「そろそろか・・・・・」
冬木市にある広大な屋敷の部屋の一室で横たわるその男は最後の時を感じていた。
数十年前、世界を震撼させた第三次世界大戦の勃発。
その戦争のさなか、戦争に巻き込まれた人々の全てを救った男はそれからも
各国で起きる様々な事件に対応し、いつしか英雄として語られるようになっていた。
「調子はどう?」
「まあ、もう持たないだろうな・・・・」
「そう・・・」
そんな男に声を掛けた女性は憂いを帯びた表情で彼を見る。
「よくここまで生きられたよ」
「ほんとよ、無茶し過ぎでいつか絶対に死ぬと思っていたのにね」
「でもそのおかげで戦争を無くすことができたし」
「あぁ、士郎が生きる英雄として祀られるようになったあれね・・・・」
男を見つめながらその手に真っ赤なルビーの宝石を何個か取り出しそれまで穏やかだった女性の表情が一気に般若の相に変わっていく。
「ちょ、タンマタンマっ!!今、遠坂の魔術なんか喰らったら消し飛ぶからっ!!」
これはたまらず、焦った男は女性を必死に止める。
「ま、そうか・・・」
「ふ~、ホントに残ってる寿命が一気に削れるから止めてくれ」
「ふふっ、・・・・それにしても『遠坂』か・・・・・」
十代からの付き合いになる目の前に横たわっている彼から呼ばれ続けた彼女の呼び名。
「どうしたんだ遠坂?」
「結局セイバーに勝てなかったなぁって」
「何をだ?」
「はぁ・・・・。士郎の鈍さは時がたっても変わらないのね・・・・・」
男に呆れながらも女性は笑顔を浮かべる。
男は首をかしげながらも彼が住んでいるこの大きな屋敷を見渡す。
「もうあれから何十年も経ったんだな・・・・」
傷み始めている屋敷を見渡すと当時の様子が浮かび上がってくる。
「・・・・・そうね・・・・」
この二人が今のような関係になった発端、『聖杯戦争』。
「あの日さ、俺は掃除が終わって帰る時に偶然、ランサーとアーチャーが戦ってるのを見たんだ」
赤と青の影が夜の学校で交差していた光景を懐かしみながら呟く。
「で俺がランサーに襲われて」
「私が死にかけていた士郎を助けて」
「逃げても追いかけて来たランサーにあの土倉で追い詰められてさ」
懐かしむようにところどころ新しくなっている土倉を見て目を細める。
「アイツに、セイバーに会ったんだ・・・・・」
今でも忘れていない、彼とセイバーと呼ばれる少女が初めて会った場所。
『問おう、貴方が私のマスターか?』
追い詰められた士郎を助けるように現れた少女、今なお、男の脳裏に焼き付いて離れないその光景に笑顔を浮かべる。
男が思い浮かべているのは、彼の頭の中にある短いながらも特別な物語。
「でも、今の士郎は本当にアーチャーにそっくりよ」
「なぁっ!?」
彼が一番嫌いな男と似ていると言われ久しぶりに感情的になった事に女性はクスクスと笑いながらその真っ白になった髪をなでる。
「でも、アーチャーはアーチャー、士郎は士郎だからね?」
「ああ」
そう言いながら男はふと自分の感覚が薄れてきているのに気がついた。
「そろそろだな、もう魔力が残ってない・・・・」
「ええ、お別れね・・・・・」
「・・・・泣くなよ遠坂・・・」
ふるえる手で男は女性の頬を伝う涙をぬぐう。
「馬鹿ね、私が泣く訳ないでしょ?」
「そうだったな・・・・」
最後まで昔のように見栄を張る女性に苦笑する。
「じゃあ、昔みたいに送り出してくれよ」
「分かったわ・・・・」
女性は目元を拭うと目を真っ赤にしながら出来る限りの笑顔を向ける。
「いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
戦場に赴く前に必ずと言っていい程交わした言葉。
彼女が絞り出すような声でそう言ったのに笑うと彼は文字どうりこの世から消えた。
「やっと、行ったか・・・・・」
女性は散々溜めこんだ疲労を吐き出すように呟くとまぶしい程に蒼い天を見上げる。
「今度こそ士郎を幸せにしてね、セイバー」
親友であり、下僕であり、去ってなお彼女が愛していた男の心を離さなかった少女に笑いかけるように何処までも晴れた大空を誰も居なくなった屋敷の部屋から笑っていた。