長らくご無沙汰ですみませんでした;
リハビリもかねて色々とやってみました感じですw
アルヴィーズ食堂。
いつものルイズ、サイト、ジャンヌ、キュルケ、タバサ、ギーシュとモンモラシーの
お馴染みのメンバーが3時のおやつを楽しんでいた。
「そういえばよルイズ」
「なによ?サイト」
「メイジって得意な属性ってあんだろ?火とか水とか」
「それがどうしたのよ?」
「前にメイジってそれぞれの得意系列なんたら魔法があるって言ってたじゃん?」
「言ってたわね」
「アドルさんの得意けいれつまほうって何だろって思ってさ」
「お兄様の…?」
辺りが静けさを作る。
考えてみればアドリアンの得意属性について皆あまり深く考えた事はなかった。
妹であるルイズも昔から兄が当たり前の様に4系列魔法を自在にこなしているのを
見ていたせいか、それが当たり前の事だと思って気にも止めていなかった。
それはジャンヌも同じである。もっともジャンヌはアドリアンの前世がダンピールである事を
知る数少ない人物で、吸血鬼の魂を持つから魔法使えて当たり前じゃんとくらいしか認識が
無かった。
「たしかに…ダーリンの得意系列魔法って…どういうのかしら…」
「キュルケ…あんたね…兄様と付き合って今までそんな事も知らなかったの…?」
「だって~~、ダーリンの事だからね~~。全部得意でも不思議じゃないし」
ルイズは呆れたが、からから笑うキュルケを見てため息を吐く。
「ふむ…僕もあまりそれに対して気にもしなかったな…。
彼の二つ名だってそうだ。普通ははそのメイジの得意系列でつけられるものなんだが…、
「狂犬」「ヴァリエールの鬼子」「吸血鬼殺し」といったまったく魔法に関係ない
二つ名なんだけど…そっちが有名すぎてねえ」
「狂犬…ねえ…ダーリンもそろそろあんな物騒な二つ名よりもっとエレガントな二つ名にすれば
いいのにねえ…」
「珍しくアンタに同意するわ…。まったくお兄様ったら…あんなのもらっても全然気にもしない
のだもの…。大体あの二つ名は心無い貴族どもがつけた軽称じゃない!。
ちゃんとヴァリエールの人間らしく美しく優雅な二つ名を名乗ればいいのよ!」
「ゼロのルイズが何を言う」
「…ゼロのルイズの失敗魔法を味わいたい漢がここに…」
「あだだだだ!ごめんなさい!杖を頬にぐりぐりしないで!」
ぽつりとルイズの名誉ある二つ名を突っ込むサイトに彼女は笑顔を浮かべながら頬に杖を
インサートする。
「たしかに…興味ある…」
ルイズの隣でもくもくとモンブランを食べていたタバサがぽつりと口を開く。
「あの人は強い…。魔法だけじゃなくて身体能力…戦い方…どれも今までのメイジとは桁外れ
だと思う…」
「そうよねぇ…ダーリンってあの吸血鬼王とその部下を倒したんでしょ?ほとんど一人で
かなり化け物染みてるわよねえ」
「しかしその時は彼だけじゃなくてグリフォン隊のワルド隊長とマンティコア隊のゼッサール
隊長始め、メイジ殺し3人もいたのであろう?」
ギーシュの問いにルイズは無言で首を振る。
「ジャンの話だと兄様以外はヴァルヴァトーレの使い魔と戦っただけらしいわよ?
吸血鬼は全部兄様が倒したみたい」
「本当なのか…。いや…別に君の兄が弱いとかもちろん思っていないし、規格外の強さを持って
いるとは知っているが…まさか…一人であの連中を倒すなんて…さすがに突拍子無い話
だからねえ…」
「まあ…信じられないのも無理は無いわね…。お母様もあの連中はさすがに無理と言ってたし
一人のメイジが吸血鬼数人倒すなんて普通は信じられない事よ…」
「なあルイズ。やっぱここでも吸血鬼って強いのか?」
「そりゃそうよ。吸血鬼ってエルフほど魔法は強くないらしいけど、先住魔法は使えるし、
身体能力は人間やエルフより遥かに高いわよ?」
「しかもあいつらって…たしか4人だけで四つの村滅ぼして、マンティコア隊を壊滅に追い込ん
だって話よね?」
サイトの問いかけにキュルケが答え、続いてモンモラシーが言う。
「まんてぃこあ部隊?」
「あんた…。マンティコア隊も知らないの!?。マンティコア隊は烈風のカリンが隊長を務めた
というトリステインの部隊の中でもエリート中のエリートじゃない。そんなの平民の子供でも
知っているわよ!?」
「しょうがねえじゃねえかよ!オレハルケギニア人じゃねえもん!とう…じゃなくて東方出身
だしよ!」
呆れた顔をしたモンモラシーにサイトは口をへの字にして反論する…がそのような
部隊を全滅させたアドリアンの話を聞いて唖然とする。
「…まじか…。アドルさん…ぱねえな…」
とアドリアン談義しだす5人を見てジャンヌは複雑そうに見つめていた。
(…。はあ…こりゃアドルの正体がそろそろばれそうな気がするわ…。
まったく…あいつも少しは自重してよね…と言いたいけど仕方ないか…。
