暗闇の中、カツンと乾いた音が鳴る…。
青い髪と髭を蓄えた美貌の男が一人、相手のいないチェスを興じていた。
男は飽きたのか詰まらなそうにコマを無造作に投げ捨て腰を深く寄りかかり、
窓から見える月夜を見る。
「シャルル…やはりお前がいないチェスはつまらんよ…」
男はもうこの世にいるはずのない弟を思い、目を閉じる。
「ジョセフ様…」
ジョセフの背後からランプを持った長く黒髪の怪しい美しさを放つ女が現れる。
「どうした?余のミューズ…こんな夜更けに何ようだ?」
「ある者が是非ともジョセフ様にお会いしたいと…」
「こんな夜中にオレに会いたい者がいるのか?くっく…」
ジョセフは愉快そうに逞しい肩を震わし、「で、いったい誰だ?」とつぶやく。
すると彼の前に無数の蝙蝠が現れ、しだいに形を作り貴族服を着た白髪の老人の姿となった。
「ほう…、吸血鬼か…」
「始めまして…というかの。人の子よ」
老人は血のような真っ赤な目を細める。
「ワシの名はカーティス…、吸血鬼の四王が一人よ」
「ほう。吸血鬼の王か。してそれ程の者がこの魔法も使えぬ無能の王に何ようだ?」
謙遜している言葉なれどその声にはその色が一切も滲み出ていない。
「くっくっく、謙遜か?。誤魔化すな…わしら吸血鬼に誤魔化せると思っておるのか?
なぁ…虚無の使い手よ…」
互い顔を見やり、笑いあう。
「ハハハ!さすが吸血鬼の王だ…。一目でオレが虚無の使い手と見抜いたか!。くっく!。
して老人…要件はなんだと言うのだ?まさかオレと茶飲み話に来た訳ではあるまい」
「フフ…、主もな…。ワシと対峙して怯えも見せないとは人の子の分際でやりよる…」
カーティスは愉快に嗤い、月を見ながら話を続ける。
「お前の子飼いのレコン・キスタとやらが、わしの弟ヴァルヴァトーレを屠った小僧を
殺そうと躍起になっておると聞いた」
「ヴァルヴァトーレ?2年前にトリステインで暴れまわった吸血鬼か…。
あれが老人の弟であったか。たしかその者を殺したのは…トリステイン王国の
ヴァリエール家の嫡男…アドリアンという小僧だったな。
たしかにクロムウェルはあの小僧を殺そうと計画を練ってる話は知っているが」
「そうだ。その小僧…アドリアンとやらを殺す計画…わしも一肌脱いでやろうと思ってな」
「…弟の敵討ちというわけか?」
カーティスはジョセフを見て嗤う。
「くっく、そんな愛溢れる理由ではない…。わしの目的はただ一つ…あの小僧の魂よ」
「魂?あの小僧には何かがあるのか?たしかに老人の弟を単身で殺すほどの化け物染みた
強さだ…何か普通の人間にはないものをもっているとは思っていたが…なるほど
…。面白そうだな…聞かせてはもらえぬか?」
「弟の部下で辛うじて生き残った奴がいてな…そいつが言うにはその小僧の魂は…
神祖の力を持っているらしい」
「神祖?」
「ワシら吸血鬼全てを支配する王の事よ…。貴様ら人間で言えば皇帝というものだ」
それを聞いてジョセフは心底驚き目を大きく開ける。
「奴の魂は吸血鬼と同質なのか?馬鹿な…奴の両親は生粋の人間のはずだが…」
「たしかに奴の血は人間そのものというわけだ、それは間違い無いであろう…。
だが奴の魂の力は吸血鬼そのもの。恐らく人の子として転生した神祖の可能性がある」
「転生…か…。そんなものが存在しているのか…面白いな…」
「神祖が死んで数百年、長らくその座を巡って兄弟同士で争っていたが…なかなかケリが
つかんでな…。しかしその事を知って残った兄弟達と話し合った結果。
奴の魂を喰らい、神祖の力を得たものが次代の神祖となるという条約を結んだ。
くっくまぁそう条約を結んだのはいいが…我ら兄弟の中でももっとも強き魔力を持つ
ヴァルヴァトーレを屠った小僧だ…そうそう簡単に殺すことはできまいよ…。
なので色々と人の情勢を調べ上げたら、貴様の子飼いどもがあの小僧を殺そうとしてる
事を聞いてな…。協力してやろうと思うのだよ」
「それは願っても無い話だが…しかし俺はブリミルの信徒…。貴様のような吸血鬼を
協力を仰ぐ真似はせんよ」
とジョセフはわざとらしく嗤う。
「くっく…、白々しい事よ…。知っているぞ?貴様がエルフの青瓢箪を飼い慣らし
よからぬ事を企んでいる事をな…」
と嘲笑うカーティスにジョセフはにぃっと笑みを作った。
カーティスとジョセフが対談した数日後、召喚の義を終えたその深夜、アドリアンと
銀の髪を靡かせる吸血鬼の男が人気のいない森の空で舞うように死闘を繰り広げていた。
二人とも互いの攻撃で無数の傷を作り、血を躍らせながら剣を振るう。
「もらったぁ!!」
吸血鬼は渾身の力を込めアドリアンの顔に剣を振った。
しかしその剣は魔力で硬質になったマントで受け止められてしまった。
