たとえこの身が灰になろうとも   作:マルシーズ

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弐話 アドリアン

ハルケギニア大陸虚無の日、トリステイン王国ヴァリエール領。

農村にある牧場の近くで人だかりがあった。

流暢で甘く情熱的なギターの旋律が村中に響き渡る。

 

村人達はこのハルゲキニには無い曲をじっと聞き惚れていた。

男たちは酒を飲み交わしながら日々の疲れを癒し、女達はギターを奏でるものに顔を赤く染め。

子供たちは何も言わず輝いた瞳でじっと見ていた。

 

ギターを引くものの姿格好は異彩を放っていた。

背はまだ低く、幼さが残るがその容姿は男子でありながら妖艶な雰囲気を持っていた。

 

緩く巻かれている爽やかで極彩色で宝石が彩るターバンから見えるザンバラで長い髪の毛は見事なほどに黄金に輝き。

青のマントを纏った貴族服だと思わせる服は黒を基調に細かい金色の装飾がされていて、

そして整った顔つきにはギラついた肉食獣のような目つきと月のような金色の瞳をもっていた。

 

領民達は知っていた。

この子供が何者かを。

自分たちの支配者、トリステインきっての大貴族ラ・ヴァリエール公爵の跡取り息子

アドリアン・ギュスターヴ・ド・ラ・ヴァリエールと言うことを。

 

貴族と平民、外見こそ細かいところ意外は同じでも中身はまったく違っていた。

貴族の大半はメイジであり、魔法を使えることが出来た。

一方平民は、なんらかの理由でメイジの血を引くもの及び没落したメイジという例外を除いて一向に魔法が使えないでいた。

よって平民にとっては、貴族とは恐怖と畏怖と同時に憎悪の存在でもあった。

貴族、とくにこのトリステイン貴族は平民を奴隷当然な扱いをし、蔑ろにする者が多かったからだ。

このヴァリエール家その中でも平民には善政を行っているものの、

それでもやはり大貴族な事でもあり恐怖と畏怖の存在であり、恐怖と畏敬の存在でもあった。

しかしこの子供は違った。

好き勝手に暴れまわっている所もあるし平民のことを平等とも思ってもいなかったが

よく暇な時村に遊びに来て領民にこうやって音楽を聞かせてやったり、

子供たちに音楽を教えてやったり、

男子には喧嘩の仕方や剣などを教えてやったりしていたので少なからずも親しみをもたれれていた。

しかし領民の大半は知っていた。

この子供はやんちゃではあるが優しい所もある。

だがとある事件がきっかけでアドリアンの恐ろしさと強さ知った…。

 

 

 

それは2ヶ月前の日の寒い雪の日、酒場で起きた事件の事でであった。

 

「ふい~~さびぃ~」

「まったくよぉ!さっきは晴れだったんになんでこんなに…うぇっくし!」

吹雪で雪まみれになった、人相の悪い二人組みの男が入ってきた。

右側に立つ青年はザンバラ髪に2Mほどの大男で、背中には3Mもある鉄のこん棒を背負っていた。

左に立つ男は髪をオールバックに後ろに上げていて、狐のような細い目を持ち、腰にサーベルと小銃をつけてあった。

「おっさんなんでもいい!体が熱くなるようなもん頼むぜ!」

ザンバラ髪の青年はドカっと椅子に座り、大声で叫ぶ。

店主はヘイヘイと頷き、赤ワインを二人に差し出す。

ザンバラ髪は豪快にグビグビとワインをコップに入れず飲み干し、オールバックはコップに注いで普通に飲みだす。

 