いつもあいつには災難がふりかかってくるし…しかも自分からそれに飛び込んでいくし…
たまんないわね…退屈はしないけど。)
ジャンヌは天井を見ながら、アニエスからもたらされたアルビオンの情報を思い出た。
(しかも今、レコンキスタっていう反王族派がアルビオンを攻撃してるって話よね…
さっさと王族派があいつらを倒してくれればいいんだけど…。そうじゃないと
あいつは…また…)
王都トリスタニア王城----
「ふう…」
一人の紫かかった黒髪の10代半ばくらいの貴婦人が憂いた瞳で空を自由に舞う鳥達を見ていた。
「いいわね…あなたたちは…自由に飛べて…」
目をそっと閉じ、薔薇の花を指で撫でる。
「私も…翼がほしい…。翼があれば…今からでも飛び出して…あの人に会いたい…」
貴婦人は椅子にもたれかけ、空を…遥か遠くにあるアルビオンがある空を見る。
扉からノックが響き、アニエスが貴婦人の部屋に恭しく入ってきた。
「アンリエッタ王女ここにいましたか。マザリーニ枢機卿がお呼びです」
アニエスは心底嫌そうにため息を吐く。
「はあ…またマザリーニですか…。人が望まぬ結婚を強要されて欝になってるというのに
少しは空気を読んでほしいですわ…」
「…お気持ちはお察しします…しかし…、最近レコンキスタなるならず者どもがいつこの国に
牙を向けてくるかわかりません…もしそうなったら国力が弱体化したトリステインは…」
「滅ぼされるかもしれませんって事ですわよね…。そんな事鳥の骨から耳がタコになるくらい
聞かされてますわ」
アニエスの言葉を遮るようにアンリエッタは少し毒を含んだ声色で続きを言う。
彼女は自分が護るべき主人の心情を思いため息を吐かず、じっと愚痴を聞く。
アンリエッタが愚痴を言いたくなる気持ちはアニエスもわかる。
なんせ一ヵ月後隣の国のゲルマニア帝国との同盟の為に皇帝アルブレヒト三世と婚姻しなければ
ならないのだ。
ただでさえトリステイン貴族はゲルマニアを成り上がりの野蛮な国と軽視しているのに
国力を高めるたに同盟をし、しかも数十歳も離れた皇帝と婚姻しなければならぬのだ。
しかもあまりゲルマニア国内でもあまり評判のよろしくない皇帝とだ。
たしかにそれが王妃に生まれてきた者の使命といえばそうなのであろうが…
一人の女性として耐え難いものがあるだろう…。
しかも、アンリエッタ自身恋人がいた。あのアルビオンの身も心も麗しいウェールズ・テューダ
皇太子とだ。
しかし悲しいかな…。アルビオンは今反王族派のレコン・キスタに反乱をされ、戦況はよろしく
ない、いつウェールズが戦場で命を落としてもおかしくないのだ。
アンリエッタは、自分の事…恋人の事を想う度に心が張り裂けそうになり、胸をきゅっと掴んだ。
「姫様…」
そんなアンリエッタを見てアニエスはどう答えていいのかもわからず、無言で主を見守る。
アンリエッタは一呼吸を入れて、ニコリと笑顔を自分を護る腹心の女性騎士に向ける。
「ねえ、アニエス…。あなたは恋人はいる?」
「え?」
アニエスは不意打ちを喰らったかの様にドキっとした。
「い…いえ…べ…別にいませんが…?」
いつもの鉄の心はどこへやら、彼女は目が水槽に入れられ、逃げ出さんと暴れる魚の如く泳ぐ。
そんなアニエスをアンリエッタは意地悪く笑いながら口を開く。
「ワルド子爵から聞きましたわよ?あなた…アドリアン兄様とお付き合いをしているんですって?」
「…あの野朗、いつか締める」
「あらあら。いけませんわよ?「淑女が暴力なんざやってっと男のもてねえぞ?」ですわ」
と一人の王女とは思えない台詞を吐くアンリエッタに驚いて目を丸くするアニエスを見て
彼女はクスクスと笑い、懐かしそうに遠い目をする。
「昔、ルイズとお菓子をめぐって喧嘩するたびに、あの人をいつもそんな事を言って諌めて
くれましたっけ…」
「姫様は…アドリアン…いやミスタ・アドリアンと知り合いで?」
「ええ。幼馴染ですわ。昔はよく遊んでもらいましたわ…懐かしいですわ…あの人の奏でる
バラード…ジャズ…ボサノバ…フラメンコ…また聴いてみたいですわね…」
アンリエッタは懐かしそうに空を見つめる。
「羨ましいですわ…貴方は恋人が健在で…」
「別に羨ましく思われる事もないですね、あいつは…次々と女を手篭めにしてますから…」
思い出したかのようにアニエスは無表情になり、みるみる血管が浮かび上がる。
「あらあら。あの人の女癖の悪さは相変わらずですわねえ」
「ええ。学院に入ってからはゲルマニアのツェルプストーの娘を手篭めにしてましたし」
「まあ!あのツェルプストーの!?。たしか…あの家はヴァリエール家の天敵なのに…
そんな事が公爵の耳に入ったらカンカンに怒るでしょうね…」
「…すでに入ってます…。最初は予想通り激怒したのですが…そのあと…
「ウハハハハ!しかしさすがは我が愚息!ツェルプストーの娘を陥落させおったとはな!!