「く!!その業は!!!やはり貴様は我らと…かはぁ!」
言い切らないうちにアドリアンの剣が吸血鬼の喉を貫く。
そしてアドリアンは吸血鬼の顔から至近距離で手の平を向けて黒い閃光を放った。
「ク…!かはぁ!!!おのれ…が… うぐぁぁぁぁぁ!」
吸血鬼は闇の力で体が腐食され、雄たけびを上げながらその体を黒い塵となった。
「ふん…。あの野朗の兄貴の割には…雑魚いねぇ…」
アドリアンは吸血鬼だった塵に唾を吐き捨て、マントを翼に変えて己の帰るべき所へ飛び立った。
朝、目覚めたサイトは水桶から無造作に頭を突っ込み、睡眠でボケまくった頭を無理やり
覚醒させた。
昨晩。彼の主人の仲間内と一緒に召喚の義の打ち上げ会をやったあと、
平民宿舎に案内されて、そこで眠る事になった。
普通使い魔というものは主人と同じ部屋で寝食を共にするのは常識だが、しかしサイトは人間
しかも男と来たもんだからそれを兄アドリアン、及びルイズの姉のような存在でもあるジャンヌ
が猛反対して平民宿舎で過ごす事になった…しかしそれを聞いたサイトは思わず舌打ち
してしまい、それが耳に入ったアドリアンにぼこぼこにされたのは言うまでもない。
あとサイトの今後の事であるが、一応ルイズの使い魔となったが無理やり使い魔にされた
という事なのでさすがに護衛などは可愛そうだろうから客人扱いになった、
ちなみにその案をしたのは意外にもアドリアンであった。
だがさすがにタダで置いとくのも何だしアドリアンはサイトを連れてマルトーの所に連れて行き
彼をここで働かせてくれないか?と頼んだ。
マルトーは反対したが「ただ飯食うのもなんだか気が引けるし」と言うサイトの言葉に感激し、
「さすが我らのお嬢の使い魔よ!」と喜んで承諾。
という事でサイトの仕事の内容は、朝ルイズを起こし食堂に連れて行きその後は彼女の要望が
あれば授業の参観、もしなかったら薪割り等の雑用するという事になった。
とりあえずサイトは急いで支度してルイズの所へ向かう。
いくらアドリアンの恐怖政治で学院の平民の扱いはよくなってるものの…サイトが起こす
対象はその恐怖政治を行うアドリアンが溺愛している妹だ、下手打ったら殺されると思い
猛ダッシュで足を翔る。
ルイズの部屋の前に着くと懐から鍵を取り出しそっと開けて入室、そしてすやすや寝ている
ルイズの所へ向かい、どうやって起こすか模索した。
昨晩の打ち上げで兄妹の性格はなんとなく把握は出来た、
兄は病的なシスコンさえ抜かせば案外いい人で、打ち上げの時も気さくに話し掛け、
今後文無しじゃ不便だろうと小遣いをくれた。…恐らくアドリアンは昭和によくいそうな
女子供や堅気には優しいヤクザタイプなのだろうと思った…でも暴力はやめてほしい…。
妹は妹でなんだかんだ文句も言うが、けっこう普通に接してくれる。
使用人にも意外と慕われているみたいで、いわゆるツンデレという奴なのかもしれない
でも暴力はやめてほしい…。
サイトは与えられた仕事の中で恐らくもっとも命に関わりそうなルイズを睡眠から目覚めさす
という仕事を早々と切り上げるために、彼女を起こそうと見る。
「…やっぱ黙ってると可愛いよなこいつ」
普段はけっこう口やかましい所があるが、こうやってすやすやと眠っている彼女を見ると
相当な美少女だとわかる。
ピンクブロンドの綺麗な髪、あどけない幼く可愛らしい顔立ち…その声も外見と等しく可愛い。
あの恐怖の大魔王が溺愛するのも無理は無いと思った。
「でも、彼女にするならジャンヌさんとキュルケさんみたいな巨乳美人だよな…」
とサイトは腕を組み、顔を何度も頷く…しかしその二人をモノにしているアドリアンを思い出し
大いにへこむ。
「うう…。元の世界で出会い系使って彼女作ろうと思ったのによ…、その矢先に異世界に
飛んじまって…ルイズの使い魔にされたあげく…その兄貴は暴力代魔王で…あの二人を
彼女にしちまうほどのスケコマシ…欝や…。そういやアドルさん…今キュルケさんの部屋
に転がり込んでるんだっけか…畜生…」
サイトは壁を見る。
実はキュルケとルイズの部屋は隣同士だったりする。
「はぁ…今頃あの二人は裸で抱き合いながら寝てるんだろうな…ジーザス…」
サイトはキュルケの胸の谷間を思い出し鼻血をわずかに出しながらルイズの毛布を剥いだ。
その時である。ルイズの寝姿を見て彼の眼が充血してしまった…。
それはルイズの寝姿は…ネグリジェを着ているだけであった。
「ぐほ!!!」
サイトはネグリジェの姿で寝ているルイズを見て頭がクラクラとなった。
彼は大急ぎでポケットからティッシュを取り出し両穴につめてなんとか血を止めようと懸命に
なる。
「こ…この野朗!!貧相なまな板の分際で生意気にもネグリジェ姿で寝やがって!!!!
