たとえこの身が灰になろうとも   作:マルシーズ

5 / 16
五話 炎のさだめ

 

 

 

 

 

「というわけだ」

朝日が昇る刻。ヴァリエール家の朝食を取っていた時、突然ヴァリエール公爵は皆に言った。

妻と子供達は一斉に父を見る。

「今日ルイズの見合いをするぞ」

「フ●ックふざけろタコスケ」

公爵の突然の話にアドリアンは通常の5倍の速さで顔中に血管を走らせ父に暴言を吐いた。

そんな倅のありがたい暴言に公爵も黙っているはずもなく、頭の血管が通常の10倍の速さで駆け上った。

「なんだ父に向かってその台詞は、足を開き歯をくいしばれ」

公爵は魔法で巨大な岩の腕を作りアドリアンを殴り飛ばす。

「おぅこら親父」

5Mくらい高く殴り飛ばされ、顔面からゴギャ!と嫌な音を立てて落ちたのにも関わらず速攻で立ち上がって光の速さで血塗れた顔を父に近づける。

「この間も俺の見合いやったばっかりだろうが!突然すぎるだろ!!ぼけぇ~~」

「やかましい!決まってしまったものは仕方ないではないか!」

アドリアンと一緒に仲良く頭突き合いするもどこか口調がぎこちないヴァリエール公爵であった。

「でもあなた、アドリアンの言うとおりですわ?私でさえそんな話は初耳ですし」

珍しく公爵夫人はアドリアンを庇い、夫にじと目で睨みつける。

「う!!」

妻に問い詰められ、「石頭め」とぼやき赤く染まった額撫でながら、公爵の額に一筋の汗が流れ狼狽する。

「…実はな…」

観念したヴァリエール公爵は俯き、口を重々しく開く。

話はこうだ、3日前に久しぶりに出会った知人のワルド子爵と酒盛りをしていて、なぜか自分達の子供の話で盛り上がってしまい、酒の勢いでルイズとワルド子爵の息子ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと見合いの話になり、しかも突如ワルド子爵の強い希望で見合いの日を今日にしたという。

 

 

「というわけだ…」

家族の食卓に静寂が走る。

婦人は絶対零度の冷たい視線で夫を見つめ、エレオノールは呆れた顔で父を静かに見て、カトレアはのん気に紅茶を飲みにっこりと「お父様も仕方ないですわね」と言い。

ルイズは突然お見合いの話をされて混乱して、我に返ったら部屋中の空気が淀みに淀んでいたのでいたたまれなくなっていた。

「…すまん。ワシも我に返った時は後悔したよ…本当は早く皆に教えたかったのだったが…どうしても言えなくてな…」

いつになく肩を落とす公爵にアドリアンは殺気交じりに口を開いた。

「おい、親父…そういやたしか…ワルド子爵ん所の倅の年って…」

「…うむ…たしかエレオノールと変わらん年だ…」

公爵の台詞のアドリアンの血管が段々と漏り上がり。

「ギュンター!ヴィンツェンツオ!」

「「へい!奥様!」」

婦人が手を叩いてマンティコア隊隊長時代に培った静かながらも張りのあるよく通った声でギュンターとヴィンツェンツォを召喚し、二人はロープを持って光の速さで切れかかったアドリアンをロープでぐるぐる巻きにして、素早くエレオノールはその縄を錬金で鋼化して母と総がかりで固定化。

仕上げにギュンターがアドリアンの口を布で猿轡にして終了。まさに無駄の無い洗練されたコンビネーションであった。

これは長年培ったアドリアン封じのコンビネーションで、前までは縄を巻く係りは他の家来達だったので成功率は低かった、しかしメイジ殺しであるギュンターとヴィンツェンツォが家来になって以来

二人をその役割に抜擢してからというもの飛躍的に成功率が格段に上がったという。

「ヴ~~ヴ~~」

鋼の縄に縛られ体が身動きとれずに頭で抗議する息子を無視して婦人は夫に言う。

「はぁ、やってしまったのは仕方ありませんね、たしかにミスタジャンはグリフォン隊の隊員にしていずれ隊長になると評判で「閃光」の異名を持つほどの強力な風のスクウェアメイジですわ。

たしかに年は離れているとは言え、見合い相手には申し分ないですわ。しかし…」

と婦人はアドリアンを見て。

「突然日を決めたのは失敗でしたわね、アドリアンのこの様子だと今日はお見合いの日ではなく血の海を見る日かもしれませんわよ」

「ぬぅ」

さて誰の血で染まるのでしょうねという妻の処刑宣告に公爵は冷や汗をかきながら今日どうやって乗り切ろうか考え出した。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ワルド子爵一行は馬車でヴァリエール家の屋敷に向かっていた。

「父上…、いまさらここまで来て言うのもなんですが…突然すぎやしませんか…?」

羽のついたトラベラーズハットを被った金色の長髪の美青年が頭を抱えながらいつになく機嫌が良い父に問う。

「いいではないかジャンよ。この見合いが成功すれば晴れて我々はあの大貴族ヴァリエール家の親族になるのだぞ?」

と野望に満ちた目でワルド子爵はあまり乗り気ではない息子に言う。

「はぁ~~」

と盛大にジャンはため息を漏らす。

たしかに父の言うとおりこの見合いを成功させればワルド家はヴァリーエル家という強力な後ろ盾を得る事が出来る。それはそれで良い事だとジャンも思うが、懸念すべき事が二つあった。

一つはヴァリエール家の長女のエレオノール。彼女とは魔法学園での先輩後輩の関係であの気高く高慢な先輩の恐ろしさには散々苦しめられ苦手なものがあった。その苦手意識はトリステイン有数の魔法騎士団

「グリフォン隊」の隊員になってもそれは変わらない。

そしてもう一つやっかいなのはあの家には「狂犬アドリアン」がいるという事だ。あの長男の悪名と凶暴性、腕っ節の強さはトリステインのみならず周辺諸国にも知れ渡っている。

あんなのと兄弟になるのは相当面倒とジャンは思った。

(まあ彼は強いと言ってもまだ10歳の少年であるし、魔法の実力は…どうなんだろうな…不思議とあの凶暴性と悪名が先行してその辺はあまり聞かないからな)

前に隊員の仲間達とアドリアンのメイジとしての実力で話題になった事があった。あの狂犬はたしかに強い、だが実際表立った彼の戦いぶりはほとんど魔法を使わず素手でやっていたのでメイジとしてはどうなんだろうと議論になった事はある。