「…ずいぶんここは種の違う曲を流すんだな」

オールバックの問いに店主は顔を笑い、顔を横に向ける。

そこにはギターを弾くアドリアンの姿があった。

「あの弾いてるぼう…じゃなくてアドリアン様曰く「ぶるーす」っていう音楽らしいですよ」

「…アドリアン様だとぉ?」

ザンバラ髪はいぶかしげにアドリアンを見る。

「ああ、あの方はラ・ヴァリエール公爵の長男ですわ、こうやってたまにやってきてはギターやピアノを弾いてくれるんですわ」

と店主は笑う。

「あん!?ヴァリエールていうたら、トリステインの大貴族じゃねえか!なんでそこのドラ息子がこんな所でギター弾いてんだよ!」

ザンバラ髪はドン!とワインのビンを置いて「もう一本!」と怒鳴る。

「さあ~、お偉いがたのやることはわかりませんわ…。ま、こちらとしてはアドリアン様が来ると女性客がよく入るから大歓迎なんですがねえ」

苦笑いしながら新しいワインをザンバラ髪に渡す。

「気にいらねえな」

ザンバラ髪はテーブルを叩き勢いに任せて立ち上がった。

「あ…お客様なにを」

何事かと店主はあわてて制する。

「何って麗しい王子様に挨拶をってな」

にやりと笑う。オールバックはやめておけと制するが「貴族びびって傭兵やってられっか!」

と吐き捨て、ドカドカとアドリアンのほうへ歩く。

店主は顔を青ざめ。オールバックは酒で判断力を失った相棒に呆れ、どうフォローするか考えながらザンバラの後を付いていく。

 

「よう!アドリアン様よお!」

ニヤニヤと酒臭い息を吐きながらザンバラ髪が言う。

アドリアンは無視してギターを引き続けた。

そんな態度にザンバラの顔に血管がビキリと浮かび上がる。

「へ!俺たち卑しい平民には挨拶しねえってか?あん?」

不愉快そうに歪ませた顔をアドリアンに近づけた。

「ぶしつけなオッサンだねぇ」

アドリアンは曲をやめず笑いながらザンバラに顔を向ける。

獣のような目がザンバラを射抜く。

ザンバラは得体の知れない殺気を感じ、多少酔いが収まるのを感じた。

「俺はセックスと音楽邪魔されっ時が一番むかつくんだよ、張り倒されたくなきゃさっさと失せな」

子供と思えない発言に一瞬ザンバラは固まった。

「ぶ!!がははははは!!ガキのクセに言うじゃねえか!!」

少し毒気が抜けたザンバラは大笑いした。

相棒が大笑いする中オールバックは冷や汗を掻いていた。

アドリアンの後ろにいるヴァリエールの名を恐れているわけではない。

この二人は平民では珍しく、一切貴族に恐怖しないタイプであり…むしろ…、貴族すら殺す「メイジ殺し」と言われるほどの実力者だった。

たしかにヴァリエール家の力は巨大ではある、しかしこの男たちは仮にも「メイジ殺し」と呼ばれる猛者である、そのプライドが貴族なんぞに屈するとを許さなかった、しかもこのような子供などに…。。

だがしかし、オールバックの額には汗が垂れていた。酒場の熱気でもない、怒りですらも無い。

それは恐怖によるものであった。

オールバックは恐怖していた…この子供に、アドリアンから放つ子供離れ…いや人間離れした殺気に…。

まるで全てを喰らいつくさんとばかりの獣のような 全てを焼き尽くす灼熱のようななんとも言いたがい殺気であった。

「堪能したかい?それじゃあよかったさっさと席につきな」

淡々と述べるアドリアンの馬鹿にしたような態度に、ザンバラ髪の怒りの琴線に触れた。

「クソガキがあ!ちょう…え?」

ザンバラ髪が剣を抜いたと同時に下でザクリと音がした、何が起きたのかと下を向いたら割れた酒瓶が膝に刺さり血がドクドク流れていた。

「え…?」

何が起きたかのか現実味の無い感じだった。

まさか思うまい、こんな子供が割った酒瓶を膝に突き刺していると言う事を…。

アドリアンは今度は刺さったままの瓶に蹴りを入れ、高く跳躍した。

「あ~らよっと」

腕を大きく振るい、酒瓶でザンバラ髪の頭を思い切り殴りつける。

「カハア!」

ザンバラ頭は頭から血が噴出させながら、膝を床に落とした。

アドリアンは笑いながらザンバラ髪の口に蹴りを放った。

「あべぇ!くほ!ぐほ!!」

つま先が口をこじ開け喉に突き刺さる。

口から血と折れた歯が噴出し、後ろに倒れ後頭部をテーブルに強打してしまう。

「貴様!!」

オールバックを剣を抜いた。

だがアドリアンは恐れるどころか嬉しそうに面白そうに笑い、そして。

「おい!てめぇら物どかせ!それから女共を巻きこまらねえように店から出すか安全な場所に行かせろ!」

と怯えきった客と店主、そして賭けをしていたゴロツキどもに怒鳴りつける。

野次馬たちはアドリアンの迫力に大慌てでいすやテーブルなどを壊されないようにどかし、女房や恋人たちを外に逃がす。

 

 

こいつ…何者だ?

