闇の森の中に蹄の音が聞こえる。
次第にそれがどんどん大きくなる、一つの赤い光りが生まれる。
何事かと森の動物は達はその方向に目をやる。
それは段々と多き近づき、赤い一つ目の影のような漆黒の馬一匹が長い馬車を引き連れて現れた。
動物達はあまりの異形に恐れおののき一目散に逃げ出した。
馬車の中は黄金色に輝く豪奢な装飾で彩られ、真ん中に赤いカーペットが敷かれているという
まるで宮殿の謁見部屋のような馬車とは思えない部屋であった。
そしてその部屋の奥には赤い目をした妖艶な男が玉座に座っていた。
男がパチンと指を鳴らす。
すると闇の中から赤いネグリジェを着た若い女が幽鬼の様にフラフラと歩き男の前に立つ。
「跪け」
男は笑い優雅な声で命令する。
「はい…ヴァルヴァトーレ様…」
女は言われた通り虚ろな目でヴァルヴァトーレに跪く。
そして彼に首を差し出すように顔を上げた。
「いい子だ…」
ヴァルヴァトーレは鋭く長い爪で女の首筋を押し当てる。
爪で愛撫するかのように優しい動作でゆっくりと首筋を少しずつ引き裂いた。
女の首筋から血が流れ出す。女はそれに何も感じず無表情でヴァルヴァトーレを見つめていた。
背後に漆黒のローブを着た男がワイングラスを女の首筋に当てて血を注ぐ。
そして女は首筋に血を流しながら立ち上がり、ヴァルヴァトーレの傍らに立つ。
「ヴァルヴァトーレ様」
男は恭しく礼をして血で満たされたワイングラスをヴァルヴァトーレに渡す。
ヴァルヴァトーレはワイングラスを転がしながら口に近づけ香りを嗅ぐ。
血の濃厚な香りを楽しみながら一口飲み満足そうに微笑む。
「アルマグ」
「は!」
アルマグと言われた漆黒のローブの男は巨大な鏡を持ってくる。
ヴァルヴァトーレが指で鏡を撫でると、馬車の後ろの風景が写った。
そこには漆黒の森を翔る黒毛の馬に乗ったアドリアンの姿があった。
「くっく」
ヴァルヴァトーレは愉快そうに鏡に映ったアドリアンを見つめる。
「ヴァルヴァトーレ様…私が行きましょう…」
闇の中からコートを着た虚ろな目をした男が現れつぶやく。
「いいだろうヴルムハート…。じっくり愉むがいい」
「有難き幸せ」
ヴルムハートは礼を言い、無数の蝙蝠となり外に飛び出した。
「くく…。長い眠りに覚めて、退屈だと思い人間どもにちょっかい出してみれば…ククク。
まさか我らと似た力を持った魂を宿る人の子に出会うとはな…」
ヴァルバトーレは傍らに立つ女から空になったワイングラスに血を注いで笑った。
アドリアンは疾風の如き速さで馬を走らせていた。目の前の己の獲物が乗る馬車が見える。
アドリアンは笑い、馬から立ち上がり杖剣を取り出し馬車に目掛けて飛び上がった。
「!?」
馬車の上に蝙蝠の大群が集まる、そして次第に人の形を取りコート姿の吸血鬼となった。
「我はヴルムハート…。強き人の子よ我が剣にかかり血の贄となるがいい」
ヴルムハートはくぐもった声で言い放ち、2メイルもある細長い刀身の長剣を抜き構える。
「上等!」
アドリアンは空を蹴ってヴルムハートに迫った。
アドリアンの剣がヴルムハートに目掛けて空に蒼い痕跡を刻みながら襲い掛かる。
「!?」
ヴルムハートはアドリアンの杖剣を己の剣で火花を散らしながら受け止める。
「やるじゃねえか」
アドリアンは歓喜の笑みを浮かべ、後ろに下がる。
そして二人は互いの獲物を目掛けて飛び舞った。
ガキン!ガキィンと強い剣と剣がぶつけ合う音を立てながら空に舞う。
突如、ヴルムハートの硬質であった剣が鞭のようにしなった。
「死ね…」
ヴルムハートは大きく鞭の様に長剣を振り回しアドリアンに斬り付ける。
まるで蛇のようにうねて襲い掛かる刃をアドリアンは避け続けた。
アドリアンの顔が無数の傷を創る。
だが、それにお構い無しにアドリアンは間合いをつめ、ヴルムハートの鳩尾に蹴りを入れる。
「がふ!!」
蹴りを喰らったヴルムハートは体を九の字になり木に叩きつけられた。
アドリアンはそれを無視し、金の瞳を馬車に移す。
杖剣を構え馬車の中に巨大な妖気を持つものがいる所へ目を定め空を蹴った。
そして空を切るが如く剣の切っ先を突き出し、
壁もろとも強い妖気を持つものを串刺ししようと突撃した。
しかし…剣先がギィンと音を立て壁に弾かれてしまった。
「…まじかよ」
アドリアンは舌打ちをした。
「!?」
突如背後に殺気を感じた。
剣一本がアドリアン目掛けて飛ぶ。アドリアンは素早く体を横に飛び剣を避けた。
後ろを振り向くと月の光でギラリと光る無数の剣に囲まれたヴルムハートが宙に漂っていた。
「愚かな…、貴様如きの剣でこの馬車を傷つけられると思ったか…」
「へへ…、面白ぇ。じゃあてめぇから狩るとするかぁ!」
アドリアンは悪鬼の如く笑いヴルムハートに迫った。
「…」
ヴルムハートは手を振り回し、さらに剣を増やし竜巻の如く振り回した。
アニエスは森の中、白い馬を駆り走らせていた。
あの恐ろしい化け物たちとそれを単身で追いかけた少年を追うために。
なぜ私は後と追うと己に問いかける。
あそこまで人間離れした戦いを見せ付けられて…。
圧倒的な力の差を嫌と言うほど見せられたというのに…。
明らかに足手まといだと自分でも思う。
だがアニエスは自分を止める隊長の手を振りほどき、自然と馬に乗り駆けた。
なぜなのだ…仲間の仇か…?己の戦士との意地か…?。
それともあのアドリアンという少年の強さによる嫉妬か…。
くだらないと思いながらもそう思ってしまう。
アニエスの村はある貴族の策謀により滅ぼされた。
村が疫病に侵されこれ以上広がらせないようという名目でだ。
実際は捏造された身に覚えが無い理由だった。
村は村人ごと貴族によって全て焼き払われてしまった。
だがアニエスは見知らぬ男に辛うじて救出された。
意識を取り戻した頃には村中が全て灰となっていた…。
消し炭になった村を…人を涙で目を腫らしながら幼かったアニエスは誓った…。
力をつけ自分の村を焼き払い、友を…隣人を…家族を皆殺しにした貴族に復讐すると…。
彼女は剣を取った。厳しい修行をし、傭兵団を転々としながら戦場を巡り力をつけた。
猛牛傭兵団に加入した頃は女性でありながらギャスパーに継ぐ実力者とまでなった。
今回の任務の話を聞いた時は彼女は喜んだ。
マンティコア隊を全滅当然まで追い込んだ奴らを倒せれば貴族になれると…。
ヴァリエール家の双璧と言われる男達…、
ギュンターとヴィンツェンツォのようにシュヴァリエを得て貴族になれると。
そして貴族になれば自分の村を滅ぼした奴らを復讐するチャンスが生まれるだろうと思った。
だがこの任務は血みどろの地獄だった
吸血鬼どもが襲った村に向かうと、血を全て抜かれた死体、それに群がる蝿と蛆、
そして悪臭がアニエス達を歓迎した。
その村の惨劇を見たアニエスは呆然とした。
蛆がたかった死体が山ののように転がり、
生き残った者が放つ慟哭と嘆きが村中を響き渡らせていた。
