全体的に強化してみたハイスクールD×D 赤龍帝とブラコン弟 作:空騒
オカルト研究部。一実はこの手の部活にあまり好意的な印象を抱いていなかった。
理由は、単純。活動内容が好きでないのだ。
異世界との交信。地球外生命体との接触。UMAの発見。エトセトラ。
部活動の範囲で出来ていたら、研究所の存在自体不必要になる。それに、
本物を見て、そういう存在を知ったら。恐らくそんな活動はできなくなってしまうから。
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小猫と一緒に旧校舎へと歩を進めて数分。一実は上機嫌だった。
頭のアホ毛を尻尾のように左右させている一実。オカルト研究部というあまりにも胡散臭い部に向かうのは気が進まないが、何よりも小猫と一緒に歩いている事が嬉しく楽しい。
学校の裏手にある旧校舎へと歩く。木々が並ぶ林を抜けると、木造の校舎が見えてきた。
「……ここですよ」
「あれ、もう? ……おー、思ってたより綺麗だね」
基本的に旧校舎へ一般生徒が近付く事はない。不気味な噂や七不思議の類がある訳でなく、そもそも近寄る理由がないのだ。
一実も存在や位置は知っていたが、今日までその姿を見ることは無かった。
実際目にすると、外観はかなり古く感じるが、汚いといった雰囲気は無い。校舎に刻まれたキズは分り難くするために修復された痕が見え、ガラス窓は割れてすらいない。古いだけで、状態だけなら現役で使われていても不思議でない程には綺麗に手入れされている様に見える。
「……少し綺麗過ぎない?」
「私達が使っている都合上、汚くしておくのは問題ですので」
少し違和感を覚える程に整備されている旧校舎を見て一実が小猫に問い掛けた。一部活動を行うのに、ここまで校舎を整える必要はないはずだと、そんな意味の言葉を。
それに素っ気無く答えて、小猫は旧校舎へとさっさと入ってしまった。少し置いて行かれ気味の一実は小走りで小猫に続き、校舎に入る。
校舎の中もやはり綺麗に掃除がされており、目立った損壊もない。
一実が物珍しげに校舎内を見回しているのを横目に、小猫は階段を登り始めた。一実も気付いて後を追う。
階段も軋みを上げることもせず、古い外観に反して非常に安心感があった。
旧校舎の見た目はアンバランスにも思える丈夫さに一実が感心していると、小猫の足が止まった。
突然の停止に、小猫にぶつかってしまった。
「……やるね、小猫ちゃん」
「……いきなり変態行動をするのはやめて下さい。激しくキモいです」
「そう言いながら慣れちゃってる小猫ちゃんステキ」
訂正。ぶつかるフリして抱きつこうとした。だが、素早く一実の腕を掴んだ小猫により無力化された。
最初は許可を取って撫でようとしてきたが、お菓子の効力で許可を繰り返してしまい、拒絶しなければ抱き着くまでは、隙を伺って仕掛けてくるようになった。
小猫も、この程度はスキンシップやじゃれ合いの範囲内だと認識していた。
「……入りますよ」
「あいあいさ」
小猫が声を掛けると、一実はさっさと腕を解き、小猫が止まった教室の扉に顔を向けた。扉にはプレートが掛けられ、『オカルト研究部』と書かれている。
「……一実くんを連れてきました」
小猫が中へ確認を取ると、「待ってたわ、入ってちょうだい」と言う声が帰ってきた。一実が昨晩話した声と同じだった。
小猫が扉を開けて中に入るのに続いて、一実も室内に入った。
一実の視界にまず飛び込んで来たのは文字だった。
見たこともない文字と数字らしき単語が羅列し、幾つも陣を作っていた。
(魔法陣……? いや、数秘術の要素も取り入れられているから……この場合は魔方陣か?)