くそったれのすっとこどこい!」
まな板…その言葉が光の速さでルイズの耳に入り、神経を通じ脳を覚醒させた。
カっと目を開いたルイズは顔に血管を浮かせ、枕を掴み顔面を殴る。
「誰がまな板よ!!!勝手に部屋に入ってきて人様の体見て!!!何ふざけた事言ってんの!」
ルイズは羞恥で顔を赤くして、ベッドから立ち上がりサイトの頭を目掛けて踵落としした。
踵落としされ、地べたに屈指ってしまったが。素早く立ち上がりルイズを睨む。
「るっせーー!!てめぇを起こすために来たんじゃねえか!!!!
それを…それを…!」
その時である。
サイトの耳に殺気と共にガチャリと扉を開く音が耳に入った。
サイトは恐る恐る顔を扉に向けると…無表情な顔をした上半身裸で腰にはタオルを巻いたアドリアンがタバコを吸いながら立っていた。
「ア…アドル…しゃん…」
サイトは腰を抜かし、ガタガタと目を丸くしながらアドリアンの体を見て大いに恐怖に震える。
細身ながら筋骨逞しい体…そしてそれには無数の傷痕が走ってあった。
「は…!花山…薫っっっ!?」
アドリアンはにこにこと笑いながら手を鷹の爪のような形にしてべきべきと骨を鳴らした。
あ------------っ!
サイトはアドリアンに花瓶で殴られ瘤を無数に作り、正座をされていた。
しかし…ルイズの怒りの矛先はタオル姿一枚のアホ兄貴に向け、
怒鳴り散らして説教しながら兄の頬をつねまくった。
「だからさ…最近お前厳しいってばよ…。おかんに似てきたんじゃねえか?
兄ちゃん悲しいぞ…」
同じくサイトの隣で正座したアドリアンは悲しそうに妹を見る。
「悲しいのはこっちです!ここは女子寮ですよ!なんで上半身裸でいるんですか!
はしたなすぎます!少しは貴族の自覚を持ってください!」
素早く制服に着替えたルイズはベッドに仁王立ちして兄と使い魔に説教をする。
「もう…うるさいわねぇ…」
「あら!アドルとサイトちゃんお説教中?」
突然部屋から制服姿のキュルケとジャンヌが入ってきた。二人の肌はテカテカと艶が出ていた
どういう理由かは…お察しください…。
というかそれに察したサイトは目から血の涙が流れるのを感じた。
(ジャンヌさんまでいるだと…!あの3人やりやがったな!3P!?3Pなのか!?
ジーザスにも程があるだろう…!。生まれて初めてこの言葉を言う!リア充視ね!いや死ね!)
同じく二人の肌を見たルイズはさらに顔を沸騰させる。
「こらあ!ツェルプストー!ジャンヌ!勝手に人の部屋に入るんじゃないって言ってるのよ!!」
カーーーーと牙を剥くルイズにキュルケはやれやれと手を振る。
「文句を言いたいのはこっちよ…。朝っぱら怒鳴りちらしたら、いい近所迷惑じゃない」
「近所迷惑はこっちよ!!あんた達は毎回毎回毎回毎回兄様と…」
途中で顔を別の意味で赤くして口ごもるルイズを見てキュルケとジャンヌは悪戯っぽく嗤う。
「毎回毎回兄様と?」
ニヤニヤと笑うジャンヌとキュルケにルイズは涙目になって、怒りの咆哮を挙げて彼女らに
襲い掛かった。
なんとか荒れ狂うルイズの怒りを沈め、一同は互いの使い魔(一人人間)を連れて食堂に向かう。
途中何人かの女生徒達は女子寮の廊下を平然と歩くアドリアンとサイトを見たが、
アドリアンが女子寮に平然と入るのは見慣れているし、サイトに関しては、まああの連中の
知り合いだからという事で見ない振りをした、追求するのも面倒なので。
そして、小さく黄色に黒い斑点をしたカエルの使い魔を肩に乗せたモンモラシーと
使い魔が大型なので、外へ控えさせているタバサと合流、
女子寮を抜けて愛しのジャイアントモールを抱き締めてもふもふしていたギーシュとも合流した。
それに続いてアドリアンの取り巻の生徒達もわらわらとアドリアン達に続く。
サイトは柄の悪そうなアドリアンの取り巻きの男子生徒とその先頭を歩くアドリアンを見て
若き頃の織田信長とその軍団みたいだと思った。
サイトは歩きながら彼らにこのハルケギニアの情勢、習慣、魔法、
貴族と平民の関係を教えてもらった。
ちなみにサイトの出自は特殊なので、ルイズとアドリアン、ジャンヌにキュルケ以外の人間には
東方出身という事にしてある。
(は~~。なんとなくわかってたけど、ここの貴族は魔法が使えるから威張りまくってんのね。
まあこの信長みてぇな恐怖の大魔王のアドルさんのおかげで生徒達は大人しくしてるみてえ
だけど…。連中に目つけられないよう皆が言うとおり大人しくしたほうがいいなあ…)
とサイトはため息をつく。
しかし、同時に魔法、竜、剣といういかにもゲームとかに出てきそうなものがあるという事実に
好奇心が溢れ、このファンタジーライフを楽しんでやるぜと心が躍りだした。
「うおお!。やっぱ貴族の飯ってうめえな!」