アニエスはあまりの惨劇に言葉を失った。
年端の行かない少女の死体を見て、昔の事を思い出し思わず嘔吐してしまったものだ。
アニエスはこの惨劇を作った吸血鬼に憎悪した。
そして誓った、必ず貴様らの首を取ってやると。
しかし実際吸血鬼を戦ったら圧倒的な力に打ちのめされてしまった。
たった一匹の吸血鬼如きにだ。
アニエスの心は屈辱と挫折感に濡れそして悟った…。
自分は慢心していたのだと。
心の中では自分に適うものはハルケギニアにいないとすら思っていたのかもしれない。
だが蓋を開けてみれば自分は吸血鬼一匹に剣を届く事すらできなかった。
さらに奴の操る使い魔にすらもだ。
だがそんな奴らをあの15歳の少年はいとも簡単にやってのけた。
しかも遊戯を愉しむかの如く。
アニエスはアドリアンを思い出す。
あの巨大熊の体をいとも簡単に屠る剣技、
あの道化を倒すほどの体術…スクウェアクラスだと思われる自分を包んだ雷の魔法…、
そしてあの野生的だが人間離れした妖艶な美貌(そこは関係ないだろう!)。
アニエスは突然顔が真っ赤に染まり頭を振った。
「馬鹿か私は!あれはまだ15歳の子供だぞ!」
アニエスは項垂れるように頭を馬の首によせる。
(15歳か…まだあれで15歳なのか…。
悔しいな…あの年であの強さか…。私は嫉妬しているのだろうな…あの少年に)
アニエスは15歳の子供に嫉妬する自分に自嘲する。
アドリアンの名前はよくギャスパーや他の隊員から聞いていた。
まだアニエスが猛牛傭兵団にいなかった頃の話だ。
オークの群れを討伐している最中ひょっこりアドリアンが現れ、
次々と素手でオークを殴り殺したという話だ。
アニエスは初めてその話を聞いて信用してなかった。
オークを素手で殺す?そんな馬鹿げた話はあるものかと思った。
さらに言えばその話をするのは決まって酒の席だった。
皆して自分をからかっているのだろうと思っていた。
だが、さきほどの暴れぶりを見せられてはあの話の事を信用せざるおえない。
それどこかその話以上の化け物振りを見せられてしまった。
(悔しいが私が加勢した所で足手まといになるのはわかる…。
だが…私は行かなくてはならない…理由はまだはっきりわからないが、
このままじっとする事なんてできない…)
アニエスは意を決して顔を前に向け馬をさらに追い立たせる。
どんどん前へと進むと剣と剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。
「あれか」
アニエスは見た。
宙に舞い剣舞を続ける二人の男の姿を。
ヴルムハートが召喚した無尽蔵の剣がアドリアンに目掛けて突撃する。
アドリアンは剣を収め、両腕を下へ振った。
すると両袖から杖が飛び出す、そして腕をクロスして魔法を詠唱した。
両の杖を剣状の風のオーラが纏う。
風の刃となった剣を二刀に構え、刃の牙を持って襲い掛かる剣の群れに飛び掛る。
そして無数の剣を風の刃で次々と切り落としながらヴルムハートに間合いを詰めた。
焦ったブルムハートは鞭の長剣をもってアドリアンを迎撃しようとする
蛇のようにしなる刃をアドリアンは素早く杖から杖剣に切り替え大きく振るった。
アドリアンの剣が轟音を轟かせ強烈な剣圧を作り出しブルムハートの長剣をなぎ払った。
「…すごい…」
アニエスは剣を構えて助太刀しようとしたが、
この死の舞踏を広げる二人の戦いに割り込むことができなかった。
「く…やはり加勢できぬか…せめて飛ぶことが出来れば」
歯軋りするアニエスの目の前に闇が盛り上がり巨大な手が現れた。
「な!?」
巨大な腕はアニエスを馬ごと掴み馬車へと引きずりこんでしまった。
アニエスは赤いカーペットの上に寝かされていた。
「は!?ここは?」
気がつくとそこはあの吸血鬼が乗る馬車の中だった。
周りを見渡すとカーペットの端に何人もの扇情的な肢体を持つ女性が並び立っていた。
「く…う…」
よろけながらも立ち上がって奥を見る、奥にあの丘の上に立っていたリーダー格と思わしき
吸血鬼が優雅に座り、赤い瞳で笑みを作りアニエスを見ていた。
「ようこそミ・マドモワゼル。私の名はヴァルヴァトーレ。以後お見知りおきを…」
ヴァルヴァトーレはすっと立つと片手でアニエスに礼をする。
「貴様はあの時の!」
「ふふ…。先ほど振りだな。ここまで来るとは女性の身でありながら勇敢だな…」
とヴァルヴァトーレは口に手をやり笑う。
「貴様!何のつもりだ」
アニエスは剣を抜き放つ。
「くっく。いやなに」
ヴァルヴァトーレは指で遠見の鏡を念力で運びアニエスに見せる。
「一緒にあの二人の剣舞を見ようではないかと思ってね」
「…!ふざけるなよ!誰が貴様と!」
アニエスの脳裏に奴らに陵辱された村人…幼子の顔がよぎった。
目をかっと開き地を蹴りヴァルヴァトーレに斬りかかった。
「!?何…」
アニエスは驚きのあまり目を大きくする。
アニエスが振るう剣をヴァルヴァトーレは指二本で挟み止めてしまったからだ。
「くっく。勘違いするな…私は別にお前をどうにかしようと思っていない。
剣を収めてくれるか?」
嘲笑うように言うヴァルヴァトーレに憤る。
「ふざけるな!貴様は何をやったのかわかっているのか!?村人を次々に襲うどころか
女子供まで殺しておいて!」
「くくく」
ヴァルヴァトーレは愉快そうに哂い、人差し指をアニエスに向ける。
「ぐふ!が・・・か!!!」
突然アニエスの首が見えない力に絞められ宙に浮いた。
首を抑えながら逃れようと足をばたつかせる。
「面白いことを言うなマドモワゼル…。ただ私は食事をしただけなのにな…くっく」
そい言いアニエスを降ろす。
「はぁはぁ!食事だと?」
首を抑え、動悸しながらヴァルヴァトーレを睨む。
「そう。単に腹が空いたから家畜を喰らっただけの事…それが何が悪い?。他の生命を喰らい
己の糧にして生きる…我々だけなく、この世の生きる全ての者の業であろう」
「…」
「ククク。そんなに怖い顔をするな。とりあえず…まぁ座れ」
ヴァルヴァトーレの眼が赤く光る。
するとアニエスの眼の色が無くなり、フラフラと夢遊病者のように動きヴァルヴァトーレの
隣にある椅子に座る。
「は!?」
椅子に座ると同時にアニエスは正気に戻った。
一瞬気を失ったと思ったら、いつのまにか椅子に座っていた事に気づく。
「貴様何をした!?」
「何。このままだと素直に座ってくれそうにもないからな。それより見るがいいこれを」
遠目の鏡に死闘を繰り広げるアドリアンとヴルムハートが写っていた。
「クククあの小僧、ヴルムハートをやりあって互角どころか押してるな…何者なんだ?」
「知らん」
「知らんとはなんだ?仲間なのであろう?」
「フン!今日あったばかりでよくは知らんな。ただトリステイン王国でもっとも
凶暴な子供だという噂くらいしか知らない」
「くっく、そうか…。あそこまでの実力者なのだからさぞ有名な戦士だと思っていたが」
その時天井から轟音が轟いた。