天は二物を与えず、実はメイジとしての実力は低いだろうという意見と、あの公爵家の倅だ実は魔法を使う間でもなく素手で十分と判断していて実はトライアングルクラスの実力をもっているのではないか?など

様々な憶測と意見が飛び交った。中にはスクウェアじゃないだろうかという意見もあったが、これには周りは笑って「いくらなんでもそんなわけあるか!」と一蹴された。

「どうしたジャン。浮かない顔をして。…ははぁ、あの狂犬の事を心配しておるのか?」

ワルド子爵はニヤリと意地悪そうな顔をする。

「はっはっは!息子よ、そう気にするほどでもあるまいよ、いくらあれが強いと言ってもたかが殴り合いが大人より強いだけの10歳の小僧ではないか。お前ほどの男の相手になるものか」

とワルド子爵は笑いながら息子の肩を叩く。

(殴り合いが強いだけ…か…。それだけだったらいいんだがな…)

ジャンは笑い声をあげる父を無視して窓から外を眺める。

(実際彼はどういう少年なんだろうなあ…)

ジャンとしては貴族共のアドリアンに対する評価はあまり気にしては無い。ジャンは思うたしかにアドリアンにも落ち度はあるが、彼に半殺しにされた貴族達は全て彼らの傲慢さで彼を激昂させた結果で奴らの自業自得ではないか。

実際ジャン自身はトリステイン、いやハルケギニアの貴族の事をあまり快く思っていは無い。奴らは伝統に縛られプライドだけは実力に比例せず誇大化し威張り散らし平民を虐げ国力を弱らせる…そんな貴族達をジャンは毛嫌っていた。

なのでアドリアンがそんな貴族たちを次々と半殺しにするという噂を聞いてはジャンは心の中で彼を賞賛し、拍手喝采を送ったものだ。

(奴らだけではない…。女王陛下も女王陛下も…だ!。王がお亡くなりになって国を背負う立場なのに政務をヴァリエール公やマザリーニ宰相に任せっぱなしではないか!夫の死を偲むのもわかる。だがそれを理由に自分のセンチメンタルで己の責を果たさないと言う事はどういうことか!)

反逆罪に掛けられかねない事をジャンは拳に力を込めて思った。

(もしかすると子供ながらアドリアンという少年もそう感じているのかもしれない…やっかいそうな少年だがうまくやれば良い同士になるやもしれないな…。たしかにこの見合いの件…父上の思惑などどうでもいいが、いい収穫があるやもしれん…。この国を変えるための…な)

と秘めた己の野望を拳に込めながらジャンはヴァリエールの屋敷の方角をみやった。

 

 

 

 

数時間が立ち、ワルド一行はヴァリエールの屋敷へと到着し、ヴァリエールの執事にヴァリエール一家が待つ応接間に案内された。

「よくぞ来たワルド子爵よ、歓迎するぞ」

とヴァリーエル公爵はワルド子爵を笑顔で歓迎し、握手を求める。しかしその顔はどこか顔色が悪い。

公爵の隣にいる公爵夫人も笑顔で礼をした。

「ありがとうございます。ヴァリエール公爵にカリーヌ婦人。しかし公爵よどこか顔色が悪いですなぁ」

とワルド子爵は差し出されたヴァリエール公爵の手を握手する。

「ハハハハ、子爵。気のせいだろう」

ヴァリエール公爵は精一杯党首の威厳を保とうと何でもないと言わんばかりに高らかに笑う。

「初めましてヴァリエール公爵。私がジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドであります」

ワルド子爵の側に控えていたジャンは一歩前にでて貴族の礼をする。

「うむ、お主がジャンか。貴殿のグリフォン隊としての活躍よく聞いておるぞ。たしかその年でスクウェアメイジだったな、大した物だ」

「これは有難うございます。今日この度公爵の愛娘ミス・ルイズとのお見合いをさせて頂き嬉しゅう思います」

ヴァリエール公爵とジャンは爽やかな笑顔で握手をする。

「うむうむ、うちの愚息と違ってなかなかの好青年ではないか。ほれルイズ。そこで隠れてないでミスタジャンに挨拶をしなさい」

ヴァリエール公爵はカトレアのドレスのスカートの後ろでピチソワーズを抱いて顔を赤くして隠れているルイズの背中を優しく押す。

「は!はい!お父様!」

ルイズはぎこちなくジャンの前にとことこと出てスカートを摘まんで広げ。

「ワ…!ワルド子爵にミスタ・ジャン初めまして。この度遠いところから遥々お越しいただいて有難うございます」

恥ずかしそうにぎこちない笑みをルイズは浮かべる。

そしてこの子が私の弟ピチソワーズですわとピチソワーズを紹介する。

「ほうほう、これは可愛らしいお嬢さんだ。こんな可愛らしい娘さんが倅の婚約者になるとは倅も果報者だな」

ワルド子爵はルイズに笑顔を送り挨拶をする。

「ミス・ルイズ。初めまして。私がジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。よろしく」

とジャンは歯の光る爽やかな笑顔を作り、ルイズに膝つき、手を取り甲に口付けをする。

「あ…」

そんなジャンの行動にルイズの顔は赤らめた。

「うむなかなかのお似合いのカップルではないか。これはいい夫婦になるぞ」

とヴァリエール公爵は笑う…がやはりどこかしら笑い声はぎこちない。

「はっはっは公爵私もそう思いますぞ」

ワルド子爵も釣られて笑う。

「さぁ、お前達黙ってないばかりで子爵達に挨拶をしなさい」

「初めましてワルド子爵にミスタ・ジャン。私がカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌですわ。よろしくお願いします」

