全体的に強化してみたハイスクールD×D 赤龍帝とブラコン弟   作:空騒

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lifa.4 赤い夢と部活訪問

 昔、一誠は川に足を滑らせてしまった一実を飛び込んで助けた事がある。

 溺れる一実を抱き締めて、我武者羅に陸まで泳いだ。一実は何とか陸に上げたが、今度は一誠が何かに引っ張られた様に流され、そのまま沈んでしまった。

 父が一誠を引っ張り上げて何とか事なきを得たがその時の記憶は今だに色褪せていない。

 

 ――今、一誠が感じている感覚は、その時に感じた感覚に酷似していた。

 

(俺、死ぬのかな……)

 

 夕麻の放った槍を胸に受けた一誠。視界が真っ暗になり、何処までも深く沈んでいく感覚に、明確な死を連想した。

 

(死にたくねぇなあ)

 

 まだ、悔いが沢山残っていた。

 まだ童貞だって捨てていない。おっぱいを揉んだこともない。キスも、深い方のキスもしていない。エロい事が何一つとして出来ていなかった。余りにも、余りにも心残りだった。

 そして何より、

 

「おいっ、確りしろ、兄貴!」

 

 弟の一実が、一番の心残り、いや、後悔だった。

 聞こえる弟の声は、久しく聞いていなかった涙声。もう体の感覚もない一誠へ、必死に声を掛けている。

 情けない。どうしようもなく、情けない。守ると言ったのに。このままでは一実も殺されてしまう。

 

(……死ねないな……まだ、死にたくない)

 

 何故こうなったのか。そんな事は決まっている。

 

(……俺が、弱いから……だから――)

 

 理不尽、不条理、不幸、苦痛。そんなモノに晒され、命を奪われてしまうのは何故か。弱いからだ。体が、心が、精神そのものが弱いからだ。

 弱いから、失うのだ。

 

 ――力が欲しい、強くなりたい

 

 純粋なまでの力への渇望。本来なら何の意味も持たない願望。

 それに応える者がいた。

 

『届いた。ああ、やっと届いたぞ』

 

 一誠の視界が鮮烈な赤で埋め尽くされた。

 音も光も無い暗闇に、突然現れた極大の存在。

 火山から流れるマグマの様な真紅の鱗に包まれた圧倒的巨体。いつか旅行で見た、樹齢千年の神木よりも太い腕と足。大きく裂けた口。頭には鋭く、太い角が並んでいる。堂々と佇む姿は帝王の様な風格を纏い、大きく開かれた翼が、迫力をより一層圧倒的なものとしている。

 そして、血の様に赤い瞳には慈愛が宿っていた。

 

(……ドラゴン?)

 

 一誠は理解できていた。目の前の存在が、自分を殺した夕麻より遥かに強大な存在である事が。

 何故、そんな存在が目の前にいるのか理解出来なかった。そんな一誠を、凶悪な顔に優しさを滲ませたような表情で赤い龍は見下ろした。

 

『そうだ。俺は龍帝。お前達をずっと、ずっと見守ってきた龍だ。愛しき相棒よ』

 

 困惑する一誠に龍はそう言葉を告げた。

 

(相棒? ずっと見守っていた?)

『そうだ。お前が求めなかったから、望まなかったから、俺の声はお前に届かなかった。……唯見守っている事しか出来なかった。だが、それももう終わりだ』

 

 そう言葉を切ると、巨大な双翼をはためかせた。

 そして、暗闇を吹き飛ばす様な咆哮が轟いた。

 

『力を望む者よ! 愛しき新たな担い手よ! 刮目し、その魂に刻み込め! 我が名は――』

 

 左腕に耐え難い熱を感じた。

 左腕へ目を向けると、いつの間にか装着されていた龍の手の形が変形し、紋章が浮かび上がっていた。

 

▼△▼

 

『……お兄ちゃん、起きてる? 起きてないよね。えへへ、じゃあ、朝の健康管理……始めるね』

 

 枕元から聞こえる妹の声に、一誠の思考は即座にクリアとなり、完全覚醒を果たした。今から起きるお愉しみを寝過ごすなど一誠にとって有り得なかった。

 

「……朝か」

 

 妹の声が目覚まし時計のボイスだと理解した瞬間、壮絶な虚しさと寂しさが一誠に襲い掛かった。

 買い替えてから、グレードアップした目覚まし時計は、声優の演技の秀逸さと一誠好みのシチュエーションにより、値段を遥かに超える価値があった。

 だが、問題点としてこの寝起きから賢者タイムとなる事があった。

 

「……兄貴と同時に酷え起き方するのに、この上ない幸福と情けなさを感じるぜ」

 

 隣から聞こえた声に、一誠は視線を向けた。

 ベッドの隣には椅子に腰掛けて膝掛けを畳んでいる、寝間着姿の一実がいた。

 