ざまあ見やがれ!ツェルプストー!」…と大喜びしていました」
それを聞いたアンリエッタはゴンと音と共にテーブルに顔をぶつけた。
「姫様…どうしました?」
「い…いえ…。昔からあったヴァリエール公爵に対する幻想が少しひび割れただけですわ…」
赤くなった額を押さえながらアニエスは無理矢理笑顔を作った…口は引きついてたが…。
「カリーヌ婦人曰く…昔はあのようなお方ではなかったらしいですけどね…」
「ええ…私の知っている公爵は、厳粛でしたが…紳士的で…立派なお方だったはずなのです
けどね…あんなテンションが高いお方でしたっけ…」
「息子の毒が回ったみたいですね…」
アンリエッタは頭を抱えながら
とりあえず心の中のヴァリエール公爵のヒビを修正して気を取り直すために、
紅茶をカップに注いで一口飲む。
「それにしても…アドリアン兄様か…」
アンリエッタは何かを思いついたのか、アニエスに顔を向けた。
「ねえ…アニエス…あの人…アドリアン兄様なら…レコンキスタを倒せると思う?」
その言葉を聞いたアニエスは一瞬目を鋭くさせた。
「…姫様…。アドリアンを…レコンキスタの毒虫どもにぶつけるというのですか?」
微かに体から殺気を漂わせ声を押し殺すように言うアニエスに
アンリエッタは驚いて、大慌てで首を横に振る。
「い…いえ…ご…ごめんなさい…ただ…」
「…たしかにレコンキスタの連中がメイジの集団だったら…皆殺しにできるかもしれませんね
実際アドリアンはレコンキスタを一人で潰す気でいますし…」
「…」
「しかし…やつらに送った草から怪しい情報が入りまして…」
「怪しい…」
「レコンキスタの幹部連中に人外ならざる魔力を持つ黒マントの男が接触しているのと…、
その言葉に従って怪しい実験をしているという話です」
「人外のもの…?実験…?」
「奴の招待と実験の内容はまだ掴めていませんが…、
ただ…その実験室とやらから血の匂いが漂っているらしいとの事です」
「まさか…人体実験とかそういう類?」
「そうかもしれないという推測ですが…今だわかっておりません…。
さらにこれは…重大な事…、できればあまり耳に入れたくはありませんが…、
やつらの盟主、オリヴァ・クロムウェルという司祭が…虚無の使い手だと…」
「虚無!?」
「…実際虚無を使っている所は見ていませんが…クロムウェルはそう自称しているようです…
真相はわかりませんが…こう妙な材料が揃うとアドリアン一人攻め込ませるわけには
いけないです…それに…」
「それに?」
「…反逆罪覚悟で言います。本音を言うとアドリアンを戦争に巻きこませたくは無いのです。
たしかに命令されればあいつは行くでしょう。先ほどにも言いましたがあいつは今からでも
すぐにアルビオンに殴りこんでレコンキスタを滅ぼそうと考えています。
たしかにあいつの力は強い…この眼で嫌というほどあの化け物染みた強さを
嫌と言うほど見てきましたし、暴力を好む野蛮な所があり、思想的には右回りの性格です。
ですが、決して戦争自体を好きという事はありません、むしろ嫌ってる節もあります。
しかしあいつの性格の事だ…、どんな危険があろうと…家族…恋人…友人を護る為なら喜んで
身を地獄に投じようとします…ましてや…ウェールズ皇太子は…あいつの親友です。
よくウェールズ皇太子の話はアドリアンからよく聞かされてました。
「まだまだボンボンな所はあるが、あいつこそ王に相応しい」とよく言ってました。
そんな風に褒め称える友人が危険に晒されては放っておくわけはありません、今でこそ
ヴァリエール公始め、ワルド隊長にゼッサール隊長、ヴァリエール家の家族、そして
ミス・ジャンヌやミスタ・ルノワールが必死に止めている状態ですが、いつ鉄砲玉の如く
レコン・キスタに攻め込むかわかりません…」
そんな風にいつになくまくしたてるアニエスを見てアンリエッタは申し訳無さそうに頭を下げる。
「ごめんなさい…アニエス…私が軽率でしたわ…。あなたの恋人を単身でアルビオンに行かせよ
うと思うなんて…」
「い…いえ…。王女にとんだ出過ぎた真似を…」
アニエスは申し訳無さそうに謝罪の礼をする。
「いえ、いいのです。私が悪いのですから」
とアンリエッタは手で静止して微笑をした。
「ごめんなさいね、長々とお喋りして…。今から支度するのですぐ向かいます…とマザリーニ
に伝えといてください」
「ハ。わかりました」
アニエスは膝まつき、礼をして部屋から退出した。
「ふう…私も甘いな…」
姫の部屋から出たアニエスはとぼとぼと廊下を歩きながら自重の笑みを浮かべる。
「やぁミス・アニエス」
突然彼女の背後から、爽やかでよく通る声が聞こえてきた。
「ワルド子爵!」
アニエスはさきほどの話を思い出して、顔から沸騰してズンズンとワルドに迫る。
「貴様!よくも私とアドリアンが付き合っていると姫様にばらしたな!!」
「いやあ なんの事かな?」
ワルドはニヤニヤしながら首を横に向けると…。
「ヒソヒソ。え?ミス・アニエスってばミスタ・アドリアンと付き合ってるって?」
「え~~あの鉄面皮が~~?。意外と隅に置けないんだから~~」
「ち!ちがう!私は別に!!!」
「隊長これが噂のツンデレっすか!」
「死ね!」
アニエスは次々に噂を立てる使用人やら部下に必死に違うと言い放ったり、部下を殴った。
「はっは!これでゴシップには事をかかないな」
「ワルドきさまあ!!!」
飛びかかろうとするアニエスを止めて、急に顔が真顔となり耳元でぽつりとつぶやく。
「冗談はさておき…アニエス…話がある…」
「話?」
ワルドはアニエスを人気のいない部屋に案内した。
「で、こんな所で何用だ?変な事したらただではすまんぞ?」
「はっは。そんな事したら僕はアドリアンに殺される。
僕はまだ死にたくはないんでね」
とワルドは部屋にサイレントをかけながら冗談を言う。
「…話はな…レコンキスタの事だ」
「なにか新しい情報が入ったのか?」
ワルドはこくりと頷く。
「実は…奴らの中にトリステインの貴族が混じっているという情報が入った」
「…なんだと…?」
「人物は…まあ予想通り…。昔アドリアンを吸血鬼退治に巻き込んだ連中だ」
「…リッシュモン…達か…あの裏切りものめ!アドリアンを吸血鬼どもにぶつけたのにも
関わらず国を裏切るとは!破廉恥どもが!」
「ふっふ。僕はこれがいいきっかけになると思うんだがね…。
このトリステインから癌細胞を切り落とすいいきっかけがね…」
憤慨するアニエスにワルドはにやりと笑う。
そんなワルドを見て、アニエスはジト目で見る。
「前から思っていたんだが…。お前はなにか企んでいるな?」
「ほう。どうしてそう思う?」
「正直…勘だが…」
「ふっふ。女の勘は鋭いからね。まあ…君なら話をしていいかもね。僕の夢を
まああくまで夢なのだが…」
「夢?」
「そう。僕はね…アドリアンをトリステインの王にしてみたいと思っているんだ」
「ぶ!!!」
普通に反逆罪に問われかねない事を言うワルドにアニエスは盛大に吹く。
「あ…あいつを王にだと!?」
「アドリアン自体は拒否するだろうけどね…。だが面白そうかと思わないか?あいつが王に
なるのを」
「面白い?冗談ではない。そんな事をしてみろ!トリステインは一気に分裂してしまう!