カトレアはいつもと変わらない春の日差しのような笑顔で二人に挨拶をする。

「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールですわ。初めましてワルド子爵。それに」

エレオノールは子爵に挨拶をして、顔をジャンに向ける。

「久しぶりですわねワルド。まさかあなたがおチビの見合い相手とはね」

「う…!ミスエレオノール久しぶりだな」

エレオノールに睨まれてジャンは汗を流しながらぎこちない笑みを浮かべる。

「これエレオノール。ここまで遥々来てくれた客に失礼ではないか」

「あら、すみませんお父様。ミスタ・ワルド失礼しましたわね」

父に嗜められ、エレオノールは色々と言いたいのを堪え、ジャンに詫びを入れる。

「そういえばお前達は魔法学園で先輩後輩の仲だったな」

「ええ、そうですわお父様。色々とありましたわよねワルド…色々と」

心の中で女湯で覗きをしたことは忘れてはいませんよと思いながらにっこりと皮肉じみた笑みをジャンにする。

「ハ…ハハ色々とありましたな」

ジャンも心の中で、あれは誤解だ僕は悪友に無理やりひっぱられたのだ!覗くつもりは無かったのだ!と叫びながら乾いた笑いをする。

「ところで」

とりあえず話題を変えようとジャンはわざとらしく咳き込む。

「この飛竜は君の使い魔かい?」

ジャンはルイズの背中にしがみつくピチソワーズを興味傾げに見て訊ねる。

「いえ、この子は使い魔じゃありませんわ。アドリアン兄様が弟として育てるよう私にくださいましたわ!」

とルイズは顔を綻ばせた。

「ほう。君のお兄さんがな。どうやらアドリアン君は君の事を大切にしているらしいな」

関心しながらジャンは笑顔で訊ねる。

「はい!いつもアドリアンお兄様に優しくしてもらってます」

(ほう、あの少年がそんな事を、なるほど。私の予想通りただの凶暴な少年ではないのだな)

と少しジャンはアドリアンに対する評価を改める。

「まったく妹離れのできん奴でな。ジャンよ早くルイズを娶ってルイズから奴の魔の手から逃れさせてくれ」

「ハハハ 善処します」

ジャンはどうやって答えて良いのかと困った顔で笑う。

 

 

そんなやり取りを見たワルド子爵は何かに気づき、辺りを見回した。

「ところでそのミスタ・アドリアンの姿が見えませんな」

そう言うとヴァリエール公爵は無表情になり無言で指で庭の方を刺した。

子爵は怪訝な顔をして窓から庭を見た。

「なにもありませんなあ」

人影がいない庭を見るワルド子爵にヴァリーエル公爵は言う。

「今は暴れないように生き埋めにしておいた」

「「!!??」」

さらりととんでもない事を言う公爵にワルド子爵とジャンは唖然とした。

「そ…それはいくらなんでもひどすぎではありませんか?」

ドン引きしたワルド子爵は自分の倅を生き埋めにしておくというなんとも恐ろしいことをやらかす公爵に問い詰める。

「なにあの程度でくたばるような奴でないし、そうでもせんと暴れ出すからのう」

としれっとした顔で公爵は淡々と髭を撫でながら述べる。

「あの程度って!!」

ジャンは貴方の息子はどんな猛獣だ!と叫ぼうとした時…。

アドリアンが埋められたであろう場所に土が盛り上がり、ドゴォ!と凄まじい爆音とともに爆ぜて飛び出た。

「なんだどぉ!!」

子爵は驚いた顔をして庭を見やる。

そこには目を赤くギラギラと輝かせて鬼の形相をしたアドリアンが黒いオーラーを撒き散らしながら空中を漂っていた。

「カッカッカッカ!親父!よぅもこの俺を生き埋めにしやがったな!なかなかイカスじゃねえか!!」

目をらんらんと輝かせて父を睨むアドリアンに公爵は杖を取り出し、素早く呪文を唱えると周りから無数の水の塊が現れた。

「アクアブレッド!!」

無数の水の固まりをアドリアンに向かって次々に撃つ。

「甘ぇ!!」

それをアドリアンは素手で全部叩き落す。

「ガハハハ!この程度の攻撃でこのアドリアン様を潰せるかよ!!」

「ふん!この程度でお前をどうにかできるとは思わんよ!!」

高笑いするアドリアンに公爵はさらに呪文を唱える。

「愚息が!覚悟せい!今日こそ冥府に送ってやるわ!!」

「くたばりやがれクソ親父!」

アドリアンもそんな父に向かって飛び上がり襲い掛かろうとした。

「いい加減にしなさい」

公爵婦人はこのドタバタ劇場をさっさと止めるために二人にトルネードで吹き飛ばした。

母に吹き飛ばされたがアドリアンの怒りはいまだ収まらず立ち上がって父に攻撃を再開した時。

「アドリアンお兄様ぁ~」

親子喧嘩を見て恐怖で泣きそうなルイズを見て急に怒りが萎み、モヒっと笑顔になった。

「ごめんなルイズ、怖がらせちまったな」

とアドリアンはルイズを抱きしめて頭を撫でる。

「すべてこれもあの髭のせいだからなお前が泣くこっちゃないから。うんうん」

「なんだと小僧めが!」

公爵も怒って杖を構えながら立ち上がるが。

「あなたもいい加減にしなさい。ワルド子爵達が見てますわよ」

妻に叱咤されて、公爵は我に返りワルド親子を見る。

「ハハハハ ワルド子爵お見苦しい所を失礼した」

引きつった笑みを浮かべて謝罪する公爵にすっかり恐怖で縮こまった子爵は青くなった顔を何でも横に振った。

「ほれ、アドリアン。彼らがワルド子爵とその息子ミスタ・ジャンだ。お前も挨拶しなさい」

とりあえず、一応アドリアンにワルド親子を紹介する。

「はは、噂どおりにやんちゃな少年だ。僕がジャンだよろしくなアドリアン君」

ジャンは苦笑いしながらアドリアンに手を差し伸べる。

アドリアンは今まさに愛しの妹を奪おうとする(と思い込んでる)ジャンに対して目がクワ!と開くが…。

後ろを振り向き心配そうに見ている妹を見て、ぎこちなく笑顔を作ってジャンと握手する。

「コチラコソ ボクハ アドリアン・ギュスターヴ・ド・ラ・ヴァリエールデス コンゴトモヨロシク」

といかにも歓迎してない口調で言い、ジャンと握手する手に力がこみ上げる。

「ぐ!!」

まだ10歳の子供とは思えない力で握り締められ、ジャンの顔が苦痛に歪む。

「お前がどういうものかしらねぇが妹に調子くれた事してみろまじで…」

とアドリアンがジャンに対する脅し文句を言い終わらない途中、エレオノールに頭を扇子で叩かれた。

ジャンはアドリアンと握手した手を見ると赤く腫れ上がっていた。

(なんて握力だ…!さっきの公爵とのじゃれ合いといい噂どおりの化け物だな)

