キュルケは戸惑ったように言うがそれをジャンヌはケラケラと笑う。

「いいじゃないの?細かい事は気にしないの」

「ま、そうね」

元々キュルケ自体細かい事は気にしない性格なのであっさり同意をする。

3人はコック達、メイド達の感謝に甘え出された料理を食べ始めた。

行儀良く料理を口に運ぶルイズは微笑みながら感謝と賛美の口を開く平民達を見て、

フォークを持つ手が震え始めた。

「どうしたの?ルイズちゃん」

そんなルイズを見たジャンヌは少し心配そうに問いかける。

「ううん。この料理とっても美味しいんだもん!、なんか感激しちゃった」

涙を貯めながら笑顔で言うルイズを見て、ジャンヌとキュルケは何を思っているか悟り、

何も言わずまるで泣き虫な妹に微笑むかのように笑う。

(はじめて…はじめて兄様が言ったことがわかった…)

ルイズは昔あの湖で兄が言ってくれた事を思い出す。

 

 

 

なぁルイズ、俺はなお前には魔法を使える貴族なんぞより

素敵なレディーな貴族になってほしいんだ…。

 

そうなりゃ自然に仲間も増える、平民もお前を慕うようになる。んでいい彼氏もな…。

 

 

 

ルイズはその言葉を思い出し自分に感謝し、微笑みかける平民達を見てそれを実感する。

(これが…兄様が言った素敵なレディーになるって事はこういう事だったのね…)

ルイズはうっかり流れる一筋の涙を拭う。

「ミス・ヴァリエール!どうしました!?何かお気に召しませんでした!?」

心配そうに言うシエスタにルイズはなんとか笑顔を作る。

「だから大丈夫よ!本当に…!本当にこの料理美味しくて…!

 ほんと私…泣き虫なのよね!」

シエスタに心配させないようにとプライドを投げ捨て、普通平民、いや他の貴族にすら

口走ることが無い事を言った。

そして料理を口に運び租借しながら思う。

(この料理は多分生まれて初めて真の貴族として行動したご褒美なのかも…。

 私は多分…この味を一生忘れない…ううん!絶対忘れてはならないんだ!

 兄様…ありがとう!私にそういう事を教えてくれて…!。

 たしかに今日始めて兄様が暴れてる姿を見て本当に怖かった…、怖かったけど…

 でもやっぱり私は兄様の事…好き…。いつも私に優しくしてくれて…、

 貴族が本当に為すべき事を教えてくれて…本当にありがとう…。

 兄様…私…素敵なレディー、そして立派な貴族として生きて行こうと思います…!)

そう決意するとまた目からぽろぽろと涙がこぼれる。

それを見たキュルケは悪戯ぽく笑い。

「ほんとに泣き虫よねぇ~アンタ。そんな事じゃ愛しのお兄様に笑われるわよ?」

と憎まれ口を言う…だが、その言葉の中にはルイズを奮起させて元気付けようとする

彼女なりの優しさがあった。

「な!!アンタみたいな下品なゲルマニアンがお兄様の事を口走るなーーー!」

「あらそう?。私今日からあなたのお兄様を口説こうとしようと思ってるのだけど…、

 もし成功したらあなたは私の妹って事よね~」

「きーーーーーーー!あんたなんか兄様を誘惑して成功なんてするわけないんだから!