お前もあいつを嫌う貴族共がごろごろいるのは知っているだろう!」
「うん。その嫌う貴族のほとんどはレコン・キスタに参加しているから、これを機に連中を
一掃すればすっきりして、あいつを王にできそうかなと思ってはいるんだけどね」
「お前は何を言っているのかわかっているのか!?」
「ああわかっている…あくまで夢さ…。だが…アニエス…君も薄々感づいているだろう?
トリステインは長く持たないという事を…」
「…」
「僕はね…昔からくだらない貴族どもを滅ぼして、自分が王になってやるという野望をもって
いた…。だが…その途中面白い奴を見つけた…。そう、アドリアンだ…。
ぼくは今まであいつと接して思ったよ。ヴァリエール公爵の言うとおりあいつは人の上に立つ
器だと…」
「たしかに私もあいつは人の上に立てる器があるとは思っている…。
しかしあいつはどちらかというと国の王というよりヤクザの組長のほうが似合っているだろう」
「はっはっは!たしかに君の言うとおりアドリアンはアウトロー達を束ねているほうがしっくり
イメージできるな!。だけど…あいつはあの大貴族ヴァリエール家の長男。しかも始祖の血を
引く。しかも…別の世界とは言え…吸血鬼の王…神祖の力を持つ…。一応王としての条件は
十分もっているだろう…まあ後者はアレだが。それにな…」
「…」
「あいつと出会って…人生が楽しくなったと思わないか?」
「楽しい…?」
「ああ。僕は少なくともあいつと出会って人生が楽しく思えてきたよ。
苦労させらるる事もあるがね。でも僕は昔に比べたらよく笑うようになったよ。
ヴァリエール家もそうだ。公爵がよく言ってたよ、「あいつが生まれてから家庭が明るくなっ
て」ってね。君もそうだろう?」
「フン。くだらん。そろそろ訓練の時間だから私は行くぞ…。さきほどの話…
普通なら反逆罪になる所だが…。貴方が私の事を信頼して話したのだ…軽率な事だろうが
貴様の信頼に答えて黙ってやろう」
「はは!。有難い。さすがミス・アニエスだ!助かるよ」
悪びれも無く笑うワルドを見てアニエスは「こいつもアドリアンの毒に当てられたか」と
思いため息を吐いた。
だが、ワルドに言われた通り、たしかにアドリアンと知り合って人生が楽しくて仕方ないと
思っている所もあるのはたしかだ。
そう思うと「私も同類だな」と自分に呆れて笑ってしまった。
トリステイン領トスカーナの町。
数年前ヴァルヴァトーレ一味を倒したアドリアンが王女マリアンヌから送られた町だ。
海に囲まれた土地で、オレンジ色の屋根と白い壁の建築物が並ぶ美しい町である。
しかしその反面、大昔にロマリア系マフィアが進出してきて以来治安は最悪であったが。
だがアドリアンによって民衆に人気があったグレコ一家以外ほとんどの組織は弾圧され
そのグレコ一家を自警団扱いにさせ治安を向上させた。
産業は元々盛んだった漁業を始め、アドリアンの趣味により音楽家、美術家、建築家などが
集まり、ただの漁業が中心だった町はすっかり美術の町として有名となり、観光地として人気
が集まっていた。
やあアドル、久しぶりだね。元気にしてるかい?ていうか君が学院で行っている悪行は
こっちでも届いているよ?。
まったく学院の生徒になっても変わらないんだねえ…、ヴァリエール公の怒り顔が目に浮かぶよ。
でも君が元気でやっている噂を聞いて僕も安心するよ。
大人しくしているほうがかえって気持ち悪い(大爆笑)
所でもう君の耳に届いているだろうが…。アルビオンは今レコンキスタの逆賊どもと
戦争中だ。
君の事だ…真っ先にアルビオンに向かいレコン・キスタに殴りこみかけるだろうが…、
正直自重していほしい。
たしかにレコン・キスタの連中は腐った連中だ…しかし…こうなったのも僕ら王族のツケが回って
きた罰だと思う。
僕ら王族…貴族は自らの特権を振り回し…傲慢に好き勝手にやってしまった、
おかげでこの通りに奴らに攻め込まれる隙を与えてしまったのだ…。
僕はこの罰を受け止める覚悟だ…だからといって甘んじる気も無いし奴らに討たれてやる気も
無い。
いくら僕らに落ち度があると言ってもレコン・キスタの連中は聖地奪還と貴族の共和制と
謳っているが、中身は所詮利権と欲に塗れた集団だ、そんな連中が聖地奪還ができるわけも無い
と思うし、できたとしてもハルケギニアを疲弊させるのは目に見えている。
だから僕は奴らと全力で戦うつもりだ。
アドル…、僕の事は心配いらない、。僕…いや…アルビオンはあんな連中に決して負けない。
だから加勢は無用だ、トリステインで高みの見物をしていてくれ。
そして勝利したらまた皆で海へ遊びに行こう。
親愛なる友人アドリアン・ギュスターブ・ド・ヴァリエールへ
ウェールズ・テューダーより。
「馬鹿野朗が…」
トスカーナの町全体が見渡せる丘の上でウェールズの手紙を読んでいたアドリアンは
顔を歪め、無造作に手紙をポケットに突っ込んだ。
「…」
ゆっくりとしゃがみ、懐からタバコを取り出して吸う。
彼の目の前で紫煙がゆらゆらと空へ上がり、舞い上がりながら風にかき消される。
アドリアンはただ…ただ…ボーっと空へ見上げていた。
「あら?アドリアンじゃないの」
「あん?」
後ろから声が届き振り向くとそこにはアドリアンの姉エレオノールが立っていた。
「なんだよ?エレ姉じゃねえか。久しぶりじゃんよ」
アドリアンはよっこらせと言って気だるそうに立ち上がる。
「どうしたよ?こんな所に来ちまってよ」
「仕事でここにここに来てたから、ついでにあなたの街を見物しようと思いましてね」