ドォン!ドォン!と何度も天井をぶち当てるような音が鳴る。
天井がへこみ、べきべきと音を立ててぶち破れ何かが落ちてきた。
「ほう」
ヴァルヴァトーレは興味深く顎を撫でながらそれを見、
女達は逃げ惑い、アニエスは驚きのあまり声を上げる。
落ちてきたのはブルムハートの顔に拳をめり込ませたアドリアンであった。
アドリアンは何度もブルムハートの顔面を殴りつけ、
すかさず裾から杖を出し素早くブルムハートの喉を貫く。
「ぐほ!ぐはぁ!」
ブルムハートの口から血まじりの泡を吐き出し咳き込んだ。
アドリアンはさらに追撃をかける。
ブルムハートの髪を掴んで立たせ、前に引いて彼の鳩尾に膝蹴りをする。
「ぐごこ!ガヴァハァ!」
あばらの折れる音と共にアドリアンの膝が深々とブルムハートの胸を貫く。
「うぉらぁ!」
ブルムーハートを後ろに押し、勢いをつけて前へ引いてまた膝を埋め込む、
それを何度も何度も繰り返した。
ブルムハートの口から胃液と血が垂れ流れ、上半身が九の字にまがる。
アドリアンは肘を振り上げブルムハートの頚椎に叩き込んだ。
「かは…ぁ…」
骨が折れる音と共にブルムハートの眼が白目を向いて、だらしなく舌を出す。
そんなブルムハートの頭を掴み何度も壁にぶち当てた。
しだいにブルムハートの体はその生命活動を止め、だらんと力なく倒れこんだ。
「え…えぐい…」
アニエスはアドリアンの容赦の無い攻撃を見てドン引きした、
これなら鬼、狂犬と言われても仕方が無いなと納得してしまう。
獲物の血で真っ赤に血塗れた顔をヴァルヴァトーレに向かせた。
しかし、アドリアンは隣に座って嫌な顔をするアニエスに気づいてきょとんとする。
「あれ?アニエス姉さん?なにやってんの?こんな所で?ははぁ…
隣のクソ野朗を逆ナンパしちゃったんだ…いやぁやるもんだね」
「違うわ!馬鹿者!!」
アニエスはおぞましい事を言うなと言わんばかりにアドリアンに怒鳴る。
その時だ、アドリアンの影から黒い触手が飛び出し、アドリアンの四肢を貫いた。
「がっ!」
アドリアンの四肢を貫いた触手はそのまま傷口に巻き上げきつく縛り付ける。
「アドリアン!」
「ちぃ!なんだ馬鹿野朗!」
目の前に影が現れそこから黒いゲルのようなものが盛り上がり人のシルエットとなる。
そして顔の部分が徐々に人の顔に形成した。
そして不気味になびく黒い髪のやせ細った男の顔になり赤く光る目でアドリアンを見る。
「クフ…!クフフ!我はアルマグ!小僧…よくも我の仲間を殺してくれたもんだ」
アルマグは顔を憎悪に歪ませ、アドリアンの四肢をきつく巻きつけ食い込ませる。
「よくぞここまでやったと言いたい所だが所詮人間!我ら吸血鬼にかなうものではない!。
さぁ死ぬがよい!貴様の血でここ一帯を清めろぉ!」
アルマグの背中から巨大な触手が現れアドリアンの顔に向かって貫かんと解き放つ。
「…!」
血の噴出する音が聞こえ、アニエスは今からなる惨劇に目を背けた。
「な…何!?」
アルマグは驚愕した。
己の触手の先端がアドリアンに噛み付かれその勢いを殺してしまった。
アドリアンは噛み付いたまま横に勢いよく振り、アルマグごと触手を引っ張った。
「かぁ!小僧が!」
アルマグは素早く、引っ張られる触手を切り離して宙に飛ぶ。
「ヘヘ!まったくよ…まじいイカ刺し食わせやがって、俺はイカが嫌ぇなんだよ。
ザー●●臭くてたまらねぇ」
とアドリアンは触手を噛み千切り、べっとアルマグの顔に吐き出した。
アルマグの顔に噛み千切られた触手が当たる。
アルマグの顔が烈火の如き憤怒の炎に染まり、ギリギリと歯を噛む。
「小僧…」
殺気を押し殺し吐き捨てるように言い、両手を高く挙げる。
すると地面から無数の影が現れ何本もの影の触手が飛び出てうねる。
「舐めた事をしくさりおって…小僧!ただで死ねると思うなよ!その美しい顔を血に染め、
臓物を撒き散らしながら醜く死ぬが良い!!!」
「は!なかなかいい感じに吼えるじゃねえか雑魚が!!来いよ!ぶっ殺してやる!」
「生意気な口を聞きおって!。動けない分際で調子に乗るなよ!!!」
アルマグは狂ったように腕を振り上げアドリアンに振りかざす。
無数の影の触手がアドリアンに向かって食い殺さんと襲い掛かる。
アドリアンは触手の群れに顔を向けた。
目が赤く光り、口を開け叫んだ。
「!?」
影とアルマグのローブが四散し裸になった体が床に転げ落ちた。
同時に部屋を照らすランプの炎が消え、室内が闇に染まる。
「ほぅ」
それを見たヴァルヴァトーレの目が愉しそうに笑う。
「何が起きた?」
アニエスは何が起きたか理解できず椅子から立ち上がった。
「う…うぁぁぁ」
アルマグは手を何度も振り影を召喚する…しかし辺りはシンと静寂を守るばかりである。
「せ…!精霊共が怯えてるだとおおお!?これでは契約ができないではないか!」
「くっく。やっぱりてめえが着てる服は闇の精霊でこしらえたローブってわけかい」
アドリアンは嘲笑いアルマグの胸を踏みつける。
「ググ…小僧…!何をしたあああああああああああああ!」
「てめぇが感じた通りの事をしたんだよ…死ねや」
杖剣を振り上げアルマグの首を刎ねた。
憎しみで醜く歪むアルマグの首が宙に舞いそれを掴み取る。
「アドリアン…お前は何をしたんだ」
呆然とするアニエスにヴァルヴァトーレは口を開く。
「クククク。どうやったのか知らんが。
あの小僧…ここの一帯の全ての精霊を恐怖に陥れたな。おかげでアルマグの影が消え、
ごらんの通り我の魔法で灯るランプの火でさえ消えおった」
「精霊を怯えさせだと!?」
「そうだ、おかげで精霊を扱う魔法はまったく使えなくなっている」
とヴァルヴァトーレは指を弾く。
アニエスはヴァルヴァトーレが魔法を使おうと指を鳴らしてるのがわかった。
「クククク。だが、恐らく小僧も魔法を使う事ができなくなっているだろうよ…。
まぁもっとも、小僧の戦いぶりを見ていると魔法が使えなくてもどうでもいいんだろうが」
「そんな魔法があるのか」
「さあな聞いた事も無い。虚無かと思ったが、奴は詠唱もせず瞬時にそれを使った。
虚無は詠唱の長い魔法であるからな…。くく!くくくく!」
そう言いながら手を組み感心したようにアドリアンを見る。
そんなヴァルヴァトーレにアルマグの首が飛んできた。
部下の首を笑って見つめ、指でアルマグの首を弾いた。
アルマグの首は四散し、床に血と脳髄を撒き散らした。
「へへ…次はおめえの番だぜ…」
己の血で染まった足を引き摺らせながらアドリアンはヴァルヴァトーレに近づく。
「ふ…ふふ…はぁーはっはっはっは」
ヴァルヴァトーレは高らかに笑う。
「精霊を怯えさせる魔法を使うとは貴様は何者だ?人のようだが、その体に宿る魂は
人ではあるまい!我ら闇の眷属と同じ匂いがするぞ!」
ヴァルヴァトーレの言葉を聞きアニエスは驚いたようにアドリアンを見る。
「ふふ!それだけではない!その魂にはこの世界と違う者の匂いも感じる。…そうか!