「いやぁすまんなジャン。こいつは妹の事になると凶暴化してなあ」

「あだ!あだあ!あだ!」

公爵は困ったように笑いながらアドリアンの頭を何度も拳骨してジャンに息子の非礼を詫びる。

「ハハハ、いえいえ妹思いないい兄君ではないですか」

シスコンにもほどがあるだろうと心の中で言いつつ手を振る。

「さて親睦を含めてはなんだと思って考えたんだが」

公爵は手を叩いて自分に注目を浴びさせる。

「見合いついでに親睦回の意味を込めて、ピクニックに行こうと思っているのだがどうであろう」

「はぁ!?ぴくにっく?」

「あら、それは素敵ですわ?」

アドリアンは父の大貴族の党首と思えない発言に素っ頓狂な声を放ち、カトレアは嬉しそうに手を叩いて喜ぶ。

「こらオッサン、どうしたコノヤロウ。ついに痴呆が出て頭可笑しくなったか?あん?」

アドリアンは頭に血管を走らせながら父の額を指で何度も突く。

「このど阿呆!いちいちワシのやり方に口を挟むな!」

公爵はアドリアンの頭を掴み何度も頭突きを繰り出す。

「あの…ヴァリーエル公爵が…」

ワルド子爵は見たことない自分の上司の姿を見てただただ唖然とするばかりであった。

 

 

「と言うわけでワシらはピクニックに行く事になったから準備せい1時間以内でな」

「「「…」」」

栄光なるヴァリーエル家の家来達は突然公爵の命令に頭から血管が飛び出るかと思ったが、なんとか持ち前の鉄の忍耐力をもってそれを見事に押さえ込んだ。

あまりの行き当たりばったりな公爵の指令を家来達はまさに閃光の如きの速さで料理を作ったり、馬車を用意し出した、さすがあのトリステイン有数の大貴族ヴァリーエール家の家臣達と使用人達である。

なんという冷静で的確な仕事をこなしていた…公爵に対するほんの少しのの呪詛を持って。

 

 

 

 

 

そして1時間後

 

 

 

 

家来達は公爵の期待通り準備を終えて、一向は領土内にある海が見える見晴らしが良い丘へ向かうために家来達を連れて馬車で向かっていた。

馬車は全部で5台、最前列、最後尾に護衛兵と家来が乗る馬車それぞれ1台ずつ、二番目にヴァリエール夫妻とワルド子爵が乗る馬車1台に3番目はルイズ以外のヴァリーエルの子供達が乗る馬車、4番目に交流もかねてルイズとジャンが乗る馬車と続いていた。

「ハハハ 君の家族は賑やかだな」

「お恥ずかしいですわ、ジャン様」

先ほどのやりとりで笑うジャンにルイズは恥ずかしそうに顔を赤く染める。

「いやいや、なかなか面白そうでいいじゃないか、それに僕の事は様やミスタ付けしなくてもいいよ、ジャンでいい」

「え…でも」

「恐らく今日で僕達は許婚になるんだ。そんな他人行事ではなにか寂しいじゃないか」

「わ…!わかりました…じゃぁ今はワルドで…」

そう恥ずかしそうに上目遣いで言うルイズにジャンはにこりと笑顔を作る。

「それにしても君の家族は明るくていいな。羨ましいよ」

「そうですか?毎日お父様とお兄様は取っ組み合いの喧嘩ばかりしてますし…」

「ハハ。それも仲が良い証拠じゃないか。君の父君と兄君の喧嘩を見ていると陰険さがまるでない。違った角度から見ればじゃれ合いに見える。内容は凄まじいものがあるが」

「ワルドはそう見えるんですね」

「ああ、羨ましいと思うよ…僕は父と喧嘩したことがないからなぁ」

とジャンはなにか寂しげに外を見る。

「おっとこんな所で暗い話するのはいけないな。ところで今回の見合いどうするんだい?僕は君と許婚になるのは素晴らしい事だと思うのだが」

「え!?」

ルイズは目を丸くして照れるが、そのあと顔を曇らせ俯いた。

「どうしたんだい?ルイズ?僕と許婚になるのは嫌かい?」

そうジャンは笑顔で前屈みになってルイズを見る。

「いえ、そうじゃないんです!私もワルドの事を素敵だと思いますし、…でも…」

「でも?」

「私じゃワルドと釣り合わないと思って…」

「なんでだい?君はこんなに可愛いじゃないか」

「私…魔法を使えないんです…。いくら練習しても爆発ばかり起こして…」

「爆発?ああ…たしか君は魔法を使うと失敗するとヴァリエール公爵から聞いていたが。僕は気にしないよ」

ジャンはルイズを安心させるようにと微笑んだ、ルイズは顔を上げぱっと笑う。

「よかった…。でもそれだけじゃありませんの」

「まだ何かあるのかい?」

「ええ、私はアドリアン兄様が言う「素敵なレディー」にまだなってませんの」

「ほう「素敵なレディー」か」

「ええ、アドリアン兄様が言ってましたわ。魔法を使える貴族より素敵なレディーな貴族の方が最高の貴族になるって。だから私に魔法が使える貴族じゃなくて素敵なレディーになれって」

その言葉を聞いた時、ジャンは意外な顔をしたが、すぐ何かを感じ微笑んだ。

「そうか、彼がそんな事を」

「ええ、私…魔法を使える貴族になる夢は諦めてないけど。でも私は素敵なレディーになる事を一番の目標にしようと思ってるの」

「そうか…うん…そうだな。彼の言うとおりだ。僕もそう思うよ。君はいい兄君をもったな」

そう言ってジャンは何も含まない純粋な笑みをルイズに向けた。

「はい!周りの貴族から色々と言われてるけど、私にとって自慢のお兄様なんです」

とルイズはカトレアを思わせる春のような日差しの笑顔をジャンに向けた。

(彼は僕の予想した通りにただの凶暴な少年ではないのはたしかだな…。魔法が使える貴族より素敵なレディーの方が最高か…。貴族共が聞いたら発狂をするだろうが…僕は彼の言い分に賛同するな)

ジャンは笑顔を湛える小さな少女を見て思う。

(魔法が使えない貴族か…普通なら形はどうであれ大抵はそこに影が潜むのだがこの子にはその影が薄い。しかもいい顔で笑う。よほど彼がこの子に力を与えてくれていたようだな…。