 どうせ逆に食べられるのがオチよ!」

「おほほおほほ!言うわね~。まな板のくせに~~」

まな板…その言葉を聞いてルイズの血管がもりもりと盛り上がる。

「きーーーーーー!このおっぱいお化けが!!!そんなのただの脂肪の塊じゃないの!」

ルイズは両手を振り回しキュルケに攻撃を仕掛けるが、それを彼女はひらりと遊ぶかのように

かわす。

調理室は一転、ルイズとキュルケのドタバタコメディー劇場と化した。

そんな二人を見てジャンヌ始め回りの平民達は困ったように笑い、この平和で可愛らしい

騒動を暖かく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

一方その頃院長室。

「で、あるからのう。ワシは思うんじゃ」

オスマンが腕を組みアドリアンに言う。

「ワシはのう女の体はのう!ぼん!きゅ!ぼん!が一番至高と思うんじゃ!!」

そんな事を言うオスマンにアドリアンは皮肉げに嗤う。

「かっか!なんだそりゃ!童貞小僧みてえな言い回しだねえ。女の体に優劣なんざつける

 必要もねえ…。華奢は抱きしめてぇ、むちむちは包まれてぇ ぽっちゃりは抱き心地がいい。

 それぞれの良さってえのがあるもんだ。それもわからねぇ野朗は女を語る資格は無ぇ」

「カーーーーーーー!この小僧が!なんじゃその気障な言い回しは!!主は今までその甘い

 台詞でいったいどれほどの女を垂らしこんできたんじゃ!!うらやま…ではなく

 けしからん!貴様のような暴走ち●ぽはさっさと去勢されろぃ!それが世の女の為じゃ!」

「あの~~」

コルベールはアドリアンの説教からいつのまにか女の体について談義し出した二人を見て

汗を流す。

「は!そんな事言うからセクハラしかできねえんだ爺さん。女に触りたきゃよ…

 買うかてめぇの魅力でものにしてみな。話はそれからよ」

「くわあああ!小僧が生意気いいおって!そんな事言うならばあさんでも抱いてみい!」

「無理」

「即答!?」

「いい加減にしなさい!!!!」

我慢の限界を超えたコルベールは堪忍袋の尾が切れて二人の頭を燃やす。

「あつい!」

壁に頭突きをして簡易消化したアドリアンはコルベールに叫ぶ。

「…いい加減に話を戻しましょう」

コホンと咳をしてキッとアドリアンを睨んで言う。

「君のしでかした事はたしかに言い分もあるし気持ちもわかる。

 しかし!君のやった事はあまりにも過剰すぎる。

 君が暴行加えた生徒の中に骨が折れたりするほどの重症を負った者もいるのですぞ!?