先ほどより強くなった殺気に恐怖しながらもオールバックは剣を構え、アドリアンに対峙しながら考えを巡らす。

この殺気…もしくは鬼気という奴…かそして言葉使いといいそして何よりさっきの相棒をやった手口だ。

普通大抵の貴族なら杖を出して魔法で攻撃するというのにこの子供はそこらにある凶器で攻撃し、

体術で相棒を倒した、本当にこいつはメイジか…というよりも人間か…?。

 

 

得体を知れないものを見るように見るオールバックを見て、アドリアンはポケットに手を突っ込む。

挑発か?と思った、しかしこれで怒りで襲い掛かっても相棒の二の舞だ。

この子供は相当喧嘩慣れしている…と判断した。

オールバックは猛禽類のような目つきで睨みつけ、冷静に慎重に相手を観察する。

 

(へへ…なかなかいい雰囲気じゃんよ)

アドリアンは嬉しそうに張り詰めた空気を堪能し、オールバックを見る。

なかなかの強者と見た、と思いアドリアンの心が踊る。

 

転生して以来、アドリアンは本気で力を出せないでいた。

魔法の訓練をしたとき母が手ほどきをしてくれた、たしかに母親はハルゲキニアの中でも有数の強力なメイジでしかも数々の伝説を持つほどの実力者だと知っている。

しかしアドリアンとしては女性に暴力を振るう事を非常に嫌っていた。

前世の時は育ての父親が男としてのプライドが異様にに高い男で、その教育を一心に受けていたせいか女性にましてや自分の母親に暴力を振るうなどもってのほかであった。

アドリアンは回りに貴族のプライドが無いと陰口を叩かれているが通りたしかに無い。

よってアドリアンは母を傷つけるような真似ができなく、本気で出せないでいた。

そしてもう一つ理由がある、それはもっともアドリアンが厄介だと感じてる事だった。

それは始祖ブリミル教会及びそれを妄信する、アドリアン曰くクソ坊主と貴族の存在だった。

この世界にはブリミルが作り出した系統魔法の他にもういくつか魔法がある。ハルケギニアの人間全てが恐れるエルフが使う先住魔法の事だ。

人が使う魔法は、杖と呪文を媒体にして始めて魔法が実行される、しかしエルフは杖はおろか詠唱すらも必要なく魔法を使う事ができる。

アドリアン自体先住魔法がどういう存在だか知らないが、先住魔法のように詠唱や杖無しで使える魔法が使えると言うことだ、

前世で使えたヴァンパイアが使う魔法を…。

たしかにアドリアンは人に生まれ変わった事により魔力、及び筋力は大幅に弱体化した、下手したら前世の子供の頃だった時よりも無いかもしれない。

(オークくらいだったら素手で殴り殺せると豪語しているが…。)

ようは魔力さえあればそれらを使える事はできる、ただその魔法はネクロマンシィやら重力やら色々とアレなのが多い。

さらに言えばブリミル教徒及び貴族たちはブリミルの聖地を奪った(いだいなるしんせいなしんこうしんを高めるための創作じゃねえの?アドリアン談)とされているエルフは憎悪の対象であった。

それが原因で過去何回かエルフと戦争をしたが結果はこっ酷く惨敗の連続だった。

よって前世の魔法がばれたらブリミル教や周りの貴族から異端視され、いくら大貴族の一子とは言え処刑されてしまう可能性は必須。

それだけはダメだ!自分ならいい、どんな相手が襲い掛かって来ようがどんなに時間かかっても皆殺しにする自信はあるし生き残る自信もある。

だがアドリアンは家族や家来、領民が巻き込まれるのを極端に恐れた。

アドリアンにとって新しく得た家族はなによりの宝だった、たしかに厳しく口のうるさい両親と一番上の姉には辟易したものがあったが、自分を心の底から愛してくれている事も知っていた。