「……おはよう、一実」

「ああ、おはよう兄貴」

 

 目が合うと挨拶を交わす二人。だが、それきりでパタリと黙り込んでしまった。いつも一緒にいると喧しいこの兄弟では考えられないような空間が出来上がった。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に気不味い空気が流れた。

 一誠も一実も、相手に負い目を感じ、責任と罪悪感を抱いている。話したい事や聞きたいことが沢山あるが、自分から言うのには少し勇気が必要だった。

 

「……なぁ、一実」

 

 先に沈黙を破ったのは一誠だった。

 

「どうした、兄貴」

「怪我、大丈夫か?」

 

 一実の肩に巻かれた包帯。薄手の寝間着ではその形がくっきりと浮かび上がってしまっている。

 それは、昨日出来事が夢などという都合の良い考えを打ち砕く証拠でもあった。

 

「ああ、肩はもう治ってる。足はまだだけど、心配するほど深くないよ。ありがとう、兄貴」

「そうか……良かった」

 

 一誠は安堵の溜息を吐いた。その時に自然と手を胸に当てていた。

 そこで、自分の体に違和感を覚えた。

 

「……一実、俺なんで生きているんだ?」

 

 水底に沈んでいくようなあの感覚、逃れられない死の予感を一誠は確かに感じた。

 だが現実に、自分は生きている。弟と顔を合わせていつもの様に会話している。そして、起きてから感じる異様な倦怠感。力が湧かず、性欲も微妙に減退しているような気がした。

 

「…………兄貴、それなんだけどな」

 

 一誠と合わせていた目線を逸らして、少し言い淀む様に一実は言葉を絞り出した。

 

「少し、事情があってな……」

「事情?」

「ああ。今日の放課後に、兄貴の所に関係者が行くって言っていたよ」

「……言っていたって事は、一実は誰かと会ったのか?」

「うん。その方が、兄貴を助けてくれたらしい。詳しい説明は関係者について行けばしてくれるって」

「……そうか」

 

 そう言って、一誠はボフンと枕に頭を預けた。

 何がどうなって自分が助かったのかは全く分からないが、一実が何かを隠しているのは分かった。それに対して疑問が無いと言ったら嘘になるが、それ以上に弟を信頼している。だから、深く追及しようとは思わなかった。

 

「……一実も、来るのか?」

 

 寝転んだまま、一実に問い掛けた。敢えて主語が抜かれた分かりにくい言葉で。その言葉でも、一実には伝わったようだ。

 

「俺も当事者だし、直接話したからな。行かない訳がないよ」

「そうか。お前がいるなら、安心だな」

 

 朝の倦怠感のせいでか、少し元気の無い笑顔を一実に向ける一誠。 

 

「なぁ兄貴、体調は悪くないか? 悪いなら、学校にも連絡するから、今日は休んで放課後に話しを聞きに行っても……」

「ハハハ、そんな心配すんなよ一実。確かに力も性欲も減退しているけど、大丈夫だって」

 

 元気の無い様子がする一誠へ心配の声を掛ける一実。そんな弟に笑いながら応えた。

 

「それなら良かった……ん?」

 

 一誠の口から出た言葉に、一実は耳を疑った。一誠が、あの一誠が、性欲の減退を訴えるなど、最早体調不良などでは済まない。

 

「やっぱり休め兄ちゃんっ! 俺が連絡しとくから心配すんな。今すぐ精力剤とエロ本持ってくるから待ってろ!!」

「いやいやいやっ、待て早まんな! 何で性欲の減退でそこまで心配されんだよ?!」

「性欲が減退した兄ちゃんなんて、残りっカスしか残んねえじゃんか!」

「酷えよ! 俺の存在大体性欲じゃねえか!?」

「とにかく寝てろよ!」

 

 急いで部屋を出ようとする一実。それを飛び起きて羽交い締めにする一誠。ドタバタと騒がしく取っ組み合う二人。

 そんな二人を目覚まし代わりに両親は起床し、二人に声を掛けて、しばらくすると二人は大人しく一階へ降りて行った。

 

 兵藤家のいつもの朝が訪れた。

 

▼△▼

 

 学校のクラスで、最低でも一人、変わった人がいる事がある。オタクと呼ばれる者だったり、個性が無駄に強かったり、変態性が高かったり。兎に角キャラが濃過ぎる人がいるだろう。

 そんな人は二通りに別れる。排他の対象か受け入れられるか。つまりイジメか慣れられるかだ。最近の学校では大体後者になる事が多く、イジメの対象となる事は少ない傾向にある。最低限のコミュ力と友人がいることが前提だが。

 

 何が言いたいかというと。

 

 どんなド変態がいても、人間は慣れる生き物だということだ。

 