 その点許されるものではない!。

 よって君には3ヶ月の停学処分とする」

「やった!長期休みだ!」

「馬鹿たこもん!!入学早々停学処分受けた馬鹿なぞ貴様が初めてじゃい!」

停学を喜ぶアホ生徒の頭をオスマンは後ろに飾られている鷲の剥製をぶん投げてぶち当てる。

コルベールはそれを見て呆れたようにため息をつくが、すぐ柔和な顔となる。

「まぁ。散々怒って停学処分言い渡してなんだが、本音を言うと、

 多少はよくやったとは言いたいですな…まぁ、やりすぎなのがよくなかったが。

 彼らもこれに懲りて平民虐めをするような真似はできなくなると信じたいですなぁ」

教師の発言としては失言ですから内緒ですぞとコルベールは笑う。

「本当にのう…。あの馬鹿どもが今まで散々メイドやコック、使用人を散々苛めてきたからのう

 …たしかに馬鹿ガキどもにはいい薬じゃわい…まぁ…やりすぎじゃな」

とオスマンは苦々しく言う。

「というわけで君の説教と処分言い渡しはこれで終わりにしますが…いくら停学だからと勉学を

 怠らないように、課題を出しますのでそれをやって私の部屋に来るように。いいですな?」

コルベールはひとしきりに喋り、アドリアンの肩を叩く。

「実はですな。前から君の評判を聞いていてですな、もし噂どおりの性格ならとんでもない事を

 しでかす要注意人物として監視を行って君を見ていたが…。

 まぁやっぱり予想通りに乱闘騒ぎを起こしてこの場にいるわけだが。

 だがそれは上級生の傲慢により招いた事…ぶっちゃけ自業自得ですな。

 それに今まで見てきて君はただ闇雲に暴力行為をするような輩ではなかったとわかった。

 今まで君が暴力を振るうのは何かしら理由があっての事が多かったですからな」

コルベールは一息入れて口を開く。

「だからといって暴力行為は許される事ではありませんぞ?。

 なのでこれからは暴力はせずきちっと学生らしくしなさい。話は以上です」

とコルベールは人の良さそうな顔で笑いかける。

「まぁ、今回はちぃっと頭に血上ってやっちまったが…。わかったよ先生。

 ちったぁ…まぁなんだ…少しは大人しくするさ…」

アドリアンは自信なさげに頭をかく。

そんな生徒を見てコルベールは「無理そうですなぁ」と思い、困ったように笑った。

アドリアンは二人に礼をしてそそくさと退室した。

「ふぅ~~。疲れたワイ」

アドリアンを見送った後、オスマンは気だるく椅子に深々と座る。

「まったく…、噂どおりの暴れん坊じゃわい」

「まったくそうですなぁ…。あんなに叱りつけたのは数年ぶりですよ」

「ほんとよのう…。長い間ここの長やっとったが、あんなクソガキははじめてじゃわい」

「たしかに彼は学院きっての最大の問題児ですなぁ。しかしですな

 確かに彼は怒りに身を任せて暴れまわりましたが…きちっと無関係なものを巻き込まない

 よう全員その場から追い出しましたからな、そこだけは評価してもいいとは思ってますぞ」

「確かにのう、被害状況も骨を砕く程度で終わらせてるしのぅ…。

 なんせ奴の拳はオークを殴り殺すほどと言われてるしのう。もし奴が本気で暴れれば

 あの程度じゃすまなかったはずじゃ」

「まぁ…あそこまでやったのはアレですが、一応彼は理性をもって行動はしてると見ても

 いいでしょう…まぁやっぱり性質が悪いのは確かですが…。

 なので私はこれからも、もっと彼の人となりを詳しく知るために接するつもりですぞ」

「そうしてくれぃ。こんな事二度と起こされたくは無いからのう」

と一息入れて近くにあった水タバコを吸う。

「それより…更に驚いたのはジャンヌちゅう娘じゃの。あの獣如きの小僧を調教師の如く

 大人しくさせよったわい…あの娘もまた末恐ろしモノがあるのう」

「あとミス・ヴァリエールですな。あんな華奢で弱々しい少女なのに平民を体をはって護った。

 私はあのような貴族の少女がいるという事を知って感動すら覚えましたぞ」

「「貴族は平民を護るもの」…か。あんな考えヴァリエール公やカリーヌすらしなかったぞい。

 もしかすると意外とあの小僧の教えかも知れんのう…」

「ふふ。そうだと考えるとますます私は彼とサシで話してみたいですな。

 案外あの少年と話すと何かがわかるかもしれません」

「そうじゃのう。そこはまかせるぞぃ。それにこれ以上奴に暴れられるとまずいからのう」

「はい!。お任せください」

コルベールは笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

鏡台の前で座るネグリジェ姿のキュルケは念入りに化粧の確認をし、夜を照らす二つの月を見る。

「そろそろね…」

彼女は高鳴る鼓動を抑えながらベットに座り、これから迫り来る獲物を待つ。

あの騒動のあとキュルケはこっそりアドリアンに恋文を渡した。

内容は夜に自分の部屋に来るようにと…。

あの男は必ず来る、あの男が自分のような極上の獲物を放っておく事もあるまい。

キュルケは膝を叩き気合を入れる。

