全体的に強化してみたハイスクールD×D 赤龍帝とブラコン弟   作:空騒

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lifa.6 真夜中の模擬戦

 

 オカ研訪問から数日。兵藤家に少しの変化があった。

 

 日付がもうすぐ変わろうという頃、兵藤家の台所で一実は料理を作っていた。

 鍋に味噌を溶かして、時折味見をしつつ、並行してサバを焼いていく。

 テキパキとした動きは慣れを感じさせ、使い終わった食器をさっさと洗うところに家事スキルの高さが垣間見える。

 

「一実、私はもう寝るわよ」

「んー、おやすみ母さん」

「一実もあんまり夜更かししない様にね。早く寝るのよ」

「あいさ」

「じゃあ、一誠に()()()しっかりやりなさいって帰ったら伝えといて」

 

 そう言うと、母は寝室へと向かっていった。

 今、一実が作っているのは一誠の夜食だ。

 現在、一誠はバイトと偽って悪魔の仕事に専念している。

 オカ研訪問の一件から、一誠はオカ研の末席に加わる事となり、とある目標の為に全力でリアスから言い付けられた仕事をこなしている。

 悪魔の仕事とは、基本的に契約をとって相応の対価を得るというものだ。

 最近はわざわざ儀式をしてまで悪魔を召喚しようとする者は少なくなり、今ではチラシに簡易魔方陣を載せて配り、欲深い人間と契約を結び願いを叶えている。悪魔の世界も甘くないのだ。

 そして現在、一誠が励んでいるのはチラシ配りだ。

 一度契約したら、何度でも繰り返す人間が多く、その人間の自宅にチラシを投函して常連にする。本来ならリアス達が使役する使い魔にさせる仕事だが、一誠のような新米悪魔には下積みとしてその仕事を経験させるのだ。

 

「……今日は兄貴遅いなぁ」

 

 もう日付が変わってしまった。体力が無駄にある一誠は、チラシを投函する仕事と相性が良く、規定よりかなり多くチラシを配り、尚且つ日付が変わる前には帰ってくる。

 その事に対して小さな不安を抱いた。

 

 それから三十分程して、玄関の扉が開かれた。

 

「ただいまあ〜」

 

 気の抜けた一誠の声。

 一実は冷めてしまった料理を電子レンジで温め直し、リビングに入ってきた一誠に労りの言葉を掛けた。

 

「お帰り兄貴、お疲れさん。飯作っといたから座っててくれよ」

「おう、悪いな一実。何か手伝うか?」

「いいよ、座ってて。今の内にオレに聞かせる今日の話を考えといてくれよ」

 

 加熱終了のアラームが鳴ると、一実は手際良く取り出してテーブルに並べていく。

 

「おお、相変わらず旨そうだな。頂きます!」

「あたぼうよ。誰が作ってると思ってんだ」

 

 マグカップにコーヒーを淹れて、一誠はの対面に座る一実。

 一誠は食事に手を付けており、頬が膨れる程掻き込みながら美味そうに食べている。

 

「で、今日は何で遅くなったんだ?」

「ん? ……んぐ、ん……と、それだけどな」

 

 帰宅が遅い理由を尋ねられて、一誠は口の中の米と肉じゃがを飲み下すと話し出した。

 どうやら、チラシ配りが終わり、本格的に契約取りを任されたらしい。

 呼び出され、今日もチラシ配りかと思っいたらリアスに声を掛けられチラシ配りではなく契約を取り行く事を伝えられた。

 依頼者の元に行くために、リアスから移動用の貰い、転移用の魔方陣を準備していた朱乃から準備完了が伝えられると、一誠は陣の中央に立った。

 陣が光を溢れさせると、次の瞬間一誠は依頼者の目の前に転移していた。

 

「すげぇんだよ! ホントに一瞬で転移したんだぜ! もう魔力バンザイって感じだった!」

「うっわ羨ましい。あ、魔方陣どんな感じだった?」

「あー……えっと、一から九までの文字があったな。それと文字。周りのより大規模で、あと転移の間際幾つか数字が順々に光ったな。何かは忘れたけど」

 

 「ほー」と少し思考した。先日、気になっていた魔方陣の事を一実はリアスに尋ねた。答えは一実が予想した通り、数秘術を原型とした悪魔独自の魔法であり、数秘術元来の『隠された真理の発見と未来予測』という力を作り変え、魔力の調整や魔法の行使をより円滑に行う事を目的にしていると伝えられた。