食堂についたサイトはルイズの隣に座り、出された料理を嬉しそうに平らげる。
「感謝しなさいよね。本来なら平民がここに入って食事するなんて許される事じゃないけど
アンタは私の使い魔なんだから特別に食べさせてあげるんだからね」
ルイズは恩着せがましくフフンと鼻を鳴らす。
「おうおう!ありがとうよ!。くう!このチキンうめえ!カーネルな店とは大違いだぜ!」
「あんたね…。もう少し行儀よく食べなさいよ…」
ルイズは猛烈な勢いで朝飯をがっつくサイトを見て呆れたように頭を抱える。
「いいじゃねぇか。これくれぇ喰いっぷりがよけりゃマルトーの親父も作った甲斐が
あるもんだって喜ぶだろうよ」
アドリアンは豪快に笑って使用人の方へ見ると、使用人達もにこりと微笑む。
「とりあえず、サイト。今日の授業は使い魔のお披露目でもあるから、今日の仕事はしなくて
いいわよ。その代わりちゃんと私の授業に参加する事ね」
「OKOK!まかせんかい!」
と相変わらず飯を食べる勢いを衰えず、もごもごと言うサイトにさすがに切れたのか
ルイズはサイトの頭を叩いた。
教室に着いたサイトはあっちの世界の教室とは違う、なんというか大学の講義室のような
だだっ広い室内を興味深く見る。
「はっはっはサイト。随分とここが珍しいみたいだね」
好奇心一杯に辺りを見るサイトにギーシュは笑いながら話しかける。
「おうよ。おれが通っていた学校の教室と違ってえっれえ広いんだもん」
「ほうほう。君の所では平民も学校に通うんだね。まぁ楽しんでいきたまえ。
この学校の授業は平民では教えられない事を教えるからね。
きっと面白い思い出になると思うよ」
とギーシュはバラを取り出して匂いを嗅ぐ。
サイトは最初この男を見たとき、ナルシーで嫌な野朗っぽいと思っていたが、
いざ話すと、たしかに尊大な所もあるがけっこう気さくな男で、同じエロカッパ同士
気があったのかすぐ仲良くなれた。
まぁそんなギーシュもアドリアン達と接して考え方を改めていたので、
もしアドリアン達と出会っていなかったら他の貴族と同じようにサイトを見下した態度をとって
いたのであろう。
サイトは再度辺りを見回し、生徒たちを見ると様々な生き物を連れていた。
アドリアンの狼竜は教室の後ろで寝そべり、その上にジャンヌの水竜がすやすやと寝ていて、
さらにその頭の上にモンモラシーのカエルがじっと乗っかり、その近くで
ギーシュのジャイアントモールとキュルケのサラマンダーがのほほんと眠っていた。
さらに見渡すと、フクロウやら目玉の化け物やら蛇など色々な生き物が主人に寄り添っている。
その光景にサイトは目を輝かせ嬉しそうに眺める。
なんせ漫画やゲームなどに出てくるような生物がこうもずらりといるのだ。
ただでさえ動物園や水族館に行ってもワクワクするもの、これではサイトが好奇心いっぱいに
なるのも無理は無い。
「ほら、サイト!。珍しいのはいいけどそろそろ座りなさい」
ルイズは呆れながらサイトの裾を引っ張る。
サイトもそれに応じてルイズの隣の席に座った。
扉ががらりと開き、そこから人の良さそうな顔をした中年の女性が入ってきた。
教壇に立つと、彼女は微笑み辺りを見回し微笑む。
「春の使い魔は大成功ですね。皆さん全員がこうやって使い魔を見せてくれて私は嬉しさと共に
楽しみでもありますよ」
と彼女はルイズの方へ見やり口を開く。
「おやおや。ミス・ヴァリエール。変わった使い魔でありますが…ちゃんと魔法が成功
したのですね?。やっと長年努力した事が報われましたね…。私も嬉しいですわよ」
ルイズはその言葉に嬉しくも思いながら恥ずかしいらしく顔を俯かせる。
それを見たサイトは「こいつは魔法が使えなかったのか」と心の中で呟いた。
(ふむぅ…。ここの貴族は魔法主義つーわけだからな…。魔法使えねーつうと相当きつかった
だろうよ…。まぁ生徒連中はアドルさんの事びびってるみてぇだかえらおいそれ馬鹿には
しねーと思うが…)
サイトは腕を組み、ルイズが今どういう状況なのか察した。
「では。授業を始めますわよ?」
と中年の女教師は講義を始めた。
「…幻滅した?」
突然ルイズは少し震えた声で静かにサイトに言う。
「何が?」
「あんた、さっきのやり取りで知ったでしょ?。私は魔法が失敗ばかりって…。
幻滅よね…、自分の主人が魔法が使えないって」
その言葉にサイトは困惑した。
別にサイトはルイズが魔法が使えないという事はさほど気にもしていない。
そしてこの少女がやはり魔法を使えないって事にコンプレックスを感じていると知った。
「アドルさんはその事になんか言ってんのか?」
「ううん。兄様はそういうのは一切気にしてないし…。むしろ使えないならそんな事気にせず
別の分野で頑張れって言ってくれてるわ」