あの男は今まで彼女が虜にしてきた生半可な獲物ではない。

彼は自分と同じく、いやそれ以上の狩人だ、いつものようにただ誘惑すればコロッと

参るような輩では無いのだ。

「化粧も良し…、気概もばっちり…と。あとは獲物を待つのみか…」

「だれが獲物かよ」

突然窓から声が聞こえてきた。

キュルケは待ってましたといわんばかりにその方へ顔を向ける。

そこには月を背景とし、窓際に座るアドリアンがいた。

「よぅ…、フロイライン…。待たせたか?」

「いえ…。今丁度準備が終わった所よ?」

キュルケをアドリアンを見てごくりと息を飲み込む。

月の光に照らされて光る金の髪、今までに無い端正な顔立ちと…、

肉食獣のように野生的で色気がある眼。

この極上の獲物を彼女はうっかり見惚れてしまった…。

アドリアンはそんなキュルケをにやりと笑い近づく。

そして、頬をゆっくりと撫でる。

「どうしたよ?ここに呼び出してよ?」

顔の近くで囁かれ、彼の雰囲気に飲まれないように笑みを作る。

「もう…、白々しいわね?わかってるくせに」

キュルケは頬を撫でるアドリアンの手を取り、親指にそっと唇を落として微笑む。

「くっく…じゃぁ言葉はいらないか?」

アドリアンはそっとキュルケの肩を手に当ててベッドに押し倒す。

そして互いに濃厚なキスをして離す。

「そんなの嫌…。だって貴方の声を聞きながら愛し合いたいもの…」

キュルケは先手を取り、首を回し肩を噛んでキスマークをつける。

「情熱的だねぇ…」

「それはそうよ…、私は「微熱」のキュルケ。一度火がついたら止まらないもの…。

 私の熱情であなたを焦がしてあげる…」

「それは楽しみだ…」

アドリアンはキュルケの手の甲にキスして、彼女を見つめる。

「あ…」

キュルケはアドリアンの金色の瞳に見つめられ、心を燃やす微熱が燃え上がるのを感じた。

「じゃあ…。お手並み拝見と行きますかねぇ」

アドリアンはキュルケの頬に唇を押し付け、首筋まで這わし優しく噛む。

「はぁ…!」

キュルケは首筋に来る快楽に耐えるもの…口から吐息が漏れ、体を震わす。

「どうしたよ?俺を焦がすんじゃねえのか?」

アドリアンは妖艶に悶える彼女を嗤い、耳たぶを咥え租借しながら手を滑らすように

ネグリジェに入れ彼女の豊かな乳房をゆっくりと揉む。

「あ!ああ!だめぇ!!!」

「くっく…。ダメってなんだ?ん?お前から誘ってきたんだろ?」

アドリアンから快楽を与えられ、身を悶えさせながらやっぱり相手が悪かったと思った。

実は彼女…、キュルケは今まで数々の男を誘惑させておいて…こういう事は初めてだったらしい。

誘惑してもほとんど遊び気分で、キスと軽いスキンシップくらいで済ませていた。

さらに言えば今まで彼女に誘惑された男は…まだまだ初心なのが多く、それ以上の行為を

しようとする度胸のある男が少なかった。

アドリアンは上半身を上げ、体をぴくぴくと震わし顔を真っ赤にしているキュルケを見る。

そして、ゆっくりとネグリジェを脱がし月の光で照るジャンヌとは対照的な褐色の肌と

男を狂わせる扇情的な豊かな乳房と肢体が露になる。

アドリアンはキュルケを抱きしめ、手をからませながら

桜のような色をした蕾を口に含み舌で何度も転がし弄ぶ。

「やぁ!あ!そこダメ!!」

部屋が淫靡な空気が立ち込める。キュルケは息をたえだえとなりながらも、

手の甲を口にやり、片手でアドリアンを抱き締め次々と襲い掛かる魔性の快楽に耐える。

だが、次々と感じる箇所をアドリアンに攻められ次第に手の力がゆっくりと抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギーシュ・ド・グラモン」

「はい!」

「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」

「はい!」

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

「はい!」

コルベールは次々と名簿を読み、生徒達の名前を挙げる。

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」

キュルケの名前を言うが、返事が返ってこなく教室に静寂を作る。

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー!」

さらに声を張り上げて言うが…やはり返事は返ってこない。

生徒達は何が起きたのかざわざわとなるが…一人事情をしっているジャンヌはぶっと噴出す。

「まったく!ツェルプストーったら入学早々遅刻するなんて、ジャンヌ知ってる?」

腕を組み頬を膨らませながらルイズはジャンヌに言うが、

「ううん。し~~らない」

と顔をそらし、ぷー!くくくく!と笑う。

それを見てルイズは不思議そうな顔をする。

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー!!!