そして病弱で心優しい二人目の姉、いつも「アドリアン兄様」と言って子犬のようについてくる可愛い妹、アドリアンにとってそれは何よりも変えたがい大切な存在であった。

だからこそ傷つけたくは無かった、だからこそ異端であろう自分の力が知られる事を嫌っていた…だからこそ本気を出せないでいた。

 

だが強い敵と戦うのは喜びである、闘争心を満たし己を強くする。

もちろんこの戦いで前世の魔法を使うことはもちろん無い、だが、それを省けば全力を出せる相手と踏んだ。

 

「お前さんの名前は?」

アドリアンは問う。

「ギュンター…だ」

ギュンターは殺気を放つ。

「名前からしてゲルマニアだねぇ、なるほど」

とアドリアンは得心した。

ゲルマニアとはトリステインの隣国でトリステインと違い、平民でも金さえあれば貴族にもなることもできるのでトリステインほど平民の地位は低くも無い。

だがアドリアンには気に入らないことがあった。

「まあ金で貴族の代紋買えるのもどうかと思うけどねえ」

と呟く。

「同感だ」

ギュンターは同意の言葉を放ち、動いた。

「お?」

鋭い刃がアドリアンの頬を掠める。

(いい動きだ、こりゃメイジ殺しってやつかねぇ…)

アドリアンは関心した。さすがはメイジ殺しと言われるほど実力者である。

ギュンターの剣筋は非常に鋭く早い!はたから見れば無数の刃が次々に獲物を襲いかかり喰らいつくそうに見える、それほどに素早い剣筋であった。

だが、アドリアンは余裕の表情で、まるでギュンターの実力を確かめるような目でその剣さばきを悉くかわす。それは当然だアドリアンの動体視力及び反射神経は転生前と同じであるのだから。

(く!俺の剣をここまでかわすか!!化け物め!)

多くのメイジを葬った自慢の剣捌きがここまで交わされる、しかもこんな子供にだ!ギュンターにとってここまで衝撃なものは無かった。

しかも魔法で阻止されるのはわかるが、この子供はただの身体能力と反射神経だけでかわしている。

(惜しいな、殺すのも惜しいしこのまま傭兵だけさせるのも惜しい)

ギュンターの一閃をかわし高く魔鳥のように舞い上がる、そして懐から教鞭のような形をした杖を取り出す。

(ついに杖を取り出したか!)

ギュンターはついにメイジの本気が来ると神経を張り巡らせ、身構える。

杖から土が現れ棒状になりサーベルのような形になり、土から鉄へと化した。

錬金---土のメイジの魔法の一つで土から金属へと変える魔法の一つだ、だがこの年で鉄に変えるというのは土のメイジとして相当の力量だとわかる。

着地したアドリアンは剣を片手で構え、クルッと刃先を回しフェンシングのように構える。

(まさかあれだけの力量があるくせに剣だけで戦おうと言うのか…)

普通土のメイジといえばゴーレムを形成して戦うのが多い、まして剣を作り戦おうとするメイジなどお目にかかったことが無い。

たしかにメイジでも近接戦闘をするものはいる、王立騎士団というエリート集団がサーベル型の杖を使うものもいるが、これは悪魔で特殊な例だ。

(つくづく魔法をあまり使わない奴だ…)

自分と剣で切り合うなど自惚れているのか舐めているのか…それとも剣に絶大な自信を持っているのか…。

恐らく後者だとギュンターは思う、不意打ちとは言え相棒を素手で倒し自分の剣技を悉くかわすほどの身体能力を持つほどだの男だ、剣も使えるのだろう。

ギュンターの口がはじめて笑みの形へと変わる。

楽しみになってきた、さきほどの感じていた恐怖はどこへやら、この子供いや…そう思うのは失礼になろう、この男は貴族のドラ息子ではなく一匹の雄という事を認識しよう。

この男が放つ殺気は強烈だ、ドラゴンの咆哮の如き対峙するものの心胆を締め付ける、しかしやつの戦いぶりはどうだ…!。

こいつと戦っていると心が躍る、だんだん楽しみになっていく。

それは戦いを生業にし、喜びを感じさせるものにとって喜ばしいものだった。

(やっかいな男だ)