 数秘術は本来は占術だ。数字を用いた未来予知や世界法則の解読を目的とされている。確かに占術なら、位置の特定や予測、調整などに適していると一実は納得した。

 この転移の魔法は、恐らくより現代的な構成であり、転移を確実にするために数字で位置を特定して送り出すのだろう。

 そこまで考えて一実は考察を終え、依頼の内容について話している一誠に耳を傾けた。

 穏やかな兄弟だけの夜食はこの後一時間近く続けられた。

 

▼△▼

 

 一誠の依頼内容を聞きながらの夕食も終わり、一実と一誠は食器を片付けていた。

 

「なあ、兄貴」

 

 自分の使った食器を洗う一誠に、明日、正確には今日の朝に食べる朝食の準備をしている一実が声を掛けた。

 

「ん? どした」

 

 最後の食器を片付けて振り向く一誠。同じく朝食の準備を終えた一実が、両手に銃と剣を持って一誠に笑顔を向けていた。

 

「食後の運動に行かないか?」

 

 

 深夜、時刻は深夜の一時を過ぎている。

 そんな時間帯にも関わらず、兵藤家から少し離れた位置にある林に、一誠と一実の姿があった。

 二人共動き易いジャージ姿。軽く柔軟をしながら、一実は何やら道具らしき物を木や地面に突き刺していた。

 

「……なぁー、一実ぃ。ホントに大丈夫なのか?」

「安心しろって兄貴。弟を信じろ」

 

 黙々と作業をする一実に、一誠が不安そうな声を掛けた。それも当然の事だ。今から二人がやろうとしている事は、深夜にやろうとする事では決してない。住宅地から少し離れたこの林であっても不安は残る。

 そんな一誠に一実は笑って答えた。自分を信じろと。

 

「うっし、準備終わりっと。兄貴、あそこからここまでなら大丈夫だぜ」

 

 一実は二十メートル程離れた位置を指差すとそう言った。

 その位置から一実がいる場所までは木が無く、ある程度開けた場所となっている。

 

「……信じるからな、一実」

「おう、じゃあ始めようぜ。模擬戦」

 

 二人がやろうとしている事、それは模擬戦だ。

 自宅で誘われた時、人に見られる危険を一誠は訴えて断ろうとしたが、口が回る一実に言い包められてしまって、結局近所の林でやる事になった。

 一実から言われた模擬戦を行う理由は、自分と相手の神器を把握する事、朝に行うと人目が多く一誠も弱体化している事、深夜の全開一誠が自分の実力を理解する事、単純に戦闘に慣れて外敵から身を守る為、等と納得が出来、かつ利点が多かった。

 そうしてホイホイと一誠は一実と模擬戦をする事になった。

 

「……」

 

 二人は距離を取ると、互いに神器を展開した。

 一誠の左腕に真っ赤なオーラを撒き散らしながら籠手が装着された。

 夕麻と戦った時とは違い、掌が露出していた装甲が今は指先まで赤い装甲で覆っている。

 変化した赤い龍の籠手。部活に初めて行ったあの日に、一誠はこの籠手の本当の名前をリアスから聞かされた。

 

『Boost!』

 

 妙に聞き覚えのある音声を響かせ、赤いオーラが一誠の体を包み込んだ。

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』それが一誠の宿す神器の本当の名前。

 見る者を圧倒する迫力を宿した籠手を纏う一誠に対峙する一実は、両手に銃と逆手に剣を握っている。そして、剣を握る右手の指先には、錠剤が摘まれていた。

 それを口に放り込むと奥歯で噛み潰して嚥下した。

 

「いつでも良いぞ兄貴」

「あいよ……手加減はしないからな」

 

 「当たり前だろ」と一実が言おうとした瞬間、一誠が動いた。地面を抉り取って加速して二人の間に存在した距離を一秒も掛からずゼロにした。

 一瞬の内に懐へ入り込み、拳を握り締める。一実の鳩尾目掛けて繰り出された強烈な一撃、だがそれは下から現れた銀により弾かれた。

 

「……っ!」

 

 咄嗟に距離を取る一誠。土埃を巻き上げながら一実に視線を向けた。

 銃口を一誠に向けている一実は、一瞬前とは違う姿をしていた。両足と両腕に機械的な銀色の装甲を纏っている。

 一実の挙動から目を逸らさないまま、一誠は一実に弾かれた右手をブラブラと振った。びりびりと痺れ、折れてはいないがかなりの痛みが走っている。

 強化された自分にダメージを与える事から、一実の身体能力を強化していると一誠は理解した。

 

「……うおっと!」

 