陣は数字が中心に展開され、文字は補助的な位置にあるように見える。そこから一実は陣を魔方陣だと認識した。
特徴的な魔方陣以外には、多数の書物が収められた本棚、落ち着いた色合いのソファー、窓を全て覆い隠す遮光カーテン等様々な調度品が設置されている。豪華だが、気品を感じる部屋だ。とてもオカルト研究部の部室だとは思えなかった。
そして、ソファーに座り、優雅な雰囲気で一実に笑顔を向ける人物に、一実は視線を向けた。
「待ってたわ、一実くん。まだ全員揃ってないから、少し座って待っていてちょうだい」
紅い長髪に蒼い双眸、そして人間離れした美貌。ただ声を掛けられただけなのに、心臓を掴み取られた様な感覚を一実は感じていた。学園で『二大お姉様』と呼ばれる美少女。リアス・グレモリー。
ふざけた返事を返す気にもならず、一実は「はい」と返事をすると、ソファーに座った。
すぅ、と体重が吸い込まれる様に感じた。柔らかさ、座り心地ともに一級品だった。
「ソファー、気に入ってくれたかしら。実家から取り寄せた一級品よ。私も気に入ってるの」
「……あ、ヤバイですね……気持ち良すぎて立ちたくなくなります……」
「一実くん、ニュウドウカジカみたいな顔していますよ……」
「キモいより尚更酷いよねそれ」
リアスと目を合わせてから、少し緊張していた一実の力が抜けた。表情筋が弛緩した顔に、リアスは笑顔を見せるが、一実の隣に座る小猫は辛辣な言葉を呟いた。
あんまりな言い草に、一実が抗議していると、部屋の奥から足音が近付いて来た。
「あら、その子が例の?」
歩いてきたのは黒い髪を長いポニーテールにしている、今亡き大和撫子のような雰囲気を漂わせた女性だった。『二大お姉様』の称号をリアスと共に持つ美少女、姫島朱乃だ。彼女はお盆を運んでおり、その上には急須と湯呑が置かれている。
「そうよ。私を振った弟くん」
ねぇ、と一実に流し目をする。恐ろしくて一実は目を絶対に合わせないようにしながら、カバンを探っている。その様子に小猫が眉根を寄せた。元々良く分からない状況なのに、リアスの言葉と一実の行動で余計に事態の把握が出来ない。ついに我慢し切れず一実に問い掛けた。
「……部長を振った?」
「あっ、良かったら羊羹持ってきたんで食べませんか?!」
子供でも分かる露骨な話題変更。
一実は素早い動作で二本の羊羹を取り出し、いつも持ち歩いている切り分け用のナイフで切り始めた。
朱乃が気を利かせて持って来た小皿に均等に分ける一実。小猫の羊羹が少し大きい事に、さっきの話しは聞かなかったことにして欲しいという意志が感じられた。しかし、その程度で釣られる小猫ではない。
「一実くん、しっかりと分かるように説明し――」
「スルーしてくれるなら『馬面堂』の羊羹丸々一本贈呈」
「……今回は見逃してあげましょう」
量を提示されたら仕方ない。
一実に詰め寄ろうと腰を上げていた小猫は静かに座り、他の皿よりも一回大きい羊羹に一実が持って来た和菓子用フォークで食べ始めた。
どうにか問題を先送りにした一実は、安堵のため息を吐くと小猫に笑顔を向けて言った。
「小猫ちゃん。今オレの膝に座ってくれたら明日のお菓子は――」
ぽすんっと、言い切る前に小猫が一実の膝に腰を掛けた。小猫の体臭、小猫の重み、小猫の柔らかさ。そして即座に座ってくれた事に対して、一実は片手で顔を覆って歓喜に震えた。
「……面白い子ね」
「そうでしょう?」
羊羹を口に運んでいたリアスと朱乃は、二人の様子を眺めてクスクスと笑っていた。
それから十分して、大分疲れた様子の祐斗が一誠を連れて部室に戻った。
遅れた理由に祐斗は、「同じ生き物とは思えない様な速さで逃げられた」と言った。
その件に関して当の一誠は、「イケメンが笑顔で追っ掛けて来たから全力で逃げた」と返答した。
追いかけるイケメンか、逃げる二枚目半か、どちらが悪いのか分からないまま、話しは始まった。
▼△▼
面々が揃い、和気藹々とした雰囲気が霧散した。
一誠と一実、ついでに一実の膝に座って羊羹を食べる小猫の正面に、テーブルを隔てていリアスが座り一誠と一実を見ている。
圧迫面接の様な構図に、一瞬胃が痛くなる一誠だが、モクモクと羊羹を口に運ぶ小猫を見て即座に和らいだ。
「最初に聞いておくわ。手短に単刀直入で説明されるのと、ゆっくり丁寧に説明されるの、どちらが良いかしら?」
「え……じゃあゆっくりで」
リアスの言葉に一誠が答えた。
何故だが学園一のクソイケメンに連れて来られた先は旧校舎のオカルト研究部――オカ研と部員達は略していた。そして部屋には二大お姉様と学園のマスコットを膝に乗せる弟。
全く状況について行けなかった。
「じゃあまず、一誠くん、貴方昨日のことは覚えてる?」
「…………はい」
少し表情を暗くする一誠に、リアスは少し申し訳無いと思いながら話し始めた。