と思う、人を恐怖させ、楽しめさせるなんとも矛盾に満ちた男だと思い笑みがこぼれる。

そしてギュンターはアドリアンとの剣舞を愉しもうと思った。

(さすが烈風のカリンの子供だ)

 

 

 

「アンタほどの男とやるのに魔法でやるのは勿体無い、楽しませてもらうおうか」

興味深そうに見るギュンターに楽しみと闘争心をもって言う。

「それはこちらもだ…、疾風のギュンター参る」

(さて烈風が生んだのは獅子か竜か)

ギュンターはとある筋の情報で知っていた。ヴァリエール伯爵夫人がかの烈風のカリンであることを。

その伝説的人物が産み落としたこの雄がどれほどの力を持つのか、ギュンターは年甲斐も無く(といってもこれでもギュンターは17歳であったが)

まるでまだ見ぬ未開の土地へ行く冒険者のように好奇心が湧き出す。

これで死んでも後悔は無い、むしろこれだけの強敵に出会えた事は戦いを生業とし、戦いに楽しみを見出すものとして喜ばしいものは無い。

二人は何も言わずお互い背を向け、お互いの間に4Mほどまでゆっくり一歩二歩と進む。

そしてアドリアンが近くにあった金属製のグラスを軽く投げ、閃光の如き一閃で切り落とした。

これがこの戦いのゴングであった。

一斉にお互い向き合い、襲い掛かった。

先にアドリアンの横斬りが襲う、ギュンターはそれを受けようとした。

アドリアンの刃を受けたギュンターの刃から火花が飛び散り押される。

(な!重い!!)

剣が弾かれそうになるが、瞬時に脳内を受け流すことにシフトしなんとかアドリアンの剣を受け流した。

「ヒュゥ!やる!」

アドリアンは楽しそうに口笛を鳴らす。

受け流した剣が間も入れず、素早く突きとなった。

アドリアンは目を光らせ、それを避けて剣を持っているギュンターの手を掴みあげた。

「ぐ!…」

子供と思えない万力のような握力がギュンターの手を押し潰そうとするが強引に剣を振り上げ手を払いそのまま同時に剣先がアドリアンの額をかすめる。

「あぶねえ、あぶねえ」

とふざけた口調で言いながらも応戦する。

剣と剣がぶつかり合い火花が飛び散る、一方はフェイントで相手を虚をつきそれを交わす、大降りの剣筋で相手を剣ごと両断しようとするがそれを受け流される。

(なかなかどうして…この世界の平民もやるもんだねえ、たかがメイジにビビッて片隅で怯えてるもんだと思っていたが…ここまでの使い手がいるたぁ。平民もなかなか馬鹿にしたようなもんでもねぇ。この鋭い攻めに流れるような受けしかも正確で素早い、これじゃあそこらの貴族じゃ束になってもかなわねえやな)

アドリアンはつくづく感心した。

 

民衆たちはこの剣舞を興奮したように眺めていた。

「これはどうしたことか!!」

その時警備兵が騒ぎに聞きつけ駆けつけた。

「あ・・・いやね?」

問われた平民がチラっと窓の方へ見る。

「な!!!!アドリアン様!!!」

酒場の窓を覗き顔を青ざめた、自分たちが使えるヴァリエール公のしかも跡取りがこんな所で平民と思わしき男と剣舞を繰り広げている。

「それにしても…なんつう闘いだ…しかもアドリアン様と戦っているのは誰だ…」

警備兵も剣を生業にするもの、やっていることは兎も角、この戦いには心が躍らせるものがある。そしてうっかり自分の本業を忘れ見惚れてしまった。

「馬鹿野郎!みとれてねえでさっさとせんかい!」

見とれていた警備兵の上司が頭にエルボーを喰らわせた。

「だって隊長~」

涙目になって上司に訴えるが…「さっさと止めんかい!!」と一蹴する。

「でもこれ誰が止められるんですか!!」

と言われると上司も反論できない、かりに止めようとしても確実に巻き込まれる。

「ヴァリエール公にお願いするしかないな」

警備兵はなにも突っ込まず頷いた。

 

 

剣舞はそろそろ終焉に向かう、じっくりギュンターの強さを堪能したアドリアンは高く跳躍し、猛禽類のごとくギュンターに襲い掛かる。

それはギュンターの目にはスローモーションのようにゆっくりとしたものだった…だが一瞬信じられないものを見た。

(なんだ…あれは…!?)