 ガンッ、と銃口から弾が放たれた。悪魔の反射神経と身体能力で避けるが、一発で終わる筈がない。

 何発もの弾丸が連射される。狙いは正確に一誠の急所を捉えており、悪魔である一誠でも命中したら危険極まりない。

 強化された人外の身体能力と一誠元来の第六感により弾丸の連射を避けきった。

 弾を撃ち切った一実がマガジンを地面に落としている間に一誠は一実に接近する。

 

『Boost!』

 

 二度目の音声が響いた。『赤龍帝の籠手』の能力。それは『人間界の十秒ごとに力を二倍にする』という反則的な倍加能力。龍の手(トゥワイス・クリティカル)の完全な上位互換に位置するたった一つの神器。それは極めれば神すら超える暴力。神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる世界に十三しか存在しない神器の一つ。それが『赤龍帝の籠手』だ。

 更に倍加された力で加速する一誠。

 弾丸の様に疾走する一誠を一実は視認していた。

 

「ワルド」

 

 言葉を発すると同時に、一実の周囲に剣が顕現した。

 刀身に薔薇の意匠が施された美しい五本のククリナイフ。それは回転しながら宙に浮遊している。

 ヒュル、と風切り音をさせて、高速回転する五本のナイフが接近する一誠に襲い掛かった。

 

「うおっ、ぐっ……!」

 

 一本一本がまるで意思を持っているかの様に攻撃を繰り返す。多少の単調さはあるが、それでも二度の倍加を行った一誠がギリギリで捌き切る事しか出来ない。

 『武装具現(アームズ・プロデュース)』一実が宿す神器の名だ。その能力は代償を払い武装の具現化すること。単純であり自由自在。対価に見合えば如何なる武装も具現化する。所有者が非常に少ない神器。

 浮遊し自律して攻撃している『ワルド』もその一つ。自立攻撃能力を持って具現化した武装だ。

 そして、

 

「吹っ飛ばせ、スランガ」

 

 一実が握る黒いマチェットも、具現化した武装。

 五本のワルドを相手に苦戦する一誠に向かってマチェットを振り下ろした。

 剣筋は風の刃となって一誠に襲い掛かった。刃の風圧により周囲の枝葉が吹き飛び巻き上がりながら迫る。

 ワルドに気を取られていた一誠が目前になってその存在に気が付き、咄嗟に左腕を盾にした。

 ドボウッ、と風刃は一誠に命中すると同時に破裂し、一誠のいた場所は砂煙により見えなくなってしまった。

 

「はぁ……ふぅ……やっぱ使い易いな、スランガとワルド……」

 

 しみじみと手に持ったマチェットを眺めて呟く一実。

 一般的な長さの黒いマチェット『スランガ』は風の能力を宿している。長さと重さも一実にとって丁度良く、手に馴染む。そして自立攻撃するワルド。戦闘は素人である自分の技量では対応する事が難しい敵を足止めする目的の武装だが、予想以上に性能が良かった。

 だが、その分消費する代償も少なくない。

 代償として使っているのは一実の体力。一般人より格段に一実は体力があるが、それでも息を軽く整える程度には体力を消費していた。

 

能力強化装甲(ブースト・アルム)もやっぱり重要だな」

 

 肘まで覆う腕の装甲と脛を隠す程度の脚の装甲。夜の一誠にダメージを与える事が出来る頑丈性と身体能力の強化。人の域を出ない一実にとっては最重要と言えた。

 出力調整が可能であり、まだ最大でない事を考えると、現時点で最も体力の消費が激しい事も納得できる。

 

「それと銃は――」

『Boost!』

 

 銃の確認を一実がしようとした瞬間、強化の音声が驫き、砂埃が消し飛ばされた。

 三度目の倍加。全身から赤いオーラを立ち昇らせた一誠が、粉砕されたワルドの残骸を足下に落として立っていた。

 

「わぉ、ワイルドな兄貴カックいー」

 

 風圧と剣戟で服は汚れ破れている。だがまだ無傷で一実と対峙している。

 一実の煽りに一誠はくキリと首を鳴らす事で応えた。

 

「まだ三十秒しか経ってないぞ一実。限界か?」

「ハッハ、ご冗談」 

 

 一実は新たに十本のワルドを具現化すると、スランガを構えた。次は接近戦だと暗に伝える一実に、一誠は笑顔で拳を構えた。

 次の瞬間、音を越えかねない速度を出す一誠と、強化装甲の出力を最大にした一実の斬撃がぶつかり合った。

 