別の世界から転生して来た吸血鬼の魂だな!?どうりで我が知らぬ技を使えると思った!
さらにその魂の輝き!内包する力…!ククク!感じるぞ!我らが吸血鬼の王…
神祖の力と似た力をな!!!」
「てめぇ…喋りすぎなんだよ!!」
アドリアンは地を蹴り血を撒き散らしながら杖剣でヴァルヴァトーレに斬りつけようとする。
「だが!」
ヴァルヴァトーレは指でアドリアンの動きを止める。
「ちぃ!念力か!」
「残念かな…。その強き魂の影響で人にしては強力な筋力、魔力を持っているであろうが
所詮その体は人間!貴様が本来持つ力の100分の1も引き出すことはできまい…。
それどころか…力を酷使し体に大きく負担をかけているぞ…」
悲しげに立ち上がり、アドリアンの頬を触る。
「クソが!…!近寄るんじゃねえ!」
「くくく。本当に残念だ…その力を全て解放できれば我を簡単に滅する事ができなのになぁ」
振り返り、顔を上へ向ける。
「そろそろ着いたか…」
ヴァルヴァトーレが手を挙げると、室内がバラバラに砕けた。
アドリアンとアニエスの体がヴァルヴァトーレの念力により、地面に下ろされる。
「くっく。今のお前では満足に体を動かせまい…」
「知るかぼけぇ!」
杖剣を杖にしてアドリアンは立ち上がる。力を入れたせいか、アルマグに貫かれて
穴を作った四肢から血が噴出する。
「やめろアドリアン!」
アニエスがアドリアンを抱いて、その動きを止めようとする。
「強がりを言うな…くく…私としても万全になったお前と戦ってみたい。
くく…くくく…。この数百年長い時を生きていたがこんなに愉しめるとはな…」
ヴァルヴァトーレは天に腕を挙げた。
すると背後の雲がゆっくりと動き、月の光に照る丘の上に立った城が現れた。
「ここが我が居城…くく!体を癒して来るが良い…相手になってやる…」
ヴァルヴァトーレの体が無数の蝙蝠となって散る。
「くく…楽しみにしているぞ…!その血を喰らい我は神祖を超える力となるのをな!」
「待ちやがれ!!」
アドリアンは手を蝙蝠の群れに向け、黒い閃光を放つ。
だが蝙蝠の群れはその閃光を嘲笑うように避け、城へと飛んでいった。
「くそが!!!」
アドリアンは地面に殴りつけ、よろよろと立ち上がり歩き出す。
「おい!お前その体でどこ行こうとするんだ」
「決まってんだろうが!あのクソをぶっ殺しにいくんだよ!」
「その体でか!無茶だ!血が流れすぎて体がフラフラではないか!」
「は!この程度の傷でグダグダ言ってたら爆笑もんだろうが!」
と吐き捨てて、歩くアドリアンにアニエスはため息をつく。
「無理をするな…今の体で奴と戦ったら確実に負けるぞ…」
アドリアンの肩を抱いて、森のほうへ運ぶ。
「馬鹿野朗!触るんじゃねえ!」
と羞恥で顔を染めたアドリアンはアニエスを制す。
「はぁ。まったく子供だな…」
アニエスは呆れながらアドリアンの傷ついている脇腹を剣の柄で突く。
「あだだだだだだだだだだだだ」
アニエスに脇腹をグリグリされたアドリアンは大声で叫ぶ。
「あにすんだよ!」
「ほれ見ろ!その体で何ができる。まったく強情な奴だ。いくぞ!」
まるで新兵を扱うようにアドリアンの頭を拳骨し、体を縛り上げかついで歩いた。
「ここで良いだろう」
アニエスは森の中にある無人の家を見つけて入り、 アドリアンをベッドに寝かす。
「ここでじっくりと戦いに備えて休めよ」
アニエスは縄で縛られて、苦痛の羞恥に唸るアドリアンを残し棚を物色する。。
「これからどうしたものだか…」
アニエスは棚から酒を見つけ今後の事を考える。
たしかにヴァルヴァトーレはアドリアンの傷が完治するまで待つと言ったが…、
その約束を守る保証は無いいつこの時で襲ってくる場合だってありえる。
「姉ちゃん心配するなよ」
アニエスの心情を察してかアドリアンは口を開ける。
「あの手のタイプはこの程度の約束なんぞ破るわけでもないだろうよ…。
人間如きの約束程度破ったら奴のプライドに傷つく…そういう事を心情にしてる感じだろ」
「詳しいのだな?同属と同じ力を持つゆえか?」
「…」
皮肉交じりに思える言い方をするアニエスを睨む。
「睨むな、別に皮肉でもない。それにお前が吸血鬼の魂を持つものだろうと知って
貴族にお前を売り渡すような卑怯な真似はせん。
それこそ私のプライドに傷を負わすことだ」
アニエスは優しげに微笑み、ブランデーを持ってアドリアンの所に歩く。
「お前がそういう奴だと聞いて驚きはしたが…だがお前の戦いぶりを見せられると
そういう性質だという方が納得する…あんな力を見せられてはな」
アニエスは縄を解き、アドリアンの服を脱がそうとする。
「ちょい!何すんの勘弁してくれや!…まさかひょっとして?」
慌てながらも悪戯ぽく笑うアドリアンの頭を小突く。
「馬鹿者!消毒する為だ!まったく貴様という奴はいちいちふざけないと気がすまないのか!」
アドリアンを睨み、服を次々と脱がすと、アドリアンの肢体が露になる。
メイジに癖に強靭に鍛えられた筋肉、
そして男の勲章だと言わんばかりに刻まれている無数の傷痕…。
この男はこんな子供の体で今までどれだけ無茶な戦いをしていたんだとアニエスは思った。
普通この年の貴族の子供など魔法学園に入って悠々と学園生活を送っているはずのなのに…。
だがこの少年は単身で吸血鬼に戦いを挑み3人も滅ぼした…、
これがヴァルヴァトーレが言うアドリアンの魂の力で為せる技なのか…。
「ほら。今から消毒するぞ?覚悟はいいか?」
アニエスの問いにアドリアンは頷く。
「痛いが我慢しろよ?」
そう言って、ブランデーを口に含み次々と傷に吹きかける。
全身を襲う苦痛にアドリアンの体がびくっと震わすがうめき声一つ上げない。
その代わりギリギリと歯を軋む音は聞こえるが。
「大丈夫か?」
「かっか!前世で彫りもん体験済みだからこれくぇ屁でもねぇ」
脂汗を流しながら大笑いするアニエスは呆れる。
(まったく力も強ければやせ我慢も強いか、普通ならうめき声一つ上げても仕方ないのに)
アニエスは腹の傷を触診し、内臓が傷ついて無いか確認する。
「内臓は避けられているようだな。では縫うぞ?」
「おう。ちゃっちゃとやってくれ。早くしねえと痛みでなんか変な性癖に目覚めちゃうぜ」
「はぁ…、わかったわかった。では、やるぞ」
アニエスはバックから針と糸を取り出し、アドリアンの傷を縫い始める。
「おひょひょひょひょひょ。くすぐってぇ」
「馬鹿者!動くな!」
作業を一時中断し、やせ我慢のせいか妙な笑いをするアドリアンをジト目で睨んで、
傷口を叩く。
「あwせdrfちゅじこ」
アニエスに体を叩かれ前進に激痛が回り、体を丸めてもがく。
「ふふ。ほら?痛いんだろう?ちゃんと痛いと言えば優しくしてやらんでもないが」
(あかん…この眼…たまにジャンヌの野朗がかますSの眼や!)