だろうなとサイトは思った。
あの兄の事だ、彼の話を聞いていると逆に魔法が使えるだけで威張り散らしている貴族の方に
嫌悪感を抱いてる節がある。
それにあそこまでの兄馬鹿だ、いちいちそんな事で目くじら立てるような人でもなかろう。
「オレもアドルさんと同意見だぜ?。前にも言ったとおりさ、オレの世界はメイジなんて
いなかった。そんな世界の住人はさ色々なモノを作っていたんだ。そんな事で馬鹿に
するようなもんじゃねえよ」
真摯な目で言うサイトにルイズは少し顔を伏せて、「平民のくせに生意気言うんじゃないの!」
と文句を言い、その後に小声で「ありがとう」と呟く。
そんなルイズを見てサイトはやっぱりこいつは可愛いなと思った。
しかし、その時である。
離れた所にジャンヌとキュルケに挟まれるように座っているアドリアンが腕を組み目を
光らせているのに気づき、体が震え「やっぱりこの兄ちゃんなんとかして!」
と涙目になった。
しかしアドリアンはそれを見たジャンヌに「兄馬鹿はいい加減にせい!」と殴られ、
キュルケはそれを見てカラカラと笑った。
サイトは女教師、シュヴルーズの講義を興味深く聞く。
魔法には「火」「水」「土」「風」「虚無」の五つの系統魔法があると聞いて、
虚無意外はそこらへんによくあるゲームの属性だなと感じる。
「なぁルイズ」
「何よ?」
「魔法には五つの属性があるってわかったけどよ、光と闇はないの?」
「光と闇…。そうね…」
ルイズは声を皆に聞こえるように押し殺す。
「たしかにそういうのは無いわね…一応」
「一応?」
「でもアドリアン兄様が言うにはあると言ってるわよ…。現にアドリアン兄様が使ってくれたの
を見たことあるわ。たしか闇の力で物質を腐敗させたり、光の力で消滅させたり」
「まじかよ…。皆が知らねえ魔法使えるなんてお前の兄ちゃんて何者よ…」
「…わからない…。お父様やお母様とかジャンヌは知ってるみたいだけど…。
でも私だって兄様が普通の人間じゃないことはわかってる」
「そうだよな…昨日のヴィトーとの戦い見たときは、まじで人間かよって思ったし。
でもいいのかよ?そんな事知らなくてさ。お前も知りたいんだろ?」
ルイズは目を閉じて頭を振る。
「いいわけないけど…。兄様…多分私に余計な心配かけさせないようにと思って
話さないんだと思う…。だからいいの、兄様が話してくれるまで待つから」
「そうか~。だよなあ多分アドルさんてとんでもない秘密もってそうだもんなあ」
「そう。だからこれは秘密よ?。そんな事周りに知れたら大変な事になるから」
とルイズは人差し指を口に当てる。
「おう、わかったよ」
午前中の授業はシュヴルーズに杖を刺されたアドリアンが、皆の前で錬金をして
ヴァリーエル公爵の首を絞める己の銅像を作り、ルイズとジャンヌに思い切り説教をされる以外
(ちなみに後にそれを知った公爵にアドリアンはぼこぼこにされるというのは遠い時を経てから
である。)無事に授業は終了し、昼食が終わった後サイトは手が空いたので、
学校の裏で薪割りをしていた。
そんな時サイトの所にぞろぞろと3年の連中が現れた。
「…なんかようっすか?」
と不機嫌に睨みつける3年を見る。
「お前…あの狂犬の庇護下にあるからってよ…平民の分際で食堂で堂々と飯食べやがって
生意気なんだよ」
リーダー格らしき男子生徒が忌々しくサイトに言う。
サイトはそれを見て、少しびびりながらもため息をついて無視をした。
だが、そんなサイトの恐怖心を怒りに変える事を隣の生徒が口走った。
「それにしても…お前があの「ゼロのルイズ」が呼び出した使い魔か」
「ゼロのルイズ?」
「そうだ!あの女は貴族のくせに魔法が使えないからな!だからゼロって言うんだよ!
ゼロが呼び出した使い魔は平民…お似合いだぜ!ははははははは!」
とその男が笑うと同時にドッと他の周りの生徒も笑う。
それを聞いてサイトの脳裏に先ほど寂しそうに自分が魔法が使えない事を告白するルイズの
姿がよぎった。
口煩いけど…魔法が使えない事に劣等感を感じながらもめげない心を持ち、根は優しくて
泣き虫な可愛い俺のご主人様…。
そう思うと胸にどんどんと怒りがこみ上げる。
サイトは拳を握って、ルイズを馬鹿にする上級生を睨む。
「おい!もう一度言ってみろ!!」
と怒鳴るが、上級生はさらに嘲笑う。
「魔法の使えない貴族の屑のゼロ、そしてそれに呼び出されたのは平民。お似合いだって
言ってんだよ!!!」
その言葉にサイトは血管がブチっと切れ、リーダー格の男を殴りつけた。
「てめぇ!何しやがんだ!平民の癖に!!」
「何が貴族だ何が平民だ!そんなに貴族が偉いのかよ!!いつもアドルさんにびびって
縮こまってる癖によ!!!弱い奴ばっかり強気になりやがって!