一度話してみたいものだな…かれがどんな考えを持っているのか興味がある)

満足げに微笑んでジャンは椅子に深々と背を任せた。

 

 

 

 

 

 

「…」

「ま~~だむくれてるの?しょうがない奴ね」

あれから不機嫌そうに座ってる弟にエレオノールは呆れた顔をする。

「アンタねルイズだっていつかは嫁ぐのよ?いつまでも同じよう毎日毎日アンタにベタベタとくっついてるわけじゃないのよ?」

「わ~ってるよ」

とアドリアンは目をつぶり、170CM以上になるまで吸わないと誓っていたタバコを取り出そうとしたが、この馬車にカトレアがいたのを思い出して引っ込める。

(たしかに…いつまでもこうしてアイツを可愛がってるわけにいかねぇんだよな…。あまり甘やかしすぎて依存されても独り立ちできねえってなるとアレやし…ねぇ。

…でもよ…ちょいっと寂しすぎるねぇ…って俺が依存してどうする!)

アドリアンは脳内でセルフ突っ込みしながら項垂れるように窓に肘をやる。

それを見たエレオノールはやれやれと手を振り、カトレアは困ったように笑う。

(たしかにあのジャンって兄ちゃんはハンサムで権力も実力もあるからルイズの彼氏にはいいとは思うが…年離れすぎだろ…さすがの俺もガキに手ぇ出せねぇぞ…)

と10歳で童貞を全力でフルスウィングに投げ捨てた男はそう思った。

そしてふとなぜか大人になったルイズが頭に浮かび、しかも隣にジャンが現れ二人が…ラブホテルに行く所を想像してしまった。

「…!!!!!!!!????」

「こらぁ!!!!いい加減にしなさい!!!!!!!馬車が壊れる!!!」

自分の頭に浮かんだことをかき消さんとばかりに窓の縁に頭突きをかますアドリアンに、エレオノールはアドリアンの頭を乗馬用の鞭でビシバシと叩く。

 

 

 

 

「え~~。ワシの娘のルイズとワルド子爵の息子ジャンとの見合いの為に開いた席なのだが、今日は日ごろの疲れを癒すためこの宴を楽しんでいってくれ」

ヴァリエール公爵はそう言って杯を上げ宣言すると同じく杯をもっていたヴァリエール公爵家とワルド子爵家も同じく杯を上げる。

「これは…ピクニックだったんじゃねぇのか」

アドリアンは呆れた顔をして、オレンジジュースを飲みながら豪華な料理が設けられてある豪奢なテーブルを見てため息をつく。

(ピクニックつうたら風呂敷広げて簡単な料理でわいわいやるもんじゃないのかねぇ)

と貴族の感覚に戸惑いながらも、骨付き肉をかじりだす。

「やぁ楽しんでるかい?」

料理をガツガツ食べてる所に片手にワイングラスを持ったジャンが現れた。

「ルイズの所にいなくて良いのかよ?まさかルイズじゃなくて俺のケツ狙ってんのか?」

「はは、僕はそんな趣味は無いよ。随分な言ようだな」

ジャンは苦笑いして頬を掻く。

「いやね、君と一度話したいと思ってね。噂は色々と聞いてるよ」

「へっ。なかなか素敵すぎる噂だろ?鬼とか狂犬とかよ」

「まあ。そんな所だ」

「くっく。言うねぇ兄ちゃん」

お互い大笑い出す。

「まあ別にやつらの噂なぞ気にすることはない。所詮負け犬の遠吠えにしかすぎないからな」

「は!いいのかよそんな事言ってよやつらに聞かれたらアンタの立場やべぇんじゃないん?」

「はっは!僕も君と同じで奴らがどれだけ僕に下らない噂しようがどうでもいい事なのさ」

ジャンはワインを飲み干し。

「僕と杖を合わせて見ないか?」

「はぁ?」

「どうやら君はこの見合い納得いかないようだしな。どうだ?」

ジャンは懐からレイピアの形をした杖を取り出す。

「これで僕と杖を合わせて僕の人となりを確かめたほうがいいだろう。そのほうがてっとり早いし、君もそういうやり方が好きだろ?」

「…ルイズとチィ姉の前で暴力沙汰なんざやる気はねぇんだがよ」

「怖いのか?僕に負けるのが?」

ジャンはアドリアンに挑発的に目を細めて笑う。

「…」

そんなジャンにアドリアンは猛禽類の様な目で射抜く。

「いい眼だな…。実は僕は君と一度杖を合わせたかったのだよ」

「調子に乗るなよオッサン…。そのお綺麗な顔グシャグシャにされてぇか?あん?」

眼を赤く光らせたアドリアンはジャンに顔を近づけて威嚇する。

(…すごい圧力だな。まだ10歳の子供とは思えん)

アドリアンの放つ鬼気に気圧されながらもジャンは笑う。

「いいぜ。来いよ?てめぇのその鼻っ柱をへし折ってやんよ」

とアドリアンは顔を悪鬼のような笑みを浮かべ指で後ろの広い草原の方を指した。

「望むところ」

ジャンもそれに答えるようにニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

二人は皆がパーティーを楽しんでいる場所から数百Mにある人気のいない草原で対峙していた。

「お前さんも結構好戦的だねぇ」

「はは、僕もこれでもグリフォン隊の端くれ。君のような強いメイジと戦うのは望むところ」

ジャンはレイピア型の杖を取り出す。

「別に俺はメイジのつもりじゃねぇんだけどねえ」

うっとおしげにアドリアンは腰をやってため息を吐く。

「ではやるとしようか」

ジャンはフェンシングのような構えをしてアドリアンを凝視する。

さてどうでるか、この子供の実力はさきほどの親子喧嘩を見て油断できるような相手ではないとわかった。

ゆえにジャンはアドリアンに対する侮りは一切無い。そしてさきほどアドリアンについてヴァリーエル公爵から聞いていた。

(あの年でスクウェアメイジで白兵戦においては並ぶもの無しか…。信じられんと言いたいところだが、こうして対峙すると確かに彼の圧倒的な鬼気は凄まじいものがある…本当にまだ10の少年なのか?グリフォン隊でもここまでの圧力を持つものなんていないぞ…)

「どうしたよ?こねぇのか?あん?」

アドリアンは見下したように口の端を吊り上げて笑いながら手にポケットにつっこんで、ゆっくりと一歩二歩を歩と進める。

(杖を出さないのか!?まさか舐められてるんじゃないだろうな…)