サディスティックに微笑むアニエスを見て顔を青ざめる。
「ふふ?どうしたアドリアン?いくら強いと言ってもまだ坊やだな?可愛い事だ…」
アドリアンを嘲笑うかのように微笑ながら縫合を開始する。
「よし。これでいいだろう」
アニエスは満足そうに仕事を追え、内に眠るSの心が満たされ満足げに汗を拭う。
後ろのベッドにはアニエスに散々貪られて苦痛に震えるアドリアンの姿があった。
「それにしてもよく耐えた。これほどの傷を縫合して呻き声を一つも上げないとはな」
まるで子供をあやす様に頭を撫でる。
その時、アドリアンの手がアニエスの手を掴んで引っ張る。
「きゃ!」
思わず情け無い声を上げたアニエスはすっぽりとアドリアンに抱かれてしまった。
「な!何をする貴様!」
顔を赤め激昂するアニエスにアドリアンの顔は妖艶に悪戯に嗤う。
「くっく、姉ちゃん。よくもこの俺を散々いじってくれたもんだねえ…。
なかなか刺激的だったぜ?」
アニエスは身の危険を感じ、顔に汗を流しながら「やりすぎた」と思った。
「本当は喰うつもりじゃなかったんだけどねぇ…ここまでいじられりゃ気が変わるもんよ」
そっとアニエスを下に押し倒し、慣れた手つきで鎧を素早く外す。
そして自分のシャツを脱ぐとあたり一面に淫靡でエロティックな空気に包まれた。
「え…えと何をするのだ?…?」
卑猥な空気に飲み込まれそうになるのもなんとか鉄の心で耐えながら、
口をひくさせてアドリアンに問う。
「決まってるだろう?お仕置きタイムって奴だ…。
おれはやられたら数倍に返すのが流儀でねえ…。男には暴力で…、女には…」
アニエスの耳に口を近づけ甘い声でささやく。
「悦楽で…な?」
アニエスは体中が電流を流れる感覚を感じた。
まるで久方忘れていた「女」を呼び覚まされるようだった。
(まずいまずいまずいまずいまずいまずい!そういえばこいつが恐ろしいほどの
女たらしだと忘れてた…!)
本来だったらこういう事をされれば奴の股間を蹴り倒す所だが、
アドリアンの妖しく妖艶な瞳に見つめられると体が動かなくなる。
それどころか体の芯が火照って、どうでもよくなり悦楽に浸ってしまおうとする自分がいる。
「いい加減にしろ!」
「くっく…そう言いながら目が潤んでるぜ?シニョリーナ…」
「そ…そんな事はない…」
アニエスは心にある鋼鉄なる壁がアドリアンの猛毒によって溶かされるのを感じた。
アドリアンに鼻をそっとキスされ、頬から首筋にかけて唇を落とされる。
「うぅ…あ…あぁ…」
口から吐息が漏れ、上半身が反りアドリアンの背中を思わず抱きしめてしまう。
だが自分に襲い掛かる魔性の快楽になんとか耐えようと目を強く閉じ、唇をかみ締める。
「くく。別に耐える事でもないだろ?快楽に身を任せたほうが得だぜ?」
アニエスのシャツがゆっくりと脱がされ、引き締められた肢体と形の良い乳房が現れる。
「へぇ…綺麗な体してるねぇ…、女のガチ筋肉はまじで勘弁ものだけんど…。
姉さんくらいの鍛え方だったけっこうそそられるものがあるねぇ…」
アニエスのほんのり締められた腹をなぞる様に触り。
「ひゃう!腹筋にさわるな!」
「可愛いねえ…姉さん…。そんな顔されっとさらに喰いたくなる…」
アドリアンは恍惚の表情でアニエスを見て、額をを撫でながらキスをする。
「ん…!んぐ…!」
アドリアンの舌がアニエスの舌を絡めつく。
アニエスはアドリアンに口を為すがまま陵辱をされ続け、次第に目がとろんとなった。
その反応を見てアドリアンは「堕ちたな」と悟り笑った。
朝日が昇り、小鳥のさえずりが聞こえる。
アニエスは窓から刺し込む光に目を覚ます。
ゆっくりと上半身を起こし、露になった自分の乳房を見る。
夜、アドリアンと肌を合わせた事を思い出し顔が赤く染まった。
「は…ははは。やってしまったんだよな…」
今だ残る下腹部の感覚に苦笑いをしてしまう。
「まさか…わたしが15歳の子供に翻弄されるなんて…」
快楽と悦楽にまみれた昨日の晩の事を思い出す。
アニエスはアドリアンにいいように体を貪られてしまった。
抵抗するにしてもアドリアンが与える魔性の快楽と甘い囁きによって、
体がまったく動かせず、身を任せてしまった。
「戦場に身を置くものとして…レイプとかそういうのをされるのを覚悟をしていたが…。
こんな形で初めてを失うなんて…」
口から吐息を漏らしながらぎゅっと枕を抱く。
「…でも気持ちよかったな…。は!私は何を言っている!!!」
自分の顔がだらしなく緩んでると感じ、顔を真っ赤に染めながら枕を床に叩きつける。
そしてのん気にいびきをかいているアドリアンを睨みつけて。
「それもこれもこいつが悪いんだ!。まったくなんて奴だ!」
照れた顔を振り払うように顔をしかめアドリアンの頬をぎゅうっとつねる。
「うう…ん…」
アニエスに頬をつねられ、アドリアンの眉毛がしかめる。
「フン」
まだ幼さが残るアドリアンの寝顔を見て赤くしながらキスをしてベッドから出る。
「勘違いするなよ!昨日はお前は頑張ったからな!それの褒美だぞ!。
けっしてお前の誘惑に堕ちたわけではないからな!」
そう言い放ち、ばくばくと鼓動する心臓を押さえ、服と鎧を装着する。
「はぁ!」
見も心も緩んだ自分を締めるために剣を抜き気合を入れて振る。
とりあえず外で素振りでもして気を紛らわせようよ扉を開けた。
「あ?」
「ぬ?」
「おう?」
「ほう」
「あ?」
アニエスが外に出ると、目の前に薪を炊いて朝食をしているマント姿の4人の男達がいた。
「お前達は?」
不振に問うアニエスを4人組は一斉に生暖かい目で見た。
その中の一人の大男が口を開く。
「夜はお楽しみだったようやなあ」
その言葉にアニエスの体が固まった。
「すまぬな、マドモワゼル。吸血鬼どもを追っていたら途中でこの小屋を見つけてね、
ぼくの友人が乗る馬を見つけたので部屋を入ろうとしたら…ね」
トラベラーズハットを被った髭面の美青年が申しわけなさそうに言う。
「…ちゃんとサイレントを掛けといたから誰も…オホン。聞いてないから安心したまえ。
あ、私はトリステイン王国マンティコア隊の隊長ド・ゼッサールだ。
よろしくマドモワゼル、あと彼らは右からグリフォン隊のジャンに、
ヴァリエール家の双璧ギュンターとヴィンツェンツォだ」
人の良さそうな顔をした中年のメイジも苦笑いしながらアニエスと握手して、
他の男たちのの紹介する。
「は…はぁ…どうも…」
ゼッサールと握手をして、一時固まった思考が正気に戻され自分がどういう状況か思い知る。
「悪いな。まさかこんな辺鄙な所でうちの若とあなたが…まあいいか」