女を馬鹿にする奴は最低なんだよ!!!」
サイトは生徒の一人をタックルする。
「おわ!」
腰を取られれ横転した男子生徒は、サイトに馬乗りにされ顔を殴られる。
「エアーハンマー!!」
サイトは脇から不可視の空気の塊に吹き飛ばされ、壁にたたき付けられた。
「ぐ…がふ!…これが…魔法か…」
サイトは傷む脇腹を押さえ、体をよろめかせながら立ち上がる。
「はっは!やっちまえ!」
上級生達は次々と詠唱し出す。
「うおおおおおおおお!」
怒りで痛みを忘れたサイトは拳を振るい上級生達に飛び掛った。
「よう爺さん」
突然前ぶりも無く院長室にアドリアンが入室した。
「なんじゃい!小僧か!。突然入ってきおってノックせい!」
鼻毛を抜く作業を止めたオスマンはアドリアンを睨む。
「そうですぞアドリアン君。それに今は授業中ではないか」
コルベールははぁとため息をつき、この学院きっての問題児を見る。
「お、コルベール先生もいたか。丁度いいや」
アドリアンは懐から紙を出して両教師に見せる。
「これは?」
「あのサイトて坊やに刻まれたルーンだよ…見覚えねえか?」
とオスマン達はその紙に書かれたルーンを見て驚きの色を見せる。
「これは…もしかすると…」
「始祖の使い魔に刻まれたルーンの内の一つ…「神の盾、ガンダールヴ」じゃの…」
それを聞いてアドリアンは真剣な顔で頷く。
「そういう事…たしかガンダールヴてぇのは様々な武器を自在に操る使い魔の事だったよな?」
「うむ…その力は一騎当千の力を持つというとんでもない代物じゃ」
「では…ミス・ルイズの系統は…虚無という事ですな…」
「ああ…これがガチでガンダールヴとしたらそうなるって事よ…」
オスマンは額に流れる汗を掻き、難しそうな顔をする。
「まいったのう…。あの娘は何か特殊な物があると思っていたが…まさか虚無とは…」
「しかしこれは大発見ですな!ですが…これは…少し不味いことですな…」
「ああ…こんな事アホ貴族に知られてみろよ…。あのクソ共…こぞってルイズと坊やを
祭り上げてエルフにドンパチしかけようとするぞ」
オスマンとコルベールは神妙な顔で頷く。
「そんな事になってみろ…オレを始め…親父やお袋も黙っちゃいねえぞ?」
殺気を放ちながら睨むアドリアンにオスマンは落ち着けと制す。
「わかっておるわい。そうならん為にこの事は周りの連中に黙ってろという事じゃろ?
幸い他の教師たれなんぞ虚無なぞお伽話程度にしか思っとらんじゃろう。
黙ってればなんとかなるわい」
オスマンはなんとかアドリアンを落ち着ける言葉を放つが、それでもアドリアンの顔は
軟化しない。
「あと一つ心配ごとがある」
「なんじゃね?」
「あの坊や、たしかにいい奴だ。だがどう見ても喧嘩も知らねえ甘ったれた坊やなのはたしかだ
そんな奴にそんな力があるって知ってみろ、冗長して調子に乗るかもしれねぇ…。
そんな事貧乏人に大金与えるのと同じだ」
その言葉に二人も得心する。
何も努力もせずに手に入る力ほど危険な物は無い。
特にに最初から弱い者、普段気の小さいものなら余計だ。
まぁアドリアンとしてはサイトの(自分への恐怖感はともかく)大抵の事に対して
何も怖気ず好奇心旺盛で陽気に振舞う所はかなり気に入っている。
なのでそういう事は無いだろうと信じたい所だが人間とはわからぬ者
とくにサイトは昨日出会ったばかり、あれがどれだけ根性据わってるか全て知っているわけも
無い。
もしアレがガンダールヴだと知って性格が豹変しないとは限らないのだから。
「たしかにの。強すぎる力は諸刃の刃よ。その力がサイトなる小僧を破滅に導くかもしれん。
ま、そういう事見極めるのはお前の仕事じゃよ。わしらも出来る限り協力するが。
お前さんもあの小僧がどういう奴なのかしっかりと見極めるがいい。
それで冗長して調子に乗るような事があったらお前の好きにするがいいよ」
アドリアンは苦虫を噛みしめたような顔になって「わかったよ」と呟いて部屋から退室した。
「ぐあ!」
エアーカッターがサイトの額を切り裂く、
額に斜め一文字に傷が走り、傷からおびただしい血が流れる。
だがそれでも彼は歯をぎりぎり噛み締めて男子生徒達を睨みつける。
「く…!」
サイトの迫力に押されてか、周りがたじろぎ出す。
だが、平民如きにと彼らはサイトに対して憎悪を燃やし、次々とサイトに魔法を放った。
エアーハンマーで体を強く打ちのめされ、土の拳で顔を殴られ
しかしサイトはどれだけ打たれようとも傷つけられようとも、何度も何度も立ち上がった。
サイトは許せなかった…この目の前の生徒たちが。
普段貴族の特権を傘にして平民を見下し、アドリアンのような強者には恐れ縮こまっている癖に
いざ相手が弱いと感じるとこんな風に猫がねずみをいびるが如く苛めてきて
あまつさえ自分の主人でもあるルイズをゼロと言い放ち馬鹿にした。
そう思うと余計にサイトの怒りと闘志が湧き上がる。
「こ…これで…ガフ…終わりかよ…」
片目が腫れ、口から血を吐いてもなお連中を見るサイトにさすがの連中も顔が青ざめる。
「まったく、近くに斧あんだろうが阿呆が」
つい先ほどからアドリアンは、加勢もせず壁に身を隠してこの喧嘩を眺めていた。
言葉では悪態をつくが、その表情は言葉と裏腹に笑みを作っていた。
アドリアンはそろそろいいだろうと思い、背中から愛用の杖剣を抜き取りサイトへと
無造作に投げた。
「!?」
目の前に見覚えのある杖剣が突き刺さりサイトは後ろを見る。
そこには壁から半分くらい背中をさらけ出したアドリアンがサイトにVサインを送っていた。
「げーーー!これは!!」
生徒の一人がこの剣の持ち主がここにいると知り悲鳴を上げる。
サイトはアドリアンは何故この剣を投げたのかを察する。
そして剣の柄を握った…するとサイトの体に変化を感じたのだった。
サイトの脳裏にこの剣を振るって戦うアドリアンの姿が次々と走馬灯の様に浮かぶ。
数々の吸血鬼との死闘、オークやドラゴン、ワイバーンを次々に葬り去る姿。
(すげえ…こんな化け物をあの人は倒してきたのか…。ていうかなんで剣握ったのに
この映像が映るんだろ…ん?)