 

 

 塔城小猫のクラスには変態がいる。

 まだ生徒の姿も疎らな朝の教室。教室にはまだ数える程の生徒しか居ない。

 小猫は教室の扉を開くと、自分の机向かって歩いた。

 

「あ、おはよー小猫ちゃん」

「……おはよう」

 

 級友からの挨拶に返事をする。そして、自分の席に着いた。

 

「おはよう。小猫ちゃん」

「……おはようございます、一実くん」

 

 笑顔で掛けられた声に、返事をした。

 兵藤一実。小猫が入学して初日から積極的に話し掛けてきた、高校での初めての友人だ。そして凄まじい変態でもある。

 

「……今日は何ですか?」

「フルーツサンドとキャラメルロールだよ」

 

 ()から伸びてきた手に握られた小包を受け取ると、小猫は封を開け始めた。

 一実の上で。

 

「……今日は何時から居たんですか?」

「小猫ちゃんが来る五分前だよ。ちょっと危なかった」

「……そう言っても私より早いのはやっぱりキモいです」

 

 そう言って、一実から受け取ったフルーツサンドを食べる小猫。フルーツサンドとキャラメルロールは両方とも一実の手作りだ。四つん這いになっている変態を座椅子にして白髪の美少女がお菓子を食べる光景は、あまりに絵面が酷い。

 

「お、一実おはよう。俺等の分はあるか?」

「来て早々にタカるとはいい性格してんな。カバンの中に残りがあるから欲しいなら勝手に取っていいぞ」

「流石太っ腹だな! じゃあ頂くぜ」

 

 座椅子になっている一実に話し掛けるクラスメイト。小猫の隣に位置する一実の席に、次々と人が集まる。誰一人として、一実の行動にツッコミを入れない。それがもう『いつもの光景』だからだ。

 入学して早々、犯罪的な容姿をしている美少女に話し掛け、好きだと聞いた次の日にはお菓子を持ってくる。更には手作りまで手を出す。挙句の果てには椅子になる。そして、小猫の居た空間でひたすら深呼吸をしている事も目撃されている。

 一実の入学から始まる変態行動は、もうクラスメイトにとっては日常と変わりなかった。一実が病欠して、小猫が平穏な一日を過ごしている方に違和感を感じる程には。

 

「ほらーホームルーム始めっから席付けー。……お前もだぞ兵藤」

 

 バシンと、プリントの束で少し強めに一実の頭が叩かれた。担任も、もう慣れてしまったのか、対応が適当になっている。

 

「あと、あと十秒だけお尻の感触を楽しませてください!」

「仕方ないなぁ……あと十秒だけだぞ」

「……私の意思はないんですか」

 

 小猫の呟きは教室の喧騒に飲み込まれて消えていった。

 

▼△▼

 

 騒がしくも相変わらず退屈出来ない一日が終わり、放課後のチャイムが響いた。

 ぞろぞろと生徒達が下校か部活に向かう中、小猫はカバンを背負う一実に声を掛けた。

 

「一実くん、少しいいですか?」

「ん? どうしたの小猫ちゃん。オレ行かなきゃいけないとこあるから急ぎでお願い」

「その事です」

「……分かった」

 

 小猫は、彼女の主から一実を連れて来るように頼まれていた。一実の性格上有り得ないが念のためという理由でだ。

 事情を知らない小猫からしたら、突然自分の友人が呼び出された事に驚きを感じていた。理由を聞いたが、詳しくは本人を連れて来たらの一点張りだった。

 「じゃあ、行こうか」と一実に声を掛けられた。小猫は自分の鞄を手に取ると、一実と隣り合って教室から出た。

 背後で、

 

『お、おい。今の見たか?』

『ああ、一実と小猫ちゃんが一緒に出て行ったな』

『もしかして、もしかしたのか?』

『したんじゃねぇかな』

『やっぱか! くぅ〜、一実死ね!』

『あぁ、そうだな。羨ましいな一実死ね』

 

 そんな会話が少し離れた教室から聞こえてきた。

 何がもしかしたのか気になるが、小猫にとって知っても後悔しかしないのは確かだった。

 廊下の喧騒の中、一実が問い掛けてきた。

 

「小猫ちゃん。旧校舎に来いってオレは言われたんだけど、何があんの?」

「私の部活です」

「……小猫ちゃんって、部活入ってたんだ。……何の部活?」

 

 一実の問い掛けに、小猫は短く答えた。

 今までよく話をしてきたが、一実が帰宅部という都合上、部活を話題に挙げることはなかった。一実にとって本来なら喜ぶべき新しい情報なのだが、この状況で言われると、悪い予感しかしなかった。

 

「オカルト研究部です」

 

 一実の苦手な部活上位の名前が、小猫の口から飛び出した。

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