ギュンターは見た!アドリアンの姿が一瞬ぶれて何かになって見えた。

月のように輝く銀髪の長い髪…陶器細工で作られた芸術品のように白い肌…、そして鋭利な刃物のように鋭い目つきに血の様に真っ赤な瞳を持つ美しくも恐ろしい妖艶な雰囲気を持つ青年に…。

(あれはなんだというのだ…この男は何者なのだ…人間ではないのか…)

そう思っていた時、アドリアンに頭を抑えられ倒されていた。

 

(…!?)

「これで俺の勝ちだな…?」

首筋を剣で抑えられ、そうだなとギュンターは言った。

そしてアドリアンは言う。

「お前強いな…、俺の部下になれ」

「なんだ…と!?」

突然のスカウトに目を丸くする。

「お前を殺すのは非常に惜しい、俺の部下となって…」

全部台詞を言い終わらないと同時に後ろから殺気を感じ、瞬時に横へ飛び上がる。

それはザンバラ髪が2Mほどもある鉄の棍棒を振るったからだ。

「そういえばいたなあ…あんた」

「ち!よけやがったか!卑怯なんて言うんじゃねえぜ?てめえが先に不意打ちにしたんだからよぉ!!」

そう言ってこん棒を振り回し、轟音が鳴り響きアドリアンを襲う。

とっさに上半身を捻ってよけるが、こん棒の先が店の壁にぶち当たり大破させてしまう。

(あ~~あ…こりゃ弁償しなきゃねえ)

アドリアンは心の中で店主に謝る。

「やめろ!ヴィンツェンツォ!勝負はついた!」

ギュンターは大声でヴインツェンツォを止めようとする。

(この発音しづれえ名前はロマリア出身か・・・ほんと発音しずれえ…ヴィーさんって言うか)