サイトは自分の体に変化が起きるのを感じた。痛みが薄れ、体が異様に軽くなり力がどんどん
湧き上がるのを感じた。
(…なんだこりゃ…!体が羽の様に軽い…まさかこの剣の力なのか?これなら…)
アドリアンの杖剣を抜き取り、袈裟懸けに構える。
足を力強く踏み出し地を蹴り飛び掛った。
サイトは剣を旋風のように振るい、男の顔目掛けて剣の腹で打った。
「クヴォホ!!」
男の顔が杖剣の顔にめり込み、口から歯と血を噴出しながら吹き飛ばされる。
「馬鹿な!!なんだこいつ!!」
生徒達は人が変わった様に剣を振るうサイトに驚きおののく。
「くそう!」
再度全員一斉に詠唱を唱え出す。
その隙をサイトは見逃さず一気に攻め生徒達全員を剣の腹で殴って気絶させた。
「はぁ…はぁ…」
生徒達全員倒したサイトは力が抜けたように膝をつく。
「よう坊主」
「アドルさん」
サイトはタバコを吸いながら笑うアドリアンを見て、傷だらけの顔を綻ばせる。
アドリアンはサイトの頭をパンと平手で叩いた。
「ぐは!!!いてぇ!!!何すんすか!!」
「くっく。あんな雑魚共に手間取りやがって」
そしてサイトの頭をワシャワシャと撫でる。
「だがいい喧嘩だった」
サイトはきょとんとアドリアンを見たが、すぐ嬉しそうな顔をして微笑んで
安心したせいか、意識が突如飛び倒れてしまった。
アドリアンはしゃがみサイトを見る。
「くっくっく…。これくらいの根性あれば大丈夫だねぇ」
とまるで弟を見るような笑みをしてサイトを担ぎ上げて医務室へと運んだ。
医務室に運ばれたサイトは夜目を覚まますと体中包帯だらけになっていると気づく。
目の前には泣きそうな顔をしたルイズがいた。
「ルイズ?」
「この馬鹿!何で貴族に喧嘩売ってんのよ!」
「だってよ…あいつら…ルイズの事「ゼロ」って言ったんだぜ…?
そんな事許すわけねえだろ!」
それを聞いてルイズは顔を染めサイトの体をがくがく揺さぶる。
「何平民のくせにお兄様の真似事してんの!!下手したら殺されてたわよ!
使い魔がご主人様を心配させてどうすんの!!」
ルイズはサイトを抱き締めてすすり泣く。
「…うん…心配させてごめん」
サイトは振るえるルイズの頭を撫でる。
しかしサイトとしてはここまでルイズに心配されるとは思っても見なかった。
そしてルイズを見て思春期の初心な邪なる思考が沸き、もしかしたらキスとかそういうイベントが
待ち受けているのかもしれないと心臓がドキドキしてきた。
だが、サイトの予想は見事に大振りに外れ、ルイズはサイトに沢山の洗濯物が入った籠を投げた。
「…これは…?」
「私に心配させた罰よ!…明日まで洗濯しなさい」
「もしかして…これってお前の?」
その言葉を聞いてルイズはムっと顔を膨らませて額に血管を作り出す。
「んなわけないじゃないの!なんでアンタみたいな奴に女モノを洗濯させるわけないじゃない!