さすがのジャンもこれには憤りを隠せない。いくら強いとは言え、この栄えあるグリフォン隊…しかも次期隊長と言われる自分にこうふざけた態度で対峙されるとは。

「どうやら君は自分に力に慢心しているようだな…!僕に勝てると思っているのか!?」

怒りの色を見せるジャンに対してアドリアンはポケットからタバコを取り出して吸い出す。

「!?貴様!その傲慢さを償え!!」

ジャンは眼をカッと開かせ、杖をアドリアンに突き出す。

「エアーハンマー!」

空気の塊がアドリアンに向かって轟音を唸らせて襲い掛かる。

「フン!」

アドリアンは拳を上に上げ、エアーハンマーを殴って叩き落した。バゴンと音と共にアドリアンの足元の地面に凹みが作られる。

「!?。何ぃ!エアーハンマーを素手で叩き落しただと!?そんな馬鹿な!」

信じられんと言わんばかりにジャンの口と眼が大きく開く。

「この程度じゃあ俺をやれんぜ?なぁ?」

「く…!」

「もっとマジにやれや…全部吐き出してみろよ…てめぇの力をよぉ」

アドリアンは腰を下ろし両手を広げ、先ほどより強い鬼気を放出させる。

「化け物が!!!」

ジャンは詠唱をしする、するとジャンかた次々と3対の己自身の分身を召喚させた。

「偏在かよ…大したもんだねぇ…」

アドリアンは嬉しそうに笑う。

「エアーハンマーを叩き落すほどの化け物に手加減はもうしない!スクウェアメイジ4体とやり合ってただで済むと思うなよ!」

ジャン達はブレードを唱え、風の刃をもって一斉にアドリアンに襲い掛かる。

それに対しアドリアンは前に袈裟切りをするジャンの一体をの手首を握り締めた。

「ぐあぁ!」

「なんだそりゃ?この程度の太刀筋じゃギュンターには遠くも及ばねぇな?」

ぐしゃりと嫌な音を立ててジャンの腕が握りつぶされる。

「おらよ」

アドリアンはそのままジャンを、後ろから飛び掛るジャンに向かって放り投げた。

「エアーハンマー」

すかさずエアーハンマーを唱え、投げ出されるジャンの腹を当てる。

「がふ!!」

アドリアンが放ったエアーハンマーはジャン二対を串刺しにして風穴を開けた。

ジャン二体は呻き声を上げながら風を巻上げなら消滅する。

「はい二体終わりっと」

(こいつ…偏在と実物を見極めていたのか…!)

ジャン本体は一瞬で葬られた偏在二対の場所に目を向ける。

(く!!数分もしない内に偏在二対を失うとは!!!接近戦では勝てぬか!!)

ジャン二体は素早くフライを唱え、空中に飛びアドリアンから離れる。

「これならどうだ!二体のメイジから繰り出す雷撃は逃れられんぞ!!」

ジャン二体は詠唱を唱えだし、杖から雷撃を帯出した。

「てめぇから手の内を教えてどうするよ阿呆」

「!?」「「ライトニング・クラウド!!!!!」」

ジャン達の杖から凄まじいほどの雷撃が踊りだし、アドリアンを喰らわんばかりに襲い掛かる。

「…」

アドリアンは懐から短剣を取り出し、上に放り上げた。

雷撃はアドリアンから短剣に標的を変え、一斉に短剣に直撃した。

ガリガリと音を立てながら短剣は消し炭になり零れ落ちる。

「おーおーこれが噂のライトニング・クラウドって奴か~~人間が喰らったらやばいねえ」

と感心しながらアドリアンは消し炭になった短剣を見やる。

「馬鹿な…!こんな回避方法があったのか…!?」

ジャン自分の必殺技であるライトニング・クラウドがこうもあっさりといなされ唖然とした。

「さて今度はどうするよ?何が出てくるのかねえ」

と楽しそうにアドリアンは笑う。

(偏在二体をあっさりと倒しただけではなく、ライトニング・クラウドまで…!こんな子供に!)

プライドを大いに傷つけられたジャンは歯をぎしりとかみ締めアドリアンを睨む。

(なんなんだこいつは!!どれだけ強いんだ!!どれだけの修羅場を潜り抜けてきたんだ!!、ただ強くて知識あってもこうもいかないだろう!!!)

杖を握る手に力ぎりぎりとこみ上げる。

(どうする。ライトニングクラウドを使おうとしてももう使える精神力がもう無い!しかも相手はただのエアーハンマー一発しか使っていないんだぞ…!)

「もう打ち止めか?たく…メイジてぇのはよ…魔法に頼りすぎなんだよ」

(く…言い返す言葉も無い…!。魔法が使えないメイジほど無力なものが無い…!たしかに僕ら魔法騎士は剣術の心構えはあるがメイジ殺しほどになる平民の剣士に比べれば赤子当然…!最後に頼るのは己の肉体のみか!)

ジャンは意を決して、偏在を消して地に下りた。

「…」

ジャンは無言でアドリアンを真っ直ぐと見やりレイピア状の杖を構える。

(へぇ…。覚悟を決めたかよ、いい眼になったな。てめぇの獲物を失って覚悟を決めた奴は強い)

アドリアンはジャンの覚悟を感じ、笑みを止め真剣な顔になった。

「もう僕の精神力は尽きた。正直勝てる気はしない…だが君とは白兵戦で挑みたい。こんな事を言うのもなんだが…受けてくれるか?」

「ああ、いいぜ?なかなかいい感じになってきたじゃんよ?これなら楽しめそうだ」

アドリアンはタバコを捨て、ジャンに応えるように構える。

(不思議だな…ここまで絶望的な状況なのに何故か肩が軽い。そして高揚感を感じる…正直勝てる見込みはゼロだというのに)

生まれて初めて挫折感を味わったと言うのに、何故か晴れやかな心となった自分の心境に戸惑いを感じながらジャンは心地よさを感じた。

「いくぞアドリアン!!」

ジャンは一歩前に踏み出した。

今まさにジャンは閃光になるかのようにアドリアンに間合いを詰めて突きを放つ。

ジャン自身も初めて繰り出す閃光の異名に恥じぬ突きがアドリアンの頬を掠めた。

「ひゅう!いい突きだねぇ。こうじゃなきゃよ」

次々と繰り出すジャンの猛攻をアドリアンは杖で全て捌き、軽く跳躍をして蹴りを放つ。

「!?」

まるで鎌イタチのように素早く鋭い蹴りがジャンの顔に電光の如く襲い掛かる、ジャンはそれをなんとか間一発後ろに下がり避ける。

だが避けたもの、鋭い風圧でジャンの顔に一線の傷が走った。

(なんて蹴りだ…!こんなの喰らったら顔がザクロみたいにはじけるぞ!)