「かっか、そうかい。歓迎するぜエレ姉ぇ。とくと我がトスカーナをご賞味ください」
アドリアンは悪戯っぽく笑い、道化のように手を横に振り、トスカーナの町を見せる。
「フン、仰々しい礼なぞアンタには似合わないですわよ?」
「こりゃお手厳しい」
エレオノールはフンと鼻を鳴らし、弟が治める町を眺める。
一回だけこの町に来たときがあったが、アドリアンが治めたばかりに比べると随分と活気に
満ちていると気づく。
町か100メイル以上も離れている丘からマンドリンの音色が流れていて、よく見ると町の門は
薔薇と女神のよう美しい女性が彫られている。
そこらのハルケギニアの町も同じ事だが、昔は糞便の匂いが立ち込めていたが、今ではすっかり
そんな悪臭が無くなっていた。
これはジャンヌの提案で、彼女の前世の知識により下水道が作られた為である。
おかげで悪臭を始め、衛生面が向上された。
この下水道はここだけではなくヴァリエール領やルノワール領でもしっかりと作られている。
「ふむ…。昔に比べたら随分と綺麗な町になりましたね」
「だろ?」
素直に関心するエレオノールにアドリアンはにやりと笑う。
「ですが、下水道に関してはジャンヌのお陰ですわね。あの子に感謝する事に」
「はいはい。わーってるよ」
「…それにしても意外ですわね…。あんたがここまで町の管理に力を入れるなんて…
私はすぐに投げ出すかと思いましたけど」
「かっか!。たしかに最初は乗り気じゃなかったんだけどねぇ…でもよ…町ぃ仕切ってく内によ
なんか段々わくわくして来てよ、楽しく思えてきたんだよ。街づくりって奴をよ。
ふろんてぃあすぴりっつって奴かねえ」
「ふろんてぃあすぴりっとはどういうのか知りませんけど、貴方がしっかりと貴族としての
仕事をしてるのを知って、多少は安心しましたわ」
「へっ。まぁ立ち話もなんだ、案内してやるよ。美味ぇ飯がある店連れてってやっからよ」
「ふふ。それは楽しみですわね」
エレオノールは弟の提案に素直に微笑んだ。
だが、姉をエスコートしようとするアドリアンの動きが一瞬止まる。
「…」
「どうしました?アドリアン」
不振に思ったエレオノールは訝しげに訊ねるが…、アドリアンは無言でエレオノールを脇に
抱いて高く跳躍した。
「な!無礼な!何すんのよ!」
抗議しようとしたエレオノールだったが、自分達が立っていた地面から轟音が聞こえ、
地べたを見ると、地面が盛り上がり3匹の頭を持った蛇が勢い良く現れた。
「ヒ!!ヒドラ!なんであんなのがこんな所にいんのよ!!」
ヒドラは大口を開け、一斉にアドリアン達に襲い掛かる。
アドリアンは指二本を立て、ヒドラに向かって赤い閃光を放った。
赤い閃光が右にあるヒドラの頭を切り裂くと、ジュワと音を立て血を共に傷口を焼く、
「ヴィトー!」
アドリアンが己の使い魔を呼ぶと、町から蟲のような薄い翅が生えた狼のようなドラゴンが
現れ、口でエレオノールの裾を咥え、背中に乗せて安全な上空に飛ぶ。
アドリアンは右手から炎を纏わせそのまま手刀で縦一閃に次々と残ったヒドラの首を切り裂く。
全ての首を切り裂かれたヒドラの体は傷口を焼き切られた為首を再生もできず、砂埃を立てなが
らのた打ち回った。
「な…なんでこんな所にヒドラがいるのよ…!」
目の下で切られたトカゲの尻尾のごとくのた打ち回るヒドラの死体をエレオノールは呆然と見る
…とその時、同じく宙に漂いヒドラの死体を見下ろしていたアドリアンの近くの空間が歪むのを
見た。
「アドリアン!?」
エレオノールは弟に向かって叫ぶ。空間の真ん中あたりから逞しい筋肉が見える腕が現れる、
その手には赤い柄の短剣をもっていてその短剣をアドリアンの頭に向かって振り下ろす。
「!?」
振り下ろされた短剣がアドリアンに掴まれる。アドリアンは歪んだ空間に向かって空いた
右腕を突っ込み男の体を引きずり出して地面に叩き付けた。
「カハァ!」
男は地面に叩きつけられ、口から血を吐く。
「な…なんなのあの男は!」
アドリアンは近くにフライで寄ってきた姉にニィと笑い「吸血鬼だ」とつぶやく。
「な!」
「く…ぐ…」
吸血鬼の男は口から流れる血を拭い、地面から降りてきたアドリアンを睨みつける。
「…その血の匂い…ヴァルヴァトーレの血縁かよ…?」
「人間の分際でその腕力…俺をヴァルヴァトーレ兄貴の血縁を見極める嗅覚…
お前が神祖の魂を持つ者なのは嘘でもなさそうだな!」
と言ってから吸血鬼の男は腰から二振りの山刀をクルクルと回転しながら構える。
「神祖の力…見せてもらおうか!!」
男は地を蹴ってアドリアンに襲い掛かる。
アドリアンは「…また神祖かよ」とうんざりしたようにため息を吐いた。
その態度に男の顔に怒りの色が現れ、怒り任せに二刀を叩きつける…が、
先ほど同じように男の両手首を掴まれる。
「ぬ…ぬぬ!!!」
人とは思えぬ力に男が驚愕し、徐々に腕が自分より細い腕であろうアドリアンに押し返され
始める。
「化け物があ!…がぁ!」
アドリアンは男の右膝目掛けて押し込むように蹴りを入れると、足が九の字に曲がり膝を付く、
そして首筋に蹴りを入れられ横に回転し倒れこんだ。
しかし男は立ち上がると、膝が180度何回も回転し骨が接がれ一瞬のうちに折られた膝が
修復され元通りになった。
「へぇ…」
アドリアン関心しながらそれを観察し、エレオノールはうげぇと嫌な顔で見る。
「なかなか面白ぇ事してんじゃんよ…。この前の奴よか愉しめそうだ…」
悪鬼のような歓喜に満ちたアドリアンの笑みを見て男はアドリアンから、銀髪の吸血鬼の姿が
だぶって見えた。
(こ…これが奴の魂の正体か…!)