これは兄様とかもろもろの男子生徒の洗濯物よ」
「まじっすかーーーーーーー!!!!」
サイトは何を悲しくて野朗のものを洗濯しなければいけないのだと心の中で叫んだ。
もちろん速攻で断る選択もあったが…この洗濯物の中にはあの魔王の服もある…。
サイトは恐る恐る洗濯籠を調べると…いかにもアドリアンのものと思われる
豹柄、薔薇の刺繍などが彩るシャツと黒い牛革でできたコートといういかつい服があった。
サイトはそれを見るとガタガタと震えだし、ルイズに向かって涙目になって了承の返事をした。
「よろしい。ちゃんと傷が癒えたら私の部屋の掃除とかするのよ?いいわね」
とルイズはサイトを睨んだあと…ボソッと照れながらありがとうと呟いて部屋を出た。
サイトはルイズが出た扉を方へ見てぼーっと見続けていた。
ルイズが医務室に出た後、しばらく立ち、無造作に扉を開けるものがいた。
「よう小僧。元気にしとるか?」
「アドルさん」
サイトはタバコを吸いながら手をピースの形を作り笑うアドリアンを見て上半身を起こす。
「どうしたんすか?」
「傷はどうよ?」
「はい、痛みはけっこう取れましたけど…」
「そりゃよかったな」
「アドルさん…ありがと」
「あん?」
「アドルさんがその剣を貸してくれた途端、なんかべらぼうに強くなった気がするんすよ。
おかげで助かりました」
アドリアンは後ろに掛けられてある杖剣を見て笑う。
そして阿呆と言って、サイトの左腕を取ってルーンを見せた。
「お前の先ほどの現象はこのルーンのおかげだよ」
「これがっすか?」
「そう。このルーンはガンダールヴっつーてな…。これがあると様々な武器を使えるっつー
反則染みた奴よ」
「まじっすか!。じゃあ俺は今伝説の勇者みたいな力をもったって事か!!!」
とはしゃぐサイトにアドリアンは彼の頭を殴る。
「調子に乗るなド阿呆が。いいか?これはあくまでお前の力じゃねえ。ガンダールヴの力だ。
そこの所肝に命じな」
「…う!わかったっす…」
サイトはアドリアンの言ってる意味に気づき、申し訳無さそうに頷く。
その様子を見てアドリアンは笑い、サイトの頭を叩く。
「つーわけで説教はこれくらいだな。うし!小僧遊びに行くぞ」
アドリアンは悪戯ぽく笑い、サイトを担いで窓の縁に足を乗せる。
「うわ!なんすか!アドルさん!」
「今から町行って遊んでやるつーてんだよ。おごったるぜ?」
そう言ってサイトを担いだまま外に飛び上がった。
だが医務室は三階にあり、サイトの顔は下から来る風圧で顔が歪み絶叫する。
「こえええええええええええ!!!」
アドリアンは下に控える自分の使い魔のヴィトーに飛び乗り、サイトを後ろに乗せる。
「おっしゃ。じゃあ行こうか」
ヴィトーはそれに応えるように吼え、一気に町のほうへ走り出した。
「うわ…めっちゃはええ」
サイトはアドリアンの背中を落ちないようにしがみ付きながらヴィトーの駈るスピードに
驚く。
ヴィトーの乗り心地はお世辞にもよろしくは無く、また鞍もつけていないので
振動がダイレクトに尻を刺激してしまう。
よってサイトは尻からくる振動により傷口を刺激され、唸ってしまう。
アドリアンはサイトの顔を見ると、額に斜めの疵が残っていた。
「坊主、傷が残っちまってるな?」
それを聞いてサイトは額をなで、傷の感触を感じた。
「うわ!ほんとだ!どうしよ…。これじゃ就職の面接に不利になる…」
と涙目になるサイトにアドリアンは「男前になったじゃねえか」と笑う。
「坊主」
「ウス!」
「傷はな男の履歴書って奴よ」
「履歴書?」
「そうだ。しかも、これからのてめぇの行動次第で拍つくかそうでないかが変わる
面倒くせえ履歴書だ」
とアドリアンはサイトの頭を撫でる。
「ま、簡単に言えば…。この疵がハッタリで終わるか男の勲章になるかはこれからのてめぇの
男としての行動次第ってわけよ…。気張りな、サイト」
サイトは初めてアドリアンが自分の事を名前で呼んだのに気づいた。
そしてアドリアンが自分の事を認めてくれたのだと知り、
アドリアンが言った事の意味を吟味して力強く頷いた。
暗闇の中で3つの目が互いを見やり対峙していた。
「兄貴…。レヴィアスが早々にあの坊やに喧嘩売って殺されたそうだ」
その中で野生的な光を放つ男が飽きられた声色で言う。
「ふん…。所詮は跳ね上がりの小僧だ。我ら兄弟の中でも一番弱い…。
だが…一番跳ね上がって攻め込んだ割には無様よのぅ…、恥さらしにも程があるわ!」
しわがれた声が目に嫌悪の光を放ちながら侮蔑を吐き出す。
「しかし…。本当にやるのですか…兄上達…。あのような少年を倒して神祖になっても
何になりましょうや…」
悦のあるが、憂いのある女の声が二つの眼に言う。
「…神祖になる事が我の悲願じゃて…今更引けんわ!。たとえ吸血鬼のプライドを投げ打っても
人共を利用せねばならぬのじゃ」
「俺は別に神祖なんぞどうでもいいが…。あの小僧には興味がある。あのヴァルヴァトーレを
殺した奴だ…どれほどの力を持つか…殺りあってみたいわなぁ」
そんな口を開く二人に女性と思わしきシルエットはため息をつく。
「兄様がた…。人と共存をする道はないのでしょうか…。とくにカーティス兄様…。
もう昔に因習をやめて神祖にこだわるのはやめてください…。しずかに生きるか人と手を
取り合う事を考えましょう…それが我ら吸血鬼が歩む最善の道かと…」
「ふん!。何故我ら誇りある吸血鬼が家畜と共存しなければならぬのじゃ!
相変わらず果実に砂糖をぶちまけるが如き甘い事を言いおってからに!。
カティーヌ!覚えておけ!わしは必ず神祖となり、人…いやそれだけではない!
韻竜!翼人!そしてあの小生意気なエルフ!。この星の全ての生き物をわしらの家畜に
してやるのじゃ…!。くっく!!はっは!ひゃああっはっははっはははは!!!」
目を爛々と赤く光らせ狂ったように笑う兄をカティーヌと呼ばれた吸血鬼の女は
悲しそうに見つめていた。