アドリアンの蹴りに驚きを見せながら、間合いを空ける。

(本来はつまみ食い程度に戦って勝って叩きのめしてやろうかと考えたが…!ここまで強いとは!しかもただ強いだけではなく戦闘経験も豊富だ!。

今まで色々なメイジやドラゴン、亜人達と戦ってきたがここまで強い奴は初めてだ!正直勝てる気がしない…だが…何故かこの戦いが楽しくなってきた…)

僕もつくづくメイジ…いや戦士の端くれなんだなと思いジャンは笑う。

「いい顔になってるじゃねえか。おらぁ!もっとやれ!もっと熱くなれや!」

「言われんでもそうするさ!!!」

ジャンは懇親の力を込め、決死の突きを放った。

しかしアドリアンは杖を殴りつけて弾く。ガンと音を立て杖は空中でクルクルと回り地面に突き刺した。

「…!?」

ジャンは落ちた杖を見る。

「お前の獲物がもう全部無くなったぜ?どうする降参するか?」

ジャンは落ちた杖はもうどうでもいいようにアドリアンに殴りかかった。

ジャンの拳はアドリアンの頬を埋めた…しかし殴られたアドリアンはさらに嬉しそうに笑い、ジャンの顔を殴る。

「ぐわ!!」

殴られたジャンは10Mも飛ばされ、体を地に着ける。

「くっくいいねぇ。これだよこれ。やっぱ雄の勝負てえのはこれだよ。わかってんじゃねえか」

「ふ…ふふ…。杖を失おうが、勝てぬとわかってでも何故か心地よくなってきてね…僕の心根の中はまだ君と戦いたいと思う自分がいる」

よろよろと足をふらつき、ファイティングポーズを取りジャンは笑う。

「はっは!いい事じゃねえか。なかなか気に入ったよおめえ!」

「では君の妹との交際を認めてくれるかい?」

とジャンは笑いながら冗談めかしに言う。

「それとこれは別だ」

アドリアンも笑い、立ち上がったジャンに走り向かう。

「おもいっきし俺に殴りかかりな!吐き出して見せろ!てめぇの全ての力を!てめぇの心の内もなんもかもな!それがてめぇのしたかった事だろう!」

「はは!ぼくは君の心のうちを知りたかったんだけどな」

 

 

 

 

二人はまるで遊戯を楽しむかのように殴りあう、次々に繰り返すジャンの拳はアドリアンは避けもせず全て受け止める。

「僕は…あいつらが嫌いだった!私腹を肥やし、弱いくせに傲慢で民を汚し国すらも汚した奴らをだ!」

ジャンは右目を腫らせ、鼻や口に血を出しながらアドリアンを殴る。

「だから奴らを打倒しようと僕はグリフォン隊に入った!いやそれだけでは無い!僕は母を…!母をとある理由から不用意に殺してしまった!!!」

ジャンの目から涙がこぼれ、まるで全てを吐き出すように叫ぶ。

「僕は後悔した!母の研究を恥だと思い、心の中で蔑み!事故とはいえ殺してしまったという事を!!」

ジャンの拳が何度もアドリアンの顔を打ち付ける。アドリアンはそんな自分の野望、罪を吐き出そうとしているジャンをじっと見続けていた。

「だから僕は修行をした!どんな厳しい修行にも任務にも耐えた!血反吐を吐こうが肉体をどれだけ打ちのめさせようが!!貴族を打倒せんが為に!母に贖罪する為に!!!!」

最後の力を拳に込めアドリアンの頬をジャンは打ち込もうとする。

「…」

アドリアンは無言でジャンの拳を手で受け止め、ジャンの頬を殴りつけた。

「ぐはぁ!!」

ジャンは大きく吹き飛び、土煙を帯びて倒れた。

「まだやるか?」

アドリアンにそう言われてジャンは己の拳を見てゆっくりと降ろした。

「はぁ…はぁ…、は…はは…もう限界だ…降参だ」

そう言ってジャンは笑いながら大の字になった。

「ふ…ふふ…完敗だ…全力を出したのに結局僕は君の本気を出させずに負けた…。なのに何故だろうな…たしかに悔しい…悔しいはずなのに…何故か心が晴れやかだ…」

「そりゃぁなぁ。あんだけマジでやって、てめぇが長年溜め込んだストレスを吐き出したからな。そりゃ気持ちよくなるもんさ」

アドリアンは笑いながらタバコを取り出して火を付ける。

「だな…おかげですっきりしたよ。こういう負け方もあるもんだな」

「ああ…悪くはねぇだろ?」

(いい負け方か…懐かしいもんだねぇ…俺も前世の頃育ての親父に拾われた時、まじ殴り合いして身も心もズタボロにされて…あん時はこいつと同じ心境だったな)