とのん気に考えていた。

「へ!止めねぇでくれや…こいつとやり合うのはなぁ・・面白そうだからよ!!」

さきほどの怒りはどこえやら、ヴィンツェンツォも顔が闘争心で嬉しそうに笑いこん棒を構える。

「へへ…テンション上がってきた…。」

アドリアンは心底楽しげに笑い、両手を上に振り構えるとマントが舞い上がる、それはまるで黒い蝙蝠のような翼が広がるようだった。

「愉しませてくれよ」

目をカッと開き両腕を広げたまま襲い掛かる。

「!?」

ヴィンツェンツォは目を擦った。先ほどギュンターと同じように一瞬目を赤く光らせた銀髪の青年を見たからだ。

「ちぃ!!死ねやぁ!」

心の中で化け物が!と言い放ちこん棒を大きく振り袈裟懸けに振り落とす。

アドリアンはそれを手でひっぱたき、逸らすとこん棒の先端が床に乾いた音と共に突き刺さった。

そしてましらの如く猛スピードで飛び上がり蹴るようにこん棒を踏み台にし、目が赤く光らせながら反動をつけヴィンツェンツォのアゴに膝蹴りを放つ。

うめき声と同時に2Mほどのヴィンツェンツォの巨体がぐらついた。そして間も入れず体を捻りヴィンツェンツォの横顔に回し蹴りを放った。

踵がグシャリと嫌な音を立てながらヴィンツェンツォの頬を潰す。鼻から血が飛びちりガクンと膝が落ちる。

アドリアンの猛攻はまだやまず、次は鳩尾に狙いつけてアッパーを放つ。

「・・・・・・!!!!??」

アドリアンの拳がヴィンツェンツォの鳩尾にずっぽりとめり込んだ。

ヴィンツェンツォの目と瞳孔が大きく開き、カハァ!という呻き声と共に血を吐き出した。

血がアドリアンの頭にかかったが、それを気にもせず刺した拳を振りかぶりヴィンツェンツォを投げ飛ばす。

「まぁこんなもんか」

手をパンパンと振り叩く。そんなアドリアンにギュンターは笑いながらアドリアンの後ろに指を刺す。

「ん?」

アドリアンはギュンターの刺す方向に顔を向けた…と同時に起き上がったヴィンツェンツォに口を塞ぐ形に顔を掴まれてしまった。

「ふぅ!ふぅ!ふぅ!」

ヴィンツェンツォは血走った目でアドリアンを睨みつける。

アドリアンの目が笑い大きく口を上げ、口を塞いでいるヴィンツェンツォの手を噛み切った。

「が・ぁ!このガキ!!!」

ヴィンツェンツォは噛み切られた手を押さえ傷口を見て驚愕した。

「・・・・!?」

なんと親指と人差し指の間の肉が喰いちぎられていたのだった。

アドリアンは喰いちぎったヴィンツェンツォの肉をベッと吐き捨てる。

「いくら男の血とは言え、人間になるとまずいもんだねぇ」

「・・・!!????!!」

ヴィンツェンツォはアドリアンの独り言に驚愕した…。

「まさか…!てめえ!吸血鬼!?」

そうでなければ子供離れした身体能力は説明できない。

むしろそうであってほしい、あれほどの身体能力を持った子供が人間である分け無い!!

「残念はずれ」

心の中でほんのちょっと当たりと言いヴィンツェンツォを顎を蹴り飛ばす。

壁が突き破れ、ヴィンツェンツォの体がごろごろと転がる。

野次馬たちは悲鳴を浴び、蜘蛛の子が散らすように逃げる。

「あ~らよっと」

アドリアンは飛び上がり仰向けになったヴィンツェンツォに馬乗りになり、しこたま顔面を殴りつける。

「ぐふ!ごふ!」

ごっごっ!と肉と骨を蹂躙する音が響きヴィンツェンツォの顔は次々と腫れる。

だがヴィンツェンツォも負けてはいない、アドリアンの頭を掴みフルスイングで投げた。

一直線にアドリアンは投げ出され近くの民家に顔ごと突込み突き刺さった。

突っ込んだ場所はちょうど騒ぎにも目をくれず夜食を食べてる平民の食卓であった。

「ぎゃあああああ!!」

突然轟音がしたら、自分たちの領主の息子の顔があるものだからそれはもう平民一家は驚いた。

母親は失神して、父親はあたふたと慌て、子供たちは「アドル兄ちゃん!どしたの!」と心配そうにアドリアンを伺う。

「ごめんね」

アドリアンは困ったようにこめかみに汗を垂らしながら笑顔を作って謝罪し、顔を無理やり引っこ抜いた。

「やってくれるねぇオッサン。まだまだ元気じゃんよ」

頭が血まみれになりながらも顔を横に振る。

そしてヴィンツェンツォは何も言わずアドリアンに蹴りを入れた。

アドリアンはガードするも骨がびきびきと鳴り、5Mほど吹っ飛ぶ。

「は・・ははは・・なんつー力だオークよかあるんじゃねえの?」

「だれがオッサンだ!俺はまだ18だ!」

ヴィンツェンツォはそう言いアドリアンに全力で走り襲い掛かる。

「18には見えないねぇ」

と笑い、パンチを交わし、カウンターで鳩尾に拳をめり込ませる。

「かふう!」

鳩尾に拳に入れられ、吐き気がこみ上げ膝を突いてしまう。

「フン!」

アドリアンはフックでヴィンツェンツォのこめかみを殴りつける、ヴィンツェンツォの巨体は横に倒れ横顔が地面に叩きつけられる。

そのままアドリアンは地面についた顔面を思い切り蹴り飛ばす。

ヴィンツェンツォは鼻と口から血が噴出した。

アドリアンはそのまま首を捕まえて何度も殴りつけた。

 