 いるなら返事しなさい!!」

コルベールはさらにさらに声を跳ね上げる。

「はいはい~~」

とその時、気だるげで色気のある声が聞こえた。

それを聞いてコルベールは頭の皮膚が沸騰して、教室の出入り口を見る。

「はうわあ!」

そこにはアドリアンにお姫様抱っこされているキュルケが陽気な笑顔で手を振っていた。

それを生徒も一斉に見て、さらに教室内が騒々しくなる。

「こらああああああ!。ツェルプストー!!何やってんのよ!!!お兄様もお兄様で何で

 ツェルプストーを抱いてるの!!ていうか今停学中じゃないのおおおおお!!」

ルイズは顔が茹で上がったタコのようになり、ズカズカと歩き二人を問い詰める。

「いやな…ルイズよ…。兄ちゃんな、たまたま通りかかったらねぇ…。

 キュルケが倒れてたんでね、ここまで運んでやったんよ」

「うそばっかり!!!どうせえ…ええええええええええええええええッチナコトヲ…」

ルイズが恐らく兄のこのヴァリエール家の仇敵が仕出かした事を想像しワナワナと体を

震わして口がどもり始める。

それを見たキュルケが悪戯に笑い。

「そうなのよ~~。ダーリンったら夜すごく激しいんだもの…。

 腰がすっかり抜けちゃったわよ」

と顔を赤くそめながらうっとりとした。

それを聞いた女生徒達は真っ赤に染まり男子達は鼻から血が噴出した。

「ダダダダダダダダダダダーーーーーリン!?」

「そなの。私…本当にあなたのお兄さんに恋しちゃったわ」

キュルケはアドリアンに抱きついて頬にキスする。

「お…おおおおおおお兄様なんちゅううううことを!!!ツェルプストーはヴァリエール家の

 仇敵じゃないですかあああああああああ!」

ルイズはアドリアンの腰をガクガクと揺さぶる。

「まぁな、ルイズ…。長い間馬鹿みてぇにツェルプストーと喧嘩するのはよく無ぇだろう…。

 だから兄ちゃんはこれを機会に…」

苦笑いをしながら言い訳をこく兄にルイズはブチっと切れ、力のリミッターが解放され残りの

70%の力を発揮し、その力を持って隣の席で鼻血を垂らして気絶していたデ…もとい

ぽっちゃりした男子生徒を持ち上げて兄目掛けて投げつける。

だが兄は血を飛び散らせながら迫り狂うぽっちゃりを蹴り捨てた。

「ククククク」

さっきから大笑いしながらこの乱痴気を見てたジャンヌは笑いながらアドリアンとキュルケに

近づきアドリアンの腕を絡ませる。

「まったく困った人よねだ~~りん」

キュルケの口調で言いながら更にアドリアンが不利になる事を言う。

「キュルケもとうとうアドルにやられちゃったかぁ…」

それを見たキュルケはジャンヌの意図を読み取り、悦っぽい声を放つ。

「そうなのよ…、あなたの言う通りよね…。彼ったら…ほんとに気持ちよくてね…。

 麻薬みたいよねぇ。虜になっちゃったら、なかなか抜けられないのよ…」

きゅっとアドリアンの首を抱く。

「お…おま!!!」

アドリアンはやばいと思い顔を少し青ざめ、愛しの妹を見ると…。

ルイズの怒らせる顔はみるみると赤を通り越して青白くなる。

「あんたたちいいいいい!!兄様にはなれなさああああああい!!」

「い・や・よ?」

「ど・う・か・ん」

ニヤニヤ笑うジャンヌ、キュルケ両名はルイズを見せ付けるかのようにアドリアンの

頬にキスした。

「おおおおお!覚えらっしゃい!!あんたたたちいいいい!!絶対…!ぜっとわぁい

 あんた達魔女から兄様をお救いして兄様を更生してみせからああああ!!!」

ヒステリックにギャンギャン言う可愛らしい妹のようなルイズに攻められて

何も言えず苦笑いするアドリアンを見たジャンヌの眼が妖しく光った。

(ホホホホホホ。これももてる男の宿命、。男なら素直にこの罰を受け続けなさい。

 たしかに私達はあんたのあり地獄にはまったけど…。

 …あんたも私が張った蜘蛛の巣に徐々にはまりつつあるの…。