 突風を巻き起こしながら、二人は笑い合って殴り合う。

 模擬戦はこの後二時間近く続けられた。

 

▼△▼

 

「あーちくしょー。結局負けちまった……」

「一実のは体力を消費して武器出すんだろ? なら俺とは相性最悪だから気にすんなって」

「んな事言われたら余計気にするわ。あー……何か対策考えないと」

 

 模擬戦を終えた帰り道。もう時刻は三時になってしまい、夜の街には人の気配は全くしない。そんな暗闇の中、等間隔に並んだ街灯を頼りに二人は歩いていた。

 模擬戦は一誠の勝利に終わった。

 三度目の倍加でワルドは一誠の一撃に耐えられなくなり、足止めの時間が短くなってしまい一実は息を整えて体力を回復する時間を稼ぐ事が困難となった。

 銃での攻撃も倍加した身体能力と超感覚の前では無意味であり、全て弾かれ時間稼ぎにもならない。

 その上一誠は十秒ごとに力が倍増する。それにも限界がある事が戦っていて分かったが、長時間粘ったものの、結局一誠に押し切られてしまった。

 

「たったか帰って風呂入って寝ようぜ。今日は休みだしな」

「それもそーだな……」

 

 幸い、今日は休みでありゆっくりと眠る事が出来る。

 二人の身体は小さいな傷が複数刻まれ、運動着も薄汚れとほつれ、切られた痕とボロボロ状態だ。ついでに汗だくで非常に気持ち悪い。一刻も早く風呂に入って着替えて寝たいのが二人の素直な感想だ。

 

「あー……そいや兄貴。母さんが兄貴に『バイトがんば』って言ってたぜ」

 

 思い出したように、一実が言った。バイトをしていると偽っている一誠への何気ない言葉だが、一誠は表情を少し暗くした。

 

「マジか……あーヤバイな。やっぱ罪悪感がヤバイ」

「基本父さんと母さんに嘘付かないもんなオレら。……なぁ、兄貴は二人に話すつもりあるのか?」

 

 一実たち兄弟は両親に絶大な恩を抱いている。

 その両親に隠し事などした事など二人には数える程しか無かった。

 でも、今回は事情が違う。過去、一実関係で人外や不思議な現象に理解があるが、それでも言い出す勇気が一誠には無く、そして一実も自分がその状況になっていたらと想像すると一誠に強く言い出せない。

 

「あるけどさ……やっぱもう少し先延ばしにしたいのが本音だな……。もしかしたら怖いのかな、二人に拒絶されるのが」

「あの二人に限ってそれは無いよ。オレの時だってそうだったろ?」

「頭では分かってるよ。でも、やっぱり怖いな」

 

 自分は死んで、二人から貰った身体は悪魔の身体に変えられている。それに二人はどう思うだろう。それを考えると一誠は怖くて堪らなかった。

 

「んー……じゃあ、兄貴はさ」

 

 表情を暗くする一誠に、一実は声を掛けた。

 煤けたように土で汚れた顔に一誠に似た明るい笑顔を浮かべて。

 

「オレがさ、もし悪魔になってたらどうしてた? 突き放して拒絶したか?」

「そんな事する訳…………あ……」

「つまりはそうだろ? 二人だってそうだと思うぜ。オレ等の両親なんだからさ」

 

 詰まるところ、その結論に行き着く。

 一誠の立場に立って考えると確かに言い出すのは怖くて仕方ないだろう。両親がその手の知識を持っていると特に。

 だが、一実には確信がある。あの二人は決して自分の子供を見捨てる人間ではないと。受け入れてくれると。何故ならこの兄を育てた二人なのだから。

 

「気持ちの整理がついたら……話そうぜ?」

「……あぁ、そうだ――――っ!」

 

 突然、一誠が右手で一実を止めて、神器を展開した。

 いきなりの行動に一実は驚いて一誠の顔を見た。

 夜目の利く悪魔の目で、少し離れた街灯を睨み付けている。

 一実も街灯を見ると、さっきまで話していて聞こえなかった音も聞こえてくる。

 遠くから聞こえる車の走る音。虫の鳴き声。風の音。自分達の先に満ちている暗闇から近付いてくる、硬いブーツがコンクリートを歩く音。そして、

 

「ん〜? いけませんねぇ、こんな真夜中に出歩くなんてぇ。不審者に襲われても文句言えませよん? まぁ、オレちんがその不審者なんだけどねぇ」

 

 街灯の光に照らされて、白い髪と神父服が浮かび上がった。

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