「これはなにごとですか!!!」

その時後ろから女性の声が聞こえた。

アドリアンは声の主を察し恐れながら後ろを振り向く。

そこには衛兵を従えたドレス姿のヴァリエール婦人がいた。

アドリアンは急に笑顔を作ってぴょいっとヴィンツェンツォの体を飛び越えて。

「ママンじゃないのどうしたんよ」

と冷や汗を流し苦笑いをしながら媚を売ったような声で近づく。

その時ヴァリエール婦人は杖を振るい手加減無用のエアーハンマーを唱えた。

アドリアンは不可視の空気の塊を顔面に見事に喰らい、遠くに吹き飛んだ。

こふ!こふ!と息を吐いて倒れるアドリアンを家来達は縄でぐるぐる巻いて、そのあと婦人はその縄に固定化をかけてそのまま屋敷に連行した。

そしてアドリアンはそのあとヴァリエール公爵夫妻にこっぴどく説教され、魔法で散々折檻されたという。

 

 

 

そういう事件があって以来、領民達はアドリアンの恐ろしさを見てしまった。

しかしアドリアンのある程度の無礼も気にせず、怒りのスイッチもどういうのか把握していたため

他の貴族に対するほどの恐怖は無いのでアドリアンが村に来ても厄介視するどころか歓迎していた。

 

 

そしてあの二人はどういうことになったというと…。

 

 

「アドリアン兄様!」

遠くのほうで二人組みを従えたドレス姿のピンクの色をした少女が駆けつけた。

「ようルイズ」

アドリアンは嬉しそうに愛しの妹を抱え高く上げる。

「ちょ…ちょっと!お兄様!やめてください!恥ずかしいですわ!!」

持ち上げられたルイズは顔を真っ赤にして抗議する。

「で?どうしたよ」

アドリアンはルイズを降ろして二人組みに問いかける。

「若、公爵夫人がこの前の悪戯の事でご立腹だそうだ、すぐつれて来いとの命令だ」

オールバックの男…ギュンターが呆れるように言う。

「あちゃ~~ついにバレちまったか~~」

と頭を掻く。

「ま…しゃーねえな あれほど派手にやっちまったんじゃあな」

ガハハと笑い、前のザンバラ髪から真ん中分け目の長髪にしたヴィ事ヴィンツェンツォは大笑いで言ったが、

ルイズのジト目に気づいて、わざとらしく咳き込んだ。

 

二人ともあのあと、アドリアンが父ヴァリエール公に頼み込んで、ヴァリーエル家直属の近衛兵となった。

最初はヴァリエール公は二人を部下にすることに反対したが、この息子が太鼓押しするほどの強さを持っていたので、最初は一般兵として雇うことにした。

アドリアンの期待通り二人は今日まで様々な功績を残し、ついには平民初のシュヴァリエの称号を勝ち取り、ヴァリエール夫妻も二人の功績を認め、晴れてヴァリエールの近衛兵に成り上がった。

二人とも貴族の下に甘んじるのは嫌ではあったが、アドリアンの気性は二人の相性によく合ってのもあり、この子供がどんな雄になるのかどんな事をかますのか楽しみであった為ヴァリエール家の家来になる事にした。

ちなみに二人がメイジ殺しだということはヴァリエール公曰く上にばれたら面倒くさいという発言で秘密にしている。

 

 

 

「しゃあないねぇ、しっかりと折檻されてやるか」

とうんざりした顔でため息を放ち、ルイズを持ち上げ肩車にする。

「だから~~!やめてっていってるじゃないの~~!!」

ルイズはギャアギャアと喚き抗議するが、なんだかんだで顔は案外まんざらでもなかったりする。

「たくシスコンだぁねぇ」

ヴィンツェンツォは腰に手を当てる。

「そうだな、ルイズ嬢は恋人作るのが大変そうだ」

ギュンターも同意して笑う。

アドリアンのシスコンぶりは有名だが、その父ヴァリエール公も顔にこそ出さないが相当の親馬鹿でもある。

アドリアン曰く「もしかしたら家で一番おっかねえのはお袋さんじゃなくて、娘を寝取られた親父の方かもな」と言うくらいでもある。

 

 

 

4人は冗談を言いながら(もっともルイズはいじられているだけだったが)笑いあいながら屋敷へと向かった。。

これから起こる大変な試練を感じながらも…。

もっとも大変な試練を受けるのはアドリアンだけでその数十分後アドリアンの悲鳴が聞こえたが、それは別の話である。

 

 




ごしゅうしょうさまああああああ(;ω;)
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