オールバックの狐目をした男はニヤニヤしながら紅茶を飲む。
「あ…ああ…あ」
「どったのおねーさん?」
羞恥で顔の温度がみるみると上昇し沸騰しまくるアニエスの後ろに
腰だけタオルを巻いたアドリアンがタバコを吸いながらのん気に話しかける。
「およ?みんな何でこんな所にいんの?」
「う…あ…あああああああ!」
アニエスは剣を抜きアドリアンに斬りかかった。
「おわあ!あぶねえ!何すんの!」
「うるさーーーい!死ねえ!」
涙を貯めながらアドリアンにアニエスは今までなかったほどの壮絶な剣技で襲い掛かる。
「と…とりあえず!マドモワゼル…。今はやめとけ…」
ジャンは汗を流しながら暴れまわるアニエスを羽交い絞めする。
---30分後(・ω・;)-----
なんとか場が落ち着いた所、アニエスは今までの事(情事の件はもちろん省いている)
を4人に話した。
「そうか…。二人とも苦労をしたのだな」
ゼッサールは腕を組む。
「つーかなんでお前らこんな所にいるんよ?」
「君の事を心配してヴァリエール公爵やマザリーニ枢機卿に頼み込んで許可もらって
ここまで来たのだよ!」
「いだだだだだだだだ!!」
ジャンは顔に血管を走らせながら笑顔でアドリアンの頬を杖剣の柄で押し付けた。
「まったくだぜ。一晩中かけてそれぞれの下駄履いてここまできたっつーのによ!」
「あばばばばばばば!」
ヴィンツェンツォはアドリアンを縄で縛りつけ、これ以上ないほどきつく締め上げる。
「やっと見つけたと思ったら、女とセックスか…いい気なもんだ」
「あだ!あだ!あだ!」
ギュンターは近くに落ちていた薪で何度もアドリアンの額を突く。
「本当だ…私があんなに嫌がったのに…」
アニエスはまたアレの事を思い出して顔を沸騰させてアドリアンの頬を引っぱたく。
「姉さん結構アンアン言って喜んでたじゃねえか!」
「うるさーーーい!殺されたいか!!」
「まぁまぁ。みんな落ち着きたまえ」
ゼッサールは苦笑いしながらよってたかってアドリアンをヤキ入れる4人を手で制する。
「それにしても…おどろいたな…君が別世界の半吸血鬼の生まれ変わりだというのはな」
よっこらせとゼッサールは椅子に腰をかける。
「だが、君の異常な戦闘力を見るとそういう理由なら納得がいく…。
しかしいいのか?私達にそんな事を教えて」
ゼッサールの言葉にアドリアンは真剣な表情になり、頭をかく。
「本当はよ…隠したかったんだけどよ…正直皆に隠しとくのが嫌だった…。
それに…皆だったら…信用できると思った…正直軽率かもしれんけどよ」
「まぁ。昔喧嘩した時から若の事はただの人間じゃねえと思ってたからよ。
それくれえじゃ驚かねえよ。実際ガチで吸血鬼かと思ったしよ」
ヴィンツェンツォは笑いながら言い、ギュンターも笑顔で頷く。
「ふふ。皆とは君との付き合いは短い所か城で一度喋ったくらいだが…。
前世の影響で通常の人間より強いとはいえ、単身でこの国のために奴らと戦った。
そんな君を前世が半吸血鬼だからといって上層部やロマリアの凶信者どもに売り渡すような
恥知らずな事はしない」
それに君の母には多大な恩があるからなとゼッサールは笑う。
「アドリアン…。僕は君がなんであろうが別に気にもしない。
僕にとって君は傲岸不遜で礼儀知らずでスケベで暴力的だが…。
最高の親友だと思っている」
ジャンは濁りの無い言葉を言い笑顔でアドリアンの肩を叩く。
アドリアンは皆の暖かい言葉を浴びせられ、照れたように顔を下へ向く。
そんな5人を見てアニエスは頬を綻ばせる。
(貴族など傲慢で威張り散らす事しか脳が無い連中だと思ったが…これを見ると
まだまだ捨てたもんじゃないな…)
アニエスはアドリアンの肩を叩き「いい友人をもったな」と言った。
朝食を終えたあとアドリアンは立ち上がり、小屋に入り着替えをして杖剣を持って外に出た。
そんなアドリアンを皆一斉に見て驚く。
「おい…もう行くのか?傷はまだ治って無いだろう!」
アニエスは慌ててアドリアンを止めようとする。
「ああ、姉さんの治療は腕がいいからな、さっき治癒したら速攻で治ったわな」
とアドリアンはケラケラ笑う。
「だがいくらなんでも早すぎだ、作戦を立てて望まないと…」
「あいつには小細工は無用。そんな作戦くれえで勝てるとは思ってねえよ」
「しかし」
「ミス・アニエス。アドリアンにそんな事を言っても無駄だ、一度言ったらテコでも動かない」
ジャンは苦笑いしながらアニエスを止める。
「がはははは。そういう訳だ。つーわけで俺は行く。あとは頼まーな」
大笑いしてヴァルヴァトーレの元へ行こうとするアドリアンをヴィンツェンツォは
彼の顔をヘッドロックした。
「あだだだだ!おい!何しやがる!」
「何一人で行こうとしやがる!俺らも行くぞ!」
「はぁ!?あほか!あいつはめっちゃ強えぞ!?大勢で行ったら死人がでるわ!」
「だからそういう野朗だから皆で行くつーてんだろうが!」
「ミスタ・ヴィンツェンツォ。やめろ。たしかにアドリアン君のいう事に一理ある。
相手は数百年生きる吸血鬼だ、我々では足手まといであろう」
「でもよ、ゼッサールさんよ。せっかくここまで来たのによ、若を置いて行けるかよ!」
「ふっふ。誰が行くなと行った。別に加勢する事でもあるまい。
みんなで立会人として行くって事だ」
「立会人?」
アニエスはきょとんとする。
「そう。立会人だ、私達は安全な所で彼らの戦いを見守る、決してアドリアン君の邪魔はしない
それなら文句ないだろう?」
アドリアンは皆の目を見て悟った。
おそらくこいつらは俺一人で死なせはせんと自分と戦ってでもついていく覚悟でいると。
アドリアンは諦めてため息を吐き、指を地面に向け六つの土の塊を浮かばせた。
「錬金」
そう唱えると土の塊がワイングラスの型を取り、ガラスへと変わる。
そして念力で運び皆に渡す。
「これは?」
ジャンが不思議そうに言うと、アドリアンは笑う。
「気合入れるためだよ」
アドリアンは皆のワイングラスにワインを注ぐ。
「あ、ちと待ってね」
アドリアンは近くにあったブドウをもぎ取ってそそくさと小屋に入った。
アニエスは怪訝に思いアドリアンをついていくと、小屋の中でブドウをしぼり、
即席のジュースを造るアドリアンの姿があった。
「おい…アドリアン」
アニエスの言葉にアドリアンはびくっとする。
「お前…まさか…」
アニエスはにやにやしてアドリアンに近づいた。
「な…なんすか…?お姉さん」
「お前…酒が飲めないのか…」
「え…えと…」
挙動不審に上に目を動かすアドリアンにアニエスは大笑いした。
「くく…はーっはははは!下戸とは意外だな!大人ぶってもまだ子供だと言う訳か!