男は心の臓が凍りつくのを感じた…しかし心を激しく揺す振らせ、震えそうになる体を抑え
ながら立ち上がりアドリアンを睨む。
アドリアンはそんな吸血鬼に向かい、見下すような笑みで手を鉤爪を作り今まさに獲物を
狩ろうと猛禽類の如き飛び掛った。
「!?」
男の周りから土が盛り上がると包みだし、ドーム状になった。
アドリアンはそのドームに向かって拳をたたき付けるめり込ませる、するとドームがアドリアン
の手中心にヒビが走りバラバラに砕け散って宙へと舞い、そのまま破片が鉄へと変化し、
鋭い切っ先でアドリアン目掛けて四方から襲い掛かる。
アドリアンは襲い掛かる鉄の破片を次々に叩き落し始めるが、自分に向かってなにかの
塊が自分に襲い掛かるのを感じ、それに目掛けて蹴りを放つった。
しかしアドリアンの蹴りが、塊に弾かれ吹き飛ばされ宙へ飛ぶ。
なんとか着地して自分を弾いたものを見ると、そこには鉛色に鈍く輝く鎧のような吸血鬼の男が
立っていた。
「ま…まさかあれが先住の力で作った錬金!?」
エレオノールは鎧姿の吸血鬼を見て驚く。
初めて見る弟の化け物のような身体能力にも驚いたが、それ以上に古くからメイジに恐れられて
いた先住魔法の一環を生まれて初めて見て驚きの色を隠せない。
「ほら!アンタ!アドリアンの使い魔なんでしょ!?加勢するわよ!」
エレオノールはヴィトーの鬣を引っ張るが、アドリアンに「余計な真似すんじゃねえ!」と
一喝される。
「タイマンだぜ?口出すんじゃねえ」
エレオノールは初めて見る弟の戦士?の顔を見てごくりと唾を飲む。
「お前…名前は?」
アドリアンは吸血鬼に名前を尋ねる。
「俺は…オーロック…。吸血鬼の王が一人…覚悟しろ!神祖の力を持つ人間!」
オーロックは両腕からサーベル状の刃を出す。
これがゴングとなり、両者は一斉に獲物を狩らんとした。
次々と繰り出すオーロックの斬激がアドリアンを襲う。
アドリアンは久しぶりの強者に笑いながら、楽しむかのように次々と手で弾いた…しかし
段々とアドリアンの顔が喜びから戸惑いに変わる。
(…ヴァルヴァトーレどもとやり合って以来…、一気に力が取り戻してきたのを感じる…)
幼少の頃から彼は自分は人間の体ながら周りとは一脱していると思っていた…それは
自分の魂の影響だろうと思ってあまり気にも止めていなかった…しかし、
ヴァルヴァトーレの一件以来力意外、体自身すら変わってるのに気づく。
まず、日光の熱が不快感を感じ始め、夜は異様にテンションが上がっているのに気づく。
さらに嗅覚も鋭くなり、血を渇望し始めてきて、身体能力が格段に上がってきたのであった。
ダンピール化している…!?。
ふざけるな!…とアドリアンは思った。
今の俺は人間だ!たしかに昔の力を取り戻したいと思っていてもダンピールに戻るなんぞ
まっぴらごめんだ! 大体俺の昔の血は…!!。
アドリアンの脳裏に昔の自分と同じく銀…いや白銀のように真っ白な長い髪をもち、
快楽と悦楽に塗れた男の姿が浮かぶ。
そして顔が不快感の色から憤怒に変わり、バキバキと歯軋りする音が聞こえた。
「おおおおお!!」
目が赤く染まり、アドリアンの拳が男の体を貫く。
「ごほぁ!」
オーロックの口から血が吹き出す。
「ふ…ふふ…さす…が…神祖の力をもつ…ものだ…」
オーロックは心底アドリアンの力に畏敬を感じ賞賛する…がアドリアンの顔はさらに怒りに
染まる。
「神祖…?神祖だと?ふざけるんじゃねえ!!!!」
アドリアンはオーロックの体を貫いたままの腕を振りまわり、地面に叩き付けた。
「はぁ…はぁ…俺は…」
アドリアンは胸を押さえ、血を噴出しながらむせるオーロックを睨みつける。
「俺は…俺はアドリアン・ギュスターヴ・ド・ラ・ヴァリエールだ!神祖じゃねぇ!