曰く、自分達は悪魔であり、オカ研は活動を円滑にするための隠蓑である。一誠達が襲われた日に一実が持っていたチラシで呼び出され死亡した一誠を生き返らせ、悪魔にした。
曰く、襲ったのは堕天使であり、自分達は悪魔と古来より敵対している種族である。彼等の目的は敵対する可能性のある神器所有者を殺害、または勧誘して脅威の排除と自陣営の戦力強化である。
「と言う事よ。分かったかしら?」
「は、はい……なんとか」
一通り話すと、リアスは一誠に確認をとった。一誠も何とか理解出来たようで、少々不安な返事を返した。
そして、今度は一誠が確認を取るために声を出した。
「お、俺、人間じゃなくなったんですか?」
「えぇ。もう死んでしまっていたから、それ以外貴方が助かる方法はなかったの」
「……一実も、悪魔になったんですか?」
小猫の頭に顔を埋めて、柔らかそうな頬をツンツンしている一実を見ながら、一誠は問い掛けた。
「いいえ。彼も勧誘したけど、強く断られちゃったわ」
「そうですか……。一実、何で断ったんだ?」
さっき聞いた話しで悪魔についての説明もされていた。悪魔は寿命が非常に永く、身体能力も人間と比べるまでもなく高い。五感も強く、魔力と呼ばれる力を備えている。代わりに朝に弱くなったり、十字架等の聖なる物や光に滅法弱くなる。デメリットもあるが、それ以上に魅力的なメリットが多い。特に身体能力の向上は一実にとって最も魅力を感じるメリットだ。
一実を知るからこそ、一誠は疑問に思った。
「……兄貴は不可抗力だから仕方ないけどさ」
フニフニと無抵抗を貫く小猫の頬の感触を確かめながら、一実は呟くように言った。
「父さんと母さんから貰った体を、勝手に別のモンにしたくない。それに――」
悪魔の行使する転生は、特殊なチェスの駒を対象の実力に対応した個数消費して肉体を変質させ、魂までも一度呼び戻す。つまりは肉体を作り変えなければならない。
それは兄と並んで敬愛している両親から貰った体を捨てる事に他ならず、愛着ある弱小な体を捨てる事を一実は出来なかった。
そして、
「オレは、『化物』に成りたくない。絶対にな」
ピクリと、オカ研メンバーの視線が集中した。膝の小猫は振り向かないが、尋常ならざる嫌悪を含んだ言葉を間近で聞いて固まっている。一誠も、何か言いたげな視線を一実に向けていた。
その言葉は、一実にとって偽り無い本心であり、絶対に譲りたくない一線。
そんな一実にオカ研メンバーが向ける視線は複雑だった。
「……すみません。ですが、これだけはどうしても譲れません」
「まぁ、あんな目に遭った後では、そうなるのも仕方ないわね」
リアスは一実の発言に理解を示すと、二度手を叩いて少し悪くなった空気を変えた。この話題は一実にもオカ研メンバーにも良くない。
「じゃあ次は、二人に神器を見せて貰いましょうか。二人共、出せるかしら?」
「俺は出せますよ」
「オレは出せません」
リアスの言葉に二人で手を挙げて答えた。
夕麻戦で一誠は何となくで出現させ、一実も出現させていたが、夕麻に対する憎悪で思考が真っ白になっていた一実は自身が発現していた事を覚えていない。
「この場は魔力で満ちているわ。神器の発現も容易な筈よ。一実くん、目を閉じて想像しなさい。自分の知る『最も強い存在』を」
言われるままに、一実は目を閉じた。
膝に座っていた小猫も、邪魔をしない様に立ち上がって少し離れた。
一実が知る中で一番強い存在。それは兄だった。
夕麻に襲われた時に、自分の前に立って立ち向かった兄の背中。その前も、ずっと前も守ってくれた背中。瞼の裏で鮮麗に再生される背中。それと同時に再生される、力尽きた兄の姿。
「望みなさい。力を」
あの時、もし自分が神器を発現させていたら、一誠は死ななかったかも知れない。足手まといにならない力があったら、一誠の力になれたかも知れない。
あのクソ人外をぶち殺せたかも知れない。
「……」
ズシリと、一実の両手に何かが握られた。
目を開けて両手重みを確認する。一実の手には黒い刀身の鉈と、同色の拳銃が握られていた。
一実が発現するのと合わせて、一誠も籠手を出現させた。
「……これは、当たりねぇ」
赤い籠手を装着した一誠と、剣と銃を出現させた一実を見て、リアスが呟いた。
二人の宿していた神器は、どちらも非常にレアな物だ。特に一誠は別格だ。
当の一誠は自分の籠手の形状が変わっているように感じて頻りに首を傾げ、一実は鉈を逆手に持ちながら引き金に触れないように拳銃を確認している。
そんな二人を眺めて、リアスは笑顔を浮かべて宣言した。
「改めて、歓迎するわ。新たな眷属とお客人。これからよろしく頼むわね、イッセー、カズミ」
リアスの背中から蝙蝠の様な翼が現れるのを皮切りに、オカ研メンバーも次々と翼を現した。
そして、イッセーの背中からも翼が現れた。
一人だけ翼を持たない一実は、取り敢えず鷹のポーズを取った。