はは!はははは!」
「うるせーーーー!!犯すぞぼけえ!!」
羞恥で顔を真っ赤にするアドリアンを見て再度大笑いする。
「くくく!これでは益々生き残らなければな!いつかさきほどの仕返し、
たっぷりとお姉さんがしてやる」
小屋からにやにやするアニエスとぶすっと頬を膨らますアドリアンが出てきて、
とりあえず周りは知らないふりをした…面倒なので。
そして全員輪になりワインが入った(一人は果汁100%グレープジュース)グラスを
天に掲げ叫んだ。
「「「「「「ア・ヴォートゥル・サンテ!」」」」」
そう言い酒(一人は以下省略)を飲み干しグラスを地面に叩き付けた。
「じゃあ行くぞ」
アドリアンの言葉に皆頷き、ヴァルヴァトーレが待つ城へと向かった。
一行が城の門に入ると、無人に門が開いた。
意を決し、城の中へ入る。
長い通路をまっすぐ渡り、謁見の間の門と思わしき門を開くとオペラハウスの如き
広い部屋の奥でヴァルヴァトーレが血の入ったワインを飲みながら悠々と王座に
座っていた。
「ふっふ。ようこそ…わが城へ…待っていたぞ…」
アドリアンは前へ出て親指をヴァルヴァトーレに突きつける。
「ああ…来てやったぜ…てめぇの首を取るためによぉ…」
「くっく…相変わらず元気のいい事だ…それにしてもギャラリーが増えたな…?
いくら加勢が来ても人では足手まといにしかなるまいよ…」
「なんだとてめえ!」
「よせヴィンツェンツォ!」
ヴァルヴァトーレの見下すような台詞にヴィンツェンツォは憤り鉄棒を構え飛び出そうと
するが、ギュンターに止められる。
「立会人て奴だ。どうしても俺とてめえのお遊びを見てぇだとよ…」
「ふっふ。立会人か…それはいい。この舞台…確かに客がいないと面白みも無い…。
いいだろう」
ヴァルヴァトーレ愉快そうに目を歪み、立ち上がって漆黒のマントを広げた。
「ではやろうか小僧!この壮大で血の匂いが香る優雅なオペラを…!」
ヴァルヴァトーレは指を弾くと、アドリアンの後ろにいるアニエス達の前にガラスのような
透明な壁が下から現れ、遮断した。
「客人はここで見ているといい…おっとただ見ているだけでは詰まらないのであろうな…」
再度指を鳴らすと、脇にある扉から死人の群れと一匹の巨大な鬼のような巨人、
そして蜘蛛のような足とさそりのような尻尾を持つ奇怪な男と、
竜のような首を持ち、手が長く下半身に無視のような足が生えたボールギャグを咥えた
これまた奇怪な女が現れた。
「ふふふ。客人はこれらがもてなそう…」
「ちぃ!」
アドリアンは杖剣を構え後ろを振り向く。
「アドリアン!大丈夫だ!この程度なら負けはせん!君は目の前にいる吸血鬼をやるんだ!」
ジャンは愉しそうに杖剣を構え言う。
そしてアニエスたちも頷いてそれぞれの武器取り構えた。
「ははははは!さあ血に濡れた劇場の開幕だ!!!小僧よ…愉しく踊ろうか…。
くく!ははは!はははははははは!」
「上等だおらぁ!!!」
アドリアンは悪鬼のように笑いヴァルヴァトーレに飛びかかった。
今ここに別世界で大陸を震撼させた快楽の王を殺した半吸血鬼の魂を持つ男と
過去数百年前ハルゲキニアを恐れされた吸血鬼の王の壮絶な戦いが始まろうとした。
「さあ!燃え尽きろ小僧!」
ヴァルヴァトーレは腕を挙げ、周りから無数の黒い火球を召喚しアドリアンに打ち出した。
火球は踊るように飛びアドリアンを焼き殺さんとする。
「おらぁ!!」
アドリアンは杖剣を振るい、襲い掛かる火球を全て斬りかき消す。
アドリアンはそのまま走り、魔鳥の如く飛び上がりヴァルヴァトーレを閃光の如き
剣速で斬ろうとする。
だがヴァルヴァトーレはマントを広げ硬化させアドリアンの剣を受け止める。
火花を散らし、ぎりぎりと互いの武器を押し込もうとする。
アドリアンはヴァルヴァトーレを蹴り上げ後ろへ飛び間合いを取る。
「ふふ…」
ヴァルヴァトーレは手を突き出すと、手の平から4匹の火炎の竜が出て回るように
アドリアンを襲う。
「!?マイクロブラックホール!」
アドリアンは火竜にむかって手を突き出す。
手のひらから黒い塊が現れ、轟音を立て、前にある全てのものを飲み込まんと吸引をする。
火竜は勢いよく引っ張られ小さいブラックホールに吸いこまれた。
「くくく!こういう魔法があるとはな!」
ヴァルヴァトーレは笑い背中から黒い蝙蝠のような羽を出し飛び掛った。
己の周りに無数の剣、火球を召喚しながら迫る。
そして刃と化したマントでアドリアンに切りかかる。
アドリアンはそれを応戦し、ヴァルヴァトーレの刃のマントを弾きながら、
四方から襲い掛かる無数の剣と火球を魔力の塊で次々と打ち落とす。
そしてヴァルヴァトーレの首を目掛けて蹴りを放った。
「ぐはぁ!」
アドリアンの踵が首筋にめり込み、ヴァルヴァトーレは地面に落とされる。
しかしヴァルヴァトーレは地面に叩きつけられる寸前に風の力で飛び上がった。
「死にやがれ!!!」
アドリアンは黒い閃光をヴァルヴァトーレに向かって次々と打ち出す。
ヴァルヴァトーレはそれを交わすと、地面に直撃した黒い閃光は床を腐らせ墨とさせる。
「ほう。闇の力を使った魔法か…これはたまらんな。喰らったら体が腐り堕ちて
いくら再生力が高くても朽ち果て地の糧と化するな…くくく!」
腐り果てた床をみながらヴァルヴァトーレは関心し、手を振り上げる。
「くくく!これが「カウンター」だ覚えておくがいい!」
ヴァルヴァトーレの周りに不可視のバリアーが覆う。
アドリアンはバリアーを打ち消さんと魔力の弾を打ち出す。
「なにい!?」
バリアーを直撃させた魔力の弾は次々と跳ね返り、己の術者に反逆する。
「ちぃ!」
返ってくる己の無数の魔力の弾を避ける、しかしバリアーに覆われたヴァルヴァトーレが
アドリアンに向かって体当たりをしてきた。
「がはぁ!!!」
アドリアンはカウンターと勢いをつけて体当たりをするヴァルヴァトーレにぶち当たり、
壁に叩きつけられめり込む。
「かは!」
口から血を吐き出しヴァルヴァトーレを睨む。
「ふふ!!はぁーはっはっはは!」
ヴァルヴァトーレが両手を挙げると、上に巨大な黒い塊が現れる。
「さあ、とくと喰らうがいい!」
アドリアンめがけてヴァルヴァトーレは巨大な黒い塊を解き放った。
アドリアンは透明の壁の向こうで死闘を繰り広げるアニエス達を見て意を決し、
目を赤く輝かせ、口を大きく広げた。
「スピリットテラー!」
ジャン達が魔法を使うことができるようこの魔法の範囲を狭め、
精霊を恐怖させるオーラーを放つ。
これであの巨大な塊は消えると思った…しかし巨大な塊は消えずアドリアンに向かって
襲い掛かる。
「ちぃ!みすった!こりゃこいつの魔力の弾か!」
「ふははは!そうだ貴様が例の技をそろそろ使うと思っていたよ…!くくく!。
これは貴様に感づかれないよう闇の精霊を含ませた我が魔力で形成させたマジックブレッドだ。
さあどうする!これをかき消す事はたやすく無いぞ!!」
アドリアンは手に同じく魔力の塊を作り出し壁を蹴った。