 100人切りする?そんな事させるものか。

 私はあんたをこれ以上女遊びさせないように今まで色々と罠を張り巡らせたの…。

 別にあんたに罠を張ってるのは私だけじゃないわよ?。

 あの女騎士のアニエスさんも私の作戦に同意してくれて協力してくれてるの…。

 覚えておきなさいよ?アドル…いつかアンタは私達の張り巡る蜘蛛の巣でがんじがらめに

 なりなさい…それがアンタの罰よ?楽しみだわ~~)

キュルケは魔女の如き紫のオーラーを放つジャンヌを見てびくっとして…。

下手にこの女を敵に回すのは危険だと悟った。

 

 

 

 

 

同時刻王都トリスタニアの城にある訓練所。

「へっくし」

自分の部下の訓練を見てたアニエスは突然くしゃみをして「誰か噂してるな」と思い、

空を見る。

「そういえば、今頃学院では授業が始まってるだろうな…。アドリアンはちゃんと真面目に

 授業を受けているのだろうか…。

 まあ、あの馬鹿の事だからどうせ問題行動おこして停学になっているだろうな。

 それに…」

アニエスは次々と女生徒を口説き落とすアドリアンを想像し、べきべきと笑顔を作りながら

血管が浮かび上がる。

そして、訓練を怠けてそうな兵士を見つけ目が光る。

「そこお!!素振りの動きが訛ってるぞ!!罰として腕立て伏せ400回!!」

兵士はびびりながらも文句言おうとするが…アニエスの背後から鬼の形をしたような赤い

オーラーを見て、滝のような涙を流しながら腕立て伏せをする。

「まぁ…あいつの事はジャンヌ嬢がなんとかするか…あの女…戦闘力こそ高くは無いが…

 何か末恐ろしいものを感じる娘だったしな…。

 まぁ…彼女の言う事を信じてあの阿呆が罠にはまるのを待つか…」

そう己に納得させながら言い精神を落ち着かせると…同時にサディスティックな笑みが浮かぶ。

「フ…フフフ…。アドリアン…今度合ったら…フフ…どうあいつを料理してやるか…

 私はただでは転ばんぞ?、覚えておけ…。楽しみだな…あいつが裸になって涙目で

 悶える有様を…フフ…ホホホホホホホホ!」

これまた魔女の様に笑うアニエスを見た副長が己の隊長を見てびくっとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

コルベールはこの惨状を見て思う。

(…暴力事件は起きてないはずですぞ…)

コルベールは思う、男子生徒の鼻血で血の海と化した教室を見て…。

(なんで乱闘騒ぎも決闘騒ぎも起きずになんで教室が血に染まってるのですか?)

コルベールは奥で騒ぎを起こす4人の生徒を見た。

停学中なのになぜか女生徒を抱くアドリアン…。

そしてキャンキャンと吼えるその妹のルイズ…。

そのルイズをいじりまくるジャンヌとキュルケ…。

「もうだめですぞ…」

コルベールは怒る気力も失せ机に上半身をまかせる。

(こ…今年は問題児だらけです…ぞ…。これからどうなるんだ…この学院は…。

 そして…私は生き延びることができるのか…ですぞ…不安だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今ここに…女の情念をかけたアドリアン包囲網が始まったのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はジャンヌ無双でした。
キュルケとのエロシーンは最後まで書いたろうかいと思いましたが…、
15禁なのでやっぱやめましたwごめんなさいw暇あれば18禁バージョンでも
作ったろうかと思いますw
ちなみにキュルケがヒロインの一人というのは最初から決まってましたw
アドリアンのテンションに彼女なら問題なくついていけそうですしw
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