ダンピールじゃねえ!!ヴァリエールの息子だ!カリンも息子だ!」
と魂を吐き出すように叫びオーロックにのしかかり顔を殴りまくる。
「エレ姉の弟だ!ちぃ姉の弟だ!ルイズの…ルイズの兄貴だ!!!!」
「アドリアン…」
エレオノールは目から涙を流しながら自分達家族の名前を叫びながらオーロックを殴る
弟を悲しそうな顔で見守る。
「俺は人間だ!吸血鬼じゃねぇ!もうあの男のガキじゃねえ!!!!!」
ズキリ…と生まれて初めて見る弟の心の弱さに触れ、エレオノールの胸が閉めつけられた。
実は彼女は両親からアドリアンの事について聞かされていた。
長女かつ、アカデミー在籍であるので知っておいたほうがいいという事だった。
初めて聞かされた時は冗談かと思っていた。まさかあの弟の魂が半吸血鬼なんて、
しかし昔から大人びいた雰囲気と人間離れした力をもち、数々の女を誘惑の虜にしてきた
アドリアンを思い出すと思い当たる節もある。
しかも数年前には強力な吸血鬼達を一人で倒した実績もあるのでなおさらだ、そんな事人一人が
できる事ではない、できるとしたら始祖ブリミルかそれ以外の巨大な力を持つものだ。
エレオノールはヴィトーに降りるように命じる。
狼竜は頷き、地へと降りると彼女はヴィトーから降りて何気ない顔でまるでジャンヌのように
ため息を吐きながらやれやれとアドリアンに近づく。
「ほら!いい加減やめなさい。もう勝負はついてるわよ」
アドリアンの頭を叩くと、アドリアンはぴたりと動きを止めて無言で頷く。
「顔が血だらけよ。そんな事じゃルイズが怒ってしまいますわよ」
エレオノールはハンカチを取り出して、顔についたオーロックの血と涙を吹く。
「ま、あんたの非常識さは慣れっこですからね、今更正体が吸血鬼だろうがエルフだろうが
なんも感じないから泣くのはおよしなさい」
「う…」
姉に顔を拭かれて、照れたのか顔が赤くなり、フン!とそっぽ向くアドリアンを見て
エレオノールは噴出しそうになる。
いつも自分をからかう弟がそういう態度を見せるのはなかなか面白いものがある、
母のS心が出てきて今までの仕返しにからかってやろうかと思った…が。
「…そこで見てる奴…出てきな」
顔を動かさず、そっとつぶやくと風が巻き上がりゆるかやな竜巻を作ると段々と
長い銀色の髪と雪のように白い肌の美しい紫色のドレス姿の女が現れた。
「ま…まさか…あれも?」
「多分…同じく吸血鬼」
女はにこりと柔らかく微笑み、自己紹介といわんばかりに笑みを作り長い犬歯を見せる。
「吸血鬼が何様ですか!」
エレオノールは厳しい顔で叱咤するが、女はそれに同様もせずアドリアンに向かって
跪いた。
「お初にお目にかかります…神祖さ…いえ、アドリアン様…。私の名前はカティーヌ。
そこに倒れているオーロック兄様の妹ですわ」
アドリアンは恭しく自分に傅くカティーヌのVネックから見える豊かな谷間を見て
目が光るが、エレオノールに頭を叩かれる。
「カティーヌと言いましたね?吸血鬼。私の弟に何のようですか?」
弟を護らんと鋭い声をカティーヌに浴びせる…ついでに愚弟が余計な事しないようにと…。
「はい…私はアドリアン様、そしてヴァリエールの皆様にお願いがあって来たのです」
「お願い?吸血鬼の貴方が?」
「はい…貴方の弟…アドリアン様を…ください」
「「は?」」
カティーヌの申し出に姉弟は何言ってるんだこいつと思った。
「くださいって…情熱的だねぇ…」
アドリアンは馴れた手つきでカティーヌの手を取り、頬に顔を近づけさせる。
「くっく…さしがにもらわれるわけにもいかねぇが…。ちょいっとお付き合い程度にさせる
のは大歓迎だ…」
「え…?え…?何か…勘違いしてませんか…?」
アドリアンに顔を近づかれてカティーヌの顔が異様に真っ赤になる。
「馬鹿野朗」
エレオノールは10Mもある鉄の腕を作りアドリアンを掴み、何回も地面に叩き付けた。
そしてキっとカティーヌを睨みつける。
「アンタね!アドリアンはヴァリエールの長男なのよ!跡継ぎなのよ!
なんで吸血鬼なんぞの婿にやんなきゃいけないのよ!」
「え?婿?いえ!違います!私はただアドリアン様を吸血鬼の王…神祖にしたいのです!」
「あん?」「はい!?」
再び姉弟は目を丸くする。
「お前…俺を…人間の俺をお前らの王にするってか?舐めてんのか?」
「お怒りはごもっともです…ですが…兄弟同士の戦争を終結させる為にそれしかないのです」
「は!いいじゃねえか!馬鹿同士食い合いして共倒れになっちまえよ」
「現に兄弟達は貴方の存在を知ったおかげで兄が人の社会に手を出そうとしているのです!