直接襲い掛かる魔力の塊をぶつけた。
互いの魔力の塊が干渉して雷撃のような閃光が暴れだし、周りを破壊する。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
アドリアンはさらに魔力の弾を巨大化させる。
しかしヴァルヴァトーレの魔力の固まりもそれに応じてどんどん巨大化する。
「くくくくく!さぁ!死ぬがいい!死んで我の糧となれ!!!!」
「うおおおおおおおおお!」
アドリアンの眼が赤く光る、歯がぎりぎりと音を立て体の全てが軋む。
「ぬ!?」
ヴァルヴァトーレはアドリアンの様子が何かを変わったのを感じた。
アドリアンの髪が金から銀へと変わり、黒いオーラーを放ち段々と何かに変わっていく。
「こ…これは…やつの魂の正体か…」
ヴァルヴァトーレは見た…アドリアンの姿が銀髪のダンピールの姿に変わっていくのを。
銀髪のダンピールと化したアドリアンはどんどんヴァルヴァトーレの魔力の塊を押しかえす。
「くう!奴の魔力が高まり、こんな幻を見せるのか!!貴様は何をやっているのか
わかっているのか!!」
ヴァルヴァトーレの顔が恐怖に染まり、魂を吐くかの如く叫ぶ。
「やめろお!これ以上魂の力を引き出したら…!貴様の体が飛び散るぞ!!!!」
「くくく!てめえ…何びびってやがる」
アドリアンはヴァルヴァトーレを嘲笑い、どんどんと押しかえす。
腕から血が飛び散り、目がカッと大きく開く。
「う…うあ…うあああああああ!やめろおおおおお!!!」
「死ねぇヴァルヴァトーレ!吸血鬼は…てめえの棲む闇へ帰りやがれれぇぇぇぇ!!」
ヴァルヴァトーレは誇大に膨れ上がった魔力に押し潰され徐々に体が消滅しだした。
「う…この力は…この力は…!うぐあああああああああああ!!!」
「ライトニング・クラウド!!」
5体の偏在のジャンはライトニング・クラウドを作り出し、己の杖剣に電撃を帯びさせる
ジャン5対は高く飛び上がり電撃を帯びた剣を巨人に向かって振り上げる。
「ぐヴぃあああああ!!!!」
脳天にジャンの電撃の剣を喰らい、巨人の体がガタガタと震わし、頭が爆ぜた。
「すごいな…」
アニエスは次々と襲い掛かる死人を切り殺しながら関心する。
「ふふ。アドリアンと喧嘩して白兵戦の大切さを改めて知ったからな」
そうジャンは照れながら杖剣を構える。
「終わったか。さすが子爵だ。ますます腕を上げたな」
残りの二体を仕留めたゼッサール達はジャン達にかけよる。
「あとは若か…」
ギュンターはアドリアンが死闘を繰り広げる所に目を向けるた。
「なんだありゃ…」
ヴィンツェンツォは玉座のあった所にを見て呆然とす。
そこは黒い塊が次々と爆ぜていた。
辺りが何度も爆音が鳴り響く。
「アドリアン!!」
アニエスは空に向かって叫ぶ。
光が段々と収束し…霧が晴れるように四散し、透明な壁が消える。
「アドリアン…」
ジャンは呆然と上を見る。
そこにはボロボロになり元の姿と戻ったアドリアンが宙に漂っていた。
そして、グラっとアドリアンの体がかたむき、地に堕ちた。
「いかん!」
ジャンは地に堕ちるアドリアンに疾風の如き速さで飛び上がり、
なんとかアドリアンの体をキャッチする。
「アドリアン!しっかりしろ!!」
ジャンはアドリアンの体を見る。
「う!」
アドリアンの体は服がボロボロになり、露になっている肌から血が流れていた。
「アドリアン!」
アニエスはジャンを押しのけ、体を揺らす。
「おい!しっかりしろ!死ぬんじゃない!!
ここで死なれては貴様に仕返しができないではないか!!」
アニエス涙を溜めながら反応が無いアドリアンの頬を叩く。
だがいくら叩いてもアドリアンは意識を取り戻さない。
「ミス・アニエス…よさないか…」
ゼッサールは悲しげな表情でアニエスの肩を叩く。
「嫌だ!こいつがこんな所で死ぬわけが無い!こんな事許すわけが…」
アニエスは叫ぶ最中、胸に嫌なものを感じた。
「…」
アニエスは顔を下に向けると…。
アドリアンの手がアニエスの胸をわしづかみしていた…。
アニエスはアドリアンの体を叩きつけ、ギュンターとヴィンツェンツォは
一斉にアドリアンの体を蹴りまくる。
「ぐあああああああ!!いてええじゃねえか!!」
血にまみれたアドリアンは勢いよく飛び上がり、ヴィンツェンツォの足を掴み、
振り回しまくりギュンターにぶつけた。
「げはははははは!てめえら俺をぼこぼこにするなんざ愉快じゃねえか!死にやがれ!!」
「死ぬのは…お前だあああああああああああ!!!」
涙をためて顔を赤くぶるぶると震わしたアニエスがアドリアンの頭を殴りまくった。
「いたたたたたた!」
アニエスはアドリアンを座らせ、傷だらけのアドリアンの体を見る。
「馬鹿者が!!…こんなに傷だらけになりおって…、どれだけ心配したことか…」
「…ごめん」
アドリアンは震えるアニエスの体を抱いて申し訳無さそうにする。
「ふん…」
アニエスは立ち上がって、赤くなった顔をそむける。
「しかし…ついにやったな…すごいぞアドリアン」
ジャンは笑顔を作り、アドリアンの胸をどんと軽く殴る。
「ああ、今回はまじで死ぬかと思ったぜ」
アドリアンは笑いながら死闘を繰り広げた広場を見る。
「かっかっか!とりあえずよ。さっさとこんな場所から立ち去って、
さっきの小屋で前祝で飲み会しようじゃねえか」
ヴィンツェンツォは大笑いする。
「はっは!それはいい。では行こうとするか」
ゼッサールの言葉にジャン達も頷いた。
「ふふ…ふふふ」
アニエスはその言葉を聞いて目が光る。
「ふぇ?」
アドリアンは壮絶に嫌な予感がして顔を青ざめる。
アニエスはサディスティックに笑い、アドリアンの顔を掴む。
「え…とお姉さん?」
アドリアンは心胆を冷やしながらアニエスに問う。
「クス…飲み会か…いいなぁ…アドリアンお前は散々皆に迷惑を掛けたんだ…。
しっかりと子供らしく大人の付き合いに参加するんだな…」
「…あかん。いやだ!」
嫌がるアドリアンにギュンターとヴィンツェンツォはヴァリーエル家に伝わる?
アドリアン捕縛方を発動させた。
ヴィンツェンツォはアドリアンの体を素早く縄で締め上げ、ジャンがその縄に固定化をかける。
そしてギュンターが猿轡をして担ぎ上げた。
「ふふ…アドリアン…覚悟しろ…たっぷり可愛がってやる…」
アニエスは妖艶に笑い舌なめずりをする。
「ヴヴヴヴヴうヴうヴううヴうヴうっヴ」
アドリアンの顔が血の気が失せ…。
「アアアアアアアアアアアア」
主の無くなった城からなんとも言えない悲壮な叫びが広がった…。
こうして吸血鬼騒動は幕を閉じた。
この功績をもってアニエスはアドリアンやジャン、ゼッサールの推薦による。
初の女性騎士としてシュヴァリエを得て晴れて貴族になる事ができた。
これにて一件落着だという事だったが…。
無事吸血鬼を倒し生き残ったアドリアンにリッシュモン達は驚き、戦慄を感じた。
そしてこの件により彼らは少年一人を吸血鬼退治に送ったという真実が明るみに出て
屈辱に塗れさらに憎悪の炎を燃やすのであった…。