と懐かしんで笑い、ジャンにタバコを一本渡す。

「おらよ。お前も吸いな」

「吸えってこれってタバコじゃないか!ていうか君まだ10歳だろ?いいのかこんなもの吸って」

「細けぇ事いいなさんな、たまにだよたまに。ゴロのタイマンやったあとの一服はセックスした後の一服と同じくれぇ美味いもんだぜ?」

「ぶ!!!本当に君は10歳児かっっっ!!!」

ジャンはアドリアンの子供とは思えない台詞にずっこけて思わず吹き出し大声で突っ込む。

「かっかっかっか」

そんなジャンに対し、アドリアンは陽気に笑った。

ジャンはやれやれと言いながらアドリアンからタバコを受け取って口に咥える。

「ほらよ」

「ああ、すまないな」

アドリアンはジャンが咥えたタバコに杖で火を出して付ける。

「…ふふ。たしかに美味い。訓練し終わって、くたくたになった時に飲むワインと同じくらい美味いな」

ジャンはタバコを吸い満足そうに頷いて笑う。

「だろ?」

二人はお互いを見て笑った。

「それにしても、お前もけっこう根性あるねぇ、俺にゴロの喧嘩しかけるなんざこれで親父とヴィンツェンツォを合わせて3人目だ」

「はは。魔法も剣も通用しないとわかったら自然と君に殴りかかってたよ。」

心地良さそうにジャンは深呼吸した。

「かっかっか。いいねぇ。根性ある野朗は嫌いじゃねえ」

「では婚約を認めてくれるかい?」

「だからそれとこれとは別の話だっつーの」

「では君はどんな男がルイズに相応しいと思うんだい?」

「そりゃあよ。俺よりハンサムで、俺よりルイズを大切にして、俺より…」

「うん…」

「俺より強い奴よ!」

そんな事を言うアドリアンにジャンは苦笑いしながら「どこの親父の台詞だ」と突っ込んだ。

「まぁそんなわけで認めるわけにはいかねぇなあ…でもよ」

「?」

「お前だったらいいダチっこになれそうだ」

アドリアンはジャンに笑顔を向ける。

「友達?」

「おーよ。これだけ気合入れて俺とやりあえるんだそれに…」

アドリアンはタバコの煙を吐いて真剣な顔になる。

「お前の貴族打倒とやらに協力しない事もねぇ。俺も前々から思ってたしな…だがよ…武力だけじゃだめだ。まずは権力、財力、同じ仲間を集めてやるんだ!。

武力だけで奴らを打倒しても同じことの繰り返しだ!奴らいやトリステインを変えるためには心の底から奴らを変えなくちゃならねぇんだ。領民を、仲間を、家族を守るためにだ。」

ぐっとアドリアンは拳に力を込める。

「そして魔法が使えない奴でも夢を見れて、文化を育み。てめぇこそが国を支え作っていけるんだという誇りを持って暮らしていけるそんな国にしてえんだ俺は」

「…」

ジャンはそう自分の心を吐き出すアドリアンを見てなにか心にこみ上げるようなものを感じ微笑んだ。

(これがアドリアンという男か…。やはり僕の想像した通り凶暴なだけの男ではなかった…。たしかに粗野で礼儀知らずな所はあるが、こうやって信念を持って生きている。

そして家族を仲間を思いやる心も持っている…よかった会ってみて。彼なら母が行っていた研究も理解してくれるのだろうな…しかしまだこれを言うにはまだ早いか…)

ジャンは立ち上がりアドリアンに手を差し伸べる。

「僕もだアドリアン。僕も君と同じく人…いや…心のある亜人も一緒に幸せになるような国を作りたいな」

「亜人もか…。いいじゃねえか一緒にやろうや。なあ」

二人は心から曇りない笑顔で握手した。

 

 

 

 

 

 

二人が握手しているところをヴァリエール夫妻は森の草原からじっと見守っていた。

「はぁ。この様子だと今回の見合いも失敗だのう。苦肉すぎる策とはいえ奴とジャンがぶつからないようにピクニックを提案してやったものの結局こうなるか」

とヴァリエール公爵は複雑な心境で盛大にため息を吐いた。

「ふふ。でもいいじゃないですかこうやってアドリアンとジャンが友人になれたのは」

婦人は柔和な笑顔で答える。

「それしても本当にアドリアンの奴め野蛮人だのう。まさかあのグリフォン隊と殴り合いの喧嘩をするとは」

「でもあなた。熱い眼差しであの子らを見ていたではありませんか」

「ぬぅ」

婦人にからかうように言われ憮然とする。

「まぁワシも結局メイジや貴族である前に男だったというわけか…。たしかに奴らの殴り合いを見て心が熱くなったよ」

「ふふ。そのおかげで顔つきが若い頃に戻ってますよ?」

「ん?そうかそうか。ならあの阿呆がやってる事は無駄でもなかったな」

「ではそろそろ行きましょうか。皆が心配してるところだし。それに」

「ん?」

密かに殺気を浮かべる妻に夫は冷や汗を流す。

「アドリアン…あの子はまだ未成年なのにタバコを吸っていたではありませんか…お仕置きの準備をしなくてはねぇ」

「最後は結局そう締めるのか」

 

 

 

 

 

アドリアンとジャンは笑いながら皆が待つ場所へ戻ったものの、アドリアンはカリーヌから今回は野外なので容赦ないカッタートルネードで折檻されたという。

結局見合いはジャンは「まだまだ自分にはヴァリエール家の親族になるのには修行が足りないので辞退する」と言い破談宣告。

元々ジャンとしてもルイズと婚約するのは政策としてありとは思っていたが、そこまで執着するほどでもなかったのである。

ルイズとしても突然の見合いだったのでホッとひと撫でしていたので双方の同意として正式にこの見合いは無かった事になった。

 

 

 

 

 

「貴様は馬鹿か!!せっかくヴァリエール家と親族になるチャンスだったのにそれをおめおめと!しかもあの鬼子と殴り合いをしただと!貴族…しかもグリフォン隊でありながら…!貴様は貴族として自覚があるのか!」

帰りの馬車の中ワルド子爵は憤りを隠せず、すごい剣幕で顔を腫らした息子を怒鳴りつけていた。

だがそんな父親にジャンは鋭い視線で射抜いた。

「ふ…ルイズと婚約してヴァリエール家と親族になりそれで強くなったという気ですか?」

ワルド子爵は今まで見たことが無い息子の迫力に気圧され尻餅をつく。

「それで強くなってどうするのです。そんな名前だけで強くなっても僕は嬉しくもありません!ましてあのような少女を犠牲にしてまで!」

「ぐ…ぐぐ…」

「たしかにヴァリエール家と親族になって権力を持つことは否定はあまりしませんが。だが僕はそんな事で強くなりたいと思いません。アドリアンと戦ってそう実感しました。

それにこれは僕自身の問題だ。あなたにどうのこうの言われたくは無いですな。せっかくヴァリエール家と知り合いになれて気持ちよくなっていた所を水をさされては、いくら父上でもただでは起きませんよ?」

とジャンはガタガタと怯える父を無視して窓からヴァリエールの屋敷を見やる。

(ふふ…ヴァリエール家か…思っていたよりいい家族だった。僕も負けてはいられないな…明日から一層厳しい修行をしてアドリアンとまともに戦えるように強くならなくてはな)

ジャンは湧き上がる高揚感を心地よく堪能しながら明日に備えて目を閉じた




殴り合いこそ漢
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。