そんな事になったら…」
「…組織ってどこよ?」
「すみません…私にも知らないんです…」
「で、お前は俺を神祖に祭り上げて兄弟をぶちのめしてやろうとしているのかよ」
アドリアンは皮肉げに笑う。
「率直的に言えば…その通りです…」
カティーヌは申し訳無さそうに言った。
「まあ俺が神祖になるっつーてもよ、人間の俺が神祖になったってどうしようもねえだろう
いくら俺が「神祖」の力をもっているっつーてもよ」
「ちょっとあんた…神祖ってなんなのよ」
すっかり蚊帳の外になったエレオノールはいらついたようにアドリアンに言う。
「簡単に言えば吸血鬼版ブリミルって奴だよ」
「ブリミルってあんた…そんな大それた力をもってんの!?、魂が半吸血鬼だってのは
知ってたけど…」
「ええ、アドリアン様の中に沈む魂の力は神祖の力そのものですわ…。
圧倒的な力…、私達闇の眷属を照らす月の様な輝きと美しさ…」
うっとりとアドリアンを見つめるカティーヌを見エレオノールは頭がくらっと来た。
「と…とりあえず。弟が神祖の力とやらを持っているのは理解しました。
この子の前世が異界の半吸血鬼だという事も父と母に聞かされてます。
ですが、だからといってアドリアンも言ってる通りこの子は人間です、一応。
なのでアドリアンが吸血鬼の王になるのは無理があると思いますし、貴方の仲間も納得
いかないものがあるんじゃないのかしら」
「…それは大丈夫だと思います…アドリアン様の体はだんだん私達に近づいているのですから」
「…」
「貴方も薄々は感じているでしょう?、兄、ヴァルヴァトーレと戦って以来体に変化が
起きてるのを」
「それ以上言うなよ?」
「!?。申しわけございません!!私ったらつい…!」
アドリアンの体から殺気が滲み出るのを感じカティーヌは大慌てで謝る。
「ふう…。まあいいさ…。この話はやめにしてくれ。俺は神祖の力をもってはいるし、
吸血鬼化してるのも感じてる…けどよ…おれの居場所はトリステインだ、
ヴァリエール家だ。
決しててめぇらの王なんざなる気もねえ。
大体神祖の事は言うんじゃねえ。胸糞わりぃ顔を思い出す」
カティーヌはアドリアンの怒りを感じ、自分の望みは適いそうに無い…と思った。
「では…アドリアン様…。あなたの強いご意思しかとわかりました…ただ一つだけ
お願いを聞いてください」
「…一応聞いてやる」
「私を貴方に仕えさせて下さい!」
「却下」
アドリアンが口を開こうとするとエレオノールが遮る。
「何故です!エレオノール様!」
「なんでアンタみたいな吸血鬼が人間に仕えようとするの!。大体こっそりディテクト
マジック使った所魔力はあそこの伸びてるやつよか強いじゃない!」
すっかりわすれさられたオーロックを指で指す。
「私は昔から人間に興味あったんです。たしかに人間は弱いですわ。でも人間の文化に興味
あったんですけど、なかなか触れる機会がなくて…」
「アンタ…それでアドリアンを王にしようとしてたのね?」
カティーヌは笑顔で固まり、か細い口調で返事する。
「まあ…弟に仕えるとして…血はどうすんの。あんたら血吸わないと生きていけないんじゃ
ないの?」
「大丈夫です! なんとか他の動物の血を吸えば死ぬことは無いですから!」
「あと一つ問題」
「なんですか?」
「うちの弟は…すごく女たらしだから…あんたのような娘だと…すぐ…喰われると思うん
だけど…」
「大丈夫です!神祖様に抱かれるのは至上の喜びですから!」
ドンと胸を叩いて言うカティーヌにエレオノールは頭を抱え、アドリアンをチラっと見ると、
弟は微妙な顔をしていた。
「あんた…何微妙な顔してんのよ…、いつもだったらさっきみたいに口説き落としにかかると
思ったけど…」
アドリアンは無言で頷く。
「あかん、そんな理由で抱きたがる女なんぞ抱きたくない」
「何でですか!」
カティーヌは不満そうにアドリアンに詰め寄るが…。
「今まで培ってきた俺の魅力で口説き落とすのがいいんであって、神祖とやらの
ブランド使って抱くなんざ俺のプライドが許さん」
「いいじゃないですか!私はいいと思いますよ!神祖の妻になる事は吸血鬼の女の誉れ
なんですから!」
「いつのまにそんな事になってんの!!」
「…こいつ…見た目に似合わず…アホっぽいで…」
騒がしい3人のやりとりにきづいたオーロックは出て行くタイミングを見失い、
どうしたもんだかと思い空を見上げていた。
某所
「うきょきょきょ…」
「ピカレトゥーヌかい?」
「はい…、ロキエス様…きょきょ」
暗闇の中から道化姿のピカレトゥーヌが現れる。
アドリアンに切られた腕は長い義手をつけられていた。
「ロキエス様、カティーヌが「狼」と接触しました…どうしますか?」
ロキエスはガラスのテーブルにあるルピーの塊を指で軽く弾く。
「クス…クスクス…そうか…。なら放っておくがいいよ…クス!」
「よろしいので?」
「もちろん…そのほうが面白い…。それからカーティスのほうはどうしている?」
「きょきょ!貴方の予想通り「狼」を殺すために貴方様から渡ってきた技術を今せっせと
つくっておりますよ!!うきゃ!キャキャ!。そろそろ試作品をアルビオン王族に
ぶつけるそうです!キャキャ!」
「アルビオンのウェールズ王子は…「坊や」と仲がよいからな…クス!
もしかしたら「坊や」とぶつかる可能性があるわけか…クック…
今回の「脚本」はどういう事になるのやら…クス!クスクスクス!」
ロキエスは愉快に哂い、体を震わせ、赤い…血の様に赤い瞳をピカレトゥーヌに見せる。
「ピカレトゥーヌ…覚えておくがいい…これが愉しむという事だ…」
ロキエスは立ち上がり、側に立っていた虚ろな目をした女性達を自分の周りに立たせた。
そして赤いマントを硬化させ、女性達の首を瞬時に切り落とす。
首から夥しい血が吹き、血のシャワーとなりロキエスの体をそそぐ。
「人を弄び 精霊を弄び 神を弄び…そして世界を弄ぶ、そして命を花火の如く散らせ
それを血のワインと共に愉しむ…クスクス!最高の贅沢な遊びではないか…」
「クキョ!キョキョ!あちしもそう思います!!」
血のシャワーを浴びるロキエスを物欲しそうに見つめて同意する。
「さあ…高みの見物をしようじゃないか…。このハルケギニア…そして
東方サハラの全てが どう私の脚本通りに動いてくれるのかをな…
期待しているよ…坊や…。
クス!クスクス!アハハハハハ!」
ついに出てしまった真の黒幕 もっと引っ張ればよかったかなと思っていたけどw
今度はなるべく早く更新したいと思ってます。